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13.第13話 ” 脱出 #1/2”

 背の高いバラの生垣が隠す門で待っていたのは、下着が大変扇情的な黒髪セミロングメイドのベリーヌさんでした。


「こちらでございます」


 門の外には小型の馬車。

 四輪・有蓋の箱馬車ですが、御者台の後ろ、座席は前向きの2人用。後部に荷物が詰めるスペースとしての荷台が多少ある程度。

 牽引しているのは、ゴーレムとかそういうたぐいでしょうか? 鈍色に光る金属製の馬です。


「私はここまで、です……」


 ええ、残念ながら。ここが、顕現の移動範囲のほぼ限界です。


 馬車の荷台に置かれた外観は粗末な木箱。

 “光輝魔術”の清浄化を発動し、取り急ぎ身をお清めした後、中に詰め込まれた柔らかな布の山に、夕日の下に出るころには意識を失ってしまっていた姫を横たえます。

 治癒効果で傷も少しでも軽減を……と思いましたが、食い散らかされた凄惨な傷の数々はすでに癒え。血と粘液に濡れていた、薄布を重ねた、美しくも扇情的なドレスも、ほつれ一つすらなく修復されています。

 装備の効果? スキル? まあ、今はどちらでも良いですね。外見上は完治されている様子な事を幸いとしましょう


「兵士長! 兵士長をお探ししろ!!」

「殺せ! 生かしておく必要はない!」

「反乱分子の手勢はわずかだ!」

「くそ。捕まえたやつが、自爆しやがった!!」


 混乱と喧噪がこちらまで届き始めてきました。


「く、くるなぁ!」

「自爆した奴が、動いて……!」

「こいつら、邪毒を服用してやがる」

「拘束しろ、こいつらは死兵だ! 殺しても死なぬ、効果が切れて消滅するまで拘束しておけ!」


 予定では、アルフレドさんは城の中で暴れているはず。別経路で逃げるので、私はとにかく姫のそばを離れないように、仰られていましたが……。

 それにしても、邪毒……まさか、あの忌避感を覚えた赤く輝く薬では……。アルフレドさんも服用していましたよね……?


「早く出発を」


 じっと、ところどころ割れた窓から煙の上がる城を見つめるベリーヌさんを促します。が、彼女は微動だにしません。

 木箱のふたも閉めらておらず、ただじっと、微かに上下する銀の姫の、人形のように静謐な姿を2人で見守ることしばし。

 いつ発見されるかと、ひやひやしながら気を張り詰める中。生垣の上から何かが投げ込まれてきました。

 駆け寄り、拾い上げたベリーヌさんが手にしたのは、アルフレドさんが持っていたはずのベルトポーチ?


 止める暇もあればこそ、どす黒く汚れた上から、さらに明らかに真新しい血を滴らせるそれを、ちゅうちょなくかき抱き、手を突っ込むや、ひきづり出された一つの美しい装身具。

 って、待って。それ、私が封じされているチョーカー……”不朽の束縛”!

 茨の形状と、何より一度見れば忘れるはずのない、魔性のピンクダイヤモンドが放つ複雑な輝きを認識した時には……。

 まるで拘束具のように、茨のとげが内向きにも生えるこの呪物は、嫋やかな姫の首を戒めていました。


「な、なな、何をしているのですか!!」


 とっさに、ぎりぎりで声量こそ抑えたものの、思わず小声の叫びをあげてしまいます。

 そんな私に一瞥だけくれるも、人間ってこんなに素早く動けるの? と、ファンタジーをこんなところで感じる目の前で。木箱のふたと馬車の後部開口部が閉められ、ベルトポーチは私に投げよこされ、後部座席の扉は開け放たれ、彼女のクラシカルメイド姿はすでに御者台の上。


