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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第1部 - 第5章

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113/201

110.5章-第4話 ”クロウリード王 #1/3”

 その後も淡々と、走馬灯のように、場面は移り変わっていった。

 クロウリードの登場。その姿はあの、身体を乗っ取る前に見た通りの、腐乱死体一歩手前のありさまだった。

 黒い兵たちに押さえつけられ、塔の地下へと連れ去られるルナリス。

 祭壇の上に横たえられる彼女の横を、黒い兵士にかつがれ、ぐったりとしたルゥがクロウリードに、地下深くへ続く階段の奥へと連れ去られる。

 階段から姿を現すクロウリード。後を追うように、あふれ出す肉触手の群れ。

 始まるルナリスへの暴虐と凌辱。


 再度場面が切り替わった後は、私が思わず赤面して逃げ出したくなるほど、まっすぐな私への愛情と思慕に満ち溢れていました。


 伝わってくる無数の、ルナリスの想いの記憶。

 救いの天使様。身を引き裂かれ、それでもなお、再び救いに現れてくれた。

 遠い幼き日、亡き母に抱きしめられて以来、初めての他人の純粋なぬくもり。腕の中に抱きしめられた初めての経験。

 王子たちに教え込まれた理想の都合の良い女性像。それに縋ってでも、離れたくない、嫌われたくない。そんな自分のあざとさ、汚らわしさに嫌悪がわく。

 王子たちに教え込まれた英雄を待ち望む姫の姿、醜く穢れたものと思っていたその情景。ああ、いざ自分の身に、現実となった今、何と幸福な事なのか。


 月明かりの元、ふしだらな自分を受け入れ、溶けあうように蕩けあった。生涯離れないと魂に誓った。

 思い出を秘めた名を、長年失っていた名を、戴いた。生涯の宝物。

 唯一純粋に自分を慕ってくれた人達がもういないと知った悲しみ。そっとその心の穴を埋めてくれる愛おしい人。


 そして……その気持ちは1点の曇りも、1点の陰りすらもなく。

 今この瞬間まで、続いていることを切々と、伝えてくれる銀の姫の記憶。


 ルナリスの深淵に呑まれた魂が、心が、それでも。誤解されたくない、貴女の心だけは、失いたくない。

 ただ、それだけを乞い、願う。


 大丈夫。勝手に誤解して、勝手に絶望して、ごめんなさい。

 弱い私を叱ってください。

 でも、もう大丈夫。わかりましたよ。


 ええ、きちんと理解できました。

 月の世界での、私が悲嘆と絶望に堕ちた、ルナリスとクロウリード王の一幕。

 あれは全て、邪神ナイアルラトテプの茶番劇であったと。私の心を押しつぶすための、狂言劇であったと。

 巧妙に真実を一滴混ぜながらも、登場人物たちの主体を、心の在り様を、事象をずらし。偽り、組み立てられた作り話であったと。

 ええ、理解しましたとも。


 たまらない怒りが湧き出す。

 ふがいない自分への怒り。

 ルナリスを信じる。ただそれだけのことでよかったのに。自分の弱さ、心の醜さに引きずられ。捨てられた、失ったと勝手に錯覚した。信じ込んだ。


 システム/創造神からの通知や、エンゲージメントスキルの凍結等の裏付けがあった……それ故に、ルナリスから縁を切られた。そう思い込んでいた部分はあります。

 が、それとて、よくよく思い起こせばあの時のシステムアナウンスは、”結ばれし先を、確認することができません”、 “パーティー状態を維持することができません”、”眷属ルナリスの存在が確認できません“。と、ヒントはあったのでしょう。

 ええ……いくらなんでも、あの精神状態の中で、そこまで想像できないですよ。と、泣き言は言いたいですが……。

 結果的に見れば、ルナリスを連れ去られ、どこか。それこそクロウリード王にしかアクセスできない邪神関連の領域とか、神器を使ったとか、邪神ナイアルラトテプの介入とか。何か理由があったのでしょうけれど……。



 今にも最後の一欠けらまで、完全に閉ざされようとしているルナリスの心。

 共有された感覚にはなにも映し出されておらず、痛みすら喪失されている。

 全てが失われ、すべてを閉ざした空虚の中に沈み果てようとしているルナリス。

 だからこそ、大丈夫だよって、手を差し伸べて、抱きしめてあげに行かないと。


「ね、紗雪」

「そうですね、ナオさん」


 ずっと、心配そうに、自分の事のように全てを一緒に感じていた、今や魂を宿す最愛の片割れ。

 この時間も空間も歪み切った世界の中で、確かに繋がっている今だからこそ。


 “依依恋恋たる抱擁 - 一日千秋”


