176.7章 - 第17話 ”帝都観光 – 大交易宮(グラン・メルカド)の喧騒 #3/3”
現実でついに発現できた魔法。SEO内部でもしっかりものにしました。
ただ、行使できる属性は各自の得意不得意なのか、SEOで習得している属性に現状縛られている状況。
最後方へと離れた紗雪の魔力が高まる。
マナを変換する属性は土。弾体形成でも使用する属性故に、彼女が得意とする自然属性の一つ。
まずは第1段階、マナの変質。
性質を変換されたマナがドームの床。美しかったモザイク模様が崩され、ごつごつとした岩に覆われる剥き出しとなった地面へと沁み込んで行く。
「領域、規定」
紗雪の声が、魔力を乗せ凛と響く。
沁み込んだ魔力が際限なく拡散しようとするのをやめ、闘技場の縁にそって、楕円状の領域内にとどまる。
紗雪が支配するマナの、媒介される領域が規定された。
ルナリスが気を引き、天使の私が攪乱する。地竜の意識を分散させる。紗雪や地面の変化に集中させないよう、とにかく邪魔をする。
「領域、支配」
紗雪の魔力、マナが。この仮想世界の法則よりも、現実よりも、己こそが規則である、法則である。と、支配権を主張する。マナで規定された領域内で起こる事象の優先権を主張する。
これこそが魔法の本質。
神代魔法にも通ずる、魔法の基礎。
規定した領域内の支配者は己であると、マナを通じ世界に納得させる。世界の法則をねじ伏せる。
支配した領域内を自身が望むままに改竄し、無理やり整合させる、法。
魔術が世界にお伺いを立て、術理に則り、己の裡の魔力で超常を引き起こす事を希う(こいねがう)術であるなら。
魔法は、世界を己の支配下に置き、術理をねじ伏せ、己の魔力を世界への呼び水として、己の法をこそ是とさせる、強権の発動。誘引された世界のマナを、新たな法の元ほしいままに操る、あるいは力を借りる。
結果は似ているようで、全く異なる2つの術法。
地竜が生み出す岩の塊が形を成せず崩れ去る。歩みと共に天を突くように次々そびえたった岩の槍はもう、生まれる事無く。
さすがに異変を感じ取ったか、焦ったように、地面の中へもぐろうとしたのでしょう。前足で地をひっかくも、ただ空しく、圧倒的な膂力でもって溝を掘るだけ。その巨体を沈み込ませるような、巨大な空間が地中に生まれる事はない。
覚悟を決めたのか、正面の私達を睨み据え、高まる地竜の魔力。領域内の地属性への支配権のせめぎあい。
行使に慣れてきたと言っても、まだまだ初学者の私達。紗雪も例外ではなく、存外に広い領域の維持にほころびが生まれそうになる。
「大地に満ちるマナよ。此の地の理、我が承諾なくして乱すこと能わず。岩槍は虚空へ帰り。穿つ穴は夢幻と化す。大地乱れる事無く、安寧をただ支えるのみ」
紗雪の演算領域と融合し、一翼の扱いとなった、背に浮かぶ”原初のナコト写本”の姿。
魔導を象徴する一翼が、紗雪のマナ制御を補助する。
地を操るすべを奪われ、身体能力のみで暴れ続ける地竜を、ルナリスと天使の私でいなす。
そこへもう一度。
生命力までは捧げず、闇と氷を強く想起し、マナを変換する。
紗雪がしてくれたような広大な領域支配はいらない。プールサイドでやったように、手元に小さな領域を規定する。
ハルバードを緩く前方へと掲げる両手。自らのモノであると規定した領域の支配を強め。
“☆9 冷炎斧槍”が纏う灰白色の冷炎を巻き込み。螺旋を描き、暗闇を宿した氷が濁流となって射出される!
噴出する膨大な暗い氷、さながら早送りで流れる、氷河の動きのような大質量の津波。
その表面には灰白色の冷たい炎が多い尽くし、黒と灰白のコントラストを描き出す。
SEOの制約とも恩恵とも切り離された純粋な魔法による干渉、拘束のデバフ。
氷河の上に打ち上げられ、内部に取り込まれ、四方八方、上下左右。全方位を暗い氷と灰白色の冷炎に閉じ込められた地竜が、大地との接続も絶たれ。ついに封じされる。
「さらに念のため!」
即席の闘技場内部を満たす氷河の氷を地竜へと集中、圧縮していく。
膨大な質量が、魔法による現実への干渉で圧倒的高密度の氷結封印の塊へと変じる。
やがて生み出された全ての氷は一つの塊へと圧縮され、地竜を閉じ込める正八面体の結晶となり、転がった。
内部には確かに生きてはいるものの、もはや外へ干渉する事もできない、地竜の幼体が封じられるのみ。
「これ、呼吸とか大丈夫ですかね……?」
つい、心配になった私が零すと。
「竜は空気の呼吸ではなく、マナを呼吸していると言われていますから大丈夫だと思いますよ。属性の違いはあれど、ここまで濃密に圧縮されたマナの中にいれば、むしろ心地よいのではないかと。それに、実質封印状態で生命活動も極限まで低下した状態で保持されているでしょう。仮に問題があっても大丈夫、幼体と言えども竜は伊達じゃないですよ」
大地への干渉、マナの支配領域を解除した紗雪がスーッと近寄り、補足してくれます。
あ、これは、撫でてほしい感じですね?
