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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第1部 - 第4章

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105.4章-第21話 ”王国終焉の始まり”

 男が見上げる。美の化身と言われて誰も疑わないであろう、美しい男が。

 天から急降下する黒髪。黒い翼、黒いヘイローの乙女を見上げる。

 私にははっきりと見えた。その、美貌の中から、射抜くようにこちらを見据える、


 “虹色の輝きを秘めた、蒼銀色の、美しい瞳“


 その神秘的な瞳を認識した途端、頭が沸騰した。心が燃え上がった。

「貴様が……貴様に、その瞳は!!」


 訳が分からないままに、口から絶叫が迸った。

 いつの間にか手に、巨大な、ファンタジーでしかありえない禍々しい漆黒のハルバードが握られていた。

 身体を、灰白色の炎が覆う。炎なのに冷たい。極寒を、絶対零度を、振りまく凍れる炎。

 漆黒に染まった一帯から、漆黒の扉から、あの男から! 放射される邪悪で神聖な気配にも負けず劣らず。

 一つの極致たる邪気を放つ、凍れる炎が、灰白色の揺らめきを黒き乙女に纏わせる。


 訳も分からず、男にハルバードを全力で叩きつけていました。

 避けるそぶりも見せない男の顔面に直撃……いえ、その寸前の空中に止められた、圧倒的な暴力。

 男の顔面を叩き割るまで後1センチ、というところで縫い留められたハルバードの斧部から、灰白色の凍れる炎が咲き乱れる。

 後ろでイア、イア、叫んでいる群衆ごと、一帯をなめ尽くす灰白色の炎。

 王城前広場の全てが、凍り付いた。

 しかし……目の前の男を先端とした広い扇形の空間は何事もなかったかのように、凍れる炎の燎原の影響の外。


「まったく。我が信徒どもを氷漬けにするとは。相変わらず目障りな羽虫だ」

「あんたが誰か知らない。でも、その瞳、それは、お前に在っていい物では、ナイ!!」


 私の言葉に、その勢いなどどこ吹く風と、微動だにしない男が、微かに眉をしかめる。

「知らない?……余をたばかって……おるわけではないな。ナイアルラトテプ、貴様何をした?」


 カソックを着た、全身が真っ黒な男が現れる。

 邪気に染まった神官が、口を真っ赤な亀裂のような笑みに開き。

「実に美味なる破滅でしたよ。心が壊れる甘美な絶望。まさに甘露。味わい尽くさせていただきましたとも」

「また貴様の戯れか。まあ良い。邪魔だ」


 手を動かしたわけでもないのに、上空へ撥ね飛ばされる私。

 身体の力が全然入らない……魔力が枯渇しているんだと、なぜか頭が理解する。


「忌々しき炎を宿した白き姿は封じた。心は砕けた。魂は罅割れ。記憶すら自ら封じ。あぁ……あぁ……なんと無様、なんと惨め。それこそヒトに相応しき姿! しかし絶望の淵に堕ちてなお、ここに姿を現すとは。意外でしたね?」

 漆黒の男が、語り掛けてくる。


 ズドン

 おなかに響く重低音。紗雪が放った対物狙撃銃の魔力弾体が、漆黒の頭の脳天に突き刺さる。


 ぐしゃり

 潰れる男の頭


「おやおや、乱暴なことです」

 それなのに響き続ける声。


「ひいてください」

 後ろからつかまれて、引っ張られる。紗雪が黒白2色の翼を広げ、魔力飛行を全開にし、私を後ろに引っ張る。

「ま、まだルゥちゃんが」

「あれらがそろっていては、無理です」


 そんな私達にもはや興味はないとばかりに、凍り付いた広場を見据え、金髪の男が禍々しい1冊の本を、虚空から取り出す。


「不純物が混ざりはしたが、問題はない。ネクロノミコンよ、我を補佐せよ、我に知識を捧げよ」

 空間が、世界が、さらに変質を始める。


「銀の鍵は、今、ここに顕現せり」

 男が胸の中央に手を当てる。ゆっくりと引き抜かれる手に現れる、”銀の鍵”。

 男の身体を引き裂くように、亀裂を広げながら、ぬらりと引き抜かれる。

 男の血に濡れた、1本の鍵。


【エリアアナウンス:禁忌級アイテム ”☆8 銀の鍵” が顕現しました】


 呼応するように、巨大な扉が、ほんの薄っすらと、開き始める。

 わずかな隙間からあふれ出す、膨大な邪気に、翼が引きつり、身体が制御を失いかける。

 生命が、魔力が、正気が、吸い込まれていく感覚。


 広場ごと住民たちを戒めていた氷が霧消する。

 何事もなかったかのように再び響き始める


 Ia! Ia! Yog-Sothoth!

