認識する者
そして、その夜。
「……一之瀬君」
「よ、よう。久しぶり……」
むろん、聡はいつもどおりの手順でおこなった。
だが、相手はやってきた瞬間、自分の名前を言うなどという体験は始めてだ。
さすがの聡も答えに窮し、その日の昼間に顔を合わせた者に言うものでもないなんとも恥ずかしい言葉を返してしまう。
「げ、元気か?」
「見ればわかるでしょう」
「ああ。そうだな。確かに」
会話が成立している。
これまでの相手はこちらの言葉をぼんやりと聞いているだけだった。
だが、弥生は間違いなく会話をしている。
それどころか、主導権を持っている。
それにしても今日は随分と饒舌だ。
そして、こうやって改めてみると、十分な美人。
さらに、パジャマ姿のため、ハッキリとわかる。
首から下も十分に魅力的……。
「なに、胸をジロジロ見ているの?いやらしい」
そう言って再び聡を慌てさせる。
そして、笑う。
「まあ、許してあげる。それでどうなの?」
「何が?」
「私のここ?」
弥生はそう言って自分の胸を指さす。
「ああ。その……」
ここはなんと言うべきか……。
いやいや、それよりも……。
こいつはこんなに積極的だったのか?
「どうなの?」
「そ、その……いいと思います」
「私も自信があるのよ。この胸。大きいでしょう。クラス一。多分学年で一番……」
「……それはすごいな……」
「見たい?」
「……今日は遠慮しておく……」
「そうなの。それは残念」
結局、その後も怪しげな雑談に終始し、本題は何も言わぬままその日の告死は終わる。
いや。
告死はしていないのだから、単純に弥生の意識に入っただけなのだが。




