173.7章 - 第14話 ”迎賓館『星の家』”
うちの子達に随行された馬車は皇帝広場を抜け、2重に張り巡らされた堀に渡された石造りの橋を渡り。いよいよ、帝城の敷地内へと進みます。
そこは先ほどまでの活気に満ちた街とは一線を画す、神聖なる静寂に包まれた領域。城壁はさらに高く、外壁に施されたレリーフは太陽の光を浴びて目映く、黄金の装飾が随所で輝いています。城壁の紋章と同じく、オリハルコン(神金)でしょう。それがこんなにも贅沢に、飾り立てるために使われているとは……。
私達の悠久の楽園の2つのお城もたいがいにとんでもないですが、また少し違った趣でここもすさまじいですね。
「これが……帝城……」
ルナリスが、蒼銀の瞳をわずかに見開き、息を飲むように呟きます。
私も知るアレイスター王国の王城も、その歴史とは裏腹に、落ち着きと華やかさの同居する、青と白を基調とした品の良い美しさが両立されていました。が、この帝城の威容は……圧倒されてしまいます。安寧の上に長く君臨する、真に大陸を統べる威厳、とでも言いましょうか。
「人、モンスター、いづれとの争いにおいてもここが戦禍に呑まれたことは、少なくともこの1,000年では数えるほどしかないそうですからね。建国はアレイスター王国の2,000年すら大きく超えて、3,000年以上とも言われています。実際の所はもう、神話の時代にさかのぼるような話になるので、正確にはわかりません。財力、権勢、積み上げられた年月。全てが桁違いなのは仕方がないです」
二つの橋を渡り、内側の城門をくぐると、石畳はさらに磨き上げられ。
左右には等間隔に、白銀の甲冑を纏った騎士たちが立ち並んでいます。
外の衛兵とは異なる、純白の制服。その上に重ねた白銀の部分鎧は、一層の美麗な装飾に彩られ。もはや生きた芸術品のように兵士達を飾っています。
あ、しかもよく見たらここに並んでいるのは全員女性騎士ですか?
身長はわずか60㎝のうちの子達12人が、馬車の周りををそれぞれ戦乙女と魔導士然とした姿で。翼をはためかせ、随行しているのですが、それを見ても彼らの視線は一切の動揺を見せず。馬車が通過するのをただ粛然と見送ります。
「身体強化かな。マナが綺麗に循環してるね」
「確かに。魔法を使えるようになって、こういう相手の体内の魔力まで、かなり見えるようになりましたね」
「霊視……の頃とも違う……より深い、マナそのもの、への……知覚がひらいた感じ、です」
帝城の敷地内を通り、馬車が静かに停車したのは、帝城の裏手に広がる庭園の一角。そこに、周囲の重厚な石造りとは対照的な、白亜の石材と、色とりどりのガラスでできた優雅な二階建ての館が佇んでいました。
「こちらが、皇帝陛下が直々にお迎えになる賓客をお迎えする場合にのみ用います、帝国随一の迎賓館、『カサ・デ・ラス・エストレージャス』(星の家)でございます。私は当館の館長を務めております、ソブレロ=エミリオと申します」
馬車から降りた私たちを出迎えたのは、白髪の老紳士でした。彼の隣には、
「久しいな、ナオ殿」
シャーリィ=ミゼルクラス。PVP大会決勝から何かと縁のあった帝国騎士団長。ロングの金髪にあの時と同じ、黒赤のドレスアーマーに身を包み、自身に満ちた笑みを浮かべているのは変わらず。
「お久しぶりです。お変わりないようで?」
「ああ。忙しくあちこち転戦していたが、ようやく落ち着いてきてな。もっとも、それもまたすぐに……。綾も騎士団の剣術指南役の一人として、無事就任して、今は私の屋敷で一緒に暮らしている。本来なら連れて来たかったのだが、今の時間はそちらの世界に戻っている。」
既に同棲中とは。大変お熱い事で?
