156.6章 - 第25話 ”剣に宿る遺志。想いと技、託して #1/2”
【サーバーアナウンス:☆8 禁忌級クエスト 「アーカリア(Arkhalia)大陸の深淵」 が開始されました】
【パーティーアナウンス:☆8禁忌級クエスト 「ユゴス コンコード(Yuggoth Concord)」 が開始されました】
【パーティーアナウンス:ルナリスの装備 「☆6 剣に宿る遺志」 が使用不能となりました】
【パーティーアナウンス:ルナリスのクエスト 「剣に宿る遺志。想いと技、託して」 が開始されました】
連続で流れる、アナウンス。
「いきなりいろいろと、来ましたね」「飛んで行ってしまった、ルナリスの師匠……もとい、大切なアクセサリーの方を優先したかったのですが」
いきなりの事に、ルナリスもちょっと、きょとんとしていますね。
`サーバーアナウンス来たけれど、これ、ナオ氏達?`
`タイミング的に、ぽい気もするけれど、微妙な線?`
`008サーバーだけれど、何も来ていないから、初期サーバー一斉のグランドクエストではないと思う`
`クエスト名、見せて~サーバー違うから見えないや`
`☆8 禁忌級クエスト 『アーカリア(Arkhalia)大陸の深淵』 だって。俺は何も表示されてない`
`開始者名表示、されなくなったからな~`
`だね。☆7以上は通知オンにしてるからたまに流れてくるけれど、誰かわからないの微妙に寂しい`
`やっかみも多いからな~。特殊ユニーククエストへの`
紗雪から念話で
『ナオさん、どうします? アーバーアナウンスの名前がわざわざ変えられていますから、また特大のユニーククエストだと思いますけれど』
『う~ん、配信でクエストの様子もある程度、公開する事になりますし。オープンにしちゃいましょうか』
『了解です。配信ネタとしては美味しいですしね~』
『あ、ルナリスの個人クエストは非公開で。タイミング的に関連もあると思いますから、メインのクエスト1本という事にしてしまいましょう』
『もちろんです♪』
「これ、私ですね。ただ、実はクエスト名が違っています」 「今、紗雪が表示してくれるので少し待ってくださいね」
「よいしょ~。表示しました! 見えてるかな?」
ちょいちょい。ちょいちょいっと、虚空を指さす紗雪。多分、メインカメラから見てそのあたりに、表示してくれているのでしょう。
あ、おてて、にゃんこにして。たしたし、って叩き始めた。
かわゆすぎか。
`ユゴス コンコーディア?`
`ユゴスって、クトゥルフ神話でミ=ゴの前哨基地があるとされる、架空の惑星の名前`
`コンコードの方は、いろいろ可能性があるけれど、平和、友好、協定とかかな?`
`ユゴスの協定、ユゴスの友好?`
`公開クエスト名がアーカリア大陸の深淵なのも、無関係じゃないだろ?`
`この大陸、アーカリアって名前だったのね`
「あ、それ私も今知りました」
「申し訳……ありません。ご存じと……ばかり」
「あ、いえいえ。ルナリスは何も悪くないですからね~」 「私が興味を持たなさ過ぎただけですから」
「普通に攻略サイトとかに書いてありますから、ナオさんが悪いですね」
紗雪にも、怒られちゃいました。しょぼーん。
「まあ、興味の対象が狭すぎるのは美徳でもありますよ、きっと……? ルナリスちゃんと、私に、メロメロなところとか♪」
「えへへ」
ちゃんとフォローしてくれる紗雪が大好きですよ? 頭なでなで、しちゃいましょう。
念話で、配信コメントで拾ってもらった情報が紗雪の検索結果とも、違わないことを確認してもらいつつ。
「とはいえ、いつも通り説明などもありませんので、今はこの場所がきっかけになった。ミ=ゴという存在が関わっている可能性が高い。と言ったあたりで、進んでみましょうか」
ええ、なにせ、ルナリスのクエストの方が私にとって大事ですから。考察は後でゆっくりしましょう。
さあ、今はそれよりもこの、研究所の最奥。大扉の向こうです。
「ナオ……様、一緒に開けて、いただけます……か?」
「ええ、もちろん」
そっと、天使ボディでルナリスの隣に並ぶ私。
「きっと……わたくしにとっての、何か……が、この先にあると、思う……のです。ですが……あの時。あの地獄のような……地下から。お救い下さった……天使様、ナオ……様と一緒なら」
