第045話:女子会議は、お店の未来を作る
週末。
朝の営業が終わる少し前、クィナスは帳簿を閉じると店の奥から一枚の紙を持ってきた。
「マスター、今日は予定通り行ってきますね」
オルゼンは頷く。
「頼んだ」
「予算はこの範囲で考えています。どうしても必要な物が出たら相談しますけど、基本はこの中で収める予定です」
「任せる」
ボルガムが笑う。
「俺ら男衆じゃ分からねぇ部分も多いからな」
「そういうことです」
クィナスは胸を張った。
「今回は女性目線です」
その言葉に、レイシャも静かに頷く。
「実際に使う物もありますから」
しばらくして店の前へナギルカとミレイユもやって来た。
メルフィアは少し早めに来ていたらしく、皆が揃ったところで五人は街へ歩き出す。
目的は、新しい作業場や販売スペースで使う家具や備品を見ることだった。
まず向かったのは家具専門店。
店内には様々な木製家具が並び、異世界らしく魔導加工された品も少なくない。
「この棚、丈夫そうですね」
メルフィアが足を止める。
棚板の高さを自由に変えられる構造になっていた。
レイシャが静かに確認する。
「重さは」
店員がすぐ説明する。
「一段につき百キロまで大丈夫です」
「十分ですね」
クィナスは値札を見る。
「予算内ですね」
すぐ帳簿へ書き込む。
購入ではなく予約。
完成予定日に合わせて配送してもらう形だった。
その後も収納棚。
包装資材を入れる引き出し。
小さな作業机。
椅子。
照明。
魔導保温箱。
次々と見て回る。
レイシャは機能性を重視して選び、クィナスは価格と耐久性を見る。
ナギルカは役所らしく管理のしやすさを気にしていた。
「棚には番号を振っておくと在庫確認が楽になりますよ」
「確かに」
クィナスはすぐ書き留める。
「帳簿とも合わせやすいですね」
一方、メルフィアは少し違う場所を見ていた。
「この木目……」
小さな作業机を優しく撫でる。
「色が柔らかいですね」
店員が微笑む。
「果樹の木を使っています」
「だから温かい色なんですね」
レイシャが横から見る。
「普通の机では駄目ですか」
「駄目ではありません。でも、この色ならお弁当を並べた時も料理が綺麗に見えると思います」
誰もそこまでは考えていなかった。
クィナスは少し感心する。
「そこまで見るんですね」
「はい」
メルフィアは照れ笑いする。
「せっかくなら料理も嬉しそうに見えた方がいいですから」
その言葉に全員が自然と笑った。
昼になる頃には、予約する家具もほとんど決まっていた。
予算表を見ながらクィナスが確認する。
「少し余裕がありますね」
「全部収まりましたか」
ナギルカが尋ねる。
「はい。思っていたより安く済みそうです」
「それなら予備費も残せますね」
「そこが安心です」
一仕事終えた五人は、街でも人気のビュッフェ形式の食事処へ入った。
店内には色とりどりの料理が並んでいる。
焼き料理。
煮込み。
パン。
果実。
スープ。
甘味まで揃っていた。
「わぁ……」
メルフィアが目を輝かせる。
「こんなに種類が」
「今日は好きなだけ食べましょう」
クィナスが笑う。
「たまにはご褒美です」
料理を選び、それぞれ席へ着く。
ようやく仕事の話から少し離れた時間だった。
ミレイユがお茶を飲みながら微笑む。
「皆さんとこうして食事をするのは初めてですね」
「そうですね」
ナギルカも頷く。
「普段は店先で少し話すくらいですから」
話題は自然と仕事以外へ移っていく。
好きな季節。
休日の過ごし方。
子どもの頃の失敗談。
メルフィアは花畑を見るのが好きだと言い、ミレイユは山で香草を探す時間が一番落ち着くと話す。
ナギルカは役所勤めらしく苦笑しながら言った。
「休日くらいは書類を見たくありません」
その言葉に全員が笑った。
クィナスも笑いながら言う。
「私は帳簿なら見ちゃいます」
「仕事が好きなんですね」
「好きですよ。数字は嘘をつきませんから」
レイシャは静かに料理を食べながら皆の会話を聞いていたが、不意に口を開く。
「こういう時間も必要ですね」
全員が彼女を見る。
「普段は仕事の話ばかりです」
少し照れたように笑う。
「皆さんのことを、少し知れました」
その言葉に、場の空気はさらに柔らかくなった。
気付けば二時間近く話していた。
帰り道。
広場の近くで焼き菓子の店を見つける。
甘い香りにメルフィアが足を止めた。
「美味しそう……」
クィナスも笑う。
「買って帰りましょうか」
「お店のみんなへですか」
「もちろん」
焼き菓子に木の実のタルト。
少し高級な燻製肉入りのパイ。
ボルガムが喜びそうな大きな肉まんまで見つかる。
「これは師匠用ですね」
レイシャが静かに言うと、全員が笑った。
「カイル君には甘い物かな」
「オルゼンさんは」
「焼き菓子ですね」
「決まりです」
袋は思ったより大きくなった。
夕暮れ。
店へ戻ると、ちょうど営業を終えたところだった。
ボルガムが大きく手を振る。
「おう! 帰ってきたか!」
「ただいまです」
クィナスが袋を掲げる。
「今日はお土産がありますよ」
「おぉ!」
カイルも嬉しそうに駆け寄る。
「何ですか!」
袋の中身を見たボルガムが笑う。
「おいおい、こんなに買ってきたのか」
「頑張って働いてくれてますから」
クィナスが自然に答える。
オルゼンは焼き菓子を受け取りながら微笑んだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
家具の予約も終わった。
必要な物も決まった。
そして、ほんの少しだけ仲間同士の距離も近くなった。
新しい建物はまだ工事の途中。
けれど、その場所へ置かれる家具一つ一つには、今日みんなで歩き、考え、笑いながら決めた時間が詰まっている。
オルゼンは焼き菓子を一口かじりながら、そんな積み重ねこそが、この店らしさなのだと改めて感じるのだった。




