138.6章 - 第7話 ”現実での初配信 #1/2”
「皆さんこんばんは」 「”悠久の羅針盤”配信チャンネルへようこそ」
「こんばん……は、です」
「こんばんは~♪」
すっかり慣れた、二つの身体での私のあいさつに続いて、ルナリスと紗雪がドローンカメラに向かってそれぞれに手を振ります。
`きた~!`
`ルナリス姫と紗雪嬢の現実世界デビュー!`
`ゲーム内と全然違わない、麗しいお姿……スキ`
`SEOのファンタジードレスもいいけれど、現実のドレスもいい`
`ちょ、待って。ナオさん、まさかのリアルの姿のままゲームしてたの!? え、美人すぎ! あり得なくない!?`
`いやいやいや、ナオ氏、身体が2つあるんだが? 実はSEO内から配信してるだけじゃ?`
`ナオ氏、胸、ヤバ。ゲーム内アバター盛ってるんじゃなかったんか`
`でも身体2つはあり得ないよね? 姉妹で2キャラ操作で始めたけれど、運命値の影響で入れ替わりプレイになってた。とか?`
`超絶美人姉妹?`
`SEO未プレイですが、こんな美人さんがいらっしゃるですね`
`確かにキャラメイクできるから美男美女が多いけれど、ナオさん達は別格`
`ルナリス姫、まじもんのお姫様だし`
`生い立ちは特殊だけれど、お姫様なんだよなぁ……`
`リアルでこんな美少女4人組に会うことなんてないよな`
`もうコメント欄がパニックだw`
`このラグジュアリーな背景、どこよ……さりげなく置いてあるけれど、高級ファッションブランドの家具で、かなりそろえてるよね`
一瞬で投げられる、無数のコメント。ゲーム内配信は最近かなり落ち着いてきていましたが、初現実配信という事もあってか、ドローンカメラ下に投影された半透明モニターに滝のような勢いで、コメントが流れていきます。
そんな視認不能なほどの勢いのコメントが、しっかり判読できるあたり、この身体の超人性を実感できますね。
「はい、いろいろと、気になる事があると思います」 「順番に説明していくので少し待ってくださいね」
「はいはい、というわけでまずは今日のお題リスト~!」
すっと、事前に用意してあったスライドを紗雪が画面に映し出してくれます。
「まず現状についてですね」 「ルナリス、お願いね」
私がルナリスの手をそっと握ると、彼女は少し恥ずかしそうに微笑み、カメラに向き直りました。
「はい」
カメラに向かいそっと微笑み、鈴を転がすような美しい声で視聴者への説明が始まりました。
「Deus ex Machina Corp.が……企画する、二つの世界を結ぶ……計画。”夢現の架け橋”と……名付けられた……この、”ぷろじぇくと?“……ですが、その第1号……に、わたくし……ルナリスが選ばれ、ました。年内にあと……二組……。以降は状況……をみながら……との、事です」
事前知識は十分に与えられているとはいえ、不慣れな用語もある台詞に、いつも以上にゆっくりと、ルナリスは言葉を選ぶように話します。
「はい、詳しくはDeus ex Machina Corp.の」 「公式サイトを確認してくださいね」
URLを出したあたりでしょうか、紗雪が、つんつんと、空中を指さしてくれていますね。
「皆様が……Steps to Elysium Onlineの、世界に……お越しになる……ように、わたくし……も、この現実……の、世界を旅し、日々を……過ごす機会をいただき、ました。見守って……いただけます……と、幸い、です」
`ルナリス姫のお身体はCGなの?`
`ナビAIと同じ、ロボット?`
`立体映像?`
`ナオさん達の配信チャンネル名『夢現の羅針盤』と、プロジェクト名って関係がありそうな感じ?`
`ナビAI? ロボット? この人たちは生身の人間ではないのですか?`
`ナオ氏がAR装置を装着しているのでは`
`VTuberみたいに、配信に側を乗せてるだけとかもありえそう`
コメントの疑問を目にし、ルナリスは少しだけ微笑みました。
「わたくし……の身体は……Deus ex Machina Corp.が用意……してくださった……アンドロイド?の……ような物?との事です。皆様の……ログインと同じ……ように、この現実へ……ログインしております」
