122.5章 - 第16話 ”現実への準備 #2/3”
そこでモニターが一度、何も映っていない黒い画面に切り替わり。
「さて。ちょうど大きなクエスト。特にルナリスさんを主軸とした動きがひと段落されたところ。この後のご予定はお決まりですか?」
それも昨夜3人で相談したのですよね。創造神の眷属さんにゲーム内で言われた変化は気になるものの、まずは今日に向けた主にルナリスへの情報の漏れがないかや補足、そして今後の予定について。何せ、私にとっては、それこそメインクエストであった、連続クエスト『供犠姫』が完了し。ルナリスが自由の身となったのですから。
「正直、少し目標を見失っています。ルナリスの立場が固まるまで、あまり大きな動きに乗ることは避けるべきではないかとも感じていまして」
「確かに、住民がこちらの世界に移住する。というケースは今回が初めてですからね。わたくしどもからも社会的地位をできれば得ないでいただきたいとお願いをしてしまっておりましたが、躊躇くださるるのは、正直助かります。一応、今の方針としましては、創造神様のもう一つの世界との行き来、その試行という方向で住民へも創造神様の神託として、告知する前提で調整は進んでいるのですが」
「その形が一番おさまりは良さそうですね。一つ候補としてあったのは、来訪者全体の動きでもある、聖国マリシアが中心となる別大陸を目指すという案もあったのですが……」
そこからはルナリスと紗雪が、補足を引き継いでくれました。
「聖国……は、同じ創造神様を、主神とあがめる国……ではありますが。あらゆる神、可能性を認める、広く公平……な創造神様の、教えを奉ずる、わたくしたちの創世聖教……と異なり。創造神様……ただ一柱のみ、を神と奉ずる、一神教。それも……過激な思想の勢力……が、中核を……しめています。邪神の……力はもちろん。ナオ……様……はじめ、いつか神に至る……可能性を秘めた、神翼種は……排斥の対象、と……なります」
ええ、そういうわけで、身の危険という意味でも、その大陸域はやめた方がいいという結論となったのです。
「それに聖国は派閥問わず、一夫一妻。かつ異性婚のみが認められる宗教観ですからね。私としては、ナオさんとルナリスさんが夫婦で、私は従者。とかでもいいとは言ったのですが」
「ダメに決まっているでしょう」
「だめ……です」
「と、こんな感じでして。いづれにせよ、ナオさんが両性具有とはいえ、外見女性にしか見えないので。同性愛とみなされて居心地が悪いでしょうから。やはり選択肢としてはないですね。例のPVP大会の時、お詫びの件で私が条件開放の選択肢にいれた、戦艦級の外洋航行艦や、大規模浮遊艦があれば他の大陸を目指す選択肢もありましたが。あのタイミングではまず選びませんよね」
確かにあのタイミングで、選択肢を調整してくれた紗雪が入れてくれていたのですよね。ただ、私は古代魔導人形の工房。ルナリスは、もふもふ目当てで卵を獲得したので、選びようがありませんでしたね。ルナリスと一緒にいるために、今の大陸でやるべきこともある時期でしたから。
「ですので、余剰経験リソースも進化に使ってしまいましたし、新しいスキルや連携に慣れるのも兼ねてレベリングを中心に。後は装備更新のための素材集めとレアドロップ狙いかな、と思っていました」
「なるほど。ではちょうど時期的にも良いかと思います。私共、Deus ex Machina Corp.から、課題を2つお出ししましょう。もちろんこれは強制でもありません。しかし、特に1つ目は、今後の世界を生きていかれるにおいて、重要である。そうなっていく。とは申せましょう」
「それはいったい……?」
意味深な斎賀さんの言いように、興味を引かれます。
と、そこでモニターの映像が切り替わり、斎賀さんの説明に合わせ、イメージが移り変わっていきます。
「皆さんは、神代魔法を会得され、魔術と魔法の違いには多少触れられましたね。魔術は、自身が保有する魔力、すなはちMPそのものを消費して現象を起こす技術。魔法は、自身のマナを呼び水として、環境の、世界のマナをも巻き込み、現象を起こす技術。そして先程お話したように私共は、マナを生じさせられる存在を”真に魂を有する者”、と定義しています」
そこで、いたずらな笑みを浮かべて見せる斎賀さん。袖を軽くまくり、何もないことを、それこそ手品師のように示し。
握られた右手を顔の前に掲げ、人差し指だけを立てると。
ふわり。ゆらゆらと揺らめく、炎でできた薔薇の花が一輪。その指先に咲いたではありませんか。
これにはルナリスよりも私が、はるかに大きな驚愕を覚えてしまいます。
実はここがまだ別の仮想空間で、現実ではないなんていう事はないですよね?
