141.6章 - 第10話 ”六本木ヒルズの冒険 #2/3”
格調高い有名なホテルの傍のカフェ……いえ、ケーキ屋さんがやっている、デザートをサーブしてくれるところへ。
ふふ、ここは絶対に連れて行こうと思っていましたからね。しっかり予約しておいてよかったです。
『ケーキを買って帰る……のですか?』
入ってすぐのショーケースに並ぶケーキに、ルナリスが早速反応しますが。
『いえ、それはまた後で。今はこちらですよ』
奥に用意されたカウンターへ案内される3人。
『ナオさん、何か計画しているなって思っていましたが、なるほど~』
『紗雪にはわかりましたか』
オーダーをして少し。カウンター越しでは、丁寧に煮込まれたリンゴが、目の前でサクサクのパイ生地に乗せられ。
『見るからに……濃厚な……黄色いカスタード……』
ごくりと、喉が鳴る音がかすかに聞こえてきましたね。ええ、これは正解でした。
『SEOでは、出来合いのお食事を食べるだけでしたでしょう? デザートプレート、と言っていいのかな』 『こうして目の前で、デザートを組み上げて、新鮮な触感とお味を楽しませていただけるのですよ』
そう、ここはカウンターでパティシエがデザートをその場で作ってくださるカフェ空間。
家庭ではなかなかこうはいかない、芳醇な香りのする紅茶で口を湿らせつつ、目の前で出来上がる芸術に目が釘付け。
そうしてサーブされたリンゴのシブーストで飾られた、焼リンゴのタルト。
『おい……しぃ……!』
『あ、この馥郁たる香り。ちょうどいい酸味と甘みのバランスに、シナモンの風味。たまりませんね』
『ゲーム内でいただく……ケーキも、美味しかった……ですが、これは……』
『香りと味わい深さの次元が全然違います。あ、もちろんコラボフードも現実で食べると、別次元なのだと思いますけれど』 『それも、順番にめぐってみたいなって思ってますよ。少しづつ、ね』
『んぅ……ナオ……様』
動画のなかではルナリスが、ちょうど、唇の端についたクリームに指を伸ばす……と、見せかけて。さらりと虹色に輝く銀の髪が流れ、あっという間に小さく伸ばされた可愛らしい舌が、私の唇をそっとぺろり。クリームをなめとる仕草の、艶めかしいことと言ったら。さらに離れぎわの、流し目が……!
あ、動画で見直してもドキドキしてきた。
`あああああああああああああああああああああああああああああ`
`なんだこれ、なんだこれ`
`姫様、大胆すぎんだろwww`
`対抗して紗雪嬢が、ナオ氏の天使体の方の指を、くわえてるしwww`
`俺は今、正気を失おうとしている……!`
`尊すぎて、コメント打つのも忘れてた`
`この配信、マジで危険すぎるだろ`
`ナオ氏、顔真っ赤じゃんw`
`幸せが溢れてて、見てるこっちまで幸せになる`
動画の中の私たちは、カフェを出ると、再びリムジンに乗り、六本木ヒルズへ。
『ナオ……様!』
どんな色、機種が2人にはいいかなと暢気に考えながら歩いていた私。
腰のあたりを軽く押される衝撃に、思わずよろめきかけます。
『ここにも……魔物……は!』
`姫?`
`え、まさか、視えない何かが実はいるとか?`
`妖怪とか?`
`ニュースとかにも何も流れてなかったのは、デウスがもみ消した?`
`周りも騒いでないみたいだけれど`
「ナオ……様……」
そっと私の袖を摘む、落ち込みルナリス。
「私を心配してくれたのですよ? 何を恥ずかしがることがありますか。あの時も言いましたが、ありがとうございます」
なでりなでり。動画を見て恥じらう彼女のサラサラの髪をそっと撫でてあげます。
ドローンカメラが私達の背後に移動し、映した視線の先。緊迫した表情の銀の姫が警戒していたのは。
`あ~`
`これがあったか`
`そりゃ勘違いしても無理ないわ`
`私、普通に気色悪くて、あそこ近寄れない`
「ええ、そうなのです。巨大な蜘蛛のオブジェですね」 「テーマは理解するのですが……私もちょっと」
「予想していなかったので、事前に説明もできていませんでしたからね~。私も、お腹の所の大理石? の卵が不気味で、知識で知ってはいても、かなり引いてしまいました」
「わたくし……魔力も気配もなかったのに……ゴーレムかと……あわてて」
「大丈夫、怖い物はこの世界には……少なくとも、怪異やモンスターはいませんから」 「それに、何か害が及ぶようなことがあるなら、私が守ります。だから、今回みたいにルナリスが前に出るのだけは、やめてくださいね?」
犯罪や戦争は現実に存在することを意識し、少し言葉は濁してしまいました。が、ゲーム内と同じく不老不死を図らずも得ているとはいえ。もう二度と彼女がつらい思いをするところを見たくありません。今回は想像もできておらず、彼女に空回りをさせてしまいましたが、有事には私が前に出なければ。と、気持ちを新たにするのでした。
そうして慰めているうちに、動画の中の私達は大展望台で開催されていたドールをテーマとして複数の企業、ドールメーカーが集った特設イベント会場に到着していました。
『すごく……可愛らしい……。紗雪ちゃんや、悠久の楽園……を、今も守ってくれている……皆みたい……です』
元々は森美術館で、2人があまり見慣れないであろう、現実の現代美術や現代アートの鑑賞を。と、予定していたのですが、ちょうど半月ほど、ドールの展示をやっていると知り。特に、古代魔導人形に通ずるものがある、1/3サイズ、約60㎝のドールを制作する京都のドールメーカーさんの展示はぜひ2人と見たい。と思い、急遽予定を変えたのです。2014年にも一度開催され、今回は2回目、という事になるようですね。