と、斎賀さん達とすり合わせた設定をきちんと開示しておきます。実際は、仮に人間ドックで精密検査をしても、生身の人間と区別がつかないそうですが、まさか言うわけにはいきませんからね。
`現実でもこんなに可愛いって……等身大ドールで販売して`
`Deus ex Machina Corp.の技術、恐ろしすぎない? 等身大フィギュアよりも精巧`
`ルナリス姫? と仰るのでしょうか。話し方がちょっとぎこちないけど、そこがまた可愛いですね`
`あ、現実からの初視聴者さんも多いね。姫様はいつもこんな感じだよ`
`俺たちの姫様が、現実世界に……! 感動!`
「ルナリスちゃんのお身体は、私達ナビAIのさらに超高級カスタムメイド版。って考えてもらえればと思います」
紗雪が軽快に付け加えます。
「プロジェクト名と私達の配信者チャンネル名は、正直偶然です」 「ただ、想いといいますか、根幹には共通する願いがあると思っています」
昨日プロジェクト名を聞いた時、私も同じことを聞きましたからね。
「Deus ex Machina Corp.がつなぐ、この現実と、SEOの仮想世界の架け橋」 「私達はその先駆けとして、羅針盤のように行く先を示す一つの標になれたらな。と思っています」
`いいね`
`絆を結んだ住民と、こっちでも生活できる可能性があるって、示してくれるのありがたい`
`かなり真剣に、ゲーム内結婚システムに取り組もうとしてるプレイヤーが増えてるよ`
`エンゲージメントクエストの発現者も少しづつ出てきてるらしい`
`私達はまずは、ナビAIちゃんとの現実の生活だね`
`ナビAIちゃん達も徐々にオーダーメイドボディが届き始めるらしいよ`
`その意味でも、紗雪嬢がボディアリでの現実生活は第1号だね`
`ナビAIとはスマホとかPCで夏の大規模イベントの時からこっちでもやり取りしてたから、既に生活の一部って感じだけどね`
「ナビAIの子達の身体は、今月から少しづつ届き始めるみたいですね。さてさて、本日の話題2つ目」
ぴっぴっと、紗雪がまた空中、先ほどより少し下を指さしていますね。投影している話題リストの2つ目でしょう。
「仮想世界の住民の移住第1号として、その生活の一端を皆様と共有したいのですが」 「混乱を避けるという意味もあり、屋外でのリアルタイム配信は控え、”動画の振り返り視聴配信”という形をとらせていただく事となりました」
「具体的には、ルナリスちゃんが私達とお出かけする様子を動画で撮影。私が編集して、その動画をアップロード。私達が配信をしながら、皆と一緒に見よう。という事ですね」
`そこは配信スタジオ?`
`配信者用マンションとかそんな感じ?`
`デウスって配信者プロダクションはやってないよね。配信プラットフォームはもってるけれど`
`ナオさん、もしかしてすごいセレブ?`
`確かに、この背景は尋常じゃないぞ……家全体がこうなら、どんな豪邸だ`
`スタジオじゃなくてお家なの?`
`遅れた~! で、なんかすごいことになってる!? え、ナオさん2人って、仮想現実から配信中?`
視聴者の推測コメントが飛び交います。私は優しく微笑み、真実を少しだけぼかして話しました。
「そうですね、私達専用の配信スペースみたいなものです」 「おうちの中に、配信用のスタジオスペースを用意した感じですね」
`お家見たい!`
`どんなところなんだろう`
`スタジオがイタリアアンテイストのラグジュアリーな感じで、姫様達にあってる。SEO内のお城とは雰囲気が違うから、新鮮味もあって差別化できてる`
`もしかして、SEOの換金御殿?`
`あ、確かにナオ氏ならそれくらい稼げてそう`
`SEOの換金、トップ層はマジでエッグイ金額稼げてるらしいよね、億単位とかの。それこそ、配信者フィーバー、配信ドリームの新たなフロンティアって感じ`
