175.7章 - 第16話 ”帝都観光 – 大交易宮(グラン・メルカド)の喧騒 #2/3”
もくもくと立ち込める土砂煙。逃げ惑う買い物客達。
一方で、高価な魔導具の損失を恐れ、空間拡張された収納カバンに品物を慌てて詰める商人達。
幼体というだけあって、本体のサイズそのものは体長4m、体高1.5m程度と、大人の熊の1.5倍程度といったところ。
それでも脅威ですが、それよりはるかに問題なのは、さすが地竜という事か。膨大な瓦礫や土砂を自由自在に操り。1歩脚を踏み出すたびに、高さ2mはある岩の槍が地面から次々と伸び。視線を向ければ、土砂が集まり巨大な岩が空中に生まれ落下する。
もはや歩く災害そのもの。
「皆は住民の方達の避難の補佐を。飛来する岩の脅威からも守ってあげて。騎士さん達にも同様に要請を」 「リリエラさん、失礼。安全のための魔術です。抵抗しないでくださいね」
金髪縦ロールの伯爵令嬢には、第3部隊のメイド人形少女2人についてもらい、反対側の出入り口へとセレスティアに転移してもらいます。
「承知いたしましたわ。ですが、ナオ様はお逃げにならないの?」
「出しゃばりすぎ……かもしれませんが、困っている人達、傷つくかもしれない人達を放ってはおけませんから」
「なるほど」
幸い言われた通り抵抗しないでくれたようで、転移は成功。
地竜の傍に私達を飛ばすのと、刹那迷いましたが。万が一にも、住民の命には代えられません。これが正解のはず。
「引きつけ……ます」
「とりあえず脚を止めてきます」
空へと飛び出す二人。
属性:性愛ものせた、歌と舞いに地竜の目が釘付けになる。
踏み出そうとする脚の真下に、重低音と共に対物狙撃銃の魔力弾体が撃ち込まれる。驚き踏みとどまるその脚の下から伸びる金の鎖。撃ち込んだ弾体に普段の破壊や混沌の属性に変わって、鋼糸と結界を込めましたね?
「ナイス判断です。捕まえられて連れて来られたのでしょうし」 「可哀そう。というのはもちろん、持ち主? もいるでしょうからね」
ええ、2つの意味でできるだけ殺さずに制圧してあげたいです。
「と、言うわけで、神炎や融炎は無し」 「氷結で閉じ込めます!」
意を汲み、ルナリスはとにかく出入口方向、人がいない方へと惹きつける事に徹し。
彼女の頭上に形成される大きな岩は、紗雪が展開したウェポンシステムの数多の魔導銃から放たれる弾丸が撃ち砕き、弾き飛ばす。
住民への余波は各自、盾を2枚取り出したアクロイト達第1部隊が受け、逸らし。
地面からはやされた邪魔な岩の棘はルビーノ達第2部隊が魔術で砕き散らしていく。
加えて、アメティスタ指揮の元、砕かれた瓦礫をこれ幸いと材料にし、住民や商店を護るように。簡易防壁が闘技場のように地竜周辺を囲み構築されました。
「さすがです」 「これで戦いに専念できますね」
イヤリングから通信で声を届けつつ、私もすでに高速で飛翔中。
堕天使ボディを置いて行かないよう瞬間加速は無しで、先導するように前を行く天使ボディ。悠長な落下攻撃ではらちが明かないと学んだか、直接射出されるようになった礫岩の群れを双短剣で逸らし、受け流す。
接触の瞬間、融炎も発動してみましたが。
「あっぶな!! これ、逆効果ですね」
クトゥグアの神炎の力を借りれば塵と化せるかもしれませんが、いくら特化重ね掛けの高倍率とはいえ、炎ではむしろ飛んでくるがん礫を溶岩の群れに変えてしまい。地竜の攻撃をより狂暴にするだけでした。質量ある攻撃というのは厄介なものです。
やむを得ず、貧弱なSTR(筋力)を少し頼りなく感じながらも、ルナリスの見よう見まねの受け流しで、道を切り開く。
そうして十分に近寄ったところで。
「属性:冷炎。私の分の魔力ありったけ、持って行って!」
3人で共有された魔力プールはひとまず置いておいて、この堕天使の身に宿る魔力をすべて込め。デバフ特化、ダメージ皆無の拘束に特化した氷結を叩き込む。
急降下と共に鼻先数センチ手前に振り下ろしたハルバード”☆9 冷炎斧槍”が、優美な総身に纏った灰白色の凍てつく炎も開放。地竜の全身をあっという間に冷たい炎と氷が覆い尽くす。
……けれど、違和感。
手ごたえというのか、なんだろう。
確かに氷に閉ざされ氷結した地竜の幼体が目の前でとらえられている。それなのに……。
「生気……が、ありません。偽物……です!」
ルナリスから下される警告。よく見れば、氷の中の瞳が動いていない、ううん、輝きもない。岩で咄嗟に創られた偽物、ただの彫刻!?
