表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/31

第28話 盤面(ボード)の再構築と、CEOの『ブラフ』

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、知将ザイラスの「一番やりたくなかった切り札(人工モンスターの核)」と、側近たちの命懸けの暗殺術によって、アドが築き上げた完璧な連携が強制的に分断されてしまいました。


レイは毒刃を受け、ソフィは吹き飛ばされ、そして武力を持たない司令塔のアドは、圧倒的格上のザイラスに刃を突きつけられ『チェックメイト』を宣言されてしまいます。


今回は、その絶体絶命の盤面から始まります。

手足をもがれた司令官に、逆転の手札は残されているのか?

14歳の親友たちが見せる、意地と絆の第28話です!

猛吹雪の吹き荒れる防壁の上。

 背後から音もなく転移してきた知将ザイラスの冷たい刃が、アドの首筋にピタリと当てられていた。


「チェックメイトだ、若き司令官」


氷のようなザイラスの宣告。

 アドの首筋を一筋の冷や汗が伝う。心臓は警鐘を鳴らすように早鐘を打っているが、中身が42歳の元経営者である彼の脳髄は、この極限状態の中で異常なほど冷徹に『生存ルート』を計算し始めていた。


(パニックになるな。相手は感情で動く獣じゃない。極めてロジカルな『知将』だ)


ザイラスは、アドの首を即座に刎ねることはしなかった。

 彼は眼下で巨大キメラと死闘を繰り広げるロイドたちを一瞥し、そしてアドへと冷たい視線を戻した。


「……辺境の小村にしては、あまりにも見事なシステムだ。貴様がこの防衛陣を設計し、あの手練れたちを指揮しているのだろう。どうだ、無駄な抵抗をやめ、我が軍の軍師として遇される気はないか?」


敵将からの、まさかのヘッドハンティング(買収提案)。

 その言葉を聞いた瞬間、アドの口角が自然と吊り上がった。


(……勝ち筋ルート、見つけたぜ)


アドは首筋の刃に怯えることなく、悪徳企業に買収を仕掛けるCEOのような『極上の営業スマイル』を浮かべて嗤った。


「お断りだ。それに……あんたは大きなミスをした。交渉なんか持ちかけず、今すぐ俺の首を刎ねるべきだったな」

「……何?」

「あんたみたいな頭のいい将軍なら、不思議に思わなかったか? なぜ、この泥を固めただけの防壁が、あんたの軍勢の猛攻や、さっきの極大レーザーの反動に耐えられているのかって」


アドの言葉に、ザイラスの眉が微かに動く。


「この要塞の土壁は、すべて俺の魔力を『接着剤』にして、俺の心臓とリンクさせて強制的に繋ぎ止めている。俺の心肺が止まり、要塞への魔力の循環が絶たれれば……この巨大な防壁は一瞬で液状化して崩落し、何万トンもの土砂があんたとあのキメラを生き埋めにする『デッドマンズ・スイッチ』になっているんだよ」


完全なハッタリ(ブラフ)だった。

 確かにアドの魔力で泥パテを硬化させてはいるが、彼の少ない魔力で、体から離れた巨大要塞全体に常に魔力を循環させ続けるなど絶対に不可能だ(一度固まった泥は、彼が死のうが固まったままである)。


しかし、ザイラスはアドの正確な魔力総量を知らない。常に費用対効果とリスクを計算するロジカルな『知将』だからこそ、その合理的な嘘の真偽を判定するために、思考がほんの一瞬(コンマ数秒)だけ硬直した。


(――今だッ!!)


その隙を見逃さず、アドは足元にルッツ特製の『閃光弾ガジェット』を叩きつけた。

 炸裂する強烈な光と音。


「チッ……小賢しい真似を!」


ザイラスが顔をしかめ、刃を振り抜いた時には遅かった。

 アドはすでに腰のワイヤー射出機を壁の縁に引っかけ、自ら防壁の下(村の内側)へと躊躇なく身を投げていた。

 武力のない司令官が、自身の能力の弱点を逆手にとった『嘘』だけで、圧倒的格上の知将の刃から死地を脱した瞬間だった。



同じ頃、防壁の下の村の広場。

 肩口を斬り裂かれ、防壁から突き落とされたレイは、雪の上に膝をついていた。


「はぁっ……はぁっ……」


傷口から側近の刃に塗られていた毒が回り、視界が酷くぼやけている。

 そこへ、追撃のために降り立った側近Aが、暗器の小太刀を両手に構えて音もなく忍び寄る。


「見事な受け流しだったが、目で追えなければ意味がない。死ね、双剣使い」


側近Aは、レイの『絶対回避』の弱点――「情報処理が追いつかないほどの手数」を見抜き、分身するかのような超高速の乱撃を仕掛けてきた。

 毒で視界が揺れる中、無数の凶刃がレイを切り刻もうと迫る。


しかし、レイの心は折れていなかった。

(俺は、アドに『最強の盾』という役割をもらったんだ。……俺がここで倒れたら、誰があいつの背中を守るんだ!)


