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第29話 泥濘(でいでい)の死闘と、剣士の覚悟

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、分断の危機をそれぞれの意地と機転で乗り越え、再び村の広場へと集結したアドたち。

しかし、防壁は崩壊し、目の前には圧倒的武力を持つ知将ザイラスと、数万の魔王軍の死骸を取り込んで肥大化し続ける『巨大キメラ』が立ちはだかっています。


今回は、アドの「最強の家族経営」の総力戦!

大砲の効かない絶望的な肉山に対し、ソフィが下した決断とは?

そして武力を持たないアドは、知将ザイラスといかにして渡り合うのか。


全員が限界ギリギリの死闘を繰り広げる、第29話の開幕です!

崩壊した防壁の残骸が散乱する、リビエラ村の広場。

 猛吹雪が吹き荒れる中、数万の魔物の死骸を継ぎ接ぎした『巨大キメラ』が、おぞましい咆哮を上げて蠢動しゅんどうしていた。

 そしてその傍らには、冷徹な殺気を放つ知将ザイラスが、静かに剣を抜いて立っている。


「パパ、ソフィ! あのデカブツ(キメラ)の解体をお願い! ママはレイの治療を最優先!」


アドは通信魔導具ではなく、猛吹雪に負けない生の声で、仲間たちへ即座にタスクを割り振った。

 そして、無骨な魔導銃の銃口を、真っ直ぐにザイラスへと向ける。


「……将軍サマの相手は、俺が引き受ける」


その采配を聞き、ザイラスは鼻で嗤った。


「無謀な采配だな、若き司令官。数万の死肉の集合体であるあのキメラは、魔法も物理も飲み込む。あの異常な手練れの剣士と勇者だろうが、いずれスタミナを削り切られて圧殺される。……そして武力を持たぬ貴様は、数秒で私に首を刎ねられる。愚の骨頂だ」

「やってみなきゃ分からねえだろ」


アドは冷や汗を流しながらも、不敵に笑い返す。


「俺の『家族(社員)』は、あんたの計算式ロジックには収まらないぜ」



アドの宣言と共に、前線では巨大キメラと、ロイド・ソフィの死闘が幕を開けていた。


『ギシャァァァァァッ!!』

「させるかァッ!!」


巨大な丸太のような肉の触手が振り下ろされるのを、ロイドが大剣で真っ向から斬り飛ばす。

 しかし、ザイラスの予言通り、キメラの自己再生能力は異常だった。斬り落とされた端から、取り込んだ数万の死骸の肉がゴボゴボと湧き上がり、瞬く間に新しい触手となってロイドに襲いかかる。


「ダメです! 遠くから撃っても、外側の肉に魔力が散らされて『核』まで届きません!」


後方からソフィが純白のレーザーを放つが、キメラは無尽蔵の死肉を強引に盾として押し出し、表面を焦がすだけで即座に再生してしまう。

 ソフィを守りながら、最前線で無限に迫り来る肉の壁を斬り続けるロイド。その呼吸は徐々に荒くなり、ルッツが精錬した強固な超合金の鎧すら、度重なる衝撃でひしゃげ、隙間から血が滲み始めていた。


「ロイドおじ様!」


ロイドが庇い切れなかった肉の棘が、ソフィの肩や頬を掠め、彼女の白い肌から赤い血が流れる。

 防戦一方。ジリ貧。このままではスタミナを削られ、圧殺される。


(アドくんの作戦タスクを、失敗させるわけにはいかない……!)


