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第018話:棚を借りたら、足が足りない

 共同販売館の棚を借りることが決まった翌朝、オルゼンの店はいつも通りに開いた。


 黒板には朝包み十個限定の文字。

 棚には青塩小包み、香草小包み、保存瓶、旅人向けの調味料。

 厨房からはボルガムの大きな声と、肉を焼く香りが流れてくる。


 ただ、いつもと違うものがひとつあった。


 カウンターの上に積まれた、小さな木箱の山である。


 共同販売館へ納める商品だった。


 青塩小包みが三十。

 香草小包みが二十五。

 保存食用の調味小包みが二十。

 黒糖ナッツ焼き菓子が十五。

 旅人用調味セットが十。


 クィナスはそれらをひとつずつ確認しながら、帳簿へ記録していた。


「マスター、共同販売館用の商品数、確認完了です。青塩小包み三十、香草小包み二十五、保存調味二十、黒糖ナッツ焼き菓子十五、旅人用調味セット十。説明札は短縮版と詳細版の二種類を用意しました。バルドリアさんから言われた通り、棚の前で最初に目に入る文は短くしています。ですが、詳細を知りたい方のために、裏面に使い方を書いています」


「完璧だな」


「当然です。私は優秀なので」


「知ってる」


 厨房からボルガムが顔を出した。


「クィナス、俺の青塩香草だれの説明はどうなってる? 『魚に塗って焼け。肉にも塗れ。うまい』でいいぞ!」


「よくありません」


「なぜだ! 分かりやすいだろう!」


「分かりやすいですが、売り物の説明として雑です。正しくは、『魚や肉に少量をなじませて焼くと、香草の香りと青塩の後味が加わります。使いすぎると香りが強く出ますので、まずは少量から』です」


「長い!」


「あなたの説明が短すぎるんです」


「客は腹で分かる!」


「買う前に腹では分かりません」


 ボルガムは少し考え、それから大きく頷いた。


「確かに!」


 朝からよく喋る二人だった。


 オルゼンはそのやり取りを聞きながら、木箱を持ち上げてみた。


 重い。


 一箱ならともかく、これを共同販売館まで運び、棚に並べ、売れた分を確認し、必要なら補充する。

 それを定期的に行うとなると、かなり手間がかかる。


 共同販売館は近すぎず遠すぎずという位置にある。

 歩いて行けない距離ではない。

 だが、店の営業中に誰かが往復すれば、その間ひとり欠ける。


 今の店は三人で回している。


 オルゼンが仕入れや交渉に出ることもある。

 クィナスは販売と帳簿。

 ボルガムは厨房。


 誰か一人が抜けるだけで、店は目に見えて重くなる。


「やっぱり、人がいるな」


 オルゼンが呟くと、クィナスが帳簿から顔を上げた。


「はい。共同販売館の棚を借りた時点で、分かっていたことです」


「分かっていたなら、もう少し早く言ってくれ」


「言いました」


「いつ?」


「温室費用対策の会議で、『人を雇う話も数字を見てから』とマスターが言いました。私はその時、数字を見る前から必要になると思っていました」


「そうか。俺が先送りしたやつだな」


「はい。マスターが先送りしました」


「帳簿に書いてあるのか?」


「書いてあります」


「消すなよ」


「帳簿は改ざんできません」


 ボルガムが厨房から笑う。


「マスター、逃げ場なしだな!」


「お前もだぞ。厨房補助がいないと、調査販売どころか普段の仕込みも厳しくなってきてるだろ」


 ボルガムの笑いが少し止まった。


 それから、彼は腕を組み、うなるように言った。


「まあ、そうだな。朝昼夜の包み料理に、そぼろ瓶の仕込み、保存調味、焼き菓子の下準備、リュナメルの温室確認。やれるかやれねえかで言えばやれる。だが、全部を俺一人でやり続けると、どこかで雑になる」