レイは深く息を吐き、異常な動体視力の『ピント』を切り替えた。

 迫り来る無数の刃の軌道を追うのではない。彼が見据えたのは、暗殺者の体の中心――『重心』だった。


レイはあえて回避行動をとらず、無数の凶刃が迫る懐へと自ら飛び込んだ。

 そして、交差させた双剣『マングーシュ』の腹を、敵の武器ではなく、踏み込んできた側近の『足元の重心バランス』に対して滑らせたのだ。


「なっ……!?」


自らの超高速の猛攻の勢いを完全に逆利用され、足元の重心をわずかに逸らされた側近Aは、無様に体勢を崩して宙を舞った。

 そして、その放り出された先は――アドが事前に村の広場に仕掛けておいた『底なし泥沼トラップ』のど真ん中だった。


「ガボッ!? ごぼぼぼっ……!」


暗殺者は自らの勢いのまま泥沼に頭から突っ込み、身動きが取れずに完全に無力化された。

 進化した盾の矜持が、凶悪な暗殺術を上回ったのだ。



一方、防壁の遥か遠くへ蹴り飛ばされていたソフィ。

 彼女が立ち上がるよりも早く、追撃してきた側近Bが、その死角から音もなく肉薄していた。


「もらったぞ、勇者」


側近Bの判断は暗殺者として極めて正しい。

 先ほど数万の軍勢を消し飛ばした規格外の勇者。あのような極大の光の魔法レーザーは大振りであり、発射のモーションさえ潰して懐に潜り込めば、脆い魔法使いなど近接戦闘で容易に屠れる。

 側近Bの毒刃が、ソフィの首筋へ向けて容赦なく突き出される。


――しかし、彼には決定的な誤算があった。

 トドメの刃が迫る中、ソフィは焦って魔法を撃とうとはしなかったのだ。


彼女の脳裏に、村の広場でアドの父・ロイド(元Aランク剣士)から受けていた、地獄の剣術特訓の日々がよぎる。


『ソフィちゃん、魔法に頼りすぎちゃダメだぞ! 敵に懐に入られたら、その無尽蔵の魔力で身体をバキバキに強化して、剣で直接ぶん殴るのが一番早い!』


「アドくんを……アドくんのところに、戻らなきゃ……!」


ソフィは、純粋で重すぎる愛情から湧き出る無尽蔵の魔力を、魔法の放出ではなく『超圧縮した身体強化』へと全振りした。

 そして、ルッツが砲身として打った重厚な勇者の剣を、ロイド直伝の完璧なフォームで、大上段から力任せに振り下ろしたのだ。


「邪魔は、させないっ!!」


「……は?」


魔法の迎撃を警戒し、回避行動をとろうとしていた側近Bは完全に意表を突かれた。

 彼が突き出した暗殺者の細い刃は、ソフィの理不尽な膂力と、Aランク剣士直伝の剣技が乗った『ただの物理的な大斬撃』によって、ガラス細工のように粉々に粉砕された。


「ごふぁっ!?」


さらに剣圧の衝撃波だけで、側近Bの体は数十メートルも後方へ吹き飛ばされ、防壁の残骸に激突して完全に気絶した。

 大砲だと思っていた勇者の中身が、ゴリゴリの近接物理戦士(ロイドの弟子)だったという、暗殺者にとって最悪の絶望だった。



ワイヤーで落下を耐え、雪の積もる村の広場へと着地したアド。

 首筋からはタラリと血が流れていたが、彼の瞳には確かな勝利への執念が燃えていた。


「アドくんっ!」

「アド……無事、か……っ」


そこへ、息を切らせたソフィが、顔を青ざめさせて足を引きずるレイに肩を貸しながら、ふらふらと歩み寄ってきた。

 レイの顔には玉のような汗が浮かび、毒のせいで自力で立っているのもやっとの極限状態だ。それでも、二人の瞳にはアドを守るという強い意志が宿っていた。


「……ああ、最高だ。レイ、よく耐えてくれたな。あとは俺に任せて少し休んでろ」


アドは、ボロボロになりながらも自力で死地を脱し、自分の元へ帰還してくれた14歳の親友たちを見て、震える声で笑った。


「お前らがいれば、何度だって盤面ボードは作り直せる」


――ズドォォォォンッ!!


その直後、アドたちが立っていた防壁の上部が粉砕され、土煙の中から知将ザイラスがゆっくりと舞い降りてきた。

 ハッタリに気づいた彼の背後には、ロイドとハンナの足止めを強引に振り切った、巨大キメラのおぞましい姿が迫っている。


「小賢しいブラフを……。だが、結果は変わらんぞ。防壁は破られ、貴様らは丸裸だ」


圧倒的な質量と死のプレッシャーを放つザイラス。

 しかし、アドは一歩も引かなかった。

 彼は再集結した親友たちと、背後から駆けつけてきた両親ロイド・ハンナを背に従え、無骨な『魔導銃』を真っ直ぐにザイラスへと向けた。


「いいや、俺の『家族経営』はここからが本番だ」


アドは不敵に嗤う。


「第二ラウンドの始まりだぜ、将軍サマ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


絶体絶命の分断から、無事に三人が合流できました。

大砲(魔法使い)だと思っていた勇者の、まさかの物理カウンター。ソフィはロイドパパの特訓のおかげで、近接戦闘もバッチリこなせるゴリラ……もとい、立派な戦士に育っています(笑)。


ハッタリで死地を脱したアドと、毒に耐え抜いたレイも合流し、いよいよ盤面は最終局面へ。

次回、防壁を失った村の広場を舞台に、アドたちの「最強の家族経営」と知将ザイラスの総力戦が始まります!


「ソフィの物理カウンターに笑った!」「ここからの反撃に期待!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!

皆様の応援が、執筆の最大のエネルギーになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