169.7章 - 第10話 ”生放送『デウスの秘密、世界の変革』 後半 #2/2”
空に浮かぶスタジオに戻ると、そこは、わんにゃんパラダイスと化していました。
威風堂々とした美しいサモエド、それも、ナビAIの白いぽんちゃんとは別に、黒い子も加わった2頭が、外周を躍動感あふれる姿で駆け回り。
ゴールデンレトリーバーが美しい毛並みを陽光にさらしながら、はぁはぁと、荒い息を零し、伏せをする。
透明な足元が気になって仕方がないらしく、ポメラニアンや小型犬たちがキャンキャンと大騒ぎ。
大はしゃぎなわんこたちの様子を横目に、新たに用意されたらしい、キャットタワーの上で優雅に見下ろすペルシャ猫。
ふわふわのサイベリアンや、ラグドールも。
他たくさんのわんこやにゃんこが、そこら中に。
「ナオ……様! ナオ……様!」
もうルナリスのはしゃぎようときたら。いつものお澄まし美人さんがすっかり崩れ、わくわくほにゃほにゃで、紅潮したほっぺを隠さず、おねだりする子供のように私にぴょんぴょんと小さくジャンプでおねだり。
「えと……この状況は」
「あたいのSEO内の子達で、戦闘向きじゃない子達を連れてきてもらったのさね。あ、お姫ちゃん、この子達とは好きに触れあってもらって大丈夫だぜ。むしろかまってやってもらえると喜ぶ」
と、草の姉御……風華さんのお赦しもいただきましたので。
「ルナリス、どうぞ」
「ありがとう……ございましゅ!」
あ、かみしたね? でも気にした様子もなくまっしぐら。真っ先にわんこたちが反応して、大歓迎。
やがてにゃんこ達も気になるのか、集まってもう、もふもふパラダイスですね。
そんな様子に、コメントも喜色一色。
`もふもふパラダイスに投入される絶世の美少女`
`これがこの世の楽園か`
`姉御……姉御も美少女アバター、作りましょうぜ。いえ、あっしらいつもの姉御も大好きですが、こう`
`わんにゃんポジになりたい自分と、美少女ポジになりたい自分がせめぎ合う、どちらの立場でも楽園なこのシーン`
`ゲーム内のテイムモンスターの子を連れて来れるのですか?`
`ボディは?`
`制限とかは`
「では、ご説明を続けますね。この9月から、ナビゲーションAIのオーダーメイドボディの発送が順次開始されました。すでにお手元に届いたプレイヤーの方もいらっしゃる事でしょう」
`最高です、うちのショタきゅんと現実で暮らせるの、最高です! デウスは救世主!`
`子ドラゴンのうちの子、肌触りもSEO内と遜色なくて、びっくりしています。しかも飛べるし! いやマジで、この子どうやって飛んでるの?`
`うちは大型モンスタータイプだから、小型犬サイズまでサイズダウンする必要があったけれど、満足してるよ`
`アーマータイプの内のナビAI、現実でも着られるお洒落服で用意してくれたのマジで神`
`お高かったけれど、SEO頑張れば、その内稼げるし満足してる`
`うちは来月届く予定、楽しみすぎる`
すごいですね、視聴者であるという時点でバイアスはかかっているにしても、好意的なコメントが山ほど
ん、もふもふに埋もれるルナリスが可愛すぎるので、私もご一緒させてもらいましょう。
「まずはナビAIが優先となり、また、各国法規制や安全基準の制定等、今しばらくお時間は要しますが、将来的に。テイムモンスターも現実のお身体を用意し。ナビAIと同様その体の中に意識、知性を同期させることを可能とする予定です」
コメント欄が悲鳴のような歓喜の声で埋め尽くされましたね。戦闘系に限らず。むしろ、スローライフを希望するプレイヤー。現実ではアレルギーや住環境、お世話をする時間等、様々な制約でペットを飼えない方の癒し。そんな楽しみのためにSEOをプレイしている方も非常に多いと聞きます。
一方、真っ青の好意的コメントに紛れ、黒文字の冷静なコメントも混ざり、それらをこそ、斎賀さんが一部拾い上げて行っていますね。例えば。
「既存ペット産業との住み分けについて、私共デウスも憂慮しております。従来のペットロボットと比べその自由度、知能レベルには事実として隔たりがあり、住民同様極めてリアルな反応をお返ししている事と存じます。この点も各産業界とも協議を行わせていただいております。価格面ではどうしてもテイムモンスターの現実化が現時点、大幅に高額である事。例えば、販売契約を同業界に限定する。そもそも外出に対する成約は? 等々。考慮点も多岐にわたる状況です。こうした観点からも、正式な発表や、ご提供の開始はお時間を要する事をご了承ください」
そんな質疑をBGMに、紗雪まで一緒になって、可愛いもふもふまみれで、3人楽しむ中。
え? 放送? 忘れてはいませんよ。ただこう、懐いてきてくれるこの子たちが可愛ゆ過ぎてですね。
あ、こら。顔を舐めないの。く、くしゅぐった。
「さあさあ、本日最後の発表ですわ!」
和やかな空気を振り払う、夢咲CEOのよく通る声。
黒いシルエットの彼女の手に掲げられているのは、1枚のコイン。
神秘的な輝きを宿した、半透明のコインです。
「これまで、MCはSEO内部での電子データとしてのみの存在でした。換金もSEOのメニュー経由の見みでしたわね! これは、ビジネスサーバーでもあるB001サーバー、”Elysium Catalyst”ワールドも同じですわ。ですが、それでは味気ないでしょう? そこで、こちらですわ!」
大きなウィンドウが1枚、空中に投影され、そこにはいま彼女の手にあるものと全く同じ半透明の美しいコインが、明らかに現実と分かる木製の机の上に、黒いビロードの布に置かれています。