振動。振り下ろしのタイミングで着地していた堕天使ボディーだけが感じる、微かな足元の揺れ。
「地中から! 飛んで!!」
紗雪の警告に何も考えず、反射で飛翔したのが間一髪。
顎を開き、地中から飛び上がってきた地竜の幼体。その鋭い牙が足先数ミリの所で、ガチィッッと、かみ合わされる。
「なんて頭のいい……」 「囮を作ったと?」
そう、氷に閉ざされているのは体表に1枚かぶせるように作形成された、中空の地竜の石像。まるでさなぎが脱皮するようにその表面一層の石像を置き去りにして、中身の地竜は地面に穴をあけ、地中へ潜行。見事私の氷結のデバフを石像に吸わせてやり過ごし。油断したところを地下から攻撃。
幸い周りを囲む簡易闘技場のような壁は健在……というか、あの? 私達をモチーフにしたらしい美しい石像ができていますが? アメティスタ達第4部隊の子達の仕業なのはわかっていますが。意外と余裕ですね?
『ごめんなさい、つい興が乗ってしまい。皆様の戦闘再現の彫像など』
イヤリングから聞こえる、アメティスタの声。あ、確かにこれ、ここまでの戦闘でのそれぞれの姿を写し取って造られてます?
わずかな時間で何という芸術作品を。
また状況は振出しへ。動きは鈍重なものの、地面そのものを魔術で動かす地竜に、攻撃は全て捌ききれつつも、傷をつけないように生け捕りにしようと思うと意外と難儀。
紗雪の鋼糸結界も、外皮の外に岩の外殻を逐次形成し阻害。加えて地下への遁走も交える事でなかなか封じ込めさせてもらえません。
と。そこで視界の端でアイコンが点滅している事に魔力を共有リソースから補充してもらっていた堕天使ボディで気が付きました。
なんでしょう? と、意識操作でクリックしてみると。
---☆8 禁忌級クエスト 「ユゴス コンコード(ユゴス協定)」 ※公開名称「アーカリア大陸の深淵」---
☆8 禁忌級クエスト #1 彷徨いの樹海 ミ=ゴの研究施設調査 : 済
☆8 禁忌級クエスト #2 : 進行中
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---プレイヤー共通:長期連続クエスト :☆10 - 「マナ簒奪の阻止」 ---
☆6 帝都蠢動 #1 :進行中
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『ルナリス、紗雪、この前の彷徨いの樹海と合わせて、クエストが更新されました』 『どうも両方のクエストに関連するみたいですね、この状況』
『ミ=ゴの……使役体……が、操っている、のでしょうか』
『奇形化もしていない、普通の地竜に見えますけれど』
少なくともルナリスの鑑定では判別できない……なら。
『アメティスタ、地竜が操られた、あるいは乗っ取られた身体。ミ=ゴの実験体みたいな存在か、分かりますか?』
イヤリングからはすぐに応答が。
『私共のスキルで見ましても、ただ地竜の幼体とだけしか感じられませんでしたわ。ただ、親元を引き離され捕らえられたための興奮。ルナリス様の感じられたなんらかの現象による影響。ミ=ゴに関連する何らか。考えられるのはそのような可能性と判断しますわ。ですが、申し訳ありません、断定する事は出来ませんでしたの』
『いえいえ、それだけ分かれば御の字ですよ。ありがとう』
硬く、強靭で、生命力旺盛。加えて、地属性の魔術を際限なく行使する地竜と言えど、所詮は幼体。倒してしまうなら、やり様はあります。
それこそ、ルナリス一人でも、時空ごと切り裂く。あるいは、未だ使うに適する敵もなく、お披露目していない”☆9麗しき虹華の舞姫”など、なんだかどんどん豪勢に飾り付けられていっている簡易闘技場の雰囲気と合わさり、華麗に映える事でしょう。
紗雪にしても、ウェポンシステムの破壊力を開放、集中させてしまえば。私でも同様です。
けれど、可愛そう、とか。商人が怒るかもとか。そういう事以前に今は、なんだかとにかく胸の奥がざわめく感じがして、倒したくない。倒すべきではないと。
直感というのでしょうか。
なんとか無傷で制圧する方法を頭の中で素早く考えます。
制約を重ねて、法外な強化を施している私はともかく、ルナリスと紗雪にしても、ある程度方向性を特化しているので、万能型とは到底言えないのですよね。
ルビーノ達と協力して魔術で何か解決をはかる?
住民の避難も無事終わり、ドーム内に創られた小闘技場上部にみんな、腰かけて観戦しています。
「ナオ様、応援しております! あ、いや私はそこまで寛ぐわけには」
「お三方とも、素敵ですわ~♡ もぐもぐ」
アクロイト? ルビーノ?
ちょっとした違和感に、ちらっと見れば、サフィーロ達がみんなの間を行き来して、四角くカットされ表面にお砂糖をまぶしたゼリーのお菓子を配ってますね?
いえまあ、確かに倒すなら容易と考えましたけれど。皆完全に観戦ムードでくつろいでますね?
後、切れる手は……神代魔法も守りに特化した”護法抱擁”以降、新たに生み出せていません。
高速で射出されてきた、ひときわ大きな岩の塊をハルバードで叩き落しながら。
『ナオさん、魔法を使ってみません?』
『制約……の外、で……行使できます』
弱めの雷を落とすも、金属質の鉱物も含んでいるらしい外皮の外を覆う岩に受け流され、麻痺の兆候も無し。
『確かに、他に良い手もないですし』 『試してみましょう』




