150.6章 - 第19話 ”彷徨いの樹海 踏破挑戦 浅層#2/2”
静謐を保ったまま、天に浮かぶ数多の銃器。
ダイヤモンド陣形というのですか? 見た目は古式銃ですが、射程も速射性も魔力運用故に近代重火器に勝るとも劣らない紗雪の武装群。
それらが紗雪と堕天使の私の周囲を取り囲み、仮想の分隊単位に分かれ、斥候までこなしています。
各魔導銃に据えられた魔導核から共有される情報を、紗雪を中心とした高度な演算により、瞬時に分析。
敵発見と同時に、静穏処理の施された狙撃による長射程狙撃で排除。
まさにウェポンシステム。ワンマンアーミーが如き姿。
ルナリスと天使の私の元に大半のモンスターが誘引されている事に加え、敵を発見するや否や、けたたましい咆哮で増援を呼ぶ『警報型モンスター』。それらを、気づかれる前に紗雪が次々とスナイプしていく。おかげで私たちは、順調に浅層の最奥――おそらく最後のボスが待つ場所へとたどり着くことができました。
え……堕天使の私が何もしていない? ええ……まあ……戦闘状態に入ると移動速度も落ちますから。
何もせず、非戦闘状態で移動するのがお仕事なんですよ……くすん。
鬱蒼と茂る森。その表現通り、ぱっと見は変わらないあたりの景色ですが、魔力を視る今の私達の視界に違いは明らか。
「ボスの小領域……いえ、この密度はそれよりも大きいでしょうかね」
「ええ。中層入り口の門番とか、そういう表現が正しそうです。ナオさん、私本体は少し後ろに下がりますね」
「はい。前衛は私が」
さあ、なにが出るか。ここまでのラインアップを考えれば、凶暴に変容した何らかの獣型モンスターだろうと思いますが。
薄暗いながらも、頭上から差し込んでいた木漏れ日が遮られる。すさまじいプレッシャー。
「そ……こ!」
頭上から隕石のように、落下してきた黒い塊に、進化し、灰白色の氷炎を纏うハルバードを全力で叩きつける。
膂力自慢の堕天使ボディーすら、全身の力と翼の上昇推力まで総動員してやっと生まれる拮抗。
制止した敵に、紗雪の一斉射が撃ち込まれますが、激しい金属音と共に全弾はじき返されてしまい、ダメージになっていない。
巨大な焦げ茶色の熊。目は深紅に底光りし、体毛は自然の獣とは到底思えない、鋼の棘がびっしり。
禍々しくねじくれた爪と牙。全身が堕天使の身体すら上回る剛力と、質量に見合わぬ高速機動を生み出す、鋼の筋肉の塊。物理法則を明らかに超越したその膂力、維持できるはずのない体躯。少なくとも、膨大な魔力が支えている事は明らかでしょう。
今までの私なら、速度に翻弄されつつデバフを重ね、脆弱化させた装甲にハルバードをいかに叩き込むか。
削り合いの果ての、血姫繚乱と内包する背水効果により、増幅された物理破壊力で斬断を狙う所。
ですが……アメティスタが心血注いで改良してくれた今の装備なら。
「いいんですか? 鍔迫り合いなんかしちゃって」
巨大な長柄武器の総身を這う灰白色の冷炎。加護により魔術として発動せずとも常時発動されている、武器特性のスキル”冷炎束縛”。凍れる炎が禍々しい爪を伝い、巨躯の腕を這い上っていく。
GGRrrrUuuU?
わずかな戸惑いが見えるうなり声。徐々に、徐々に、頭上から圧し潰さんと力をかける大熊の魔獣が、細腕の堕天使ボディーな私に押し戻されていく。
拘束と停滞のデバフ効果。体内の魔力すら凍てつかせ、強化された肉体から力を抜き去っていく。
さらに重ねる、氷と暗闇の魔術。武器特性と、特化を重ねた干渉系魔術。二重のデバフに、かつてない速さで、ボスモンスターと言えども、目に見えて弱体化が施されていく。
Gggggaaahhh!!