 Ia! Ia! Yog-Sothoth!

 Ia! Ia! Yog-Sothoth!


 の大合唱。


「今ここに、祭壇を成す。この国に生を受け、祝福を授けられし、全ての者よ。捧げよ!」

 虹色に輝く銀の瞳が強く輝く。そのみつめる先、虚空に突き立てられる銀の鍵。

 とたん、扉の隙間の比ではない勢いで、吸い込まれる。

 もはや飛んでいることもできず、同じく制御を失った紗雪ともども地面へと落下する。


 地上はもっと悲惨でした……。

 人々が……大合唱を続けていた、人々が……もはや生きている方がおかしいくらい、互いに密集していた人々が……いえ、すでに屍喰鬼と化しているのでしたね……。

 小さな爆弾のように次々弾けて、血と、骨と、脳漿と……その身体を構成する全てをまき散らし。

 その全てが、漆黒の靄へと変じ。

 そうして生まれた膨大な靄が、命とマナのスープであるところの靄が……銀の鍵の差し込まれて生じた小さな亀裂に、吸い込まれていきました。


 その靄は王城広場どころか、壁の外。

 いえ、王都中、そして、王都の高い外壁の上を乗り越え、王都の外からも、猛烈な勢い、濁流となって集まってきているではありませんか。


 まるで、いえ、きっとそうなのだと、確信できてしまいました。

 この黒い結界でおおわれた暗黒の世界。アレイスター王国、その全てから、命とマナのスープとなった全ての存在が吸い込まれているのだと。

 そしてそれは、私と紗雪も例外ではなくて。

 2人の身体の端が黒い靄になり始めている。どんどん力が抜けて、崩れ落ちた体を支えるのもやっとになってきて。


「ナオ様!紗雪様!」

 先ほどまでは確かにいなかったはずのサフィーロの声。

 ゴシックドレス風メイド服に身を包んだ、他の副統括の子達よりもなお幼い、淡い金髪、黒い翼の少女人形。


「“戦闘メイドの極み”、なの!」

 覚えています。主人の元へと、転移を可能とする、特別なスキル。

 このスキルを手に入れたのは。あれは……あれは……パーティー。そう、パーティーをしていました。お祝いで、箱をたくさんたくさん開いて。紗雪もいて、それに……誰か……少女人形達とは違う、誰か……。