「どうしても時間的なすれ違いはありますものね」
「うむ。それでも、常時ログイン? に可能な限り近づけられるよう、何やら調整や調達をしたと言っていたからな。ただ、私が来訪者達の世界に行くには、今の役職が邪魔なようでな。ルナリス姫が少しうらやましいよ」
「この身は……全てを、ナオ……様に、捧げております故」
「はは、実にルナリス姫らしい。相変わらず仲睦まじいようで何よりだ。それに、そちらの奥方もな?」
また、半歩下がってしまっていた紗雪に視線を向けてくれる、シャーリィさん
私も、堕天使ボディでそっと優しく、腰の後ろを押して一緒に前に出ます。
「ナオ殿の、その同時顕現? というのかな。なかなか良いな。私もそのようなことができれば、綾に拗ねられることも減るのだろうか」
「おや? 何か怒らせるようなことが?」
「ふふ。あいにくと、私は少々愛が多いようでな? だがまあ、本命は極めて数少ない者達だけと、伝えているが。遊びに出る暇など与えないと綾が張り切っているのでな。徐々に変わっていくだろうよ」
あ、なんか察せられてしまいましたね。別に私は、2人を同時にお相手できるように分裂。というか同時顕現できるように進化したわけではないのですが。
あれ……もしかして深層意識でそんなことを考えていて、それが進化に影響したとかあります?
「さて。挨拶を交わせてよかった。残念ながら職務が山積みでな。また後日、会場で会おう。綾もつれてくるからな」
「はい。本日はわざわざ、ありがとうございました。また後日、式典でお会いすることを楽しみにしています」
ルナリスと紗雪と共に、緩やかなお辞儀と共に見送ります。
「お待たせして申し訳ありません」
「とんでもございません。よろしければ、ご案内させていただきます」
館の内部は、深紅の絨毯が敷き詰められ、壁には金糸のタペストリーが飾られた、暖かくも格調高い空間。特に正面ホールは吹き抜けの天井まで、全てが色ガラスで彩られ、上部は天球儀を平面展開したような精緻な文様を、やはりオリハルコン(神金)を織り交ぜて表現しており。『星の家』という名前を現しているのであろうと推察できるデザインになっています。
「見事……ですね」
「日中も青空に浮かぶ星空のようで、幻想的ですが」 「夜もまた、さぞ美しいでしょうね」
「拝見できるの、楽しみですね♪ 動画にもしっかり残しますね」
思わずそのあまりの美しさに、そろって足を止めてしまいました。うちの子達も、随伴の体勢は崩さず、しかし意識を奪われているのは明らかですね。
「ご慧眼の通り、夜はまた違った趣をお楽しみいただけます。日中に蓄えた光を細かな灯りとして放出し、天の星空と二重の星空を演出するのです。皆様のご逗留中、当館は全館ナオ様方のみに供されます」
まさかの貸し切りとは。
「お部屋については2階にございます。お三方の個室と合わせ、共有でご利用いただけますお部屋をご用意しました。お付きの皆様も、2階のお部屋をご自由にお使いいただけるよう手配いたしております」
『夜は……一緒にお休み、できます……ね』
『たまにはただゆっくり、一緒にぬくぬく眠りましょうね』
シャーリィ騎士団長の入れ知恵かわかりませんが、まさかの共用寝室を用意されるとは。いろいろと理解があってありがたいですね?
「警備体制については、私共の騎士団から護衛はつきますが、離れての警護を基本とするよう申し伝えております。詳細は……」
「アクロイト、お願いね?」
「はい、もちろんでございます!」
先方の警備隊長さんとの打ち合わせは、アクロイトに任せる事となりました。そっとその場を辞し、早速打ち合わせに向かってくれる彼女。
といっても、私達を狙う人なんていないと思うので、形式上だけですけれどね?
