第7話 初めての防衛戦と、最強パーティの初陣
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前回、レイの持つ「異常な動体視力」を「パリィ(受け流し)」に特化させることで、最強のタンク(壁役)としての才能を開花させたアド。
それから二年が経ち、七歳になった三人は、村の大人たちに内緒で「ある計画」を進めていました。
いよいよ、アドが前世の知識とマネジメント能力をフル活用した「最強パーティ」の初陣が幕を開けます!
それでは、第6話をお楽しみください!
俺たちが五歳で運命的なパーティ(仮)を結成してから、二年が経った。
七歳になった俺たちは、現在、村外れの森の入り口で、極秘の「巨大プロジェクト」の真っ最中だった。
「よし、レイ! そっちの丸太をもう少し右だ。ソフィ、そこの隙間に俺が作った泥を詰めてくれ!」
「はいっ、アドくん!」
「わ、わかったよアドくん。重いけど……がんばる!」
俺の指示のもと、ソフィとレイがせっせと立ち働く。
作っているのは「秘密基地」だ。
ただの子供の遊び場ではない。俺の前世のキャンプ知識と、DIYの技術を総動員した、本格的な拠点である。
太い丸太を組み上げ、床には湿気対策として石を敷き詰める。壁の隙間には、俺の「対象に馴染む魔力」を混ぜ込んだ特製の泥パテ(第二話で家の隙間風を塞いだアレだ)を塗り込み、カチカチに硬化させて完全な断熱・防風仕様に仕上げていた。
「ふぅ……完璧だ」
完成した頑丈な小屋を見上げ、俺は額の汗を拭った。
子供の体力では本来不可能な重労働も、俺の「魔力の体内循環」による身体強化があれば難なくこなせる。
この二年間、俺たちは大人たちの目を盗んでは、それぞれの「役割」を徹底的に磨き上げてきた。
ソフィは、あの大味な爆発魔法を、手のひらサイズに圧縮して威力を一点に集中させる「精密射撃」の訓練。
レイは、俺が投げる石や木の実を、木の棒一本で延々と弾き落とす「絶対回避」の訓練。
そして俺は、周囲の地形や罠を利用し、二人の能力を最大限に引き出すための「盤面コントロール」の訓練だ。
「すごいねアドくん! 風も全然入ってこないし、すごく暖かいよ!」
「ぼ、ぼくたちだけで、こんなお家が作れるなんて……」
秘密基地の中で、ソフィとレイが目をキラキラさせて喜んでいる。
俺も満足げに頷いた。この基地は、いずれ村に何かあった時の防衛拠点としても使えるように設計してある。
だが、その達成感に浸っていた、その時だった。
『――グルルルルッ!!』
森の奥から、背筋が凍るような低い獣の唸り声が響いた。
ガサガサと重い足音を立てて、茂みを掻き分けて現れたのは、巨大なイノシシだった。
ただのイノシシではない。頭から背中にかけて、岩のように分厚い外殻(装甲)に覆われている。前世の知識にはない、明らかにファンタジー世界の魔物だ。
「装甲猪……!」
村の大人たちが「森の入り口でたまに出る厄介な魔物」として話していたのを思い出す。
突進力は凄まじく、普通の剣や弓矢ではあの分厚い装甲を貫けないらしい。
「ひっ……!」
「あ、アドくん! 魔物です! 私、やっつけます!」
レイが恐怖で顔を引きつらせ、ソフィが慌てて両手に膨大な魔力を集め始めた。
その出力は、あの川の魚を一網打尽にした時の比ではない。彼女はパニックになり、最大火力で消し飛ばそうとしている。
「待てソフィ! 撃つな!!」
俺は鋭く制止した。
ソフィが今ここで最大火力を放てば、確かに魔物は倒せるかもしれない。だが、その余波で苦労して作ったこの秘密基地まで木っ端微塵に吹き飛んでしまう。それに、あんな分厚い装甲相手に、面制圧の爆発魔法は相性が悪い。
(冷静になれ。敵の攻撃パターンは直線的な『突進』のみ。装甲は固いが、腹の下は柔らかいはずだ)
前世の勝負勘が、瞬時に脳内で『期待値の最も高い必勝ルート(コンボ)』を弾き出す。
「ソフィ、魔力を放出しちゃ駄目だ! 両手の中にギリギリまで圧縮して、『槍』の形をイメージして待機しろ!」
「は、はいっ! 圧縮……圧縮……!」
「レイ!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「お前は基地の前に立て! 絶対に逃げるな。アイツの牙の『軌道』だけを見ろ!」
俺の怒号に、レイはガタガタと震えながらも、しっかりと木の棒を構えて基地の前に立った。
この二年間で、彼には「アドの指示通りに動けば絶対に死なない」という強烈な信頼(刷り込み)が完了している。恐怖で体がフリーズしても、目だけは絶対に敵から逸らさない。
『ブヒィィィィンッ!!』
装甲猪が、レイめがけて一直線に猛突進を開始した。
丸太をへし折る勢いの、重戦車のようなチャージ。
レイは一歩も動かない。いや、動けない。だが、彼の異常な動体視力は、迫り来る巨大な牙の先端をスローモーションのように捉えていた。
俺は、レイのすぐ斜め後ろの地面に両手をついた。
そして、自分の「対象に馴染む魔力」を、土の奥深くに一気に流し込む。
硬化させるのではない。その逆だ。土の結合を強引に解き、一時的に「底なし沼」のようなぬかるみに変質させる。
「今だレイ! 弾け!!」
突撃がレイを串刺しにする寸前。
レイの持っていた木の棒が、最小限の動きでフッと跳ね上がった。
――ガツンッ!!
