142.6章 - 第11話 ”六本木ヒルズの冒険 #3/3”
1/3スケールをはじめ様々な小さなサイズで展開される、夢の世界を後にした私達は途中のお店に気ままに立ち寄りながら、施設の反対側に位置するお目当てのお店に。
通路に飾られた美術品が目を楽しませてくれる通路を、丁寧な接客で案内された個室。そこには大きな鉄板を囲む、椅子が4脚。
『個室にしてもらいましたので』『人目を気にせず、ゆっくり楽しめますよ』
『SEO内部の町とは人の数が違いすぎますからね。さすがに私も疲れました』
『でん……しゃ?と、言うものは……もっと大変……とか?』
`絶世の美少女4人だもん、足と止めて見ちゃうのも分からないでもない`
`変なのが寄ってこなかったのが、幸い`
`護衛が隠れてついてきてたりして`
あ、鋭いコメントですね。正解です。とはいえ、言いませんが。斎賀さんが、動画と配信は依頼の内です。と、ひそかに護衛を手配してくれたのですよね。おかげでナンパとか、そういう嫌な目にも合わずに済みました。後で改めてお礼を言っておかなければ。
不可視化したドローンカメラで周辺探査を、これまたこっそりと、してくれていた紗雪は確実に気が付いていますが、知らないふりをしてくれていましたね。
『そうですね。Deus ex Machina Corp.が送迎をしてくれたので移動は楽でしたが』『いつか、公共交通機関も経験してみる事になるでしょうね』
『せっかくなら、温泉旅行とかそういうのがいいかもです』
『おん……せん』
`湯煙配信!`
`永久保存動画くる!?`
`女神の入浴……`
`人死に出るぞ!?`
`ナオ様!`
動画内では宝石のように美しく飾られた”シマアジのマリネ”、”栗のポタージュスープ”に続き、いよいよシェフが鉄板を挟み、会話を盛り上げてくださいながら、鉄板焼きの調理に入っていますね。
国外からの観光客向けの派手なパフォーマンスはなく、静かに、落ち着いた動作で。丁寧に一つ一つ工程を経て調理を進めてくださるのも特徴と言えましょうか。
国産昆布の上に立派で活きの良い鮑を乗せ、鉄板の上に贅沢にも塩釜を形成。エシャロットの香りが引き立てるバタークリームソースでいただく、鮑のステーキ。
あらかじめ店内で熟成され、またその産地も自社で構えた、特別な和牛のステーキ。
`とんでもない飯テロ配信`
`平日の夜23時にこれは犯罪`
`高級店やば`
`カップ麺引っ張り出してきたけれど、侘しさが引き立てられて涙が……`
`姫と紗雪嬢の蕩けそうなお顔よ`
`ああ、美味しいんだなって、すごい分かるw`
`予約しようかと思ったけど、値段見てさすがにちょっと躊躇した。記念日とかに行くレストランや`
`SEOで稼ぐんや、余裕で食べられるぞ`
ははは、ちょうどいい宣伝にもなったようで何より。
「最高に……美味しかった……です」
「調理工程からすべてを体感しながらいただく。っていうのが、まず初めての経験でしたよね」
「塔では……冷めた料理、が多かった……です。それに……いつも、ひとり……でしたので」
「ああ……毒見とか、そもそも持ってくるまでとか、いろいろありそうですものね」「SEO内でもでしたが、現実でもこれからは、温かいお食事を皆でいただきましょうね」
別室に案内され、ゆったりとデザートと紅茶をいただき。いよいよ最後のイベント。
驚きと感動に満ちた観光と料理を堪能した後、すっかり日も落ちた頃合い。この日最後の締めと、森タワーの展望台へ向かいました。ドールの世界の特別展示会は今日の入場は終わっていましたが、ところどころ、ご自分のドールの子なのでしょうね。縦長の円筒状バッグから取り出し、一緒に夜景を眺めたり、撮影をして楽しんでいる方々がいらっしゃいます。
眼下に広がる夜景は宝石を散りばめたようで、息をのむほど美しい。
