第25話 絶対回避の双剣と、熱き男の約束
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
前回、伝説の元Aランク冒険者夫婦が率いる精強な村人部隊と、理不尽な罠の暴力によって、魔王軍の先陣が一方的に蹂躙される様をお届けしました。ケヴィン隊長たちのドン引き具合も最高でしたね(笑)。
今回は、それに業を煮やした知将ザイラスが放つ「規格外の質量」に対し、アドの右腕である14歳のレイが立ち向かいます。
頭脳チートのアドと、物理チートのレイ。
二人が幼き日に交わした「熱い男の約束」と、完璧な連携コンボが炸裂する第25話のスタートです!
――ガァァァァァァンッ!!
リビエラ村の防壁の前で、鼓膜を破るような激しい金属音が響き渡った。
アドの父親であり、元Aランク剣士のロイドが率いる村の重装歩兵部隊は、鉄壁の陣形を敷き、魔王軍の進撃を完全に食い止めていた。後方からのハンナの完璧な支援魔法もあり、魔族たちはただ徒労に血を流し続けている。
しかし、斜面の中腹からその戦況を冷徹に見据えていた知将ザイラスは、焦るどころか冷酷に口角を吊り上げた。
「辺境の農民にしては異常な練度だ。伝説の冒険者が指揮を執っているとでも言うのか? ……だが、盤面を強引にひっくり返すのは、常に『小細工の利かない圧倒的な質量』だ。出ろ、地中よりの暴君」
ザイラスが指を鳴らした瞬間、雪の斜面が内側から爆発した。
地鳴りと共に現れたのは、獣などではない。全身を鋼鉄の鱗と、芋虫のように不気味な節で覆われた、超巨大な地虫型魔獣『ベヒーモス・ワーム』。大山脈の地底を這い回り、城門すら下から食い破る攻城用の切り札である。
『キシャァァァァァァァァッ!!』
不快な嘶きを上げ、ベヒーモス・ワームがその巨大な多節の体を雪崩のようにくねらせながら、猛スピードで斜面を滑り落ちてくる。
その圧倒的な質量と、物理的な罠を無効化する「這う」進軍の前には、ルッツが精錬した巨大スパイクすらもポキポキと飴細工のようにへし折られた。防壁の上からケヴィン隊長たちが放つ大型のバリスタ(大弓)の矢も、鋼鉄の鱗に弾かれて傷一つ付けられない。
「隊長! ダメです、あの鱗と質量では、下の重装歩兵の陣形でも止められません! 防壁の下を食い破られます!!」
悲鳴を上げる王国騎士。
しかし、防壁の上から斜面を這い下ってくる不気味な巨獣を見据えていたアドの顔に、焦りはなかった。
彼は通信魔導具に口を寄せ、最前線で大剣を構える父親に向かって、息子としての、しかし確かな信頼を込めて叫んだ。
「パパ! お願い、陣を左右に割って、中央に通り道を作って! あいつは力じゃ止められない、地面ごと持っていかれる!」
『おうよ! 総員、陣を割れ! 中央を開けろ!!』
ロイドの号令で、村の若者たちが一糸乱れぬ動きで左右へ分かれ、ベヒーモス・ワームの正面から退避する。
障害物のなくなった一直線の道を、巨大な地虫が防壁を目指して突進してくる。
アドは傍らで静かに息を潜めていた、黒髪の親友に視線を向けた。
命令ではない。唯一無二の相棒への、絶対の信頼を込めた頼み事だ。
「レイ。お前の『目』を、俺に貸してくれないか。……あいつの理不尽を弾き返せるのは、お前だけだ」
「ああ。任せておけ、アド」
14歳のクールな美少年・レイは、腰に差した二振りの特注双剣を静かに抜き放ち、防壁の上からベヒーモス・ワームの真正面へと、単騎で飛び降りた。
†
猛烈な勢いで這い寄る、鋼鉄の節を持つ巨大魔獣。
その圧倒的な死のプレッシャーを前にしても、レイの心は水面のように静まり返っていた。
彼の脳裏には、アドと交わした「二つの過去の記憶」が、鮮明にフラッシュバックしていた。
