103.4章-第19話 ”海のように深い碧色の髪と瞳の少女 #2/2”
「城壁の偵察結果は黒、なの。黒い兵士を生み出す宝珠で間違いない、なの。あれの製造場所の一つが分かった、なの。商業区の魔導工房、なの。原材料が手に入らなくなった、って言っていた、なの。ドリームランド産の白い石に、別の工房で加工をしていたらしい、なの」
「つまりあの偽物のドリームランドで採掘した特殊な石を加工していた、という事ですか。下り階段の外や、あの裏の世界にも大量に集積されていましたね。辺境伯の方の依頼には一応結論として、この件は報告できそうですね」
「ルナリス様の消息は、つかめない、なの。ごめんなさい、なの」
「いえ、無理がある事はわかっていますから。サフィーロ達は、応援も増やせない中、本当によくやってくれていますよ、ありがとういございます」
「紗雪様、今日も引き続きルナリス様の捜索でいいですか、なの」
「それと並行して一つだけ。ルゥという少女を調べていただけますか」
「昨日一緒にいた子、なの」
「はい」
「わかりました、なの」
紗雪は過保護だなぁ……一緒に抱き合って眠った温もりが、今朝もなくなっていて。こっそり聞き耳を立ててしまっていました。
ルゥちゃんは悪い子じゃないよぅ?
それにまた、ルナリス……様? 知らないはず。でも、私が知らない人をこの子達が知っている……? あまりのリアリティーに忘れそうになるけれど、ここはゲームの中だもん。ちょっと違和感があるよね。
頭が痛い……吐きそう……視界がぐるぐる……だめ、だめだこれ
「紗雪……たす……けて」
「ナオさん!?」
慌てて文字通り部屋の中を”飛んで”来てくれる紗雪。翡翠の瞳がじっと私を見つめて。
「調子が悪いんですね? 熱は……ありませんね……バイタル……すごい心拍。魔術的な処置は……ナコト写本の知識領域へアクセス、意識下に展開……感知できる範囲は異常なし。魔眼でもないとこれ以上の深層域は……」
慌てすぎた紗雪が言葉を漏らしながら私の検診をしてくれる中に
魔眼
……魔眼
虹色に輝く、蒼銀色
見上げる瞳、情愛のこもった瞳……。
……冷たく私を見下ろし……ううん、目線すら私にはくれず。
他の誰か、金髪の誰かに注がれる、熱いまなざし
脳が爆発してしまいそうな、激烈な頭痛。吐き気。
視界が暗転した。
「ナオお姉ちゃん大丈夫?」
「今はとにかく安静にしてもらっています。冷たい水と氷、ありがとうございました」
「いいんだよぅ~それより心配だねぇ。ナオお姉ちゃんは何かを抱え込みすぎじゃないかな? かなかな?」
「それは……」
「むぅ、私は仲間外れ? って、それはそうか~」
ひそひそ声の会話が、聞こえてくる。
「ナオさん、目が覚めましたか?」
額に冷たい布と……氷かな? が、あてられてる。
翼があるから、真上を向いて眠れない私を気遣って、柔らかい感触の無数の糸で位置を固定された、即席の氷嚢。
「紗雪~ありがとう。この氷嚢、紗雪の鋼糸で編んでくれたんだね」
「はい。ですが綺麗な冷たい水と氷は」
「うふふ~私、私。私だよ~ナオお姉ちゃん」
スケスケの碧いドレスを着たルゥちゃんが、ひょこっと顔を出します。
って、え、そのドレス、見えちゃいけないところがギリギリ隠れ……るどことかほとんど露出されていて、見えても問題ないところばっかりが布で覆われて。
あ、しかもその布も、滅茶苦茶スケスケで軽い生地を、重ねに重ねているだけじゃないですか。
部屋のランプの光が透けて、細い腕や太ももが、丸見え……!