これはいろいろ悩んだのですが、しいて場所を明かす必要もないだろうと、サイバーなポッドが4個設置されているリラクゼーションルームの一角に、配信スペースを用意したのですよね。後ろもガラス窓部分ではなく壁側にして、写り込みが起きそうなガラスや鏡等も排してあります。鏡面塗装が多い家具なので、そこはデウスのお力を頼って、マット加工(反射や映り込みしづらい塗装)してもらってあります。雰囲気自体は、リビングルームと似た感じにしてありますけれどね。こうした情報は今後少しづつ、小出しにしていくネタでいいでしょう。
「ですのでこれからは、SEOの配信もたまにしつつ」 「当面のメインは現実世界での配信になります」
「もふもふ……です」
ふんすと、にっこり口元に、やんわり両こぶしを握って見せるルナリス。
「そうですね、もふもふですね~」 「でも、もふもふに夢中になりすぎて私を忘れちゃうのは、寂しいですよ?」
私の言葉に、ルナリスは慌てて私の堕天使ボディの腕にすがりつき
「気をつけ……ます……」
最近ゲーム内だと、特に金毛銀毛の狐系テイムモンスターのカグラと、本性は不定形生物ですが、すっかり大型犬の姿が板についたリィナに、ルナリスがとられることが多くて。
もふもふの毛玉に埋もれる彼女が可愛いのでいいのですが、いつもぺたりと寄り添ってくれていた彼女と少し距離があると、どうしても。ね。
`姫がもふもふにうずもれてるところ、可愛いから、もっと映してほしいです!`
`セレスティアちゃん、芸術的すぎて。ファングッズで、似姿のリアルアクセサリー販売してほしい。宝石……だと手が出ないだろうから、ガラスとかのイミテーションで`
`アリアちゃんクッションとか、絶対気持ちいい。今の幼体姿で出して欲しい、将来成長して大きくなったら並べる!`
`アリアちゃん、クジラというより、新種の毛玉生物とか、ぬいぐるみが動いてるっていう感覚w`
`コメント欄でも人気なテイムモンスちゃん達`
思い出したらちょっと寂しくなってきたので、堕天使ボディのお膝の上に収まったルナリスを、後ろからお耳はむはむ。
「んー確かに。可愛いですが、私も忘れて夢中になりすぎちゃう、イケナイお姫様にはお仕置きが必要かしら?」
「んぅ……な、ナオ……様!」
`ちょっと珍しい、ナオさんの独占欲丸出し、可愛いw`
`もふもふと張り合うナオさんw`
`確かに姫、もふもふに夢中になると、まわりが見えなくなるよね`
`紗雪ちゃん、ルナリスちゃんにヤキモチ妬いてるw こっそり動き出してて、愛おしいw`
彼女の全身がびくっと震え、あっという間にふにゃふにゃになって。か~わいぃ。
あ、でもそんな可愛いルナリスのそういう蕩けたお顔を皆に見せるのはなんだか、ちょっと嫌ですね。
こっちに向けなおして、抱っこ抱っこ。はい、お顔は私のお胸に~。
`ナオ氏www`
`ww`
`ルナリス姫、腰砕けになってるw`
`なんか、ゲーム内より、ちょっと幼いというか、なんだろう`
`堕ちるの早い!`
`ナオさんの溺愛っぷりよw`
`現実でも、相変わらず公然といちゃついてるじゃん……最高かよ`
「あ~現実の感覚って、ゲーム内よりも情報密度というか、いろいろ刺激が強くてですね」 「その辺の関係もあって慣れるまでは、大変な感じかもです」
私の堕天使ボディにぴったりと顔をくっつけて、カメラの方を見ようとしないルナリスの背中を、よしよしと撫でながら、説明します。
`つまり、リアル感度……何倍なんだ……`
`ごくり`
`ごくり`
`ごくり`
`え……rっ!`
`やめろ、変なコメント書くなw 姫が読んじまう……あ、今見えてないか。ならいいな。え……rっ! 3,000倍!?3,000倍!?`
`ゲーム内でも、ずっといちゃいちゃしてたもんな……何なら敵モンスターすら放置して`
`リアルで、もっとすごいことになってるってことか……`
「はい、はい、もう。2人ともその辺で。で! 私達の予定ですが」
あ、つい、いちゃいちゃ配信に移行しそうになった空気を、紗雪が巻きなおしてくれましたね。
ちなみに3,000倍なんて普通に死んじゃいますよ。そんなわけないじゃないですか、ははは。




