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第4話 圧倒的な才能と、持たざる者の生存戦略

第4話です。

自身の「才能の限界」を突きつけられたアド。しかし、転生した元経営者はタダでは転びません。

いよいよ運命の出会いが訪れます。

俺が五歳になった春。

 村の雪解けが完全に終わる頃、俺は両親に「本格的な修行をつけてほしい」と頭を下げた。


Aランク冒険者だった両親の背中を見て、ただ守られるだけの子供でいるつもりはなかった。

 前世のように、理不尽な暴力(病気や会社)にすべてを奪われるのはもう御免だ。自分の身と、このささやかな幸せくらいは、自分の力で守れるようになりたい。


父さんと母さんは顔を見合わせた後、嬉しそうに頷いてくれた。

 そして始まった、元Aランク冒険者によるマンツーマンの英才教育。

 俺は「これで俺も最強への階段を登れる」と意気込んでいた。


だが、現実は残酷だった。


「……うーん。アドの魔力は、本当に不思議ね」


家の裏手にある空き地。

 俺の胸に手を当てて魔力の流れを探っていた母さんが、困ったように眉を下げた。


「魔力を体内で練り上げたり、細かく循環させたりする『操作性』は大人顔負けよ。指先の泥に魔力を流し込んで固めたのも、その応用ね。本当にすごいわ」

「じゃあ、俺も母さんみたいに大きい魔法を撃てる?」

「……それがね」


母さんは言葉を選びながら、ゆっくりと首を横に振った。


「アドの魔力は、外に出ようとする力が極端に弱いの。それに……ごめんなさいね。魔力の『総量タンク』そのものが、あまり大きくないみたいなの」


ガーン、と頭を鈍器で殴られたようなショックを受けた。

 父さんが横から慌ててフォローに入る。


「お、落ち込むなアド! 魔力はあくまで才能の器だ。お前は魔力を内側に留める『内包型』の適性が高い。俺と同じ剣士になれば、魔力量なんて関係ないさ!」


父さんは俺に小さな木剣を握らせ、素振りの手本を見せてくれた。

 確かに、父さんの剣技は魔法がなくても熊を両断する。

 だが、前世の経験から来る「客観的な分析力」が、俺に冷酷な事実を突きつけていた。


(……いや、無理だ)


父さんの筋肉の付き方、骨格、そして天性の反射神経。

 俺にはそれがない。

 魔法の才能タンクがスッカラカンな上に、肉体的な素質も良くて「中の下」だ。

 どれだけ努力して父さんの剣技を真似たところで、それは「劣化版」にしかならない。


経営に例えるなら、資本金(魔力)が圧倒的に少なく、自社ビル(肉体)も老朽化している状態。

 このスペックで、大企業(魔王軍や巨大な魔物)と正面から殴り合えば、一瞬で市場から退場させられる。それが、異世界における俺の「現在地」だった。


(参ったな……。チートなしのハードモードとは思っていたが、ここまで手札がショボいとは)


俺は一人、村の近くを流れる小川のほとりで膝を抱えていた。

 水面に映る五歳の自分の顔は、なんとも情けない表情をしている。

 だが、絶望はしていなかった。


前世で会社が傾いた時も、手持ちのなけなしの資金でどう立ち回るか、徹夜で計算し続けた。パチスロだってそうだ。低設定の台に座ってしまったなら、いかに負け額を減らし、少ない期待値を拾い集めるか。

 手札が悪いなら、悪いなりの「勝ちルート」を探せばいい。


「……えいっ!」


不意に、澄んだ声が聞こえた。

 顔を上げると、少し下流の河原に、一人の少女が立っていた。

 俺と同い年くらいだろうか。色素の薄い、太陽の光を編み込んだような金糸の髪。村の子供には珍しく、小綺麗で仕立ての良い服を着ている。


彼女は、川面から跳ねた魚に向かって、小さな両手を突き出していた。

 その瞬間だった。


ドゴォォォォンッ!!!


