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第27話 知将の反手(カウンター)と、最悪の『分断』

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、14歳に成長したソフィの「アドへの重すぎる純愛」を圧縮した極大レーザーによって、すり鉢状のキルゾーンに密集した数万の魔王軍本隊が一瞬にして蒸発しました。


しかし、圧倒的な勝利の余韻に浸るリビエラ村をよそに、後方の安全圏からその光景を冷徹に観察していた知将ザイラスは、全く心を折られていませんでした。


今回は、盤面を強引にひっくり返すザイラスの「一番やりたくなかった切り札」と、恐るべき直属の側近たちが動き出します。

アドが数年かけて築き上げた「完璧な連携」が、初めて分断される絶望の第27話、開幕です!

リビエラ村への進入路であったすり鉢状の地形は、ソフィの放った純白の極大レーザーによって巨大なクレーターと化し、数万の魔王軍は黒焦げの残骸ゴミへと成り果てていた。


その凄惨な戦跡から遠く離れた、後方の雪山の尾根。

 猛吹雪が吹き荒れる中、戦況を俯瞰していた知将ザイラスのもとに、空間が歪み、音もなく二つの黒い影が降り立った。


影は雪の上に静かに片膝をつく。

 彼らはザイラスの直属の側近。隠密行動と暗殺に特化した、魔王軍の中でも最高峰の手練れたちだ。ザイラスとは別の角度から、村の防衛陣の「システム」を綿密に観察・分析していたのである。


「……報告せよ」


ザイラスが短く促すと、側近の一人が頭を垂れたまま、機械のように正確な報告を始めた。


「ハッ。前線で数万の群れを押し留めていたのは、異常な技量を持つ男女の二人組。彼らの足止めがなければ、あの防衛陣は成立しません。そして、絶対回避の双剣使いと、先ほど一撃で我が軍を消し飛ばした規格外の勇者……いずれも恐るべき個の武力です」


「だが」と、もう一人の側近が言葉を継ぐ。


「将軍。我々の見立てでは、あの防衛陣において『最も警戒すべき存在』は、前線の武力ではありません」


側近は、猛吹雪の向こう側――防壁の上で、村人たちに指示を出し続けている黒髪の少年を指差した。


「防壁の上から戦場全体を俯瞰し、あの手練れたちを完璧なタイミングで動かし、罠の連鎖を指揮している『黒髪の少年』……。奴こそが、この盤面を支配する司令塔(頭脳)です。奴を排除しない限り、あの村の防衛システムは崩壊しません」


ザイラスは冷たく目を細め、小さく頷いた。

 彼自身の見立てとも、完全に一致していたからだ。いかに強力な駒があろうとも、それを運用するプレイヤー(頭脳)を盤面から退場させれば、組織は必ず瓦解する。


「……双剣使いのガキと、あの規格外の勇者。あの二人を、お前たちでやれるか?」


ザイラスの静かな問いに、二人の側近は一切の躊躇なく、深く首を垂れた。


「一命に代えましても、必ずや将軍の御為に」


その覚悟の言葉を聞き届け、ザイラスは忌々しそうに、白く凍てつく息を細く吐き出した。


「西方将軍(あの女狐)の玩具に頼るなど、私の美学に反する一番やりたくない作戦だったがな」


そう呟きながら、ザイラスは懐から『それ』を取り出した。

 出陣前、同僚である西方将軍から「お守り」として押し付けられていた切り札。赤黒い瘴気を放ち、まるで生き臓器のようにドクドクと脈打つ、手のひらサイズの『人工モンスターの核』。


「だが、あの娘の光のおかげで、極上の『餌』が大量に散らばった。……盤面をひっくり返すには、十分すぎる手札だ」


ザイラスは、眼下に広がる巨大なクレーター――数万の魔物の黒焦げの死骸が積み重なる死地キルゾーンへ向けて、その『核』を無造作に放り投げた。

 そして、暗殺へと向かう側近たちに背を向け、自身もゆっくりと防壁へと向かって歩み始める。


「お前たちは、盾と大砲を引き剥がせ。……あの目障りな司令官ガキは、私自ら殺してやる」



「よし、完全に沈黙したな。第一陣の迎撃はパーフェクトだ。……みんな、怪我はないか?」


防壁の上で、アドは通信魔導具越しに仲間たちの無事を確認していた。

 ソフィの規格外のレーザーによって敵の本隊は完全に消滅。村の被害はゼロだ。完璧な勝利の空気が、防壁を包み込もうとしていた。


しかし、アドの背筋に冷たい汗が伝った。

 前世で幾度も修羅場をくぐり抜けてきた経営者としての経験、そしてこれまでの戦場での観察からくる、強烈な『違和感(嫌な予感)』だった。


(……おかしい。これだけの規模の軍勢を動かす指揮官が、ただ力任せに突っ込ませて全滅するような『無策』なわけがない。……何か、裏がある)


『ブクッ……ブブブッ……ジュルルルルルッ……』


眼下のクレーターから、水が沸騰するような、いや、肉が泥のように溶け合うようなおぞましい音が響き始めたのだ。

 アドが慌てて防壁の下を見下ろすと、ソフィのレーザーで黒焦げになったはずの数万の魔物の死骸が、謎の『赤い核』を中心にして、ドロドロの肉の泥となって集束していく光景が広がっていた。


