123.5章-第17話 ”現実への準備 #3/3”
映し出されたのは、いくつかのグラフでした。
「さて、ここまでもですが、ここからはさらに機密性の高い情報となりますので、ご留意くださいね。VRMMOのみならず、Deus ex Machina Corp.全体としての収益構造について、世間でも疑問視されている事はご存じでしょう。Steps to Elysium Onlineを主軸としたプレイヤー皆さま、提携企業からの収益ももちろんありますが、当然現金化還元とバランスはとれていません。私共の本業、と申しますが主な収益の源泉はマナを活用した物質生成や、付随する技術にあります。政府や企業が発表する名目上の数字の裏で、例えば実体と乖離した都市鉱山からの資源再利用のように、隠れ蓑と申しますと言葉は悪いですが、マナの物質転換で生成した資源の販売。そもそものコスト要因をマナからの生成で直接賄う事による低コスト構造、マナ由来の人工生命の活用。等々。それゆえSteps to Elysium Onlineは合意したほぼ全世界での同時展開であったわけなのですが」
と、言葉を切り、画面を示す斎賀さん。
「私共の最重要の資源、源泉は、マナです。魂の活動で生み出されるマナを独占的に収集かつ、生産する事が何よりも優先課題となるわけです。自然からの過度の収奪はあまり望ましくない影響を世界に与える懸念があります。そこで、まず第1段階として、魂を生み出す存在の創出を計画しました。結論として現在この観点でもマナ収支は黒字となっているものの、ルナリスさんのような特殊な住民は別として、全体としての住民の魂の発展段階ではマナ効率は極めて低い。そこでVRMMOとして展開したSteps to Elysium Onlineです。元々マナ生成効率が群を抜いて高い人間、その感情の動きを誘発するVRMMO。戦闘も許容されているプレイヤーの生成するマナが一人当たりでは最大量、ただし、MCとしてマナの還元の比率ももっとも高い分、黒字にあたる1人当たりの差分比率が一番低いのもこのプレイヤー群になります。他方、1人当たりの生成マナ量は劣るものの、マナの還元がほぼ無いため、黒字比率が最も高いのは観光目的のプレイヤー群です。その中間にあたるのが、生産限定や、戦闘はNG設定ながらゲームとしての世界を楽しんでいるプレイヤー群になります。グラフのこちらに示す通り」
画面内の一つの棒グラフの1本が示され
「戦闘を例にとれば、あくまでここ1週間での平均値に基づくデータとして。ボスモンスター1体に関わる一連のプレイヤー行動の中で生み出される総合マナを100としますと……。Steps to Elysium Onlineの維持コストで15%、Deus ex Machina Corp.の総コスト相当の割り当てが35%、プレイヤーへの還元マナが30%。利益ともいえる余剰マナが20%創出される。このような構造となっております。コストはあくまですべての創出マナに対して、均等に割り当てた場合の計算値ではありますが」
「還元率がかなり高めなのですね。ただ、いただくくマナ量を現金で考えると、たった30%であの金額分とびっくりもしますが」
☆8禁忌級はさすがに例外としても、パーティーの”獲得マナ量(MC)”対”日本円”換算比率が等倍として、一般的な☆5のボスLv40で6万マナ、Lv100で15.5万マナ程度がプレイヤーはもらえます。
今回進化をして、ランクという指標が重要ともわかりました。実際はランクとレベルはほぼ連動しているので、例外的な存在以外はまあ、どちらで考えても良いのでしょう。
「そうですね、モチベーションという名の感情の動きの活性化、それすなはち、創出されるマナ効率を高める意味もあります。もちろんプレイヤーの平均ランクが上がるにつれ、格下の相手からの還元率は低下していく等、相応の仕組みは内包されていますので。今の還元マナ量は適正ランク、適正レベル帯のモンスターに対して、ですね」
「なるほど……確かにそうでなければ、それこそ青天井に報酬が膨れ上がりますものね」
「はい。まだそのあたりの検証はプレイヤーの皆様もランク3、Lv100以上に至ったかどうかという段階のため、私共も調整しながらではありますが。例えばそうですね、Lv200の熟達者が、Lv1のスライムの大群を薙ぎ払う。初めはそう快感から算出されるMCも増大するでしょうが、だんだん慣れてくれば感動も薄れ、産出MCが減少する。そうした傾向を踏まえ、還元MC量は調整されているわけです」
そこで話を区切り、また移り変わった画面。
今度映し出されたのは、幾つもの部屋のイメージ映像。
「少し話が変わりますが、お三方の肉体のご用意ができた後のお住まいについてです。皆様にはお願い事や必須事項として、定期的な各種検査への協力、恒常的な状態のモニタリング、住民移住に関わるご協力等が可能な環境に居住いただく必要があります。これに加え、私共からご提供するものとして例えば、安全性の確保、サポート体制のご提供、Steps to Elysium Onlineとの万全の接続環境等ご用意する所存です。その上でいくつか選択肢のご用意が可能です。今ご用意を予定していたのは、ここ、Deus ex Machina Corp.内の居住区間でした」
画像の中の1つ、広いけれども、かなりシンプルな、空間。窓も見当たりません。