『なんか、こういうのも楽しいですね♪』
『そうですね、現実ではとても経験できないですから』 『先に式典に参加したプレイヤーも、こんな経験をしたのでしょうかね』
『ナオ……様、は、特別……かと思います。神翼種……そして、創世聖教の神託……の執行者。大陸……いえ、世界でも有数の……来賓としての待遇……です』
『あら。そ、そういう扱いなんですね? これ』 『てっきり来訪者故のこう、ゲーム的なというか、特別というか』
『ナオさん、もうわかっているでしょうに。理由なく、ゲーム的な発想でそういうハプニングはSEOにはないですよ』
そうでした。そうですよね。現実へログアウトできるようになって、なんだかその辺の感覚がどうにもまた、あいまいというか、ブレる事が。
「なお、本日夜よりご宿泊中。ならびに、帝都ご案内につきましては皇帝陛下たってのご指名で、ソフィア伯爵家のリリエラ嬢が務められます。非常に聡明な方ですので、何かと頼りになさってください」
わざわざ貴族家のご令嬢がお世話役につかれると……。メイドとしてのご奉公等いろいろとあるのでしょうけれども、皇帝陛下からのご指名とはまた。
――案内された2階もまた、まさに『星の家』の名にふさわしい空間でした。全面ガラス張りの広々としたリビングからは、帝城の美しい庭園が一望できます。
これは警備の関係もあるでしょう。街の側はもちろん城壁で遮られています。が、それによる閉塞感など感じさせないよう、壁の配置、庭園との位置関係。様々に工夫が凝らされています。
「それにしても、至れり尽くせりすぎてやっぱり、申し訳なくなってきてしまいます」
「現実では元庶民ですものね~」
「今も庶民ですよ?」 「まあ、かなり特殊な立ち位置にはなってしまいましたが」
手にしたのは、ソブレロ=エミリオさんが、先ほど説明してくれた式典までの2日間の予定表。
厚手の羊皮紙に、美しい筆致で記されたそれによれば、今日は疲れを癒すため館内をお楽しみいただく。となっており、明日を2日目として
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【予定表】
2日目:帝都文化視察および歓待
帝都観光
- 大交易宮視察:帝国の富と多様性を象徴する大市場のご案内
- 皇帝広場散策:市民の憩いの場である広場での休憩。御昼食
- アルティザンの細道(職人の路地)散策:帝都の職人文化と生活の様子を視察
- 帝都歌劇場:内覧と、皇帝貴賓席からの特別公演鑑賞
迎賓館にて最高級晩餐。
3日目:神聖なる啓示と知識の探求
創世聖教帝都大聖堂訪問:枢機卿閣下による祝福と、聖堂に秘められた古き歴史の特別案内
帝国大図書館:帝国の知の集大成である大図書館の見学。ならびに神翼種に関わる古文書の特別閲覧許可
帝室御用達最高級レストランでのプライベートな晩餐会
4日目:帝冠勲功授与式
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特別待遇過ぎて、逆に胃が痛くなってきました。
そして、私達の状況と嗜好をすごく理解して寄り添ってくれているのが分かりますね。プライベートな晩餐会って……。
普通はこの辺りで、貴族様方との晩餐会とか、いろいろと入るのでしょうね。
それはそうと、気になるのは警備隊長さんとの相談を終えて戻ってきたアクロイトの
「皆様、お耳に入れておきたいことが。”マナ簒奪の阻止”の一環で、帝都内でも捕り物が行われることが頻発しているそうです。加えて、何百年もなかった東ミドガ帝国領内でのダンジョン氾濫がしばしば発生していると。帝都周辺も例外ではないとの事。何事もないとは思いますが、どうかお気を付けを」
という言葉。
あのいろいろとあった、地上波も含めた全世界一斉配信の最後。
プレイヤー共通:長期連続クエスト ☆10 - 「マナ簒奪の阻止」
それはもちろん、私達。今や、準プレイヤー扱いになっているルナリスと紗雪も含めて、にも発行されています。
何かが起こる気がしてなりませんね……。