「お早く。出ます」


 足を引っ張っても意味がない、頭をぐるぐる回る無数の疑問は後回しにし、後部座席に乗り込みドアを閉めるや否や、走り出す馬車。

 あ、揺れも少なくて意外と快適……と、むしろのんきな思考が漏れ出ます。


「実体は今しばしそのままでどうか。門を抜ける際は、創世聖教のご威光にすがらせていただきます」


 開きっぱなしになっていた御者台と座席を区切る窓から届けられる、淡々としたベリーヌさんの声。

 スキル、というか、呪いの制約で、実際は信仰対象が抹消されている似非天使の私ですが、創世聖教の偉い人? 賓客? という事にするわけですね。


「ポーチの中身は後程ご確認を。いったんおしまいください。国都を出ましたら、フェリシテ連邦をこえ、“ダンジョン”彷徨いの樹海”を抜け、”ミドガ帝国”辺境伯領、領都まで出ます」


 言われるがまま、ベルトポーチをインベントリに。

 命と想いの果てと分かってはいますが、さすがに、光輝魔術の清浄化はかけさせていただきました。

 反乱があってからまだ2か月もたっていません。城から上がる煙に、恐れをなしてか、人通りも消えた町をひた走り、10mを超える外壁に穿たれた門は目の前。

 当然ながら8人もの衛兵が検問を敷いています。


「止まられよ! 緊急の状況下である。何人たりとも通行は許可されない!」

「こちらにおわすは、創世聖教に降臨あそばされた天使様である! その行く道を阻むこと、まかりなりませぬ!」


 ぎょっとしたように目をむき、窓から中を通間にのぞき込む彼らに、努めてすまし顔のまま、胸元に手を添え、ヘイローを見せつけるように首を傾げ、微笑みかけてみます。

 隆々とした体躯を誇る、厳つい衛兵たちに確かな動揺が走る。


「こ、これは、しかし……」「おい、まずいって……」「どうするんだよ」


 かろうじて拾った小声のざわめき。


「道をお開けなさい」


 ベリーヌさんが畳みかけます。が、


「無礼を承知で申し上げる。確認をいたしますので、今少しお待ちを!」


 ダメ……ですか……


「お通ししなさい」


 門の外から入門する馬車から、神経質そうな、しかし不思議と良く通る声が響きました。

 この声。それに、あの馬車は……見覚えがありますよ、財務官僚が乗って出て行った馬車ですね?


「アーノルド閣下! し、しかし、いくら卿のお言葉といえど、私共といたしましては上官への確認を……」

「条約の改正はまだなされていません。おとどめする正当性がそもそも、我々にはないと申しているのですよ。わかったら早くなさい」


 一瞬の逡巡が見られたものの、衛兵たちが門の脇に整列しなおし、見送られながら進みが再開されました。

 財務官僚? 財務卿? のアーノルドさんの馬車もすでに出発しすれ違いますが、カーテンも閉められており中は見えませんでした。


「一度実体を解除しますね」


 姫の意識がないからか、それとも、魔力がそもそも枯渇しているからかはわかりませんが、チョーカー”不朽の束縛”の魔力は依然減る一方で、いよいよ残り30%、”実態顕現”の活動限界3時間を切ってしまっているのです。”幻影顕現”に切り替え、少しでも節約を試みます。


「承知いたしました」


 幽霊モードではなく、目に見える姿なので、馬車をすり抜けておいて行かれないように注意は必要ですが、彼女から見ればさほど状態は変わらないと思います。


 王都を囲む城壁を過ぎると、広大な緑の平原が、目の間に広がっていました。

 沈みゆく夕日に照らされ、うっすらと赤く一面に色づく様子は、こんな時でなければ、スクリーンショットがさぞはかどったことでしょう。

 ところどころのなだらかな丘陵に隠れる視界、緩やかに蛇行する中で見え隠れする、森。さらに遠くには、高くは雪をかぶった山脈の姿。どこまでも広がる雄大な風景。

 マップ限界とか、テクスチャーの限界とか、そういう概念はどうなっているのだろう。と、ゲーム内時間3週間を過ぎ、初めてまともに目にすることができた世界に驚嘆を隠せません。