自宅となったタワーマンションから見る眺めとはまた角度の違う情景に、3人そろって魅せられてれてしまいます。
『すごい……この世界……の夜のきらめき。宿る……命の数……。あまりの違いに……圧倒されます』
『そうですね。この灯りの一つ一つの元、命が育まれている。そう考えるとSEOの世界との違いに圧倒される気がします』
ルナリスが私の堕天使ボディの腕に、そっと抱きついてくる。
『ゲーム内の夜景は、ただ綺麗なだけでした…………。でも、この夜景は、なんだか、命そのものの輝き……みたい……です』
紗雪も、私の天使ボディの肩に、そっと頭を乗せる。
『ゲーム内では、データという意識がどこか私の演算の中でもぬぐい切れなかったけれど、この夜景は、たくさんの人の想いが輝いている。そんな気がします』
配信に乗せられませんが、マナの可視化が日常となった私達にはこの時、その言葉以上の重みを、この光景に見出していたのですよね。
動画の中、その言葉に私は静かに頷いています。
『私たちが……この世界で、生きていく。たくさんの……発見、笑い、時には……悲しみも。そして、愛し合って……』
ルナリスが、私の耳元で囁く。
『ナオ様……この夜景を、私たち三人の……新しい世界の始まりにしましょう』
「うん。そうしましょう。ルナリス、紗雪。この夜景を、私達三人の、新しい世界の始まりにしましょうね」
この動画を見ているマンションはその敷地全てが上空まで濃密なマナに包まれています。それ故に、敷地外のマナの濃度や、見える様子も相対的におとなしやかになってしまい、マナの知覚能力がない場合に見る景色とそこまで変わらなくなっています。正真正銘外の世界。夜景の中、さんさんと輝くマナの流れ。うねるようなその脈動は天地を結び、循環する流れを私達はこの展望台で初めて見る事ができたのです。
`夜景に照らされる美少女4人`
`仲睦まじい4人が、抱き合いながらロマンチックな夜景を眺めてる
`心が浄化される`
`昇天しそう`
ドローンカメラの後ろに見える、眠らない都心の灯りに薄ぼやけた星空も、私達の超視力にかかれば、満天の美しい星空。その深く吸いこまれそうな様子に、ふっと意識が遠くなりそうになりながらも、配信を閉めなければと、使命感で踏みとどまります。
「良い初日でした」
「紗雪ちゃん。ええ。ええ……!本当に……!」
「うん。楽しかったですね」「でも、ちょっと疲れたかな?」
「確かに。慣れないのも事実でしたからね」
「ヒト……の多さに……呑まれそうに……なりました」
ルナリスと紗雪が、それぞれ私の肩に、そっと頭を乗せる。
「よし。じゃあ、今日はこの辺で。配信も終わりにしましょうか」
「……お待ち、ください。ナオ……様」
ルナリスが、私の顔をじっと見つめる。
「どうしました?」
「ナオさんナオさん、今日のお出かけで、買ったもの。まだ見せてないよ」
`見たい`
`これから麗しの美少女たちが使うお品……ワンチャン、グルシャンも?`
2人の言葉に、配信予定に乗せていたイベントを忘れていたことに気が付きます。
「あ……本当だ。って、グルシャンとか、ダメですからね? 体壊しますよ、本当に」「同じ匂いに包まれたいとかまでなら、まだわかりますけれど」
`え……。えぇのんか?`
`ざわ……`
`ざわ……`
`もしや教えてくれる?`
`し、下着も!新品未開封でいいので、下着も! みせて! 教えて!`
あ、えさを投下しちゃったですかね? なんだかコメントが変な方向に加速してしまったような
「ナオさん、それは……」
「下着、は……ナオ……様だけ……にしか、見せません」
爆発するコメント欄の流れを横目に。思い出を振り返りながら、これから私達の生活の一部を成してくれる、小物たちを紹介し。その夜の配信は和気あいあいと、日付が変わるまで、もう少し続いたのでした。