「今度こそ。あの偽物の夢の世界、時が止められたあの世界では、届かなかったの。でも、今は、ご主人様に元に届いた、なの!」

「なにを!?」


「“☆7-戦闘メイドの極み“。ご主人様達のスキルをお借りする、なの! 足りない分は、手伝って、なの」

「はい、です」 「はい」

 サフィーロに手をつながれ、一緒に現れていた、2人のゴシックドレス調のメイド姿二人。


「ナオ様ぁ♡ 大丈夫。私達はちょっと退場するだけ、なの。いつものお城で、待ってる、なの♪ ルナリス様を連れて、帰ってきてください、なの。待っています、なの」

 サファイアの瞳でじっと見つめて、朗らかにほほ笑むサフィーロ。ことさら明るく告げられ。


「こんな事もあろうかと! 戦闘メイドはいつでもご主人様の傍に侍り、備えるのみ! なの」

 メイド少女人形の一人が光の粒子となって消える。

「写し-依依恋恋たる抱擁-海誓山盟……なの」

 メイド人形少女がまた一人、光の粒子となって消える。

 2人の存在、その全てのリソースがセフィーロを包み込む、まばゆい神聖な輝きとなる。

 それは、私と紗雪の、エンゲージメントスキル。神代魔法を記録し、再演する、絆のスキル。

 今の私には……戦えない私には……戦えないと自らを縛っていた私には、行使できない、神の階をのぼるスキル。


「私のレベルも捧げるの。再演-神代魔法-護法抱擁、なの!」

 満面の笑みを浮かべたまま、サフィーロがその姿を光に溶かす。

 温かな五角形が私たち2人を優しく包み込む。

 安定をもたらす護法の結界が、私たちを守り、癒す。

 銀の鍵に開かれた亀裂への、扉への、存在の吸収から守り、抱擁してくれている。

 可愛らしいメイド姿の人形少女、副統括の彼女への感謝を胸に……そして、その想いもまた、呼び水となる。


 安寧をもたらす護法の結界が、ほんの僅か、絶望のあまりの大きさに、閉ざしていた記憶を開いてくれる。

 あまりにわずかな記憶の欠片。


 でも。

 私は戦える。その事実を思い出した。この黒い翼の身には力がある。

 顔もまだ思い出せない、でも名前は、愛おしいという記録とともに、思い出した。

 ルナリス……私を捨ててしまった、ルナリス。私が記憶を閉ざす寸前の事を、思い出した。


 でも!

 だからって、私がルナリスをあきらめる理由には、ならないでしょう!?

 捨てられた。絆の証すら、消えた。絶望はあまりに深かった。魂の傷はあまりに大きかった。


 でも!!

 それでも、もう一度彼女ときちんと話すまで、諦めてやるもんか。

 いらない、って言われても、もう一度だけ、あがかせてよ!

 その為のきっかけは、もう一人の最愛が。私を陰からいつでも支えてくれていた彼女が!



「忌々しい。しぶといですね」

 漆黒の神父の姿をした、邪神がこちらを睨む。

 邪神ナイアルラトテプ。


「真なるマナを生み出しうる魂、その輝きを甘く見るからだ。我は手を離せぬ。任せる」

 クロウリード王が、言い捨てる。彼の手は銀の鍵に添えられたまま。

 胸の亀裂もそのままに、アレイスター王国中から集う命とマナのスープたる靄を捧げ続ける。

 少しづつ、だが確実に、巨大な扉が開き始めている。


「その結界が途切れた時が、あなた方の最後ですよ」

「邪神が人の王の使いっぱしりですか? いいご身分ですね。さすが、邪神達の下働き」

 紗雪が、不敵な笑みを浮かべ、挑発の言葉を駆けます。


「愚かしい」

「え? だって事実でしょう? 原初の魔導書の知識を甘く見ないでくださいます~?」

「人形風情が……! そうか、その気配、貴様、原初のナコト写本を取り込んだか!」

「今頃気が付いたのです? やっぱり節穴ですね。しかも今の私はただの人形じゃありませんから。ナオさんの愛で、確かな魂を宿したのですからね」

「禁忌の生命……。馬鹿な、紛い物が、真なる魂を宿しただと?」


 ええ、愛の力です。って言いきっていいのですよね?

 エンゲージメントスキルは魂の絆が生み出すもの。ナビAIにも、魔導人形にも決して生じるはずのなかった、魂の存在と、つながりの証。

 あぁ、温かな気持ちが、紗雪との絆が、確かに感じられる。

 私との繋がりで、至った”☆8 禁忌魔導人形”そして、その証を声高に主張するスキル”禁忌魔導生命/AI”。

 世界が、神が、禁忌と糾弾しようとも、彼女は確かに私と共に歩む、一つの魂。


「ふふ、ふふふ、よもやそのようなモノに至るとは。面白い! 面白い!!」

 黒い天蓋に包まれたアレイスター王国の空へ振り上げられる、邪神の両手。

 その顔が、全身が、闇色に染まる。三つの縦に朱い瞳が開く。

 混沌の顕現。無貌の神が今、その欠片をこの地にしろしめす。


 【エリアアナウンス:“☆8 禁忌級 断章:ナイアルラトテプの断片”が出現しました】


 ==============

 種族邪霊

 ランク☆8 禁忌級

 名前断章:ナイアルラトテプの断片

 レベル??

 ==============


 それを黒く覆い尽くす、無数の忌まわしき怪物たちが空から降り来る。

 ナイアルラトテプの眷属達。シャンタク鳥が、忌まわしき狩人が、群れを成し、護法に護られた矮小な存在を、守りが解けるその時こそ、喰らい尽くさんと迫り来る。

 絶望的なまでの、一面の暴力。


 私ばっかり怖がって、殻に閉じこもっている場合じゃない……ですよね。


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