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15.第15話 “宝珠の示す先へ”

 心が落ち着くまで、ひたすら手綱を握りしめ、宝珠の光だけを見つめ、ゴーレム馬を走らせていました。

 いつまでも泣いてばかりはいられませんね。

 今ここに、銀の姫をお守りできるのは、もう私一人しかいないのですから。

 彼女の幸せを、2人で望む未来を。その約束を、託された願いを。決して忘れません。


 パンッ!

 頬を思い切り叩き、気合を入れなおします。


 よし。視界確認。見えてきた地平線を覆いつくす夜の森。

 現実の地球なら9時間程度ですか? ざっと頭の中の知識をすり合わせ、比較。

 ゴーレム馬の速さのおかげか、そもそもの惑星の構造の違いか、当初聞いていた話では約2時間以内で隠れ家へ到着するはず。


 残りMP約25%

 ギリギリもちますかね? ”幻影顕現”では手綱が握れません。”実体顕現”を維持しなければ。


 姫の意識が戻れば、MPが補充され始めると信じて、今はただ進むほかありません。


 建設的に時間を使うべきですね。まずは放置していたアナウンスを、履歴で確認しましょう。


【サーバーアナウンス:☆8 禁忌級クエスト 「供犠姫救出」 をプレイヤー「ナオ」がクリアしました】

【パーティーアナウンス:☆8 禁忌級クエスト 「供犠姫#1-救出:願いを託して」をクリアしました】


 全体へのアナウンスと私個人、今は眷属となった姫と自動的にパーティーが組まれているのでパーティー宛。で、クエスト名が違うのは、明らかに運営側の気遣いでしょうね。

 これが連続するお話であることは明らか。それを隠してもらえているのは素直にありがたいです。妨害に嫌がらせ、原動力は妬みにせよ何にせよ、いくらでも考えられます。

 まあ、ここはまだ一般的なプレイヤーとは遥か離れた場所。当面は大丈夫でしょうが。


 レアリティーというかランクが表記上、☆8と高いですが、この☆8というのは、☆6~☆9の広範囲の中で、禁忌に該当するなんらの要素が含まれる事を意味する少々特殊な評価。ですので、難易度的には実際は☆6か☆7といえるのかもしれませんね。


 で、続きは、と。



 ===============

 クエスト名:供犠姫#1-救出:願いを託して

 ランク:☆8 禁忌級


<評価>

 総合評価:☆9


<評価内訳>

 ☆10:供犠姫救出 -”至上の供犠姫”生存、救出成功

 ☆10:献身の忠義者達 -アルフレド、ベリーヌ、マリーナ、???、???、???の願いを完全な形で達成

 ☆8:憂いを絶つ ー僭王???勢力の弱体化 “程度:小”

 評価対象外項目、表示不可


<達成報酬>

 EXP、スキルEXP

 アイテム(授与済み)

 MC:0 GOLD:0


【確認】

 ===============



 確認を意識操作で押すと、報酬が適用されるみたいです。


【レベルが10⇒15へ上がりました】


【スキルレベル上昇:SLv1⇒2

 対象:“☆8 二重性”, “☆4 武術:特化-短剣二刀”, “☆3 魔力行使:魔術, “☆4 魔術:特化-接触”, “☆5 Lock:属性:光輝”, “☆5 属性:融炎”, “☆4 魔術:発動短縮”, “☆4 魔術:消費増幅”, “☆4 武術:特化-斧槍”, “☆4 魔術:特化-干渉(阻害)”, “☆5 属性:氷結”】


【スキルレベル上昇:SLv2⇒3

 対象:“☆5 顕現”】


 スキルは軒並み、おそらく評価対象期間中に使ったものすべてに、スキル経験値が加算されている気がしますね。

 上がっていないのは、一度も使わなかった、顕現体/裏の”☆5 属性:暗黒”だけですか。インベントリに持っているスキルがあった場合にどうなるか、絶対ではないですが。まあ、それはさすがに、まず間違いなく対象外でしょうね。



【個人アナウンス:☆8 禁忌級クエスト 「供犠姫#1-救出:願いを託して」 (公表名「供犠姫救出」)の動画公開に同意いただけますか?