「ナオお姉ちゃん、目がえっちぃ。でも、いいよ? “貴女が私に溺れたいなら”。ねぇ、私はいつでも歓迎してあげるの。ほら。楽に、なりましょうよ?」
急に妖艶な表情に、蠱惑的な声で囁きかけてくるルゥちゃん、甘い吐息が耳をくすぐって……。
「ルゥさん、感謝はしていますが、それとこれとは別です。離れてください。後やっぱりそのドレスはおかしいです」
「むぅ、いけず。あ、このドレスね?」
ひらりと、その場で一回転した彼女の身体から舞い上がる、薄布を重ねた扇情的なのに、なぜか清楚さと神聖さを感じるドレス。
「これはね。供犠姫の装束。……の、レプリカ……うん、レプリカなんだ」
「供犠……姫……」
落ち着いていた頭痛が、吐き気が、さっきよりもひどい。頭をガンガン打ち鳴らされる。
手が、震える。ぷるぷる、ぷるぷる、意識しても、止められない。
心臓が飛び出しそうなくらいズキンズキン脈打って……ダメ。また視界が回って
「ナオお姉ちゃん、大丈夫? やっぱり辛そうだよ、無理はダメだよ? ねえ、楽に……なろうよぅ」
「ルゥさん、どいてください。光系統の回復魔法はナオさん任せだったのが悔やまれますね。悠久の楽園と繋げられさえすればあの子たちに……」
必死の形相でのぞき込む紗雪に、また、甘い吐息を感じさせるルゥちゃん。
でも彼女たちの言葉を聞いている余裕もなくて。
「まあ、いっかぁ。痛いの痛いの、怖いの怖いの、嫌なの全部……。深き海が抱き、沈め、癒しましょう」
水の気配が膨れ上がる。深い、深い、海の底に沈んでいくように。
ちかちかしだしていた視界が、落ち着いた、碧い海の色に閉ざされていく。
痛みが、沈んでいく。胸の痛みが、静まっていく。
「うん、顔色も戻ったね。どう? 私の海魔法は♪ 治療だってできちゃうのは、天才なんだから!」
「ルゥさん、ありがとうございます。水系統の上位魔術ですね」
「そうだよ! しかも特殊な上位属性。精神治療だってできちゃう、ね。でも、今日はお出かけするには、辛そうだね。ね、お部屋の中でできる遊び、しようよ! 昨日の美味しいお料理も食べたいな」
「そう……ですね。ナオさんの気晴らしにもなるでしょうし」
紗雪も賛同してくれていますし、そういうのもいいですね。
現実側のゲームとかも、確か住民と遊べるようにできましたよね。
ボードゲームにカードゲーム。アナログだけじゃなくて、提携しているタイトルは、デジタルゲームも、課金でこちらに取り寄せられるのです。
いいでしょう、紗雪とのおうちデート&お友達になってくれたルぅちゃんと遊ぶためなら、じゃんじゃん課金で買っちゃいますよ!MCも300万位あったから、それくらい余裕です。
サフィーロ達も……と思ったけれど、今日もいませんね。
って、今見たら、動画配信報酬? とかいうのがたった1日で、1,000万くらいたまってる。紗雪がやってくれてるのですよね? 確か。こんなにもらえるの? って、あれ。私いつ動画なんて……でも紗雪とその話をした覚えはあるし……。
戦闘NG設定プレイで、生産職ですらない私の動画で、こんな金額がもらえるものなの……?
それに、インベントリにすでにいくつも、現実側のゲーム類が……いつ遊んだっけ。
楽しい時間は過ぎるのもあっという間で。すっかり夜になってしまいました。
ゲームはどれも紗雪とルゥちゃんが接戦で、大体私は1位か3位の両極端。
2人の掛け合いを見ているがむしろ、楽しかったです。
「ルゥちゃん、おうちの人が心配しない? 送って行こうか?」
「んーこの国は最近、いつもこんな暗さだし、別に心配とかないよ。それよりも、今日は泊まっていきたいな。ね、いいでしょう?」
「そう、だね、うん。今日はお泊り会にしよう」
紗雪はやっぱり、迷うようなそぶりを見せていましたが、最終的には
「仕方が無いですね、じゃあ私はホテル側に1人追加を伝えてきますから」
「あ……そっか、宿泊料金、足さないとだよね。紗雪、ありがとう」
その後のパジャマパーティー。3人でネグリジェに着替えてワイワイするのも楽しくて。
私の予備のネグリジェを貸してあげたら、ルゥちゃんがすごく喜んでくれていました。
ちょっと鼻息が荒かったのは怖かったけれど。
楽しい時間も、終わりはいつでも来るもの、残念ながら眠る時間になってしまいました。
「明日は、また街に出ようか」
「んーそう、だね」
「あ、お部屋でゲームしている方が楽しかった?」
「うん、それも楽しかった。すごく楽しかったよ」
ルゥちゃんの髪はすごくしっとりしていて、ふわふわさらさらな紗雪とも違って、むしろ、あの触り慣れたさらさら絹みたいに気持ちのいい……。
……。
誰?誰の、髪を私は触り慣れて……。
まただ。
もう嫌だ、寝よう。
水の香りがする。
潮騒の音が聞こえる。
光量の落とされたランプの光が、いつにも増して、ぼんやりとしか室内を照らしていない。
ゆらゆら、ゆらゆら、視界に映る世界が、どこか揺らめいて見える。
3人で眠るために、翼を天井に向けて、うつぶせで眠ていた私。左で眠っていた紗雪が、見当たらない。
どこ……?
