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境界のグラス― ススキノの小さなバーでの記憶 ―

作者:akira
最新エピソード掲載日:2026/04/16
札幌・ススキノの外れに、小さなバーがある。
看板は目立たず、気づかない人間の方が多い。それでも、なぜか辿り着く客がいる。
迷ったわけでもなく、探していたわけでもなく、ただ、気づいたら扉の前に立っている。
そんな夜がある。
店の中は静かだ。音楽は流れていない。氷の触れ合う音と、グラスのわずかな響きだけが、時間を刻んでいる。
ここでは、特別なことは起きない。
ただ、忘れていた記憶が、ふと浮かび上がったり、選ばなかったはずの人生が、形を持って現れたり、いないはずの誰かが、隣に座っている気がしたりする。
それだけのことだ。
店主は多くを語らない。問いかけることはあっても、答えを与えることはない。
ここは、何かを解決する場所ではない。
ただ、気づくための場所だ。
自分が何を持っていて、何を手放してきたのか。
そのことに、静かに触れるための場所。
今夜もまた、一人の客が扉を開ける。
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