<承諾> <拒否>】


 これは<承諾>でしょうかね。

 ワールドアナウンスも名前付きで出てしまっていますし、いらない恨みを買うほど今の情報秘匿に意味は感じないです。

 銀の姫(名前を彼女と相談しないといけないですね……)とは今後一緒に行動することになるでしょうから、いつまでも隠し通すのも不可能です。


 これも意識操作で承諾するやいなや


【ワールドアナウンス:☆8 禁忌級クエスト 「供犠姫救出」 の動画が公開されました】


 おぉぅ、早い。まあ、今までも”ユニーククエスト☆5”とかはしばしばアナウンスが流れていたので、存在は認識していましたが……。☆6以上は初めて目にするので、ちょっと悪目立ちしそうな気もしますね。

 あまりにアナウンスが頻繁なので、通知はオフにして、気が向いた時だけシステムログの履歴をさかのぼって確認しています。


【ワールドアナウンス:☆8 禁忌級クエスト 「供犠姫救出」 は所定の条件を達成したプレイヤーの「メモリアルダンジョン」に選択肢が追加され、追憶プレイが可能となります】


 む、メモリアルダンジョンとかあるのですか? 確かに先着1名だけしかシナリオを楽しめないとなるとクレームの嵐でしょうが……。

 報酬とかどうなるんでしょう、まさか銀の姫が何人もいるとかありえないでしょうし。


 さすがに気になってヘルプを調べると


<メモリアルダンジョン>

 ・動画公開が許可されたシナリオについて、インスタンスサーバーにて、追体験できるシステムです

 ・メモリアルダンジョンでクリアされた追体験シナリオは、プレイヤーの行動に即して進行内容が変わりますが、その変化がゲーム内世界に影響を及ぼすことはありません

 ・シナリオ報酬は一部の例外を除き、授与されません


 とのこと。なるほど、基本的にシナリオを楽しめますよ、というだけ。というわけですね。

 そして、ゲーム環境への影響。裏を返せば、クエストを本番進行した初めのプレイヤーの行動は、このゲームの世界そのものに変化を与える、分岐たりうると……。責任重大ですね……もう、わかっていますが……。

 そう、このVRMMO世界、Steps to Elysium Onlineにおいて、プレイヤーと異なりNPC、住民は基本的にリアルの人間と同じ、ただ一つ、1度限りの生命なのです……。


 後、しれっと書かれていますが。” 動画公開が許可されたシナリオについて”。これ、滅茶苦茶もめそうじゃないですかぁ……

 公開許可して良かった……。




 さて。いよいよ、託されたポーチの中身……です。

 緊張に少し震える視界でインベントリの中、ポーチの画像に集中し、中身の一覧表示を開きます。

 簡易鑑定で見える範囲の情報を添えて……



 ===============

 ☆4 拡張された魔術のベルトポーチ (汚損)


 ☆- 手紙 ※第4王女殿下へ宛てられた手紙

 ☆- 書類 ※アレイスター王国公式文書として押印がなされた書類

 ☆- 星の煌めきのティアラ  ※アレイスター王国レガリア(王権の証)を成す品の1つ

 ☆2 HPポーション×10、MPポーション×10、状態異常治療薬×10

 ☆4 スキルスロットエンハンサー:小(帰属)×2個  ※⇒情報開放/ヘルプ参照

 ☆5 スキル結晶/感覚拡張

 ☆5 スキル結晶/背水

 ☆6 ミニチュアコテージ ※空間固定、設置領域を隠匿/安全地帯化する

 ☆6 オリハルコン/神金 インゴット×1

 ☆6 アダマンタイト インゴット×2

 ☆7 鳳凰翔舞(ほうおうしょうぶ) ※2本1対の双短剣、魔術発動体

 ☆7 桜闇(さくらやみ) ※鉄扇 

 ☆7 朧月宮(おぼろつきみや) ※太刀/鞘に飾太刀の設え

 ☆7 最上級-状態異常除去薬×1

 ===============



 重い……すごく重いものが見えます……ちょっと1回見なかったことに、というか、判断をすることができませんので真面目に保留。王権って……。


 顕現体/表 天使状態の武器が壊れているので、短剣は大変ありがたい。

 レアリティーがサービス開始1か月もまだ立っていない現状に対して、えぐいですが、素直に喜びましょう。

 そういえば、融炎スキルで、刺突短剣が溶けて壊れたのは正直計算外でした。

 アーリーアクセス時の空間ではちゃんと試していたのですよ。

 多分、ですが、耐久度の減少があの空間では停止されていた。とかなのでしょうかね……。


 性能とかは全然わからないので、銀の姫の目が覚めたら見てもらえるでしょうかね。

 “中級鑑定”というのがどこまで見えるスキルなのか。


 で、スキルスロットエンハンサー。

 スキルスロットの制限10個を拡張するアイテムなのは間違いないでしょう。

 ヘルプのリンクが簡易鑑定で見えるの便利ですね。というか、アイテムを入手すると初めて見えるようになるヘルプみたいですね。さすがプレイヤー標準スキルの簡易鑑定さん。

 どれどれ……?


