157.6章 - 第26話 ”剣に宿る遺志。想いと技、託して #2/2”
カン カン カカン カン カカカン
軽妙な拍子とともに打ち合わされる、刀と剣。
舞う銀の姫が、打ち鳴らす音。
襲い来る、武器の担い手達に終わりはみえない。
それはまるであの日の。試練の間の、再演。
しかし、その一合一合に込められた重みは全くの別次元。
かつてと違い、担い手を得た武器は、天を自由に飛行する事はない。
翼有すに至った彼女であれば、天高く舞い逃れる事もできるだろう。が、その選択肢は銀の姫にはなかった。
翼を活かした三次元的な舞いは駆使しつつも、その身は常に、武器の間合いを逸脱しない。
一合一合、一振り一振り。その全てに技を、心を、通わせる。
受けるも鍔迫り合いの停滞は徹底して避け。緩急様々に打ち掛かられる剣の一閃を、そっと刀を、扇を、添え流す。
決して一つ所にとどまることなく。歩みは舞いの拍子を崩さず、流れ行く。
流し逸らす刀に寄り添い、その身は前へ前へ。
逸らし、舞い、進む。
すれ違いざまの一閃が、的確に相対者を制し、征く(ゆく)。
長く伸びる槍の一撃を躱し、刃の付け根を打ち逸らし。
斧の一撃を側面よりそっと、押しやるように身を回し。
短剣の連撃をするりと、かいくぐるように切っ先で制し。
その動きは加速し、止まらない。流れる水がやがて激流へと至るが如く。
ただひたすらに優雅に。
涼やかな声で奏でられる歌の拍子も早く、激しく、高鳴りゆく。
しかし、加速を続ける銀の姫の動きを前に。
個の武は伝え終えたと言わんばかりに次々と、複雑な連携が襲い掛かり始める。
ここまでは技巧を伝え、錬磨する場。ここからは全てをもって、打倒する場。
両の手では到底さばききれぬ脅威の嵐。
炎が、雷が、乱れ飛ぶ。縮地の足運びが、銀の姫との間合いを次々無に帰す。
空舞う武器が、砲撃のように打ち付けられる。大地が割れ、天が乱れる。
ここまでか。
全てを捌ききるには未だ技量足りずか。
天変地異にも等しい暴威を前には、儚い銀の姫は、吹き飛ばされるを待つばかりか。
そう誰しもが思う流れの中。
「大丈夫ですよ」「ルナリス、貴女なら余裕です」
私には、しっかりと感じられています。
舞い踊る最中、鉄扇”☆9 酔宵桜 (すいよいざくら)” が生み出す幻影の情景。
此度のそれは、ただひたすらに変化を覆い隠す、隠形の幻影であった。
これまでの彼女は、生み出す幻に頼らず。ひたすら己の技量にて、捌ききっていた。
なればこそ、ひたむきにたった一つの目的に振るわれていた幻影が。
銀の姫の軌跡を覆い隠すその、幻影が。
今、解かれる。
刀の一振り一振りに込められた先へ進みたいという願いの連なり。
“☆9 時空刀 - 朧月宮改”。
彼女のために進化した刀に宿るは、時空を司りし邪神の加護。
優雅に、しかし激しく。舞い踊ってきた軌跡が、舞いの舞台となった荒野の全てを虹色の輝きで埋め尽くす。
幻影に隠されていたのは受け流す都度、切り裂き刻まれた時空の断裂の痕跡。
時空の亀裂が、華開く。
触れるものすべてを問答無用で断裂せしむる、破壊の痕跡。
触れる全てを破断させる、虹色の破壊の華が、空間を覆い尽くす。
致命の傷を負った、過去の騎士達。
彼らはこれぞ最後と、それでも動く。己が全てを渡すと、動く。
致命傷を負った身にありながら、あらゆる一撃を、あらゆる連携を、無数に重ね。
重ねてきた濃密なる経験を、銀の姫へ届ける。
彼らの最後の交錯の一つ一つが、技を、心を託し……逝く。
少しづつ。荒野を埋める人影は、その武器を再び地に突き立て。
儚く幻のように消えてゆく。
一人また一人。
いつしか銀の姫が奏でる歌は、葬送の音色へと変じていた。
魂魄の属性宿す最後の歌が、荒野に響き、染みわたる。
それは、月の魔力が見せた幻であったのであろうか。消えゆく黒き兵士へと存在を貶められた、忠義の騎士達。
その肩を、そっと優しく撫でる繊手が。銀の髪なびかせる乙女達の幻影が。刹那、確かに彼らの魂を慰撫していった。
彼らが護りたかった、供犠の姫達。
その失われるはずの魂が、ほんの一時、護り手達との邂逅を果たせたのだろうか。
「「姫様、幸せにね」」
身を隠す外套は千々に裂け。されど、最後に魅せる、短剣の乱舞、暗器の不意打ち。高度な連携から襲い来るその全てを往なし、躱した銀の姫に。そっと囁きかける声。
双子の黒く小さな人影が、薄れ消えゆく。
濡れる蒼銀の瞳。零れ落とすまいと雫を瞳に湛え(たたえ)。
「……」
無言で繰り出される黒き騎士剣。
無数の時空の断裂すら躱しきった、無傷の騎士。
迫る芸術的な剣閃を前に、愛する天使の動きを真似た高速な空中機動でいなし、回り込む。
くるり、くるり、地に空に。激しく位置を入れ替え交わされる剣の舞い。
終局は唐突に。拍子の隙間をすり抜ける刀の一閃。
首筋に添えられた刀身の冷たさを、首筋に温かく迎え入れ。
「見事。成長なされましたな、姫」
忠義の騎士が空へと溶ける。
全てを見届けた、銀の鎧纏う騎士。二振りの剣を抜き放ち、これが終いと、斬り結び合う。
無数の剣劇を超えてなお。
ひらりひらり、舞い踊る、綻び一つないドレスの裾。
ただの一筋たりとて、美しき姫を彩る魅惑の美に触れるを許さず。
終局は突然に。
紋章を剥奪された、銀の騎士が二振りの剣がその手を離れる。弾き巻き取られ、ついに地へと落ちた銀の剣。
全てが静止した。
ゆっくりと舞いを終え、構えを解く、銀の姫。
葬送の歌も途絶え。ついに、静かに零れ落ちる、涙の滝の白糸。
見守る私達も、コメントも、全てが静寂に包まれていた。
地に突き立つすべての武器が。そして、満足そうに立ち尽くす銀の騎士すらもが、蒼白い炎となって、天へと上ってゆく。
薄曇りの空はいつしか、満天の星と満月を讃えた夜空へと変じていた。
悲しみに泣き濡れる声を堪え、鎮魂の歌が、銀の姫の喉を震わせる。
かつての栄誉は消え去り。
蕭々と時は流れ。
顧みる者もなく、されど、守護せし姫を想い。今、その終を知る。
長き果てにもたらされた、供犠の姫達の安寧を知る。
全てを託し、天へと昇る。
永き誓いの役目を終え。 満ち足りた炎の塵となり、空に溶け、還る。
「姫を頼む」「「姫をお願いね」」
3つの青白い炎が、そっと私の耳元を過ぎ去った。
大切な、願いを託して。
「「ええ、もちろんです。必ず、一緒に幸せになります」」
私のお姫様は、ただ護られるを良しとしませんからね。むしろ、すぐ、身を削って尽くそうとしてしまいますから。
彼らも、分かっていたのでしょう。
彼女が己の身を守り、成すと決めたことを成せるよう。
こうして、全てを、彼女自身に継承したのです。