「雑になるのは嫌だろ」


「嫌だ!」


 即答だった。


「肉を刻むのも、火を見るのも、瓶を詰めるのも、全部ちゃんとやりてえ。手が足りねえから味を落としました、なんてのは俺が嫌だ。客が気づかなくても俺が気づく。俺が気づいたら、その飯はもう売りたくねえ」


 クィナスが帳簿に書きかけ、少しだけ笑った。


「良い言葉ですね」


「書け!」


「書きます」


「いや、やっぱり少し格好つけすぎたか?」


「もう書きました」


「早い!」


 オルゼンは苦笑した。


 ボルガムはよく喋る。

 勢いで言う。

 だが料理に関する言葉だけは、どれも本音だ。


 だからこそ、人を入れる必要がある。


 ただし、誰でもいいわけではない。


 この店は普通の店ではない。

 多種族が出入りし、珍しい品を扱い、時に役所や商会、ラグネルのような大物とも関わる。

 さらに、クィナスとボルガムには表に出せない過去がある。


 安易に人を入れれば、店の空気が壊れる。


「まず、共同販売館への往復を任せられる人間がいる」


 オルゼンは言った。


「品入れ、品下げ、販売数の確認、補充、売上の確認。販売館側では売上から手数料と管理費が差し引かれて、専用の振込札に記録される仕組みだったな」


 クィナスが頷いた。


「はい。販売館は現金をその場で各店に渡しません。盗難や持ち逃げを防ぐため、売上は販売館の管理魔道盤に記録され、契約店ごとの振込札に移されます。店側は振込札を商業管理局か提携両替所へ持っていけば、現金化できます」


