第30話 盤面の決着と、知将の置き土産
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前回、アドの冷徹な誘導によって起動した、地下に仕込まれたルッツ特製の『巨大スパイク陣』。そして最前線では、大砲から物理戦士へと覚醒したソフィとロイドが、ついに巨大キメラの『赤い核』へと到達しました。
いよいよ防衛戦も最終局面!
極限状態の彼らが迎える、死闘の結末とは。
第30話、開幕です!
「アドくんの村から……出ていけえええええッ!!」
最前線。満身創痍のロイドとソフィが、ついに巨大キメラの肉の壁を切り開き、巨大な『赤い核』の眼前に到達していた。
ソフィが、純白の勇者の剣を大上段に振りかぶる。
だが、その死角――えぐり取られた肉の壁の奥から、キメラが隠し持っていた『巨大な顎』が、二人を背後から丸呑みにしようと急襲した。
ソフィは攻撃のモーションに入っており、ロイドも体勢を崩している。回避は絶対に間に合わない。
(――しまっ!)
ソフィの翠玉の瞳が見開かれた、その瞬間。
「俺は、アドの盾だッ!!」
二人の背後。死の顎との間に、雪を蹴立てて一人の少年が割って入った。
猛毒によって全身の血管を黒く浮き立たせ、立っているのもやっとの限界状態のはずのレイだった。
「アドの大切なものは……俺が全部守るッ!!」
血を吐くようなレイの咆哮。
彼は数万トンの質量を持つ巨大な顎を、力で受け止めようとはしなかった。彼が見切ったのは、キメラの『噛み砕くベクトル(軌道)』の重心。
レイは、極限の動体視力で顎の関節の僅かな隙間に双剣『マングーシュ』を滑り込ませ、その理不尽な暴力を、完全に上空へと逸らした(パリィした)のだ。
ガァァァァァンッ!!
牙が空を切り、キメラの巨体が大きく天を仰ぎ、完全に体勢が崩れる。
進化した盾が、最強の敵のヘイト(攻撃)を完全にコントロールした瞬間だった。
「よくやったレイ!! ソフィちゃん、今だッ!!」
「はいッ!!」
レイが命懸けで作ったコンマ数秒の隙。
ロイドが大剣で肉の壁を完全にこじ開け、ソフィが振りかぶった勇者の剣に、自身の内側に圧縮していた無尽蔵の魔力を『極大の光の刃』としてエンチャント(付与)する。
物理的な大斬撃と、ゼロ距離で解放された極大レーザーの融合。
それは、キメラの『赤い核』に直撃し、ガラス細工のように粉々に打ち砕いた。
断末魔の咆哮と共に、数万の死骸を繋ぎ止めていたキメラは、ただの肉塊の山となって雪の広場へと崩れ落ちた。
†
一方、アドが起爆した『地下スパイク陣』の直上。
ズドォォォォンッという轟音と共に吹き上がった土煙が、冷たい猛吹雪によって徐々に晴れていく。
そこには、何十本もの鋼鉄の巨大杭に全身を串刺しにされ、空中に縫い留められた男の無惨な姿があった。
しかし。
「……てめぇ、どこまで腐ってやがる」
血まみれで雪に這いつくばるアドが、忌々しげに悪態をついた。
串刺しになっていたのは、ザイラスではなかった。それは、先ほどレイに敗れ、広場の泥沼トラップで頭から突っ込んで身動きが取れなくなっていた『側近A』の死体だったのだ。
「……がはっ、げふっ……!」
スパイク陣から数メートル離れた雪の上。
知将ザイラスが、大量の血を吐き出して膝をついていた。
彼はスパイクが足元から突き上げる直前の『コンマ数秒』の差で、泥沼で無力化されていた側近Aを身代わりとし、自身との位置を強制的に入れ替える特殊魔法を使用し、即死を免れたのだ。
「……見事な罠だ、若き司令官。あとコンマ一秒でも判断が遅れていれば……あの杭で串刺しだったのは、私の方だったな」
即死は免れたものの、ルッツの罠の余波と、無理な身代わり魔法の反動により、ザイラスの身体はボロボロだった。もはや、満足に剣を振るうことすらできないほどの深手を負っている。
ザイラスがゆっくりと顔を上げる。
そこには、肋骨を折り血みどろのアド、限界を超えて膝をつくレイ、魔力と体力を使い果たしたソフィとロイド、そして魔力切れで息も絶え絶えのハンナがいた。
全員が、立っているのもやっとの極限の状態。
それでも、彼らの瞳の光は死んでおらず、鋭い殺意でザイラスを完全に包囲していた。
「……完全に私の負けだ、司令官。これ以上の戦闘は、リスクに見合わん」
知将ザイラスは、冷徹に盤面を計算し、ついに『撤退』を決断した。
軍勢は全滅。側近も死亡。自身も致命傷一歩手前。対して、眼前の「家族」はボロボロだが、いまだに折れない牙を突きつけてきている。
「だが……ただでは帰らんぞ!!」
魔王軍の将として、無様に逃げ帰ることは許されない。
ザイラスは残った全魔力と自身の寿命を削り、目眩ましと破壊を兼ねた『超極大の暗黒球』を上空に生成し、村へ向けて放ちながら空間転移の魔法を発動させた。
「全員、総力で迎撃しろ!!」
アドの号令。
ハンナの最後の魔法障壁、レイの双剣による受け流し、ロイドの渾身の斬撃、ソフィの光の剣、そしてアドの魔導銃からの凶弾。
全員の残りの力が一つに結集し、迫り来る暗黒球を空の彼方へと強引に弾き飛ばした。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!
