151.6章 - 第20話 ” 彷徨いの樹海踏破挑戦 中層#1/3”
先行して、行く道を狩り尽くしていたテイムモンスターの子達から、警戒する気配が伝わってきます。
「何かあったみたいですね」
中層に入ってすぐ、まず大きな変化は森の中の魔力濃度が格段に高くなったこと。
それに準じるように、木々の大きさも倍以上に巨大化し、小柄な140㎝台とはいえ、私達4人で腕を広げて輪になっても足りないほどの樹も乱立するありさま。
「ナオさん、村……みたいですよ。ただ……ん~これは?」
ウェポンシステムを成す魔導銃の内、比較的小柄な、拳銃サイズの物に編隊を組ませ。テイムモンスターの子達に随行させていた紗雪が、魔導銃を介した視覚情報を確認し、伝えてきてくれます。
「この中層……は、”彷徨いの樹海”……ダンジョンとなる前……の、森外縁部……に近いの……で、かつての村落が……取り込まれたままになっている……場合が、あります」
「レイラさん……がいた村がそうですね」
邪神ナイアルラトテプの持つ体の一つであった、褐色の美女。ただ、その生まれはあくまで普通の人間、住民としてのものであったと、確かに言っていた。そして、森のダンジョン化によって住む場所を失ったのだと。
邪神がその身体を利用していない時は、ただの一住民であった彼女。おそらく他の住民同様に、完全には至らずとも、成長途上の魂を持っていたはずの彼女。
その犠牲の上に私は……。
「暗くなっちゃだめですよ。ナオさんのおかげで私も、ルナリスちゃんも、こうして最高に幸せな今を生きられるんです。こういう言い方はずるいし嫌われちゃうかもしれませんが、ナビゲーションAIだった私だからこそ断言します。割り切ってください。住民は……住民です。魂が芽生える可能性は秘めていても、あるいはその萌芽が見え始めていても、あくまで今の時点では、NPC……なんです」
知識として少しづつ理解し始めているといっても、それは、実感としての理解が及ばないルナリスでは決して出てこない言葉。私のためを思って、紡いでくれる慰めと、断定の言葉。
「紗雪……ええ、そうですね。ここは……ゲーム……」「VRMMOの世界……なんですからね」
紗雪は一瞬ルナリスを気にかける様子を見せつつも
「そうです。ゲームだからシナリオが生まれる。必然として許容される犠牲も生まれる。それはそう……この世界の理、SEOの必然なんです。一つ一つ全てを背負うのは、無理です」
「ありがとう」
断言して見せてくれた彼女をぎゅっと堕天使ボディーで抱きしめると、お揃いの大粒のルビーが視界確保のために生み出してある、光輝魔法の光球の輝きをきらりと反射します。
「あれ……そういえば、レイラさんはこの森の村にいて……逃げ出して……」「彼女、両親と共に暮らしていたって言っていましたよね」
「それがどうしたんです?」
ふと、思った素朴な疑問。
「いえ。この森林地帯が”彷徨いの樹海”というダンジョンに変容して。森の面積も広がって……。」「それって、この数年ではなく、何十、何百年。少なくとも書物の中の記録でしかないくらい、大昔の話し、なんですよね?
「はい……少なくとも、アレイスター王国で……は、そのように記録が。少なくとも……わたくし……が、生まれる、はるか前から……ここは”彷徨いの樹海”……です」
警戒するうちの子達と共に見えてきたのは、廃墟……どころか汚れすら見当たらない、木造の家屋群。
せいぜいが、野生動物をすら防げるか疑問な、ごく簡単な柵で囲われただけの、50軒あるかどうかという集落。
「とりあえず中を覗いてみましょうか」「村長の家とかあるといいんですけど」
「ナオ……様、直視して……わかり……ました。生気が……感じられません」
“統合スキル-虹纏う銀の姫”に統合され、霊視や第六感から進化した”☆6 神霊感応”でしょう。
煙突から長閑に煙を上げている家屋をじっと見据え、告げる彼女。
「物音もしますけれど畑があるのに、この真昼間に誰も作業をしていない……どころか、集落に出ている人の姿も無い。ナオさん、明らかにおかしいです」
紗雪の警戒の言葉も受け、改めて見渡せば、確かに家の外に出ている人は一人もいません。
そもそも、突破困難とされる”彷徨いの樹海”中層内部。まだその入り口の浅い領域とはいえ、暢気な集落があるという時点でおかしいのですが。
「なるほど……とはいえ、いきなり火を放つというわけにもいきませんし……」「とりあえず手近な家を、窓の外から覗いてみましょうか」
セレスティアの分身たる宝石蝶が全員にしっかり留まっていることを確認し、いざという時の短距離転移を念押ししたうえで、そろり、そろり。村の外縁に面した家の窓の下へ。
窓枠の下にかがみ、互いに顔を見合わせ。
そーっと、そーっと。
あ、いけない、ヘイローを隠さないと。慌てて翼同様、ヘイローを隠し。改めて。
そーっと、そーっと。
ん……暗い? 昼日中と言えど、巨樹の天蓋が集落すら覆う薄暗がりの中。
部屋の中を見ようとさらに目を凝らし……。
目!