ドール本体の美しさはもちろん、作り込まれた精緻な情景、サイズ感の合わせられた小物。
『この子たちはウィッグで髪は表現しているんですね~。サイズ的には私のドール体と同じくらいです』
『古代魔導人形の子達は植毛でしたね。』 『今の神代魔導人形に進化してからは、アンドロイドとか、生体に近づいきましたが』
『関節の構造……が、この……ドールの子達みたいな……球体関節でした。アメティスタが……関節の美しさを……見せる子達と、衣装や……アクセサリーで……隠したがる子に……分かれていると、言っていました』
`アニメ調とリアル調をうまく調和させてるね`
`昔、ロボットを組み込んだシリーズとかも作ってた気がする`
`ドレスもすごくかわいい`
`個人製作のドレス着ている子もいるらしい`
`あれ……ナオさん達、ここの展示知らない……のか?`
`まさかぁ?`
`その宣伝かと思った`
`そういえば、アクロイトちゃん達は、現実には来られないの?`
「さすがにナビAIじゃないあの子達は、悠久の楽園でお留守番ですね」 「領域の守護を任せられるので、ありがたいのですが、寂しくもあります」
「残念ではありますが、ナビAIとは割り当てられる現実側での演算能力や、現実の認識レベルがけた違いに低いですからね。さすがに無理でしょう……。ただ、動物型とかのナビAIではなく、純然たるゲーム内のテイムモンスターの子達がこちらに来られるようになってくると、事情が変わるかも?」
「皆……で、こちらでも ……過ごせたら……楽しそう、です」
人数も人数ですから難しそうですが、確かに、あれだけ広いお家です。副統括の子達くらいは、せめて連れてきたい気持ちはありますね。
総勢500人に迫る状況で、平常時の領域守護。放置ゲーム要素はもう、副統括の4人や紗雪のドール体がいなくても、安定していますから。さすがに昨日今日はログインする時間が無かったので、8日間留守にしてしまいました。明日はSEOの時間もしっかりとらないと、ですね。
展示の最後には翼を湛えた、繊細ながら少し陰を感じるドールの少女がイベント限定。1体限定の抽選販売となっていました。
ガラスケースの中から観衆を見つめ返すガラスの瞳は、まるで俗世に興味などないと、突っぱねるような孤高の意思を感じさせるもの。
『記念に応募だ』 『しておきますか?』
『いえ……なんだか、少し……寂しそう、です。わたくし達……では、その寂しさ……を、埋めてあげられ……ません。わたくしの……心は、ナオ……様だけ、の……もの。共に在るのはこの……3人だけ、です』
『そうですね、私も同感です。ただの物としてではない』 『彼女を愛してくれるオーナーの元に、巡り合えるといいですね』
`軽々しく記念応募しない、理由も滅茶苦茶わかる`
`ドールって、生きてるって感じするよね。特に今見せてもらったような子達は`
`相変わらず愛が重くてイイ`
`俺もこんな風に愛し合える人と巡り合いたいな……`
`現実はもうあきらめた。SEOで出会いを探すんだ`
`姫たちを見ていると、あながち否定もできない……`
そうして出口も近づき最後の展示。そこには見覚えのあるムービーが流れているではありませんか。Steps to Elysium Onlineのサービス開始初期に流れていた、あのティザームービー。
『おぉ。ナビAIのボディを、各ドールメーカーさんに依頼できるようになると』 『SEOコラボですね? 駆動部とかはデウス側で用意するのでしょうかね』
『魔導人形が素体……の子達……には、確かに……ぴったり、です』
『あ! ナオさん、ナオさん、これ見てください!』
紗雪が示す一角そこには、あ……れ……? とっても聞き覚えのある声がします、よ?
いくつかのモニターの一つ。そこには、非常に見覚えのある姿が、見覚えのあるシーンを……って、これ私の動画じゃないですか!
`あ、これ本当に知らなかったんだ `
`ナオさん人気者`
`綺麗だし可愛いし、順当`
`コラボドールの要望も多いけれど、ナマモノだから難しいんじゃないかって`
`特にどっちかは元の人間の身体……いや、まじか? ま、まあ信じがたいけれど、生身の身体らしいからなぁ`
「ま……まさか、そんなことになっていただなんて、知りませんでしたよぉ」 「紗雪も教えてくれませんでしたし」
「うふふ、反応を楽しもうと思って」
現実へ復帰したてですからね。現状にはまだ疎いのです。
「ナオ……様の、ドール。欲しい……ですが、他の方の……元にと思うと……ちょっと嫌、です」
「私もルナリスと紗雪が、他の方の所に、ドールと言えどあるというのは少し想う所があるかもですね」
「まあ、さすがにただのキャラクターではないですからね。コラボドール化っていう話にはなりづらいとは思いますよ?」 「ならない……ですよね?」
まあ、なったらなったで、それも嬉しいのですが。
そうして、動画の中の私達は展示会場を後にします。
「と、またこっちには戻ってくるのですが」 「一度動画は場所がちょっとだけ変わります」
「そうですね~。この後はルナリスちゃんもお楽しみだった……」
「紗雪ちゃん……も、楽しみ……にして、いまし……た!」
「はいはい。皆楽しみにしていたんですよね」
ええ。動画に映る私達もいよいよ、この日の締めとなる2つのイベントです。