「ここは間違いなく、ナオさんの知る現実です。そして、プロジェクションマッピングや立体映像でもなければ、私が指先に何か装置を仕込んでいるわけでもありません。仕掛けがないといえば嘘になります。そのための準備等はいろいろとあります。が、世間一般における既知の技術ではありませんよ。これが、マナを用いた魔法です。もちろん火を起こすなら燃料、ライター等々を使えばいい。綺麗な幻像を創り出すならCGでも良い。ですが、これは間違いなく一つの技術。現代の人類が失った、あるいは、これから発見、開発されていく技術です」
「なんだかファンタジー世界に迷い込んだ気分なのですが……」
「そうですね。同じにしては怒られてしまいますが、科学的論拠に基づき、未発見粒子の探索、解明。例えばヒッグス粒子等、名前を聞いたことはありますよね。マナもまた、現代では失われた、未知の論理に基づく粒子あるいは波動、何でも構いません、そのような何かとお考え下さい。その性質はまさに我々が夢見る魔法。そしてその生み出す元となるのが、魂です。魂の活動、特に感情を励起される時、マナは多く生み出されます。我々が観測可能な範囲内で、地球上というのは実は宇宙全体で見ても、最もマナの濃度が高い世界です。人間に限らず魂を持つ存在。動物などの生物、想いが多く込められた無機物すらも、マナを生み出しているためです」
一度言葉を区切る斎賀さん。内容の理解が進むのを待つように間をあけ。
「Steps to Elysium Onlineにおける魔術。あれは魔法を元に、マナを用いず、ゲーム内の世界に限定して再現した模倣。それこそCGのような物こそが、魔術なのです。現実も含めた真実の実態は魔法であり、マナを活用した術理です。現代の人類はマナの活用方法も、知覚方法も失っています。そのまずは感覚器官を魂の中に励起させる。その訓練として最適なのが、Steps to Elysium Online内での魔法の習得と訓練です。神代魔法の適性、あれはスキル結晶さえあれば誰でも習得できるスキルでは、ありません。魂にその備えができた方に初めて、習得が可能なスキルなのです。つまりナオさん。そして、お二方はその準備が魂にできているのですよ。当然、魂とは、Steps to Elysium Onlineの中に限定されたものではありません。むしろそれこそ、現実における皆様の実態です。現実の魂の変容、準備が整ったからこそ、神代魔法適正を獲得できた。が正しい因果関係の説明です」
あまりに荒唐無稽な話に飛躍し戸惑う私をよそに、ルナリスはむしろそれこそが常識の世界で育った存在ゆえに、魔術と魔法の違いというハードルは感じつつも、当然のこととして受け入れていますね。紗雪も知識としては一定のレベルまでは開示されていたのでしょう、理解を深めてこそいそうではあるものの、戸惑いは感じられません。
「つまり、簡単にまとめてしまうと。Steps to Elysium Onlineの中で、魔術を通じてマナの感知や、術理というものに親しむ。続いて、魔術の法則や体感した感覚を元に、魔法を行使できるようになる。その時点で魂がマナの感知の仕方、使い方に習熟する。ある意味それは魂の変容です。その次の段階はさらなる飛躍があり、実際はもっと細かく間の段階を経ますが、現実でもいづれマナを扱う、魔法が使えるようになる。という事なのです。お三方に関してはその細かな間の段階を、私達が肉体をご用意する段階でかなり、スキップして差し上げるつもりです。と、いうわけで」
先ほどまで様々なイメージを映し出していた画面が切り替わり、1枚のスライドが表示されます。
そこには、”魔法習得への道筋”の文字と、項目が。
「1つ、マナの視認と知覚。これは神代魔法を使う工程で基礎の理解はすでにできていますね。邪神ヨグ=ソトースの空間で、クロウロード王が領域を展開して見せた時にも感じ取れていたでしょう?」
「はい。あの感覚がそうであれば」
「繰り返していく事でここは習熟し、魂の中で知覚野の励起も進むでしょう。次に2つ目、マナへの干渉。今はまだここが十分にできていません。神代魔法はいわば、魔法の大規模展開、儀式魔法のようなものです。そのため領域の規定等、魔法の行使その物にあたって特別な手順も必要です。システムが疑似的に再現している魔術。これを、マナで直接行使する事。これを目標にまずは、魔術行使の際に魂が生み出すマナをその原動力に混ぜ込むことを意識してみてください。やり方は、紗雪さんが同化した”ナコト写本”の中の知識に記載があります」
「では、私がサポートする感じですね。私自身練習しないといけませんが」
紗雪が張り切った声で、宣言してくれます。
「ええ、それが良いでしょう。まさに、魔導書の本懐でもあります。Steps to Elysium Online内でのレベル上げなどにいそしまれるのであれば、それと並行して意識的にこの練習をなさるとよいでしょう。ご用意する身体の調整もはかどります」
投影された資料では、さらに後続にも幾つものステップが記載されていますが、今はまずそこまでを完璧に。という事なのでしょう。ちなみに、特別な身体の用意でスキップされる、”細かい間の段階”と表現された中には、マナ回路の形成とか、マナ貯蔵器官の活性とか、もうオカルトとしか思えない項目がたくさん並んでいるのですが……。
「では最後でもありますが、2つ目です。これは正直、お願いという側面も強いのですが……」
と、そこで再度切り替わる画面。