目、目、目、眼、眼!
窓にへばりつき、こちらを見つめる、顔、顔、貌!
焦点の合わない虚ろな目、血走った目、ぐりんぐりんと蠢く目!
「「「きゃぁぁぁぁ……!!!」」」 「…………!!!)」
灯りの漏れぬ窓に、室内が暗いのかと目を凝らした私達を、目を見開き不気味なまでの無表情で見返す人の顔の群れ。みっちりと窓際にすし詰めになって、覗き返してきている人々の姿。
能面のような無表情の中で、目だけがぎょろぎ、ぎょろり、とこちらをのぞき込んでいる。
慌てて飛びのいた私達。
周囲の警戒ついでに、隣の家屋に視線をやれば、そちらの窓にもへばりつく、顔、顔、貌の群れ!
折り重なるように、鏡餅のように積み重なった顔。ギョロリと目をむき、蠢く眼球達。
「な、ななな……ナ、ナオさ、さ……ん!」
ツーサイドアップの髪を逆立て、いまにも、ふしゃー! っと、威嚇の声を上げそうな警戒モードで、しかし腰が引けて堕天使ボディーの後ろに身を隠す紗雪。
「ひぅ……!」
今にも気絶しそうに顔面を蒼白にし、それでも気丈に窓の方を見据えながら、天使ボディの胸元に抱き着くルナリス。
2人をしっかりと腕に抱きしめながら、武器は手放していない私。直接の危害を加えられたわけでもなく、どうしたものかと内心、困惑していると。
ぎぃ……。と、扉の軋む音。
私達が覗き込もうとした家の扉が開き。そういえば、覗き魔の称号とかあったな。と、あらぬ方向に逃避し始める思考をねじ伏せ見れば、長身痩躯の男性がおぼつかない足取りで向かってきているではありませんか。
「また、屍喰鬼とかじゃないでしょうね……」
クロウリード王を思い出し、湧き上がる苦い記憶を飲み下し。
「違い……ます……ですが、生命力……が、感じられ……ません。鑑定では……ただの”人”、と」
恐る恐る、迫る男性を見やるルナリス。私から離れるのがよほど嫌なのか、最近はすっかり師匠役に納まっている2本の空飛ぶ剣が、普段のブローチ姿の擬態を解き、警戒するように宙に浮かびます。
「急な訪問でごめんなさい。ここはダンジョンと化した領域の中……ですよね? 皆様はここでどうして」
堕天使ボディーで問いかけると、男性は不思議そうに首を傾げ。
「だんじょん? うち、くる、か?」
どこかたどたどしい口調で語り掛けてくる彼。しかもその声にはなんでしょう、雑音というか、耳障りな何かが混ざっているような。
そこはかとなく不気味な彼らと、あまり関わりたいとは思えず。魂核を通じて確認してもみんな同意見のようですね。
「いえ、それは及びません」
「そう、か。なに、しに?」
「森の様子を見に来たんです」
とっさに、口をついたのは嘘でした。
しばしの無言の時間が流れ、
「それ、つかい、のもの、ではない?」
視線が一瞬、ルナリスに向いたような? 常にぎょろぎょろと目が動いているので、判断しづらいですが。
「特に依頼は受けていませんね」
「いらい? あたま、の、よく、みせろ」
いうなり遠慮なくずかずかと、こちらに。いえ、ルナリスに近づいてくる男性。その視線の先にあるのは、ルナリスが付けている、ティアラでしょうか?
私が制止用とする直前、歩みを止めた男性が目をぎょろぎょろさせながら、ティアラをじっと見分しています。
またも少しの無言。
なんでしょう、まるで誰かの指示を仰いでいるのか、それこそ私達のような念話で確認でもしているかのような間が間に挟まりますね。と、そんなことを私達こそ、念話で話し合い。
「かなり物騒な場所かと思いますが、大丈夫なのですか?」
少なくともレイラさんのいた村は滅びた、というお話のはずですが。
またしばしの無言。
「もんだい、ない。まもられて、いる」
「護衛がいるのですか?」
頼りない柵には門番はおろか、詰所のようなものもありませんが。
「りょういき、ぜんたいが、まもられている」
そこで、ぐりん。と、首から上だけを100度近く捻じ曲げて、視線で示されたのは南西に下ってきた方向からそれて、西の方角。
って、その首グリングリンしてるの、痛くないんですか? 曲がっちゃいけないところまで曲がっているような。
『不気味……です』『ちょっと、関わり合いになりたくない感じですが、スルーして良いのかも悩ましいですね』
私も2人と同意見です。今も目をぎょろぎょろさせて窓にへばりついている住民達とは少なくとも、関わり合いになっても良い事はなさそう。
『何かイベントがありそうですし、この人が示した方に、いったん行ってみましょうか』
『賛成……です』『了解ですよ~』
ちょうど、中層とされる境界線に平行に、アレイスター王国側へ近づく方角でしょうかね? 同じ中層の浅い領域でしょう。
「ありがとうございます。では、私達はこれで」
何か反応が、それこそ襲われるとか、あるかと思いましたが、ただ、目線だけでいつまでも追いかけられるのみで集落を抜け、森へと再び入っても何も反応はありませんでした。