信じられない光景だった。
七歳の痩せっぽちの少年が持った木の棒が、数百キロの魔物の突進を「受け流した」のだ。
レイは力で勝負したわけではない。牙のベクトルに対して、完璧な角度で棒を滑らせ、突進のエネルギーを真横へと逸らしただけ。
「ブモォッ!?」
予期せぬ方向へ力を逃がされた装甲猪は、大きく体勢を崩した。
そして、その踏み込んだ先にあるのは、俺が魔力で作った「ぬかるみ(トラップ)」だ。
ズボッ!
ただでさえ体勢を崩していた巨体が、ぬかるみに前足を深く取られる。
自らの突進の勢いを殺しきれず、装甲猪は無様に前のめりに転倒し、ドスーン!と腹を上にして仰向けにひっくり返った。
硬い装甲に守られていない、柔らかい白い腹が完全に無防備な状態で晒される。
ヘイト管理、敵の無力化、そして弱点の露出。
盤面のコントロールは、完全に俺の手中に落ちた。
あとは、溜まりに溜まった『確定演出』のボタンを押すだけだ。
「ソフィ! そこだ、撃ち抜けぇッ!!」
「はいぃぃぃッ!!」
ソフィが、限界まで圧縮して白く輝く魔力の塊(槍)を、無防備な魔物の腹部めがけて解き放った。
――ドゴォォォォォンッ!!!
鼓膜が破れそうな轟音と共に、一直線に放たれた魔力の光線が、装甲猪の巨体を容易く貫通した。
面制圧ではなく、一点突破の圧縮魔法。
魔物は断末魔の悲鳴を上げる間もなく光に飲み込まれ、ドサリと動かなくなった。
その後ろにある秘密基地には、傷一つついていない。
「……やった……」
静寂を取り戻した森の入り口で、俺たちは呆然と魔物の死骸を見つめていた。
やがて、レイがへなへなとその場に座り込み、ソフィが歓声を上げて俺に抱きついてきた。
「やりました! アドくん、やりましたよ!」
「ああ。完璧な連携だった。ソフィの火力も、レイのパリィも、最高だったぜ!」
俺はレイに駆け寄り、その肩をガシガシと揺さぶった。
レイは涙目で、それでも嬉しそうに「えへへ……」と笑っている。
大人に頼らず、七歳の子供三人だけで、村の脅威である魔物を無傷で討伐した。
俺の心臓は、前世で起業した時や、スロットでフリーズ(最強の当たり)を引いた時よりも、ずっと激しく高鳴っていた。
俺は弱い。魔力はショボいし、剣の才能もない。
だが、この二人となら。
ソフィという最強の「矛」と、レイという最強の「盾」、そして俺の「知略」を組み合わせれば、この世界で倒せない敵などいないのではないか。
秘密基地の前に立つ三人の小さな影は、沈みゆく夕日に照らされて、どこまでも力強く伸びていた。
だが、俺たちはまだ知らなかった。
この装甲猪が、ただ森から迷い出ただけの野生の魔物ではなく、はるか北方の「魔族領」から意図的に放たれた『斥候』であったことを。
俺たちの平和な日常に、戦争の足音がすぐそこまで迫っていることに、この時の俺はまだ気づいていなかったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第7話、いかがだったでしょうか?
力任せに魔法をぶっ放すのではなく、アドの司令塔としての戦術(ヘイト管理・トラップ・弱点露出)からの、ソフィの超火力(確定演出)!
それぞれの弱点を補い合い、長所を極限まで尖らせた「パーティ戦闘」の醍醐味を感じていただけたら嬉しいです。
そして、ラストに不穏な影が……。
次回、第7話は、今回の戦果を大人たちに報告したことで、逆に「村に迫る危機」が浮き彫りになるエピソードです。
いよいよ物語が村の日常から、「世界の脅威」へとスケールアップしていきます!
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アドたちの最強パーティへの道のりを、引き続き応援よろしくお願いします!