 銀の姫を今度こそ救いに。





 神殿をそのまま一つ呑み込んだような広大な空間。

 私達が召喚された先は、案の定、肉の触手で埋め尽くされた空間でした。

 しかし、事前に警戒した予測と異なり、空中に浮く私と紗雪に触手たちが群がってくるようなことはなく。

 触手の群れに半ば呑み込まれた、碧い髪の女性、ルゥにひたすら群がり続けている事。

 そして、彼女の腹部が大きく、膨らんでいる事。

 目がおかしくなりそうな、空間の虹色も緩和され。ただ、甘ったるい匂いに満たされているばかり。


「よもや時空を映す瞳もなく、我が父へと通ずるこの儀式場へとたどり着けるとはな」

 魔導書ネクロノミコンを片手に、見下ろすようにわずかに浮かぶクロウリード王。


「ルナリスを、そしてルゥも、返して」

「それはできぬ。先王が愚かにもたがえた我が父なる神ヨグ=ソトースとの約定を果たすには、至上の供犠姫の魂の最後の一滴を捧げねばならぬ。その時ようやく、父なる神への道が開かれるのだ」

「ルナリスを封じ込めた心臓を与えたルゥの命が、その最後の一滴になるっていうんでしょ」

「しかり。本来であれば何の問題もなかったのだ。至上の供犠姫は時空眼を宿し、その魂を全て神ヨグ=ソトースへ捧げる。我がその瞳を宿し、拝謁する。星辰がそろったこの時、あるがままに、そのようになるはずであった」

 淡々と、語る彼。


 実際、そうだったのでしょう。過去の記憶を見たルナリスにあったのは、底なしの諦め。父も、兄弟も、皆が狂っていく。自分の存在そのものが、あるべき未来へと雁字搦めに縛られてしまっている。それを破るすべも無い。わずかな抵抗とばかりに、背徳的な欲望を抱く父に頼み、師をつけてもらい舞刀術を習うも、それでどうにかなるような運命でもない。


「それを邪魔したのが、邪神ヨグ=ソトースとの約定を反故にして、ルナリスを自分のものにしようとした先王。そして、貴方が軌道に乗せなおした儀式を最後の最後で邪魔して、ルナリスをかっさらっていった私。というわけですね」

「その通りだ」

 素直に認める彼。思えば、私に嘘を教え、虚構の姿で芝居を演じていたのは、全て邪神ナイアルラトテプでしたね。ティンダロスの猟犬、あの黒い狗をけしかけてひどい目にあわされたりはしたけれど……。


「貴様自体は、我にとって何ら関心の対象ではない」

 まるで心を見透かしたように、告げてくるクロウリード王。

 いぶかしげに彼を見れば。


「”至上の供犠姫”を捧げる儀の妨害。その決め手となったのは確かに貴様であろう。だが、貴様がいなかろうと、儀式は穢されていた。第四王女を守護することを望んだわずかな者達によってな。歪んだ儀式が完遂されるくらいであれば。貴様の介入により時空眼に至った第四王女の方が、はるかに価値があった。結果論ではあるがな」

 自嘲気味に付け加える彼。


 アルフレドさんや、メイドのベリーヌさん、マリーナさん、それに結局姿を見る事が叶わなかった、ルナリスに最後まで忠義を尽くしてくれた方達。私の存在をアルフレドさんが感知して、作戦を変えたといっていましたが、何か妨害の手段を他にも用意していたのでしょうね。ただ、歪んだ儀式という事はルナリスにとっても、決して最良の結果になるものではなかったのでしょう。

 それで急遽、私の存在を前提とした作戦へ切り替えた。


「だが。事ここに至っては、貴様をただ見逃すだけというわけにも、ゆかぬか」

 これまで、自らが直接手を下すようなそぶりのなかった、クロウリード王が。金髪の美貌に更なる覇気をみなぎらせ、鋭い眼光で私と紗雪を射抜きます。


「悔いと共に、ひと時沈むが良い」


 かすかな喘ぎを漏らしながら、虚ろな瞳でこちらを見る、肉の触手に嬲られるルゥが見つめる中。

 偽のドリームランドでは、私を恐怖で縛り付けた、美の化身が如きクロウリード王との直接対決の幕が切って落とされるのでした。


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