「よくできてるな」


「危険を減らす仕組みです。共同販売館が信用されている理由のひとつですね」


「その分、記録をきっちり見られる人が必要か」


「はい。ただ荷物を運ぶだけでは足りません。品数、売れ数、手数料、棚代、補充数、説明札の破損、客からの問い合わせ。それらを拾える人が必要です」


 ボルガムが眉を寄せた。


「それ、ほぼクィナスじゃねえか」


「私が毎回行くと店が止まります」


「だよな!」


「だから、最低限の記録を取れて、信用できて、足があり、店と共同販売館を往復できる人が必要です」


「そんな都合のいい奴いるのか?」


「探すしかありません」


 その日の朝営業を終えたあと、オルゼンとクィナスは共同販売館へ向かった。


 ボルガムは店に残る。

 共同販売館へ納める商品の最終仕上げと、昼の仕込みがあるからだ。


「変な奴を連れてくるなよ!」


 出がけにボルガムが大声で言った。


「変かどうかは見てから決める」


 オルゼンが返すと、ボルガムはさらに声を張った。


「店の飯を雑に扱う奴は駄目だ! 足が速くても駄目だ! 力があっても駄目だ! 数字が読めても、肉を床に置く奴は駄目だ!」


「全部分かったから声を落とせ」


「あと、厨房に勝手に入る奴も駄目だ!」


「分かった」


「でも手伝う気があるなら厨房には入れる!」


「どっちだ」


「俺が許可したらいい!」


「はいはい」


 クィナスが横で笑っていた。


「ボルガム、心配なんですね」


「心配だ! 店に知らん奴が入るんだぞ!」


「そうですね」


「お前は平気なのか?」


「平気ではありませんよ」


 クィナスは笑顔のまま、少しだけ目を細めた。


「だから、ちゃんと見ます」


 その言葉に、ボルガムは納得したように頷いた。


「ならいい」


 共同販売館に着くと、バルドリアは受付奥の作業机で商品札を確認していた。


 彼女はオルゼンとクィナスを見るなり、眉を上げた。


「早いな。もう品を持ってきたか」


「今日は人の相談です」


 オルゼンが言うと、バルドリアは鼻を鳴らした。


「棚を借りると足が足りなくなる。小商人が最初にぶつかる壁だな」


「分かっていたなら教えてください」


 クィナスが少しだけ不満そうに言う。


 バルドリアは彼女を見て、にやりと笑った。


「教えたら、お前たちが自分で気づく機会が減るだろう」


「意地が悪いですね」


「管理人だからな」


「管理人は意地が悪い職業でしたか?」


「半分はそうだ」


 クィナスは耳を動かした。


「残り半分は?」


「売れない商品を棚から外す仕事だ」


「それも意地が悪いですね」


「だから半分ではなく全部かもしれん」


 オルゼンは二人のやり取りを聞きながら、やはり相性が悪いようで良いのだと思った。


 バルドリアは口が悪い。

 クィナスも負けていない。


 だが、互いに商売の話をしている時は妙に噛み合う。


「共同販売館への往復と、棚の管理を任せられる人を探しています」


 オルゼンが本題に入ると、バルドリアは顎に手を当てた。


「単なる荷運びでは駄目だろう」


「はい。最低限、商品数と売れ数を見られる人がいいです」


「金の回収は?」


「販売館の振込札方式を使います。現金を持たせるつもりはありません」


「賢い。若い商人はすぐ人に金を持たせて揉める」


「揉める未来しか見えないので」


「いい判断だ」


 バルドリアは少し考え、それから受付の奥へ声をかけた。


「レイシャ。少し来い」


 しばらくして、書類棚の向こうから一人の女性が現れた。


 背が高い。


 人族より少し高い程度ではない。

 ボルガムほど大柄ではないが、すらりとした体つきで、立っているだけで目を引く。


 肌にはごく薄く鱗のような光沢があり、こめかみのあたりから後ろへ流れる小さな角が見えた。

 瞳は金に近い琥珀色。

 長い髪は深い藍色で、後ろでまとめられている。


 龍人族。


 女性は静かに一礼した。


「お呼びでしょうか、バルドリアさん」


 声は落ち着いている。


 商人でも職人でもない。

 役所の職員のような硬さがあり、それでいて体の芯がまったく揺れていない。


 クィナスの耳が、ほんのわずかに止まった。


 オルゼンにも分かった。


 普通ではない。


 ただ立っているだけなのに、圧が薄い。

 薄いからこそ、逆に怖い。


 気配を消すことに慣れている者の立ち方だった。


 レイシャも、クィナスとオルゼンを見たあと、ほんの一瞬だけ視線をクィナスの足元へ落とした。


 それから、奥の方角を見た。


 この場にいないボルガムの気配でも測るように。


 クィナスは笑顔を浮かべた。


「初めまして。クィナスです」


「レイシャです。共同販売館の臨時職員をしています」


 丁寧な挨拶だった。


 だが、その裏側で何かが互いに触れた。


 クィナスは気づいた。

 レイシャも気づいた。


 この人は、ただの臨時職員ではない。


 そしてレイシャも思ったはずだ。


 この猫族は、ただの帳簿係ではない。


 バルドリアはそんな二人を見て、面白そうに目を細めた。


「レイシャは今月いっぱいで臨時契約が切れる。本人も次の働き先を探している」


「管理人が紹介してくれるとは思いませんでした」


 オルゼンが言うと、バルドリアは肩をすくめた。


「変な商人に紹介する気はない。だが、お前たちの店なら仕事はあるだろう。それに、こいつはただ棚の前で立っているには惜しい」


 レイシャは表情を変えない。


「私は、契約内容次第で考えます」


「当然です」


 オルゼンは答えた。


「仕事内容は、共同販売館への品入れと品下げ、売上記録の確認、振込札の受け取り、店への報告。それに、店内での販売補助です。厨房補助ではありません。食品を運ぶことはありますが、調理そのものは別に人を探す予定です」