「は……?」


俺の口から、間抜けな声が漏れた。

 爆発が起きたのかと思った。

 少女の手から放たれた目に見えない「力の塊」が水面に直撃し、巨大な水柱を巻き上げたのだ。

 飛び跳ねていた魚は、水圧で空の彼方へふっ飛ばされ、キラキラと星になって消えていく。


「あわわ……またやりすぎちゃった……」


少女は尻餅をつき、自分のしでかした光景を見てオロオロしている。

 俺は唖然として、その場に立ち尽くした。


なんだ、あれは。

 母さんの魔法ですら、あんな理不尽な出力はしていなかった。

 大砲だ。五歳の子供が、対戦車用ロケットランチャーをぶっ放したようなものだ。

 これが「放出型」の魔法。そして、圧倒的な「魔力の総量タンク」。


(俺の魔力が水鉄砲だとしたら、あいつのはダムの決壊だ……)


俺は立ち上がり、ふらふらと少女に近づいた。


「き、君……今の、魔法か?」

「えっ!? あ、ごめんなさい! お水がかかっちゃった!?」


少女は俺の姿に気づくと、慌てて立ち上がり、ペコペコと頭を下げた。

 近くで見ると、驚くほど整った顔立ちをしている。大きなエメラルドグリーンの瞳には、一切の悪意も驕りもない。

 ただ純粋に、自分の力が強すぎることに困っている「いい子」だった。


「違う、水はかかってない。俺はアドリック。アドでいい。……君は?」

「わ、私はソフィリア。村長のアライアスの孫です。ソフィって呼んでください」


ソフィ。

 村長の孫娘か。どうりで服が良いわけだ。


「ソフィ、君のその魔法……いつもあんな威力が出るのか?」

「……はい。お祖父様には、危ないから外で魔法を使っちゃ駄目って言われてるんですけど……どうしても、お魚を捕まえたくて……」


ソフィはシュンと肩を落とした。

 彼女の目には、自分の持つ規格外の才能が「持て余す厄介なもの」に映っているらしい。


だが、俺の目には違った。

 前世の、すれっからしの経営者としての血が、ドクンと音を立てて脈打った。


(なんだこの、歩く超優良物件は……!!)


圧倒的な火力。底知れない魔力総量。

 俺が喉から手が出るほど欲しかった「力」のすべてが、目の前の少女に詰まっていた。

 嫉妬? そんなもの湧いてくるはずがない。

 俺の頭の中では、既に猛烈な勢いでソロバンが弾かれていた。


俺には力がない。だが、魔法の精密なコントロールと、前世の「知識マネジメント」がある。

 こいつには力がある。だが、出力調整が下手で、使い道を知らない。


(俺が、こいつの『照準器スコープ』になれば……?)


強大な大砲に、精密なレーダーシステムを搭載するようなものだ。

 パズルのピースが、カチリとはまる音がした。

 俺一人の手札が弱いなら、強い手札を持っている奴を巻き込めばいい。それが「組織パーティ」の基本だ。


「ソフィ」

「は、はい!」


俺は、満面の笑みを浮かべて、彼女に右手を差し出した。

 前世で、有望な取引先を見つけた時の、あの極上の営業スマイルで。


「魚を捕りたいなら、俺が手伝うよ。君のその魔法、俺の『作戦』と一緒に使えば、村中の魚を根こそぎ捕れるぜ?」

「え……? 作戦……?」


ソフィはきょとんと目を丸くしたが、やがてパァッと顔を輝かせた。

 彼女の太陽のような笑顔を見た瞬間、俺の「持たざる者としての生存戦略」の第一歩が、力強く踏み出されたのだった。

お読みいただきありがとうございます!


持たざる者であるアドが、圧倒的な才能(大砲)を持つソフィと出会ったことで、彼自身の「参謀」としての道が開き始めました。自分の弱さを自覚した上で、仲間の才能を最大化していくのが本作のアドの戦い方になります。


次回は、もう一人の重要な相棒が登場予定です。

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