追いついた猛獣とのんきな2人
遠くから獣の鳴き声が聞こえる。
グゥアァァーーーーとか言う世紀末な鳴き声が何度か響き渡る。
時刻はもう夜で、2人きりでの不安な感じな野営の最中だ。
結局俺は野営の準備での出番は一切なくフィニアが全部行って、これまたフィニアが起こした焚火を俺と彼女で囲っている。
火おこしすら出来ない無能な俺を許しておくれぇ…
「なぁ、ホントに大丈夫なんだよな夜になったからか知らないけど、得体の知れない鳴き声がさっきから聞こえてきて不安で仕方ないんだけど」
彼女はそんな俺の不安を余所に、ふてくされた様子で答える
「だ~か~ら~、私が居れば大丈夫っていっているでしょう、一応魔獣除けの魔法も使っているから夜でも安心なのよ~」
う~ん、それでも世紀末な鳴き声の中、のんびりと眠っていられるような気はしないんだよな。
まぁ、深く考えても仕方ないし、焚火で焼いていた魚を食べる。
「あち、あち、はふ、んぐ、ふぃ~うまいなぁ」
あ、そういえば渡されてた3本のパンは、そのまま食べるのもさみしいので返却したよ。
「ねぇ、ずっと思ってたんだけど~、どうしてそんな言葉遣いなのかしら~、今のクリューちゃんはかわいい女の子なのだから、それに相応しい言葉遣いじゃないと周りに変な目で見られちゃうと思うんだけど~?」
……………………
…嫌だ
…絶対に嫌だぞ
俺がこんな姿になったのはあくまであいつに無理やりされたからであって、なんで言葉遣いまで女の子に変えなきゃいけないだ…
とはいえ、周りが不審に思うだろうな、とは自覚してる分なかなか否定しづらいんだよな。
「う~ん、わかってはいるんだけどさ、こんな体になっちゃっても言葉遣いは男の頃のままでいるのがおかしいってことはさ。でもさ、女みたいにふるまったら、男に戻った時に色々と大切なものを失いそうな気がしてならないんだよ。それになにより、恥ずかしいから無理だ!」
結局は最後の一言に尽きるよ
恥ずかしいに決まってるだろ!
男なのに女みたいに過ごすとかどんな罰ゲームだよ。
そーいうのが趣味なら話は別だけど俺はノーマル、目の前で揺れる2つの果実に惑わされるぐらいにはノーマルなんだよ。
「そうよね~、恥ずかしいわよね~、だって、男の子だもんね~♪」
そう言って、クスクスと笑ってくれやがるフィニアさんに、若干腹立つのも仕方ないだろう。
記憶を見たから男だってわかっているのに、そんなこと言うんだからさ。
「こっちは色々と大変な目にあっているのに笑いやがって。とにかく俺は言葉遣いはこのままで貫き通すつもりだ、いつか男に戻った時に笑いものにはされたくはないからな!」
「ふ~ん、そういうことなら別に止めないわ~、で~も、フレアちゃんと過ごすなら少しだけ考え直した方がいいかも~ あの子どうしようもないぐらい若い男の人が大っ嫌いだからね~。男だってばれちゃったらきっと男の象徴が切られちゃうと思うんだけど…」
「そいつはマジですかい?」
あいつが男嫌い?
特に若いやつ?
アカン、直撃してる。
そんな雰囲気は感じなかったから、完全に寝耳に水だ。
「そんなことで私は噓をつかないわ~、まぁフレアちゃんとは当分会わないだろうから大丈夫だとは思うけどね~」
そういえば俺は誘拐されてる最中だったわ。
緊張感が無いから忘れてたわ。
しっかし、やっぱりおかしいよな、こんな少女が男の口調で話してたらさ。
これからどうなるのか、なんてわからないけどさ~、変に思われるってわかっているのに、この言葉遣いで相手に疑われながら過ごすのもダメだとは思うけど、でも女の口調で話すのもためらうし…………うがああああああああ!!!
全部あのくそったれのせいだ、なんで俺がこんなに悩まなくちゃいけねぇんだよ。
絶対に復讐してやるから覚悟しておけよ!!!
「まぁ、フレアがいたら言葉遣い直すことも検討していたかもしれないし、しなかったかもしれないけど、とにかく自分で決めるよ、その辺はな。服とかもまだ女性用のものを着ていることに慣れていないんだからさ」
ちなみに服は買ったけど、下着は買ってはいないんだ。
だから最初からあいつが着ていたやつをまだ使っている状況で、胸につける例のアレは自分で外した。理由は言うまでもないだろう。
そろそろ新しい下着に変えたい気持ちもあるけど、自分で下着を穿くのもなんか嫌だなぁとは思ってる。
「そ~いえばあいつは今頃何してんのかなぁ~、俺の面倒見なくて済むからって、特に何も気にしていなかったらちょっとだけさみしいな」
……噓だ。
ちょっとなんかじゃない。
かなりさみしい。
あいつは優しくてそれでいてちょっと腹立つところもあるけど、やっぱりいい奴で、笑うとドキッとしちゃうぐらい可愛いくてさ…会えないってなると結構堪えるな。
「そうねぇ~、でもあの子が私に誰かを紹介しようとしたことなんて一度もなかったし、家に連れて来た時にあなたのことをなんども気にかけているような素振りを見せてたから、何とも思っていないなんてことはないと思うわ~」
「そうだといいんだけどさ」
俺はあいつに迷惑しか掛けていないから、嫌われていてもなんもおかしくはない。
…………ダメだ、悪い方向ばかりに思考が傾いちゃうな。
さっきまでの煩悩パラダイスが懐かしく感じるなんて。
あれはあれで、ダメだとは思うけど。
「一応書置きを残したから大丈夫だとは思うけど、案外追いかけて来そうで怖いのよねぇ~、あの子狙った獲物は逃がさないからね~」
俺は獲物ですかい?
それはそれで楽しいかもって思う自分がいる、って馬鹿な事考えてどうする。
おかえり俺の煩悩。
「こんなに薄暗い中追いかけてきてたらさすがに怖いな、それじゃまるで魔獣みたいじゃんか――――――「グゥアァァーーーー」――――――――ってさっきから鳴き声がうるさいな、さっきより近づいている感じがして不気味だし」
それになんか今のは断末魔みたいな感じがしたんだよな
恐ろしい何かが近づいているような気がする。
「もう、そんなにビクビクしないでよ~私がいるから大丈夫よ♪」
ビクビクなんてしてねぇし
これが所謂武者震いってやつさ、HAHAHA。
「グゥァァーーーーーー!!!!」
噓です怖いです勘弁してください!!
やっぱりさっきより鳴き声は近づいているみたいだ。
辺りに緊張が走り、フィニアも真剣な表情で辺りを伺い初めた。
ガサガサと近くから物音を立てながらこっちへ急接近してくる何かがいるみたい。
フィニアも音のなる方向を向き、いつの間にか杖(恐らく例のアイテムボックスから取り出した)を装備して戦う準備を整え、俺を背中に隠すように陣取った。
「私のクリューちゃんを奪っておいて、後ろに庇うようにするなんて私を馬鹿にしているのかしら? ねぇフィニア?」
ドキッとするような笑顔の主ではありえないような、怒りに満ち溢れた表情でフィニアを睨みつける…………フレアがそこに立っていた。