ソフィの翠玉の瞳に、決死の覚悟が宿った。

 彼女は、魔法を撃つためのスタンス(砲台)を解除し、純白の剣の柄を両手で強く握り直した。


「ロイドおじ様、私が行きます!」


ソフィは、自身の内から湧き出る無尽蔵の魔力を、外への放出(魔法)ではなく、自身の体内へと向けた。

 ――『超圧縮・身体強化』。

 彼女の脳裏には、村の広場でロイドから受けていた、地獄の剣術特訓の記憶が鮮明に蘇っていた。


『ソフィちゃん、魔法に頼りすぎちゃダメだぞ! いざって時は、その無尽蔵の魔力で身体をバキバキに強化して、剣で直接ぶん殴るのが一番早い!』


「アドくんを守るためなら……私、なんだってやりますッ!!」


ソフィは雪を蹴り立て、ロイドの隣――最前線へと躍り出た。

 そして、迫り来る巨大な肉の触手を、ロイド直伝の完璧なフォームで、大上段から力任せに振り下ろした純白の剣で『物理的に』真っ二つに叩き斬った。


「はっは! いい太刀筋だ、ソフィちゃん! 遅れるなよ!」

「はいっ!!」


大砲から、超火力と膂力を併せ持つ『物理戦士』への覚醒。

 血と泥にまみれた師弟のツープラトンが、無限に迫り来る肉の壁をミンチに変えながら、強引にキメラの『赤い核』へと肉薄していく。



その頃、広場の端では、ハンナがレイの肩口に手を当て、最高位の解毒魔法である黄金の光を流し込み続けていた。

 しかし、魔王軍最高峰の暗殺者が使った猛毒は、レイの神経を深く侵食していた。


「がはっ……げほっ……!」


ドス黒い血を吐きながら、レイは雪の上で苦悶に身を捩らせる。

 ぼやける視界の向こうで、ロイドとソフィが血みどろになってキメラの肉山に挑む姿が見える。そして、アドがザイラスの圧倒的な暴力の前に、雪の上を転がり回る姿が。


「俺が……俺が、盾にならないと……アドが……みんなが……っ!」


レイは激痛に耐え、無理やり双剣を握って立ち上がろうとした。

 しかし、ハンナがその肩を力強く押さえつけ、雪の上に引き戻した。


「焦らないで、レイ!」

「でもっ……!」

「今、毒が回りきったあなたが行っても、犬死にするだけよ。……アドを信じなさい」


ハンナは、血を吐くレイの目を真っ直ぐに見据えた。


「あの子が作る『最後の盤面』には、必ずあなたの力(盾)が必要になる。それまで、何がなんでもこの毒に打ち克ちなさい!」



――ガァァァァンッ!!


重い金属音が響き、アドの身体が雪の広場をボールのようにバウンドして転がった。

 魔導銃から放った魔力弾は容易く弾かれ、牽制のワイヤーは斬り裂かれる。知将ザイラスの高速の剣技と高度な魔法の前に、武力を持たないアドは完全に手玉に取られ、文字通り『蹂躙』されていた。


「がはっ……!」


ザイラスの蹴りを腹部にモロに受け、アドは血反吐を吐き出す。

 肋骨が数本折れ、全身が悲鳴を上げている。満身創痍。もはや立っているのもやっとの状態だ。


「どうした、司令官。貴様の盤面は、もうズタボロだぞ」


ザイラスが、虫ケラを見下ろすような冷酷な目で、歩み寄ってくる。


「小賢しいガジェットや逃げ回るだけの足運び……。貴様の小細工など、私の力の前では時間稼ぎにもならん」

「……へへっ」


だが。

 血まみれで雪に這いつくばったアドの顔には、この期に及んで『最悪の営業スマイル』が浮かんでいた。


「逃げ回ってた? ……違うな」


アドは、震える手で懐から一つの『起爆スイッチ(タクト)』を取り出した。


「あんたの足の運び、剣のリーチ、魔法のタイミング……全部、俺の身体を使って『データ』を取らせてもらったぜ」

「……何?」


ザイラスが初めて、足元に微かな『地鳴り』のような違和感を覚えた。

 アドはただ無様に逃げ回っていたのではない。ザイラスの圧倒的な攻撃をその身で受け、血を流し、骨を折りながら……敵将を広場の「ある一点」へと、ミリ単位で誘導し続けていたのだ。


万が一、防壁を突破された時のための『最終防衛線』。

 ルッツが村の広場の地下に仕込んでおいた、対・大型魔物用の隠し罠の真上へと。


「あんたを『ここ』に立たせるために、俺のリスクをベット(投資)してたんだよ」


アドは血に染まった歯を見せて嗤い、起爆スイッチを深く押し込んだ。


「――串刺し(パージ)だ」


ズドォォォォォォォォォォンッ!!!!


ザイラスの足元の岩盤が内側から爆発した。

 偽装されていた雪と土が吹き飛び、ルッツ特製の強力なドワーフ式スプリングが解放される。

 広場の地下から、何十本もの『凶悪な鋼鉄の巨大杭スパイク』が、逃げ場のないゼロ距離から猛烈な速度で真上へと射出され、知将の身体を下から完全に飲み込んだ。


その瞬間、戦場のすべての時間がピークに達した。


アドの決死のトラップがザイラスを飲み込むのと同時。

 最前線では、満身創痍のロイドとソフィが、ついにキメラの肉の壁を切り開き、巨大な『赤い核』の眼前へと到達していた。

 ソフィがトドメの剣を振りかぶる。だが、その死角から、キメラの隠し持っていた巨大なアギトが、二人を丸呑みにしようと急襲する。


そして広場の端。

 猛毒で苦しんでいたレイの指先が、ピクリと動き、雪に突き立てた双剣の柄を、力強く握りしめた。


全員の死闘が、生と死の境界線で交差する。

 血塗れの盤面の決着は、次なる瞬間へと持ち越された。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


泥だらけの死闘、いかがだったでしょうか!

大砲(魔法)が通じない相手に、自らスタンスを変えてゴリゴリの近接戦闘に持ち込むソフィ。ヒロインらしからぬ物理無双ですが、ロイドパパの教えがしっかり活きています(笑)。


そしてアド!武力を持たない彼らしい、身を削っての誘導と容赦ない地下トラップ。TDタワーディフェンスの王道にして殺意MAXの串刺し陣が、ついに知将に牙を剥きました。


全員の死闘がピークに達した瞬間でのクリフハンガー。次回、いよいよこの防衛戦に完全決着がつきます!

スパイクに飲み込まれたザイラスは!? 死角から急襲されたソフィたちは!? そしてレイは!?


次回も熱い展開をお届けしますので、「物理ソフィ熱い!」「アドの罠えげつない!」「早く続きを!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!

読者の皆様の応援が、執筆の最大の励みになります!

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