盛大な咆哮と共に、全身の棘の隙間から噴出される青緑色の靄。纏う属性は腐食か……
視界の隅によぎった木や草が、どろどろに融解。枯れ、腐り堕ちているではありませんか
「腐蝕よりもっとえぐい、何かっぽいですね?」
どちらかというと、スライムの融解液とか、そんなイメージに近いような? いづれにせよ、巨大熊が扱いようなものではない気がするのですが!?
しかし。至近距離で浴びた私は全くの無傷、無影響。この身に宿した復讐属性が反応する事すら無い、まさに無害。
これまた進化した防具”☆9 神域のドレス “背徳“”が宿す”聖別空間”のおかげ。神翼種として宿した複数の、それも邪神由来の属性すらも含む魔力領域が、魔獣の猛威を寄せ付けず。安穏とした自己領域で私を守護してくれているのです。
必殺を連続で軽くいなされ、戸惑いを見せ始めるボスモンスター。
ガギッッ
鈍く弾ける音。
ついに拮抗は崩れ、大質量のハルバードに弾き飛ばされる大熊の腕。
かちあげられた脇にすかさず、返す刃でハルバードの鎌部を添え、薙ぎ払う。
魔力を阻害され、表面を覆う鋼の棘すら強度を失い、両断された腕が黒い血をまき散らし、宙を舞う。
「紗雪!」
「待ってました♪」
体勢を崩す大熊。絶たれた腕の断面に、ウェポンシステムを構成する無数の銃から魔力弾体が紗雪の元、統制された一斉着弾で改めて、斉射される。強度の落ちた傷口を面で抉られ、絶叫を上げる大熊。
暗黒、氷炎、さらに補助属性として習得した闇と氷も上乗せし、デバフ魔術を重ね掛け。
あっという間に動きをさらに鈍らせ、ついには己の体重を支える事すら叶わず、自壊するように崩れ落ちる魔獣の巨熊。
未だ失わぬ闘志を宿す深紅の瞳に。
「さようなら」
「苦しみを長引かせるのは趣味じゃないですものね」
重なる快音。対物狙撃銃を主軸に据えた、貫通火力重視の斉射。
肩口から袈裟切りに肉体を割り経つ、ハルバードの巨大な斧部。
中層のゲートキーパーであったであろう、巨大な魔獣の熊……あ、簡易鑑定で見る暇もありませんでしたね?
“☆7 冥死獣“
「なんか……かなり強かったっぽい……ですね?」
「ですね~。これ、死属性とかなんか、そういう即死系のスキルだったのかもしれませんね。ほら、地面までぼろぼろの砂みたいになってます。でも、もはや今の私達の相手ではなかったみたいですね」
「この先もこれくらい楽勝だといいのですが」
「まあ、無理ですよね~」
ええ。PVP大会の頃の私であれば、状態異常に対抗できず。あるいは、そもそも物理火力で押し負けて、敗北していた危険性すらあるかもしれません。それを想えば、とてつもない成長を喜ぶところではあるのです。が、それでも、素の技量で帝国騎士団長シャーリィさんと、戦えるか? と言われれば、確実に否。10回やって9回はタイマンなら負けるでしょう。
この程度が基準であれば、そんなシャーリィさんと同格以上の住民の精鋭達がこの”彷徨いの樹海”の踏破をあきらめる……どころか、中層を抜けるのに四苦八苦し、そもそも深層すらろくに到達できない。などという事はあり得ません。
『ナオ……様……お疲れ様です』
『ボス撃破で、こっちの雑魚集団も消えていきました』
まだ離れているルナリスと、天使ボディの私が紗雪にも聞こえるよう、念話でねぎらいと報告を交わします。
『ここまでは今の私達には楽勝レベルでしたね』
『だからこそ、ここからが本番……でしょうね。とりあえずルナリス、合流してから先に進みましょう
『承知……しまし、た』
さあ、いよいよ”彷徨いの樹海”中層、過去の精鋭住民達を断念せしめた領域の探索開始です。
おや? インベントリに、今のボスのドロップでしょうか。
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☆8 変質した冥死獣の心臓
※〇〇〇により変質されている
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なんていうものが。
少し嫌な予感がするのですが……?