「環境は万全。かつ、セキュリティーは群を抜いて最も堅牢なのですが……いかんせん娯楽も無ければ、居住性も良いとはいい難い。そこで、先ほどのお話とも繋がるのですが、私共が所有するいくつかの土地。そうした中にある高層マンションの内、都内の物件にワンフロアをお貸しする事が可能です。例えばこの部屋などいかがでしょう?」
そうして示されたのは、大変豪華なお部屋でした。
イタリア調のおしゃれな、黒と白のモノトーンを基調とした内装。
家具は艶出しの黒に猫脚や金属で、ガラスや鏡を多用。居心地の良さそうな黒い革製のソファー。足元には毛足の長いラグ。映っているのはリビングルームだけでしたが、きっと他のお部屋も素敵なのでしょう。
「ルナリスの周り、アレイスター王国やミドガ帝国ではあまり見ない様式で、なおかつこちらの世界でもお洒落というか一級品。とても良いと思いますが、2人はどうです?」
「落ち着く……雰囲気で、素敵……です。ベッドも相応に……大きいと思いますし。ソファーも……十分一緒に、横になれて気持ち……よさそうです」
ルナリスはそこが一番気になりますか
「ご安心ください、本日映像はご用意していませんがキングサイズが入っていますし、実際に入居いただく場合は諸々個別にご用意します」
との事。
「最高だと思います。現実でこれとなると……大変な金額だと思うのが心配と言えば心配ですが」
紗雪はこちらのネット上の情報にもアクセスできるのでしたね。
「実は2つ目のお話の主眼はまさにその部分にもありまして……還元率のご説明を先にしたのも、これに関わるのです」
と、少し言いづらそうなのは斎賀さんです。が、彼は続けて
「こちらのまるまるワンフロア。確保するところと、入居いただく場合の支援設備等の追加までは弊社グループ内の承認が得られたのです。元々、ここを含め幾いつかの物件は1棟丸ごと、Deus ex Machina Corp.のマナ技術を前提として建設し、周辺の土地ごと私共で占有していますので。セキュリティーの意味でも、信頼できる者のみが入居しております。また、こうした建造物で問題とされる維持管理に関しても、あくまで弊社で責任を持ち、居住者の皆様に委任いただいていますので、基本的に問題となりません。契約上も、契約更改に際してどうなされるかナオさんの判断はありますが、実質社内の人間と同等で問題ないと。ただ……費用面についてさすがに、満額は決済がおりませんで……。身体のご用意、その後の各設備や支援体制のご用意、維持までは、調査研究の一環も含めて予算が下りたのです。住居についても一定の割合まではと。そこで……大変申し訳ないのですが、マナ。つまるところ、MCを工面いただきたいとなってしまった次第でして」
「なるほど。それはさすがにそうですよね。ルナリスと紗雪と一緒に暮らす現実の拠点になるのですし、これだけの物件、かついろいろと難しい条件に適するとなると、見つける事も困難でしょう。私にできる事であれば、できる限りを尽くしたいです」
私一人であれば、Steps to Elysium Onlineにログインしてしまえば、お城暮らし。と、割り切って現実は最小限で済ませてしまうところです。それこそ初めに見せていただいた、この施設内のお部屋でも構わないくらい。ですが、2人と一緒ですからね。現実もできるだけ良い環境を揃えてあげたくなるというものです。
「ありがとうございます。お支払方法についてなのですが、そこで、先程のご説明がかかわって参ります。Steps to Elysium Online内部でシステム的に獲得されるMC。その内、コスト分を除く余剰マナとして弊社が通常いただいている20%。これもお支払いに充てる形の承認を取り付けてまいりました。動画での収益における同様の余剰マナ相当分も併せまして、新たに『標準のプレイヤー入手分で25億MCを獲得』いただくこと。が、お願いの内容になります。獲得されたMCそのものについては、ナオさん達のものであり、プイレイヤーへ還元されているMCからのお支払いはご不要です。」
額としてはものすごく大きいですね……アイテムの売買分抜きですと、今までのペースでもどれだけかかるか。
「期限については現実時間で来年の3月末まで。現実世界にルナリスさんの移住を果たした後、じっくりと、という事になります。なお、ご購入後の一般的な光熱費については、ナオさんとの契約が継続され、VRMMO世界内で活動をいただく限り、弊社で負担いたします。実体は今のお話の流れの通り、弊社へ還元されている分からお出しするという事ですね」
「いろいろとご配慮をいただき、本当にありがとうございます。25億MCの獲得、となると厳しくは感じますが、内部時間が4倍な事も考えれば十分行けるかと」
「承知いたしました。なお、プレイヤー間売買のオークションについては申し訳ないのですが、余剰マナ分の換算は対象外となりますのでご容赦願います。ただ、最終的にご無理と判断される場合、相当比率で計算し直接MCでのお支払いでもお受けするよう調整しますので、無理はなさらないでください」
「もちろんです」
プレイヤー間取引でも、感情は動くでしょう。特に出品者、落札者以外からも感情、魂の動きから生まれるマナもあるのでしょうね。ですが、ただでさえいろいろと配慮いただいているのです。細かなことに拘るような話ではないですね。と、言うか、獲得MCそのものは通常通りいただけるので、私達は何も失っていない。条件にもなっていないような条件なのですよね。
そうしていよいよ、後リアル半月弱で、ルナリスと紗雪との現実での生活が手に入る見込みとなったのでした。