「な、なんだあれ!? 死体が……合体してる!?」

「くそっ、死体を利用するなんて手札カードが隠されていたのか……!」


アドが顔を強張らせた次の瞬間、クレーターを埋め尽くすほどの質量を持った、おぞましい肉塊のキメラ(人工モンスター)が産声を上げた。

 数万の魔物の怨嗟と残骸を継ぎ接ぎした、理不尽な暴力の塊。それが、無数の触手と巨大な腕を振り乱しながら、防壁へ向かって突進してくる。


「パパ、ママ! あいつはデカすぎる、村に入れないように前線で足止めをお願い!」

『くそっ、なんてデタラメな化け物だ! 任せろアド、一歩も通さねえ!!』


大剣を構えたロイドと、障壁を展開するハンナが、巨大キメラの猛攻を正面から受け止める。

 しかし、数万の質量を圧縮したキメラの攻撃は苛烈を極め、二人はその場に完全に釘付けにされてしまった。


「ソフィ! もう一発、あいつの核(中心)を狙えるか!?」

「は、はいっ! やってみます!」


ソフィが再び純白の剣を構え、魔力を練り上げようとした、その時だった。

 キメラの背中から無数に生えた触手のうちの数本が、防壁の上にいるアドたちめがけて鞭のようにしなり、強襲してきたのだ。


「させないよっ!」


レイが前に飛び出し、双剣『マングーシュ』を交差させる。

 ――カツンッ! ギィンッ!

 凄まじい質量の触手攻撃を、レイの『絶対回避パリィ』が完璧に逸らし、軌道をずらす。


――だが、その「巨大な質量を逸らした直後の一瞬の硬直」。

 それこそが、潜んでいた『最悪の刺客たち』が狙い澄ましていた、唯一無二の死角だった。


「しまっ――レイ、上だ!!」


アドの叫びと同時。

 レイの頭上の空間が歪み、音もなく現れた側近の一人が、毒の塗られた凶刃をレイの首筋へ向けて振り下ろした。

 巨大な触手を逸らした直後のレイは、完全に体勢を崩している。自らの命と引き換えにしてでもレイの命を奪うという、特攻にも等しい暗殺の一撃。


「くっ……!」


レイは間一髪で体を捻り、致命傷を避けたものの、肩口を深く斬り裂かれ、その衝撃で防壁の下(村の内側)へと突き落とされてしまった。

 彼を追って、側近の一人も壁の下へと飛び降りる。


「レイくん!!」


ソフィが悲鳴を上げ、魔法の照準を側近へ向けようとした瞬間、彼女の背後の影から、もう一人の側近が音もなく立ち上がった。


「もらった、勇者」


側近の蹴りが、魔力を練り上げて無防備になっていたソフィの腹部に深々と突き刺さる。

 「きゃああっ!」という悲鳴と共に、ソフィは防壁の上を数十メートルも吹き飛ばされ、アドから完全に引き離されてしまった。側近は追撃をかけるべく、音もなく彼女との間合いを詰める。


レイは防壁の下へ。

 ソフィは防壁の遥か彼方へ。

 巨大キメラは両親を完全に足止めし、一切の援護を不可能にしている。


知将が放った「数万の死骸の再利用」と「一命を賭した側近の暗殺術」。

 それは、アドの作り上げた「勝率100%の連携」を強制的に引き剥がし、各個撃破するための『最悪の盤面コントロール』だった。



燃え盛る戦火と、遠くで聞こえる仲間たちの交戦音。

 絶対のレイも、最強の砲台ソフィも失い、たった一人、防壁の上に取り残されたアド。


彼が腰の魔導銃に手をかけようとした、その時。

 背後の空間が揺らぎ、猛吹雪の冷気を纏った『圧倒的な死のプレッシャー』が、音もなく降り立った。


「……見事な連携だった。称賛に値する盤面だ」


振り返る暇すらない。

 アドの首筋に、冷たく鋭い刃がピタリと当てられていた。


「だが、手足コマを捥がれれば、司令官などただの脆弱な人間に過ぎん」


背後に立つ知将ザイラスの声は、氷のように冷たく、そして一切の油断がなかった。

 アド自身の武力では、絶対に抗えない絶望的な戦力差。


「チェックメイトだ、若き司令官」


数年間、盤面を支配し続けてきたアドが、この異世界で初めて『完全に詰まされた(チェックメイト)』瞬間だった。

第27話、いかがだったでしょうか!


今回は、アドの「勝率100%の盤面」が、知将ザイラスの「一番やりたくなかったカウンター」によって崩される絶望の展開でした。

ソフィの極大レーザーを目の当たりにした側近たちは、彼女を「規格外の勇者」と正確に評価。そして、数万の死骸を「人工モンスターの材料(餌)」として利用する冷徹な計算。

さらに、防衛の要が「前線の武力」ではなく「司令塔のアド」であると正確に見抜く側近たちの分析力!


一命を賭した側近たちの暗殺術によって、レイの『絶対回避』の死角を突かれ、ソフィも引き剥がされてしまいました。

完璧な連携を誇っていたリビエラ村の防衛システムが強制的に分断され、ついにアド自身が、武力において圧倒的格上のザイラス将軍と一対一タイマンで対峙することになります!


絶体絶命のピンチ。手足をもがれた司令官に、果たして逆転の「手札」は残されているのか!?

次回、第28話!レイとソフィの死闘、そしてアドの『経営者としての最後の足掻き』にご期待ください!


「ザイラス怖すぎ!」「アド、どう切り抜けるんだ!?」「レイとソフィ、負けるな!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!

皆様の応援が、次回執筆の最大のエネルギーになります!

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