「5時間ほど進みますと、隠れ潜むことができる家屋があります。そこで一度お体を休めていただき、その後先ほど申しました通り、ダンジョン”彷徨いの樹海”へ参ります」

「ありがとうございます。ちなみに、そこはどんな場所なんです?」


 さすがに緊張していたのでしょうか。王都がようやく小さく見えるようになったころ、少しだけ、雰囲気が柔らかくなったベリーヌさんと再び言葉を交わし始めます。


「元は、西のアレイスター王国、北のフェリシテ連邦、東のミドガ帝国の領域南部に広がる、途方もなく広大ながらも普通の森林地帯で、モンスターこそ無数に生息していましたが、3国それぞれの大きな収入源ともなっていました。しかし、ある頃を境に、深い霧が立ち込め、生態にも大きな変化がみられるようになった、といわれています。そうして徐々に変化が観測され始めさらに数十年。15年前に全域が一つのダンジョン領域へと変化したのです。以来、南部森林地帯の名称はダンジョン”彷徨いの樹海”と改訂され、依然大規模な各種資源獲得先ではあるものの、その深い領域へ立ち入る者は絶えて久しく。また、国家間の交通の経路からは外れることとなりました。これにより、アレイスター王国とミドガ帝国は実質的に国境を直接接することはなくなり、通常はフェリシテ連邦を介した流通に限定されています」


「なるほど。それで、第4王女様をお連れして逃げるなら、まずはミドガ帝国だと」


「その通りです。そもそも、両国間は長く軍事的緊張関係にありました。フェリシテ連邦がその間隙を縫い、領土を拡大。3国間紛争となるかというところで、連邦は両国との折衝の末、緩衝地帯の役を担う形となり、今に落ち着いています」


「ちなみに、”始まりの街”という場所はご存じですか?」


「”始まりの街”は、この大陸の祖先が現れたとされる地ですね。神話の世界のお話になります。その後幾度か、異なる世界の理に導かれた来訪者、旅人達が訪れる地とされています。地理的には、ミドガ帝国領土の北東の端に位置しています。東西に長く広がるミドガ帝国はその中央西寄り。大陸の中央近くに横たわる、”竜の背骨山脈地帯”でほぼ分断されています。これを超える東西の行き来は大変厳しく、ミドガ帝国北部の比較的標高も低く、環境が穏やかな領域に設けられた主要経路に、帝国東西連絡の動脈は限定されています。冒険者や特別な事情を抱えたものは山脈を超えて移動する場合もあるでしょうが……。ミドガ帝国はこのため、実質、西ミドガ帝国と東ミドガ帝国の2国から成り立っている。という見方をする向きもあります。帝都は東ミドガ帝国に位置しますが、他国との接点は西にあることから、西ミドガ帝国側を副帝都とみなし、外交はこちらが実質的な本拠となっているほどです」


 なるほど。何となく位置関係も分かってきてありがたいですが、大多数のプレイヤーと活動領域が交わるのはそこそこ先の事になりそうな気配がしますね? 来訪者、旅人が、私たちプレイヤーの事でしょう。


 んー私のことをどう説明するか、ですが、これも今は保留でいいですかね。

 って、そうですよ、第4王女様。意識のない間に”不朽の束縛”を装備させられるって、ドン引きなんですが!?


「ところで、第4王女様は大丈夫なのでしょうか……”不朽の束縛”も装備してしまわれましたよね……」


「はい。むしろ必要な措置でございました」


 躊躇なく断言されてしまいましたよ。


「今後、姫様をお任せすることとなります故、ナオ様にはお話しさせていただきます。が、そのためにも、姫様のステータスをご確認ください。眷属となられた今、ナオ様には見えるはずです」


 む、そういう仕様なのですか? メニューに目をやれば確かに、ステータスのところが、


<ステータス>

 - ”不朽の束縛” (封印体)

 - ”顕現体/表”

 - ”顕現体/裏”

 (眷属)

 - 1. ”名称未設定” (ヒューマン/女性)


 って、なっています。眷属の1行目に意識の焦点を合わせると第4王女様のステータス画面がピロン、と視界の中に。


 さっと大切そうなところだけ目を通してみれば……私の”不朽の束縛”のスキルがそのまま、強制的に習得されている以外に


 ============

 名前    :未設定(剥奪済)

 Lv:1 (魂流出一時停止/不死による保護発動中)