それに、あれ? 私いつも通りうつ伏せで寝ていたよね。背中にクッションがいっぱい……半身を起こして。
腰のあたりに、心地よい感触が、ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃ、水音がする。
「ん、おきた?」
「って、ルゥちゃん?」
なんだかはっきりとしない意識が、私の腰に顔をうずめている、海のように深い碧色の髪の頭を見つける
しきりに舌を動かして……る。ルゥちゃん。
「きもちい?」
「うん……すごく、きもちぃよぉ?」
ネグリジェで寝たはずなのに、またあの、ドレスを。碧いドレスを、着てるルゥちゃん。
供犠姫? のドレス……の、レプリカ? だったよね。
頭がまた痛くなりかけて、でも、穏やかな水の音に溶けていく、沈んでいく。
頭、いたくないや。それに、ルゥちゃんが、ご奉仕してくれている……。それが、たまらなく、気持ちよくて。
腰が砕けちゃいそう。
「いいの。怖いのも、嫌なのも、全部海の中に沈めちゃって。海が全てのみ込んでくれるよ。だから、気持ちいいのだけ、ルゥとしよう? ずっとずっと、海の中で、溶けあおう?」
「いいの? 気持ちいい事だけで、いいの? もう、怖いのも、嫌なのも、無い?」
「うん。ないよ。ルゥが全部包んで、沈めてあげる。ルゥが、気持ちよくしてあげる。ほら、いいよ、我慢しないで。私が飲みこんであげる。深い、深い、海の底みたいに」
幸せだなぁ……。
幸せ、なのに。
なんで、ダメなんだろう。
下はすごく気持ちよくて、たまらなくなっているのに。
気持ちよさに反比例するみたいに、胸の痛みだけが、溶けてなくなってくれなくって。
机の上の、ピンクダイヤモンドのついたチョーカーが、視界から外れてくれなくて。
「んぅ、楽にしてよ、ナオお姉ちゃん。ルゥに全部ゆだねて? ほら、もうちょっとだよ、ルゥに吐き出して? ルゥに頂戴? 飲み込んであげるから。全部、ぜんぶ、受け止めてあげるから。ね?」
なまめかしく蠢く舌を見せつけられ。
責め立てるように、激しくすすり上げるように、ルゥちゃんの水音が、腰元で激しくなって……。
ダメ
ダメだよ
「ごめんね、ルゥちゃん」
気持ち良いけれど、これはダメ。だから。
「ごめんね、ルゥちゃん、ダメなの。私には……」
「ダメかぁ……ルゥだって、ナオお姉ちゃんの事、愛しているのにな。大好きなのにな。出会った順番が違えば、先に出会ったのが私なら。あの時だって、私に気が付いてくれていれば……」
部屋のゆらゆら、ゆらゆらとした、揺れが収まる。
ランプの光が、光量を増して。
「もしも、私が……たら。そうしたら、ナオお姉ちゃん。ううん、ナオは。私を……てくれる?」
潮騒の音が遠のいていく。
水の香りが薄らいでいく。
黒い結界に阻まれているはずの、月が。窓越しに見えた気がする。
そしてまた、私は眠りの中へと戻っていった。
翌朝、ルゥちゃんはいつの間にかいなくなっていました。
私は、しっかりと横むきになって、紗雪をギュッと抱きしめて。
ふわふわさらさらな、淡いライトグレーのウェーブロングヘアを、優しく撫でながら眠っていました。