 ……


 えっぐ……。今度は逆の意味で、えっぐ。

 いや、確かに、MMOあるあるですよ? こういう強化とか、開放系コンテンツが、上に行くほど難易度高くなっていくのは。


 まずはその内容。

 要するに、”その時拡張するスロット段階数の2乗個”、スロットエンハンサー:小が必要です。

 つまり、Slot11の開放なら、1個目の拡張なので、1の2乗=1個

 Slot12の開放には、2個目の拡張なので、2の2乗=4個

 ……


 と続いて、Slot20の開放には、10個目の拡張として、10の2乗=100個

 Slot11~Slot20まで全部開放するには累計で、スロットエンハンサー:小が、181個必要です。

 そしてさらに、Slot21以降は、この計算が、2乗ではなく3乗になる、と。

 つまり、仮にSlot30まで解放できるとしたら、スロットエンハンサー:小の必要数は、22,400個ですね。


 公式イベントの報酬とかで今後もらえるのでしょうけれど、どんなに多く見積もっても、Slot20あたりが限界では?

 あとは、入手できる場所、MOBがどの程度あるのかで大幅に難易度が変わるのと、わざわざ”小”と書いてあるので、”中”以上がどうなっているのか、とかですね……。


 ちなみに、帰属のアイテムは、本人か、眷属、テイムモンス等、までは使えるらしいです。

 Slot12までの開放には5個必要なので、1個は銀の姫に使っていただくのがよいでしょうね。

 “不朽の束縛”を装備したことで、スキルスロットが4個もつぶれていますから……。


 追手がまだいてもいけませんので、私の分は使ってしまいましょうか。

 インベントリから実体化してみると、無色透明な指先サイズの宝石でした。

 呑み込めと……? と、躊躇しているうちに、使うという意識操作で問題なかった模様。すっと消えてしまいました。


「それで、と。おそらくこれらのスキルは私用、ですよね?」


 幸い、協会でお願いする事や、特殊なスキルが必要となる、スキルの入れ替えや取り外しと異なり、空きスロットにスキル結晶を入れるのはできました。

 天使モードで”☆5感覚拡張”、堕天使モードで“☆5 背水”、を身に着けます。

 “感覚拡張”の方は、何と言いましょう。五感が研ぎ澄まされ、例えば見える範囲が広がる、動体視力もよくなっているのも、ですが、肌で感じる空気の微細な流れ等も鋭敏に感じ取れるようになっており、回避能力とか、そういうところでも好影響がありそうです。スピード型の天使モードに実に合致したスキルですね。


 “背水”の方は、HPが小さいほど、ATKにブーストがかかる。さらに、HP1の状態で、1度だけ死亡を回避するいわゆるガッツ系スキルを内包しています。なお使用可能回数は1時間で回復するそうです。ブーストの方が、最大値を削る”☆7 魔に捧ぐ命の輝き”との兼ね合いが気になりましたが、残りHP比率ではなく、純粋なHP量で発動してくれる模様。今のHP最大値まで1に削れている状態での体感、かなりとんでもないブーストがかかっていますね。金属棒とか腕の力だけで簡単にへし曲げられそうな気がしますよ?


 ちなみに、”顕現体/裏”の堕天使モードの瀕死状態が明日の夕方まで解除されないので、転身した瞬間、体内から発せられる壮絶な痛みに、御者台から転げ落ちかけました。

 普通のゲームと違い、HPの限界まで動く。という事は並みの精神ではできそうにありませんね。少なくとも、一定以上HPが減れば、パフォーマンスもがた落ちすると考えるべきでしょう。

 残りHP1まで命を削ったことは、それでもデバフとして張り巡らせた氷を割られたあの結果を考えても、正解だったとは思いますが、そうやすやすとここまで切っていい札ではありませんね。



 そんなこんな、増えたインベントリの中身を確認しているうちに、ついに森のすぐそばまでたどり着きました。

 “導きの宝珠”の示す先はまさにその森の中。

 馬車では入っていけないのではと、姫を抱きかかえることも考え始めた矢先、鬱蒼と生い茂る樹木がざわりざわりと動き、招き入れるように1本の道を作ったではありませんか。


 宝珠を持っている者だけに、道を開く仕掛け、という事なのでしょうか。

 ごとごとと、進む馬車。

 通り過ぎた道はまた木々が動き、ふさがれていきます。御者台から身を乗り出し後ろを見れば、もはや来た道など一切見えず、馬車の通った轍の跡も見当たりません。


 そうして抜けた森の道の先。

 夜も更け、月明かりの指す中、切り開かれたそこには、一軒のこじんまりとした洋館が建っていました。


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