「販売と管理補助ですね」


「はい」


「勤務時間は?」


 クィナスがすぐに資料を出した。


「最初は週三日から四日を想定しています。共同販売館の棚確認日は朝営業後、もしくは夕方前。店内補助は混雑時間帯を中心に。正式な雇用前に、試用期間を設けたいです」


 レイシャは資料を受け取り、目を通した。


 読む速度が速い。


 だが雑ではない。


「賃金は標準より少し高いですね」


 クィナスが頷く。


「共同販売館との往復に加え、記録業務が含まれるためです。ただし、試用期間中は少し下がります。正式採用後に上げます」


「記録業務の範囲は?」


「商品数、売れ数、棚残数、破損、客からの質問、販売館側からの注意、振込札の金額確認です。帳簿全体は私が管理しますので、あなたには現場記録をお願いしたいです」


 レイシャはクィナスを見る。


「細かいですね」


「必要な範囲です」


「細かすぎると、現場が止まります」


「止まるほどは求めません。最低限の記録札を作ります。項目を埋めるだけで済むようにします」


 レイシャは少しだけ目を細めた。


「慣れていますね」


「帳簿は私の縄張りですので」


 バルドリアが低く笑った。


「この猫はな、説明が長いが筋は通る」


「聞いていて分かります」


「褒めていますか?」


 クィナスが聞くと、レイシャは静かに答えた。


「半分は」


「残り半分は?」


「実際に働いてから判断します」


 クィナスは少しだけ楽しそうに耳を揺らした。


「良いですね。私もそうします」


 オルゼンはレイシャを観察していた。


 姿勢。

 視線。

 言葉の選び方。

 資料を読む速度。

 こちらの条件を飲む前に、必ず仕事の範囲を確認する慎重さ。


 かなり優秀だ。


 だが、それだけではない。


 彼女は戦える。


 それも相当強い。


 それを隠している。


 問題は、それを隠したまま店で働けるかどうかだ。


「レイシャさん」


 オルゼンが声をかけると、彼女は資料から顔を上げた。


「はい」


「うちの店は普通の店です」


 クィナスが横で少しだけ耳を動かした。


 バルドリアは何か言いたそうな顔をしたが、黙っている。


 オルゼンは続けた。


「珍しい品を扱いますが、基本は小さな商店です。客に売り、帳簿をつけ、料理を作り、必要なら共同販売館へ商品を持っていく。それだけです」


「はい」


「ですが、うちで働くならひとつだけ守ってほしいことがあります」


「何でしょうか」


「店の中で、力を見せないことです」


 レイシャの目がわずかに細くなった。


 クィナスの尻尾も止まる。


 バルドリアは黙ったまま、二人を見ている。


「腕力でも、威圧でも、戦う力でも、何でもです。必要な時が来るかもしれません。ですが、客の前ではただの店員でいてほしい」


 レイシャはしばらく黙っていた。


 その沈黙は短くない。


 だが不快ではない。


 彼女は、オルゼンが何を見て言っているのかを測っているようだった。


「それは、私にそういう力があると見ての言葉ですか」


「はい」


 オルゼンは誤魔化さなかった。


「ただし、過去を聞くつもりはありません。働く上で必要なことだけです」


 レイシャの視線が、ほんの一瞬クィナスへ向いた。


 クィナスは笑っていた。

 だが、目は笑っていない。


 その目は語っていた。


 私も似たようなものですよ、と。


 レイシャは小さく息を吐いた。


「分かりました。店では店員として振る舞います」


「助かります」


「ただし」


 レイシャは静かに続けた。


「荷や商品、店員に明確な危険がある場合は、店主の指示を待たない可能性があります」


 オルゼンは少し笑った。


「その時は、あとで帳簿に理由を書いてもらいます」


 クィナスが即座に言う。


「私が確認します」


 レイシャは初めて、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「厳しいですね」


「帳簿なので」


「なるほど」


 バルドリアは机を指で軽く叩いた。


「決まりだな。レイシャ、試用で行け。気に入らなければ戻ってこい」


「戻ってきてもよろしいのですか?」


「棚の札整理くらいなら仕事はある。ただし正職ではない」


