177.7章 - 第18話 ”帝都観光 – 皇帝広場での憩いのひと時”
「現実と違って豊かな自然にあふれた世界だと思うのですが」 「意外と多くの人達が寛いでいるのですね」
もっと権威主義的な、銅像や、パレードのための整備された広場とかに占められていると想像した皇帝広場。帝城へ向かう時はちらっと入り口の噴水広場を通っただけでしたが、いざ中に入ってみれば、むしろ自然豊かな。純粋に森林浴を楽しむような自然公園が広がっていました。
「ナオさん、モンスターのいる世界なので、外はとてもではないですけれど、のんびり憩いの場とはできないですよ。確実に自衛できる戦力が無ければとても、休息や娯楽の場にはならないです。来訪者はまあ別ですが」
「そう……ですね。ですので、こうした憩いのための……自然豊かな場所……は、大切、です」
なるほど、うちの子達も積極的に”悠久の楽園”から連れ出して、一緒に遊んでいたのも、そういう危険の回避という意図が紗雪にはあったのですね。さすが、いろいろと考えて手配してくれています。
感謝のなでなで♪ って、これ、単に私のご褒美になってしまってるような。
でも、翡翠色の瞳を細めて喜んでくれているので、良しとしましょう。
「そうですわね。モンスターを徹底的に排除された、城壁内に広がる豊かな自然。内部には大陸中の美しい花々を鑑賞できる温室もございますの。大陸随一の自然公園として高く評価されており、フェリシテ連邦からわざわざここをお目当てに来られる貴族の方もいらっしゃいますのよ」
などとSEOの住民視点での実情など教えてもらいながら、9月の終わり際に現実も差し掛かり、季節を合わせられているSEO内の帝都も、深まりゆく秋の入り口に差し掛かっていました。
とはいえ少し早いでしょうか? 皇帝広場の子の一画はまだ緑生い茂っていた入り口付近よりも少し肌寒く、すでに黄金色と真紅のグラデーションに染まりはじめ。地面には分厚い絨毯のように落ち葉が敷き詰められています。
「帝都広場内は区画によって気温を魔導具で調整しておりますの。とはいってももちろん限度はありますので、ここのような早めの秋から、遅めの夏をゆっくりと楽しめる。それくらいの差ですわね」
「なるほど。何とも嬉しい、贅沢な工夫ですね」
さすが魔術や魔導具の発展したSEOの世界です。現実でこんな事をしようと思ったら、どれだけ大変か。科学的な処置とは自然環境への負担の度合いも大きく違うのでしょうね。
一歩踏み出すたびに、乾いた落ち葉が”カサッ、カサッ”と静かな音を立て。それが帝都の喧騒から私たちを切り離す、柔らかな結界のよう。
「鮮やかな色……」
ルナリスは、そっと私の天使の身体の袖を引きました。虹色に輝く艶やかな銀色の髪に、透過する午後の日差しが、黄金の光を乗せ。まるで秋の女神のよう。
「あの頃の……わたくしには……こんなに、自由な色は、ありませんでした。城壁の、内側の……お庭は、いつも……青々と維持されては、いても……。こうしていられるのも、わたくしの……天使様。ナオ……様のお陰、です」
ルナリスの言葉が、私の心に深く響きます。今でも時たま呼んでくれる、”わたくしの天使様”という呼び名。あの地下での初めての出会いの時の天使の姿を特に、彼女が気に入ってくれているのは感じています。彼女にとっての”解放”、辛かった過去との決別の象徴になれるなら。
そっと、彼女の頬に手を添え、輝きに縁どられた美しい顔を見つめて。
「大丈夫ですからね。生涯離れない。離れたいと思っても離さない……」
そこからは案内のリリエラさんに聞こえないように念話で。
『私たちはもう、想いと身体だけでなく”魂”そのものが、不朽の束縛に共に編み合わされた存在。それは、現実でまでも一緒なのですから♪』
『はい……はい!』
「それは、私にも言ってくれているんですよね~?」
「もちろん。紗雪、ずっとずっと永遠に一緒ですよ」
堕天使ボディの腕に抱き着く灰銀色の髪の人形少女をそっと抱きしめ返し。
私達は人目も気にせず、舞い落ちる朱色の葉を背景に、愛情を確かめ合うのでした。
――「か、かわいいい~~!」
歓声を上げる紗雪の肩に上る、小さな栗鼠。首には細い首輪が巻かれ、額には魔核でしょうか? 薄青色の小さな宝珠が見える、薄茶色と白の毛並みのかわいらしい小動物。
小さな木の実を両手の間に持って、かじかじと食べながら、ちょろちょろと、紗雪の左右の肩を行ったり来たり。たまに頬にすりすり体を摺り寄せたり、尻尾をぱたぱた。
「その子はマナコリスですわ」
「モンスター……ですよね?」
「ええ。無害な愛玩用のモンスターはそれなりの種類、この皇帝広場に放たれていますわ。首輪をしていますでしょう? それで位置を把握していますの。例えば、犬系ですとエーテル・パピヨン、スピリット・シベリアン、半霊体系の子達なんかもいますわね」
あ、それを聞いたルナリスのお目目が、輝いていますね?