私と同じ、無機質な光に照らされているはずなのに、どうしてこうも彼女は神々しく見えるのでしょう。長い睫毛が影を落とす、そっと、伏し目がちに見上げる瞳。わずかな戸惑いと、恐れをそこに見出し。
「……!?」
頬に片手を添え、そっと。銀の髪を避け、額に唇を触れるだけのキスを。
「大丈夫。私がいます。貴女と、絶対に、一緒に」
「……はい。はい!」
小さくうなづき合う2人。
コメント欄が滝のように流れていますが、知りません。優しく私の銀の姫の手を取り。一緒に扉を開きます。
――「剣の園。と言ったところですか」
近未来的な通路から一転。拡張された空間、なのでしょうね。扉の奥には、果ても見えない荒野が広がっていました。
上を見上げれば天井も見えず。どこか煤けた空が広がるばかり。薄明るいのは、きっとこの空一面を覆う雲の向こうに、太陽があるからなのでしょう。
そして異様なのは、地面に無数の武器が、雑然と突き立っている事。中には刀や、槍、もありますが、圧倒的に剣が多い。
そして、そんな剣の園の只中に佇む一つの人影。
2振りの銀の剣を両手に下げる無貌の騎士。
その姿は、武装や防具こそ入れ替えられていますが、あの黒い兵士達にそっくり。
銀の剣と鎧をまとった、ただ黒い、人影。
しかしその鎧のシルエットは見間違えようがありません。かつてダンジョン、試練の間75層で邂逅した時は、その体も武具もすべてが、統一された規格の無数の銀の剣で構成されていた。一見、甲冑をまとい、盾と剣を構えた姿をした正統派騎士。
今、相対するその騎士は紋章が取り付けられていたのだろうか、胸元には削り取られたような傷が残されているものの。漆黒の身体の上からは、今度こそ正統派な銀の甲冑に総身を包まれている。
腰に下げた二振りの剣はまさに、あの時からつい先ほどまで、ルナリスを守り、共に戦い。そして、稽古をつけ、鍛えてくれていた空舞う剣そのもの。鎧の中の姿は黒い影としかわからず、その容貌、肌の色、なんら特徴を知ることはかなわない。
無手の両腕を、空をかき抱くように広げる、騎士。
すると、荒野に突き立つそれぞれの武器に、やはり黒い無貌の人影が、続々と沸き立ち、地に突き立った得物を引き抜き、手に取る。
多くが騎士であったが、中には、ぼろのような布を纏う、暗殺者のような出で立ちの人影。流々たる筋肉を誇示する戦士。様々な性別、戦種の者達が居並ぶ。いづれも、あの黒い兵士”ミ=ゴの実験体”と化した姿ながらも、その鎧が、武装が、我いまだここに在りと、主張しているよう。
この全てが。ミ=ゴによって脳髄を、魂を、奪い取られ。身体を入れ替えられ。死してなお操られているというのか。
しかし、その立ち姿には今まで見てきた黒い兵士達”ミ=ゴの実験体”と違い、確かな意思を感じる。
もしかしたら……。
ひらり。
ルナリスがまだ手に持ったままだったクエストスクロールの羊皮紙が、宙に舞う。
目線の高さに留まったそれに映し出される文字。
============
虹纏う銀の姫よ、月影は汝の決意を照らす。
我ら慈しむは供犠なる姫君、我ら道半ばにて途絶えし者達。
我らが育みし全て、その優美なる舞踏へ捧げよう。
我らが遺志、御身の血潮となるを言祝ぎたまえ。
============
「このクエs……試技、あるいは継承の儀式は、ルナリス。あなた一人で挑まないといけないようですね」
「はい……」
つないでいた手を、ゆっくりと離す。名残惜し気に最後まで絡み、触れ合う指先。
紗雪や、アメティスタ達第4部隊の子達も戸口をくぐったところで、そっと息をひそめて様子を見守ってくれています。
未だ宙に浮かぶ羊皮紙に記された一節”供犠なる姫君”。気を取られたその時。
彼女たちの下へと戻る天使姿の私を引き留めるように、3つの黒い人影が私達の前へと、進み出てきました。
漆黒の鎧をまとった、長身の騎士が一人。手をつなぎ合った、2人の子供。
「アルフレド、メイル、メイリー!!!」
「な……」
常ならぬ、大きな声で、悲鳴のような叫びをあげるルナリス。その声に、長身の騎士に目を向ければ、その手に下げた抜き身の長剣。
あぁ……あぁ、私も見覚えがありますとも。
どうして忘れる事ができましょう?