――一つ目は、まだ彼らが5歳の頃。
生まれつき『異常な動体視力』を持っていたレイは、膨大な視覚情報を処理しきれずにフリーズしてしまい、周囲からは「どんくさい、頼りない子」とレッテルを貼られて孤立していた。
魚捕りの後の宴会の夜。一人で星空を見上げていたレイの背中に、中身が大人だったアドだけが歩み寄ってきた。
アドはレイの異常な目の良さを見抜き、暗闇の中で容赦なく小石を投げつけ、木の棒で弾き落とす『絶対回避』の特訓をいきなり始めたのだ。
『お前は弱くない、レイ』
息を切らすレイに、アドは手を差し出して言った。
『お前は、どんな攻撃も通さない「最強の壁」になれる。俺たちのパーティの要だ』
自分を気味悪がらず、欠点を「最強の役割」へと変えてくれたアド。
レイが震える両手でその手を握り返し、ポロポロと涙を流したあの夜。それが、二人の絶対的な信頼関係の始まりだった。
――そして二つ目は、彼らが11歳の頃。
地下要塞のルッツの工房。
幼馴染のソフィが圧倒的な魔法の才能を開花させる一方で、レイはかつてソフィが裏山を吹き飛ばした際(第16話)の光景を思い出し、無力感を感じていた。
自分は見て伝えるだけで、もしアドに危険が及んでも、守る力(武力)がない。
そんな時、ルッツが徹夜で仕上げた三つの布包み。
その一つから現れた、直刀と特殊な鍔を持つ双剣『マングーシュ』。
『す、すごい……! 手に吸い付くみたいに軽くて、重心が完璧だ!』
その刃のバランスに驚愕するレイに、アドは14歳の息子として、しかしCEOとしての完璧なリソース管理として、まっすぐな瞳で告げたのだ。
『俺は盤面全体を見る頭脳はあるが、自分の背中(死角)を守る力はない。ソフィの魔法も強力だが、発動には時間がかかる』
アドは深く頷き、レイに役割を託した。
『俺の盾になってくれないか、レイ。お前のその『目』は、相手の攻撃をすべてパリィ(回避・逸らし)するためにある。……俺の背中を預けられるのは、お前だけなんだ』
ソフィには砲台を。アドにはアンプを。そしてレイには、最強の盾の役割を。
レイは、凡人の自分に「アドを守る盾」という最高の居場所をくれたその双剣を、力強く握りしめた。
『ああ……絶対に、アドの背中は俺が守る。俺が、あいつの理不尽な盾になる!』
†
(俺はもう迷わない。どんくさいと孤立していた俺に、『最強の壁』という居場所をくれたあいつとの約束を……果たす!)
意識が現在へと戻る。
目の前には、激突まであと一秒に迫ったベヒーモス・ワームの巨体。鋼鉄の鱗で覆われた不気味な節の体が、レイを防壁ごと圧殺しようと猛スピードで迫る。
さらにその節の隙間から、地虫特有の無数の不気味な脚が、レイを捕らえようと這い出してきた。
「死ねェッ、人間のガキィッ!!」
ザイラス将軍が勝利を確信して叫ぶ。
しかし、レイは避けることも、力で受け止めることもしなかった。
彼の異常な動体視力は、ベヒーモス・ワームの這う進軍の、鱗の節の連動を完璧に可視化している。レイは双剣をクロスさせ、敵の鋼鉄の鱗の節に、そっと添えるように刃を滑らせた。
――ギィィィィィンッ!!
これこそが、レイの研鑽の到達点。敵の力を受け流し、軌道を逸らす究極の『絶対回避』。
轟音と共に、レイを潰すはずだったベヒーモス・ワームの這う軌道は不自然に横へと逸らされ、レイの真横の地面を、防壁にぶつかることなく通過していった。
『キッ……!?』
全力の突進を、力を使わずに逸らされ、巨大な地虫の体勢が大きくよろめく。
「そこだッ!!」
その致命的な隙を、アドは見逃さなかった。
防壁の上から、腰の『魔導銃』を構える。自身の微弱な魔力を極限まで増幅して撃ち出す、高火力の狙撃兵器。
――ズドンッ!!