 称号:Lock:至上の供犠姫

 スキル

 Slot1 :☆8 Lock:統合:供犠姫 SLv.1

<供犠姫-内包スキル(一部抜粋)>

 ☆7 超速再生 SLv.7

 ※生命力(HP)/魔力(MP)回復力強化、欠損復元

 ☆6 生命供与/精神供与-制限:接触SLv.3

 ※接触によるHP/MPの譲渡

 ※皮膚接触必須。接触面積が広いほど、体内/粘膜等の直接接触である程、高効率

 ★8 感覚過剰増幅

 ★8 魂漏出

 ※Lv自動低下 / Lv1未満に低下した場合、魂消滅(死亡)

 ※誘引/魅了効果、自動発動

 ☆8 魔術属性:魂魄 強制習得


<ナオの”不朽の束縛”によって強制付与されたスキルの一部>

 Slot4 ☆8 Lock:アクセ5-装着者-老化停止 SLv.8

 Slot5 ☆8 Lock:アクセ5-装着者-不死 SLv.8

 ============


  と、表示がされています。












 ※※※※ 後書き:作者注釈を失礼します ※※※※

 第4話、第7話同様、ステータスについては、フレーバーとして、ご興味のおありになる方用に以下にご用意しました。

 必要な情報は本文でナオ達が会話しますので、付録/後書き程度にお考え下さい。

 今後もステータス系の表示は極力必要な情報部分のみ掲載し、章の終わりごとに、おまけ/付録として、詳細全般を掲載する形をとらせていただきます。

 ※※※※ 以上作者注釈でした ※※※※



 ###【眷属1. 名称未設定】###

 名前    :未設定(剥奪済)

 Lv:1 (魂流出一時停止/不死による保護発動中)


 種族:☆1 ヒューマン (ランク1)

 性別:女性

 年齢:18歳

 身長:146cm

 職業:元・アレイスター王国 第4王女

 称号:Lock:至上の供犠姫

 状態:ナオの眷属



<ステータス傾向値>

 HP:8 (-呪い5) =3

 MP:13 (+ヒューマン補正1)=14

 STR(筋力):8 (-呪い5) =3

 AGI(敏捷):8 (-呪い5) =3

 END(耐久):8 (-呪い5) =3

 DEX(器用):12 (-呪い5) =7

 INT(知力):14 (+ヒューマン補正1)=15

 MND(精神):14 (+ヒューマン補正1)=15

 CHR(魅力) :20 (+呪い/老化停止1 +超速再生2)=23

 LUK(幸運) :4


<スキル>

 Slot1 ☆8 Lock:統合:供犠姫 SLv.1

 Slot2 ★5 Lock:アクセ5-呪い:装着者-魔力吸収 SLv.8

 Slot3 ★8 Lock:アクセ5-呪い:装着者-身体虚弱 SLv.8

 Slot4 ☆8 Lock:アクセ5-装着者-老化停止 SLv.8

 Slot5 ☆8 Lock:アクセ5-装着者-不死 SLv.8

 Slot6 ☆3 魔力行使:魔術 SLv.5

 Slot7 ☆8 Lock:属性-魂魄 SLv.2

 Slot8 ☆2 歌唱 SLv.9

 Slot9 ☆2 舞踊 SLv.9

 Slot10 ☆4 中級鑑定 SLv.3


<装備>

 武器1、2 :空き(未装備)

 頭、上衣、下衣、腕、脚 :☆7 供犠姫のドレスセット

 アクセ1~4 :空き(未装備)

 アクセ5 :Lock:☆8”不朽の束縛”-魔術発動体


<種族-供犠姫>

 ☆7 超速再生 SLv.7

 ※生命力(HP)/魔力(MP)回復力強化、欠損復元

 ☆6 生命供与/精神供与-制限:接触SLv.3

 ※接触によるHP/MPの譲渡

 ※皮膚接触必須。接触面積が広いほど、体内/粘膜等の直接接触である程、高効率

 ☆5 第六感SLv.3

 ☆5 霊視SLv.3

 ☆6 精神保護(崩壊阻害) SLv.N/A

 ★8 感覚過剰増幅SLv.8

 ★8 魂漏出SLv.8

 ※Lv自動低下 / Lv1未満に低下した場合、魂消滅(死亡)

 ※誘引/魅了効果、自動発動

 ☆8 魔術属性:魂魄 強制習得


<控え称号(追加効果ありのみを記載)>

 ※ナオの眷属となる以前の称号は、現在の称号がLockされているため確認不能


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