弾き飛ばされた暗黒の魔法が、大空で巨大な爆発を起こす。
その閃光が収まった時、広場にはただ猛吹雪の音だけが残り、知将ザイラスの気配は、村から完全に消え去っていた。
「……はぁっ、はぁっ……」
東の大山脈から、眩い朝陽が差し込み始める。
圧倒的な戦力差を覆した防衛戦が、ついに終わったのだ。
「終わった……終わったわよ、あなた!」
「ああ……俺たちの勝ちだ!」
ハンナがへたり込み、ロイドが大剣を杖にして天を仰ぐ。
レイとソフィは、泥だらけの顔を見合わせて笑い合い、雪の上に仰向けに倒れ込んでいるアドの元へと駆け寄った。
「アドくん……私たち、勝ったよ!」
「アド……あんたの盤面、最高だったぜ……っ!」
ぼろぼろの親友たちを見上げながら、アドは血に染まった手で二人の拳とハイタッチを交わした。
「……ああ。全員生還。最高の仕事だったぜ、お前ら」
リビエラ村の朝陽に照らされ、彼らは勝利の安堵に包まれた。
†
同じ頃。
カメラは切り替わり、リビエラ村から遥か遠く離れた、大山脈の険しい尾根。
ピシッ、と空間が歪み、空間転移で逃げ延びたザイラスが、雪の上へと無様に転がり落ちた。
「がはっ……ごほぉっ……!!」
致命傷に近い深手。口から溢れ出る大量の血が、純白の雪を赤く染め上げていく。
しかし、雪に這いつくばる知将の目は、いまだギラギラと暗い光を放っていた。
彼は、遥か眼下に小さく広がるリビエラ村を――勝利の喜びに沸くアドたちを、高い尾根から冷たく見下ろした。
そして、血に染まった口元を歪め、不敵に嗤う。
「……見事な盤面だった。一介の村人に、ここまで追い詰められるとはな」
ザイラスの冷酷な声が、吹雪に溶けていく。
「だが……司令官、ただでは帰らんと言ったはずだ」
それは、ただの負け惜しみではない。
知将がこの村に残した『見えない爪痕(置き土産)』の存在を明確に暗示する、最悪の呪いのような宣告だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
これにて、長かったリビエラ村防衛戦編、ついに完全決着です!!
猛毒を気合いでねじ伏せ、自分が死にかけているのに「アドの大切なものは俺が守る!」と飛び出してきたレイ。最高の相棒(盾)へと覚醒した瞬間でした。
そしてザイラス……!泥沼にハマっていた部下を身代わりにして即死を免れるという、魔王軍の将にふさわしい冷徹な生存戦略を見せました。
全員が限界を超えた状態から、最後の置き土産(暗黒球)を力を合わせて弾き飛ばすシーン、書いていて最高に熱くなりました!
……しかし、最後のザイラスの不吉な嗤い。
「ただでは帰らん」と言った彼の真意とは。村に残された見えない爪痕とは何なのか。
平和な朝陽の中で、新たな波乱の幕開けを予感させて、次回へと続きます!
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