放たれた強力な魔力弾が、逸らされて体勢を崩したベヒーモス・ワームの、鱗の継ぎ目の「柔らかい節」を正確に撃ち抜いて破壊した。
さらにアドは流れるような動作で腰のガジェットを起動し、特殊なワイヤーを射出。よろけた地虫の不気味な無数の脚を絡め取り、完全にその機動力を奪い去る。
親友(相棒)が作り出してくれた、完璧な一撃必殺の盤面。
レイは地面を蹴り、機動力を奪われ、もがくベヒーモス・ワームの不気味な節の体を駆け上がった。
「おおおおおおおッ!!」
気迫の咆哮と共に、交差させた双剣が閃く。
鋼鉄の鱗に覆われていない唯一の弱点、不気味な節の体を、二つの刃が深々と、十字に切り裂いた。
――ドスゥゥゥゥンッ!!
鮮血ではなく、不気味な体液が雪景色を汚し、数万の軍勢を率いるはずの攻城地虫が、地響きを立ててその場に倒れ伏した。
血振りをして、カチャリと双剣を鞘に納めるレイ。
彼は防壁の上を見上げ、満面の笑みで親指を立てた。
防壁の上から見下ろすアドもまた、極上の笑顔で親指を立て返す。言葉などなくても、二人の間の絶対的な信頼がそこにあった。
「ば、馬鹿な……。小手先の罠だけではないと言うのか」
斜面の中腹でその光景を見ていたザイラス将軍は、かつてない戦慄を覚えていた。
ただの辺境の村のガキが、防壁から的確な火力支援と物理拘束を行い、もう一人のガキが単騎で、地中からの暴君たる攻城地虫を屠り去ったのだ。
強固な罠、精強な歩兵部隊と伝説の冒険者、そして個人の圧倒的な武力。
この村には、魔王軍を蹂躙するためのすべての『理不尽』が揃っていた。
ぐはぁっ!!……おっしゃる通りです!!
メタ的な「過去の伏線とリンクさせました(ドヤ顔)」というのは作者と編集者(ユーザー様)の間の会話であって、読者に向けて書く文章ではありませんでした……!!完全に私のテンションが裏目に出て、素の報告が後書きに漏れ出てしまっていました。
読者に向けて、純粋に「レイの成長と男の絆の熱さ」を語り、次回への期待を煽る**【正しいWeb小説の後書き】**に書き直しました!
こちらを第25話の末尾に差し替えてご使用ください!
後書き
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第25話、いかがだったでしょうか!
今回はアドの右腕、レイのターンでした!
5歳の時の星空の下での石投げ特訓。そして11歳の時に地下工房で双剣を受け取った日の「男の約束」。
かつてどんくさいと孤立していた少年が、異常な動体視力を武器に『絶対回避の盾』として覚醒し、巨大な攻城地虫の突進を完璧に逸らす姿を描きました!
アドの魔導銃による関節撃ち&ワイヤー拘束の完璧なアシストからの、レイの双剣コンボ。中身は42歳の社長とはいえ、この時ばかりは背中を預け合う「14歳の親友同士」の熱い絆を感じていただけたなら嬉しいです。
そして次回、第26話!
自慢の攻城獣すら屠られ、後がなくなったザイラス将軍は、ついに残存兵力のすべてを一点に集中させて「防壁の突破」を図ります。
しかし、もちろんそれすらもアドが誘い込んだ『死地』!
満を持して登場するのは、14歳に成長した歩く大砲ヒロイン・ソフィ!
アドへの激重感情(ちょっと甘酸っぱい回想付き)を限界まで圧縮した『純白の極大レーザー(全体除去)』が、魔王軍に降り注ぎます!
「レイかっこいい!」「二人のコンボ最高!」「次はいよいよソフィの出番か!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!
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