「分かりました」


 バルドリアはオルゼンを見る。


「この龍人は頭も足も使える。だが、使い潰すな」


「もちろんです」


「あと、こいつは顔がいい。店先に立たせると客が増えるかもしれん」


 クィナスの耳がぴくりと動く。


 レイシャは表情を変えない。


「それは業務に含まれますか?」


「含まれません」


 オルゼンが即答した。


 バルドリアは笑った。


「いい答えだ」


 こうして、レイシャの試用が決まった。


 店へ戻る道中、クィナスはいつもより少し静かだった。


 オルゼンは横を歩きながら聞く。


「どう見た?」


「優秀です」


「それだけか?」


「かなり強いです」


 その声は小さかった。


「隠していますが、隠し方が綺麗すぎます。普通の強い人ではなく、強さを隠す訓練を受けた人だと思います」


「やっぱりか」


「はい。向こうも私に気づいています」


「問題ありそうか?」


 クィナスは少し考えた。


「今のところはありません。ただ、店に入ればボルガムとも互いに気づくでしょう。最初は妙な空気になるかもしれません」


「止められるか?」


「止めます。必要なら喋って誤魔化します」


「それは得意だな」


「得意です。私はよく喋るので」


 少しだけ、いつもの調子が戻った。


 店に着くと、ボルガムが厨房から顔を出した。


「どうだった!」


「一人、試用で来ることになった」


 オルゼンが言うと、ボルガムは大きく頷いた。


「おお! どんな奴だ!」


「龍人族の女性です。名前はレイシャさん」


 クィナスが説明する。


「共同販売館の臨時職員。記録もできます。足もあります。頭も良いです」


「強いか?」


 ボルガムは何気なく聞いた。


 だが、その質問は普通の店員に向けるものではなかった。


 クィナスは少し黙った。


 オルゼンもボルガムを見る。


 ボルガムは腕を組んだまま、真剣な目をしていた。


「強いんだな」


「かなり」


 クィナスが答える。


「隠してるのか」


「はい」


 ボルガムは鼻を鳴らした。


「なら、店では店員だな」


「マスターも同じことを言いました」


「さすがマスター!」


「褒め方が雑だな」


 オルゼンは苦笑する。


 ボルガムはすぐに次の話へ移った。


「で、厨房補助は?」


「これから探す」


「そっちは俺が見る。料理の手伝いは、手先だけじゃなく気持ちがいる。皿を洗うだけでも雑な奴は駄目だ。肉を馬鹿にする奴も駄目だ。火を見ない奴も駄目だ。あと俺を怖がりすぎる奴も困る!」


「注文が多いな」


「料理は注文が多い!」


「客みたいに言うな」


 クィナスは帳簿を開き、新しい雇用記録を作った。


『新規人員候補一人目。

 レイシャさん。龍人族女性。共同販売館臨時職員。

 試用予定。業務、共同販売館往復・現場記録・販売補助。

 戦闘能力、高い可能性。店では店員として扱う。』


 そこで少し手を止めて、もう一行足す。


『こちらも、見られている。』


 ボルガムはその文字を覗き込む。


「どういう意味だ?」


 クィナスは帳簿を閉じた。


「そのままです」


「むう。なんか怖いな!」


「怖いくらいがちょうどいいです。油断しませんから」


「そうか!」


 店の中に、また新しい気配が入ろうとしていた。


 これまでの三人だけの店ではなくなる。


 共同販売館。

 温室。

 販路拡大。

 新しい人員。


 少しずつ、店は変わっていく。


 ただし、根は変わらない。


 オルゼンが判断し、クィナスが記録し、ボルガムが味を守る。


 そこへ誰かが加わるなら、その形を壊すのではなく、支える者でなければならない。


 レイシャがそうなるかどうかは、まだ分からない。


 そして、もう一人。


 厨房を支える者も探さなければならない。


 ボルガムは包丁を手に取り、まな板の上の肉を見た。


「次は、俺の方だな」


 その声は大きかったが、どこか楽しそうだった。


「弟子を取る気分ですか?」


 クィナスが聞くと、ボルガムは即答した。


「弟子じゃねえ! まずは皿洗いからだ!」


 そう言いながら、なぜか少し嬉しそうだった。

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