それは、それこそは、騎士アルフレド。共に王城を駆け、ルナリスを、愛しの銀の姫を共に救出した、忠義の騎士。
彼が携えていた武器に相違ないのですから。
すると、共に歩みでてきた二人が……?
メイル、メイリー。灯篭流しの日。確かにその名を私はルナリスがしたためた文字に見ました。
2人そろって、手にするは短刀。ぶかぶかのコートに身を包み、その下には無数の暗器が仕込まれているであろう事は、想像に難くない。まさに、陰から守る護衛にして、姫を害するものを人知れず排除する暗殺者の姿。
言葉を発する事の出来ない彼ら。しかし確かに。
私へ一礼をし。
そして、敬愛する姫。ルナリスへ、片膝をたて、跪き、首を垂れたのです。
そっと。そっと、3人に近づき、優しく抱きしめるルナリス。
それはわずかな時間の触れ合い。
あぁ……本当に、最後まで、祟ってくれる。アレイスター王国。
荒野を見渡す。
厳粛なる姿勢で、1人の供犠姫であった少女と、3人のかつての忠臣を、ただ見守る。数多の戦いに身を投じた者達。
その残滓。
いつ、なぜ、それはわからない。
けれど、想像はできる、できてしまった。
全てがそうかはわからない。けれど、少なくとも、この眼前で姫に首を垂れる3人。多くはきっと、彼らと同じ。
羊皮紙、クエストスクロールに記された言葉。
“慈しむは供犠なる姫君”
代々の、供犠姫を守り、寄り添い。
“道半ばにて途絶えし者達”
邪神か、時の権力者の手によってか。
しきたりに、契約に従い。供犠姫達が捧げられるのをただ、見守るしかなく。
あるいは、反旗を翻し、逆賊の汚名を着せられ、討たれ。
きっと彼らは、代々の、供犠姫達を。
焼滅させたアレイスター王国。王城の最奥で、邪神に全てを奪われた後、その肉体を外道の王共に下賜され、魂無き人形として弄ばれる成れの果てへと至った、かつての姫達を。
守護せし者達。その成れの果て。
☆8禁忌級クエスト 「ユゴス コンコード」 。すなはち、「ユゴス協定」。
あぁ。あの救いようのないド外道王国は、私達が、その国土ごと、完膚なきまでに国土ごと滅ぼしたけれど。
このクエストが、どこに私達を導くつもりかは、まだわからないけれど。
かつての忠臣達の亡骸を、ミ=ゴ等というまだ見ぬ邪神の崇拝者。
外なる宇宙の生命体へと引き渡し。
その身を、脳髄を抉り!
身体を弄び、実験体として供し!
果ては操り人形として、体よく使いつぶしていた!!
ええ、きっとそうなのでしょう。
コメント欄に流れる考察を見るまでもなく、理解しましたよ。
魂核を通じ、”不朽の束縛”を通じ、伝わる。ルナリスと紗雪、2人の嘆きと哀しみ、憤り。
――『ユゴス コンコード』、ユゴス協定。
これは、私達が。ルナリスとの運命を、特別を、望んだ私が!
絶対に、完全無欠なまでに!!
終わらせてやる!!!