期待するように見上げる彼女の頭を、よしよし、ぽんぽん、優しく撫でてあげます。
まだ完全ではない魔法で、ちょっと無茶な広域制御をしましたからね。現実側の演算回路にも負担がかかっていてもおかしくありません。
「ルナリスも、うまく誘導し続けてくれてありがとうございます」
こちらも天使ボディでぎゅーっと。まあ、私がしたかっただけとも言いますが。正面からハグを。
戦闘直後でちょっと体温が上がっていて、ぬくぬく~。
「いえ、ナオ……様と、一緒に。地竜を交えて……踊っているようで、楽しかった……です」
確かに、見ようによっては、空中舞踊を3人で舞ったようにも見えるかもしれませんね。
えらく物騒な舞踊もあったものですが。
「み、皆様ご無事でございますか!?」
小闘技場に設けられたこれまた精緻な花模様の彫刻で埋められた扉を開き、入ってくるデイドレス姿のリリエラさん。
第3部隊の子達が、状況の終了を知って、連れてきてくれたのですね。
「はい、大丈夫ですよ。それはそうと、この地竜をどうするかと……ごめんなさい、こんな建造物をドーム内に創ってしまって」
うん。アメティスタ達、放っておくとこう、創作意欲がよく暴走しますよね。
いつの間にかさらに拡張されて、観客席まで造られているじゃないですか。
「あ、いえ。防壁がいつの間にか闘技場になっているのは驚きましたが……これはこれで、良いですわね」
精緻に作られた私達の石像や、闘技場の創りを、何事考え込みながらじっと見つめるリリエラさん。
「地竜は間もなく警備隊が参りますので、いったんお引き渡しいただく形でもよろしいでしょうか。調査の後しかるべき御礼についてなど、別途あるかと存じます」
「ええ、別に好きでやった事ですし、お気になさらず~。封印状態ですが生きていますので、気を付けてさえもらえれば」
「承知しました。申し伝えますね。しかし、竜だなんて……」
恐れを含んだ視線で、氷の八面体の中を遠巻きにみつめる彼女。
「やはり、珍しいのですか?」
「勿論です。竜の背骨山脈には多数の竜の生息域がありますが、山脈外に出てくることはほとんどありません。帝国の紋章にも象られて(かたどられて)いるように、ドラゴンは創造神様の使いとしての側面を持ちつつ、厄災をもたらす存在としても恐れられていますわ。まして、害竜の討伐と、防衛の目的を除き。捕獲や、こちらから害をなすことは帝国の法で禁じられています。あ、ダンジョンは例外ですわ」
なるほど。野生というか、フィールドの生態系の一部を成している竜は神聖であり、邪悪でもある。ある意味不可侵であると。ダンジョンはまあ、倒せばマナに還りますし、ドロップアイテムになる存在ですからね。住民的にも、生き物のくくりの外というのはいつもの事です。
「となると、誰が連れて来たのか等、調査が大変になりそうですね」
「ええ……先の大戦の事後処理もさることながら、ちょうど折しも、竜の背骨山脈方面のモンスターが活性化しておりまして。先の大戦の後も、主要な兵団の戦力が遠征に出てしまっているのですわ。アレイスター辺境伯領からですと、北部を大きく回られてのご移動ですわよね。東ミドガ帝国を南下される際、お会いになられたのではないかしら」
「あ、あぁ、確かにそうでしたね。なるほどそういう事情でしたか」
実際は、西ミドガ帝国側を中心に観光を終えた後は、セレスティアの長距離転移で帝都傍に転移して来てしまったので、東ミドガ帝国内の情勢は全然わかっていませんでした……。なるほど、そんな状況になっていたのですね。
「治安維持を担う、一般兵にあたる衛兵隊。門や外壁、帝都市街の警備、今この場の対応をしてくれているのも彼らですわね。それに、帝都治安警備隊が能動的な犯罪の摘発、魔導通信保安隊と連携した通常防衛を担いますの。彼らはもちろん残っていますが、あくまで一般兵ですわ。ドラゴンや上位のモンスターと渡り合えるような軍団。魔導兵団、機動強襲兵団、帝国騎士団や特務兵団。竜の背骨山脈全域ともなりますと、あまりに広大な領域もあだとなり、この大半が対応のため帝都を離れる事を余儀なくされておりますわ。全戦力が残っているのは近衛騎士団くらいかしら」
私達の警護に来てくださっていた騎士、銀の鎧の彼女は近衛騎士団所属らしいです。が、現場の引継ぎをしてくれ、私達は次の名所、帝都広場へと向かうのでした。
あれ……近衛騎士が警護って、よく考えると、良いのでしょうか? 皇帝陛下の警護とかを担当する部隊なのでは?