紗雪も、いつの間にか6匹にも増えたマナコリスが、あっちへ行ったりこっちへ来たりをしているのを嬉しそうに眺めています。
「人に懐いている半霊体の子でしたら、おそらくこれで寄って来てくれますわ♡」
と、第2部隊の副統括、ルビーノが純粋な魔力の塊。マナボールを、射出せずに掌の上にそっと展開。徐々に輝きを増すそれを。
ぽーん。
頭上に投げ上げ。
ワン、ワンワン!
ぴょーんっと、勢いよく茂みから飛び出してきたのは、身体が半分梳けている、ボーダーコリーのような中型犬。
『わふん』
得意げな表情で、マナボールを口にくわえ、首を傾げてこちらを見るその子。
「こっちですわ~」
自分の身体よりも小柄な、ルビーノを前に、しゅたたっと近寄るとぶつからないよう少し手前で静止。もっと遊んで欲しいのかぴょんぴょんとアピールを始めます。
「ルナリス様も、やってみるのですわ~」
「わたくし……マナボール、無属性は」
「魔法の感覚と同じはずですの。魔力をそっと、属性変化させずに手のひらの上に生み出すだけですわ♡ 魔法は使えない私にできるのです。絶対にできますわよ。あ、属性は本当に、こめないでくださいね~危ないですから」
皆で無属性のマナボールを自前の魔力で生成する練習をしながら、次々寄ってくる様々な犬種の半霊体のわんこたちと遊び。ちなみに、現実の犬種が相当再現? されているようで、頭にエーテルやスピリットとついているだけで、犬種名もかなり似ていました。
「ぴょ~ん」
ん?
「えい、えぃ! えへへ~」
明らかに違うというか、え? 人?
ぴょんぴょんと、そっと打ち出されるマナボールめがけてじゃれつく一人の女の子。
高くジャンプするたびに、腰まである薄茶色の長い髪がふわふわと靡き。頭の上でピコピコ動く狐耳がぴょこぴょこ。
特注らしき尻尾穴の開いたワンピースからは、ふさふさの狐尻尾が、もふりと量感たっぷりに生えている。
「あ、あの、貴女は?」
「おねぇちゃん、もっともっと~」
おててを緩く握ったグーにして、肩の前でおいでおいで、をするように揺らす女の子。栗色の目をぱちくりとさせてそれはもう愛くるしい。
期待いっぱいに見られ、仕方がなく、マナボールをよわ~く、ふよふよ。
ぴょん。
ふよふよ~ふよふよ~。ちょとてぇんかをつけて2つ、上下に。
ぴょぴょん。ワンツーのリズムで両手でてしてしと、叩き落す狐っ子。
ええ、狐獣人の女の子ですよね?
「えへへ~、もっともっとできるよ!」
くるくる回りながら、もっともっととアピールするもふかわ女の子。その足元ではボーダーコリーの半霊犬ちゃんも、混ざりたくてぴょんぴょん。
「かわいい……すぎます」
あ、ルナリスがちょっと口元を抑えながら目を爛々と輝かせていますよ。
マナコリスにさらにたかられてわちゃわちゃの紗雪も、あらぁ~と眺める中。
それならばと、2つの身体でちょっと意地悪な軌道も混ぜてマナボールを次々放る私。
そんなお遊びは、女の子が。
「あ、いけない。ママ置いてきちゃった! まったね~♪」
と、現れた時と同じ唐突さで走り去ってしまうまで続いたのでした。
うふふ、最後の方はこう、マナボールに複雑な回転をかけて射出後に、6回軌道が捻じ曲がる変化球も射出できるようになっていましたよ。魔法の制御訓練として、かなり充実していたのではないでしょうか?
そんな可愛らしいハプニングもあり。少し押してしまった時間の中、園内の名物という、たっぷりの香辛料に付け込んだ後に焼いたお肉を薄焼きパンで包んだ、ケバブのようなお食事をいただき。
アルティザンの細道(職人の路地)へと向かったのでした。