「現実世界で、MC、マナコインを実際に手に取っていただけるようにします。マテリアライズの一種ですわね。マテリアライズ費用のMCはかかりますのでご注意くださいね? でも、綺麗でしょう? 美しいでしょう? 輝きはもちろん、表面には微細な彫刻も施してありますの」
近未来の芸術品のような現実のMCに沸き立つ青文字のコメント。しかし、すぐにその流れはどんどん黒一色に染まっていきます。
`MCって、もはや現金以上の価値があるよな……`
`マテリアライズはMC払い`
`なあ、これ、投機的価値も出るんじゃ`
`今までは現金とMCの変換がデウスにしかやってもらえなかった`
`実体のない仮想通貨のマイニングとはわけが違うぞ`
「ちなみに、あくまで、記念アイテムでございますからね? “デウスによる”現金化は従来通り、SEO等、VR空間内のシステム経由でのみ受け付けますわ」
`発行上限が定められてもいない、無尽蔵に発行されるであろうから、相場は生まれないだろう`
`いや、各種通貨との換金が現実に成立している以上、すでにレート相場が生まれてる`
`サーバー。いえ、ワールド、国境をまたがってMCがやり取りできるようになるのも大きいでしょう
`リアルMCコインの通関時の関税に関する速報が上がっているぞ`
そんな大混乱を横目に。
「これが本当に最後の最後、Steps to Elysium Onlineプレイヤーの皆様へ、新しい長期連続クエストが発行れますわ! 先ほど、退場された、怪しい言葉を残した橋田さん。彼の言葉を元に様々な調査が急ピッチで進んだ結果、実は! SEOで皆様の領域へと進行してくるモンスター。その源となる”悪いマナ”が、悪~い組織の暗躍によって、かすめ取られていることが発覚しました!」
============
プレイヤー共通:長期連続クエスト ☆10 - 「マナ簒奪の阻止」
============
「最近、プライベート領域に攻めてくる敵が少ないな~。強化素材のDropが少ないな~。そう感じている方も多かったのではありません? その原因がここにあったのです」
`え? 現実とゲームが連動……いや、確かに既にしてたわ`
`もうSEOが現実のファンタジーすぎて頭が追い付かないんだが?`
`ゲーム的にだけ考えれば、悪いマナ(要するにエネルギー)泥棒をしている悪い奴らをとっちめろって事でしょ`
`電力泥棒みたいなもん?`
`その裏に現実の権力者? とか、その手下がかかわってるんだろ?`
`魔薬の流通犯も、現実でSEOのシステムチェックをかいくぐる、インプラントを埋め込んだ犯罪組織がかかわっていた`
`あり得ない話でもないよ。SEOはもう下手な現実の動きよりも、現実に大きな影響を与えてる`
「ええ、ええ。皆様ご理解が早くて嬉しいですわ。簒奪された”悪いマナ”それが何に使われ、どこへ持ち去られているのか……それはこれからの調査になります。が、マナの横取りをしているSEO内部の”装置”, “ギミック”, ”組織“ 等々。ゲーム内でその阻止を行おうという長期クエストです。このクエストはまずは創造神からプレイヤーへの直接クエストとして、発行されます。が、連続する派生クエストは従来通り、皆様それぞれにユニークなものとなり。ゲーム内の住民等を介した自然なクエストへとつながっていくでしょう」
`初期大陸に戻らないとだめって事?`
`いや、今ゲーム内確認した。初期大陸と、聖国マリシアが中心。どっちでもOK`
`別大陸スタートの運命値100プレイヤーだけれど、こっちも対象。多分全世界どこでもだと思う。個別は派生クエストが実施に出るかはわからないけれど`
`デウス側も、全部は把握できてないって事だろ`
`自社のゲームサーバーの中で起きていることが、把握できないなんてありえないでしょ`
`SEOはもう現実以上に現実だから、実は管理できてないんじゃない?`
「斎賀から、補足いたしましょう。詳細はナビAIにお聞きいただければ、同じ事をお答えするはずですが、SEOにおいて、世界の90%以上は仮想世界内部で自発的かつ自動的に生成されています。それは現実と何ら変わりないとお考えいただいて結構です。外部からこれを強制的に改変すれば確実に歪みが発生し、場合によっては致命的な破綻を引き起こします。このため、私共運営側も、プレイヤー皆様と同じようにこれら世界とかかわっております。残り10%はプレイヤー皆様へのUI。関わり方、現実からご提供する各種サービス、先の大規模イベントのように別空間も活かした活動。そしてプレイヤー皆様が対話する事が現状できない、各神々や権力者他、数多の存在との対話手段を持っている事でしょう」
`ほら、だからワールドシミュレーター`
`変なパラメーター入れて、崩壊する世界を見るのも愉悦`
`クエストも全プレイヤーで微妙に違ったりするから、AI自動生成って予想されていたけれど、それがほぼあってるわけか`
「はい。そういうわけで、新しい長期連続クエストは、各サーバー。場合によってはその枠を超えて全てのワールドへの影響も発生しうるので、☆10レアリティーですわ! 皆さん、冒険の、旅路の、あるいは日々SEOを愉しむ中で、少しだけ意識してみてくださいましね。では、本日の放送は以上ですわ……」
彼女の閉幕の宣言に、私達も風華さん、そろって手を振り振り。わんこにゃんこ達も、お腹を出す子、そっぽを向く子、風華さんに合わせてちょんちょんと、両手を上げ下げして見せる子。潰れて伏せている子。
バラバラなのに、癒し空間なことは統一された、素敵なシーンが。
「斎賀? これ、どうやって終わればいいですの?」
夢咲さん!?
ええ、無事、斎賀さんが改めて締めてくださいました。




