第24話 予算と人材の暴力、完全なる『盤面制圧』
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前回、魔王城でのブラックな御前会議を経て、多大な犠牲を払いながら大山脈の雪道を越えてきた数万の魔王軍本隊。
彼らを待ち受けていたのは、王国の予算で完璧に要塞化されたリビエラ村と、極上のスマイルを浮かべる14歳のアドでした。
今回は、いよいよ防衛戦の幕開けとなる第24話!
国家予算で作られた理不尽な罠と、アドの両親(元Aランク冒険者)が鍛え上げた「最強の村人たち」が魔王軍に牙を剥きます。
熱い過去回想を交えた、反撃のエピソードをお楽しみください!
――ガコンッ!!
アドが防壁の上で指揮棒を振り下ろした瞬間、のどかな雪景色の斜面が、文字通り「殺戮の機械」へと変貌した。
「な、なんだこれは……!?」
猛吹雪の大山脈を命からがら越え、ようやく獲物(村)の裏口を見つけたと歓喜の雄叫びを上げて斜面を駆け下りてきた魔王軍の先陣。彼らの足元の地面が、唐突にパカリと口を開けた。
悲鳴を上げる間もなく、数百のゴブリンやオークが巨大な落とし穴へと吸い込まれていく。
底で待ち受けているのは、王都から莫大な予算で買い付け、ルッツが極限まで精錬した『特殊合金製の超巨大スパイク』だ。鋼の鎧すら紙切れのように貫く物理の牙が、魔物たちの体を容赦なく串刺しにしていく。
さらに、雪の下に隠されていたバネ式の巨大な丸太や、ワイヤーで連動した投石機が次々と起動する。
魔力探知には一切引っかからない、純粋な『物理的ギミック』の連鎖。
「よし、第一防衛ラインの稼働率は完璧だ。ルッツ、第二防衛ラインの油圧システムをスタンバイしておいてくれ」
『おうよ! こちとら地下のコントロールルームでぬくぬくしながら、レバー引いてるだけだからな。手応えがなくて欠伸が出るぜ!』
防壁の上で、斜面を見据えながら通信魔導具越しにルッツと会話するアドの顔には、一切の焦りがない。
魔王軍の先陣は、アドたちにとって「脅威」ですらなかった。ただシステマチックに処理されていく『数字』でしかないのだ。
「馬鹿な……。ただの辺境の小村に、なぜ王都の城壁すら凌駕するほどの合金トラップが仕掛けられているのだ!?」
後方で指揮を執っていた知将ザイラスが、驚愕に目を見開く。
数千の犠牲を払って過酷な雪山を越えてきた本隊が、村の防壁に触れることすらできず、理不尽な罠の暴力によって一方的にすり潰されていく。
「怯むな! 罠には必ず再起動がある! 死体で穴を埋めてでも前に進め!!」
ザイラスの冷酷な号令により、装甲の厚い大型のオークやトロールたちが、肉盾となって強引にトラップ地帯を突破し始めた。
罠の隙間を抜け、防壁の直下へと雪崩れ込んでくる魔物の群れ。
それを見据え、アドは防壁の上から声を張り上げた。
「パパ! 右翼の斜面からオークの群れが抜けてくる! 次のトラップ再起動まで3分かかるから、それまで前衛の足止めをお願いできる!?」
「おう、任せとけアド! 3分だな、俺と若衆でキッチリ押し返してやる!」
「ママ! 左翼はもうすぐルッツの迎撃兵器のチャージが終わるから、巻き込まれないように部隊を退避させて!」
「ええ、分かったわアド! さあみんな、陣形を維持したまま下がるわよ!」
アドの的確な頼み(タスク管理)に応え、防壁の前で武器を構えていた部隊が一斉に動いた。
最前線に立つのは、アドの父親であるロイドと、母親のハンナ。かつて王国で名を馳せた『元Aランク冒険者』の最強夫婦である。
そして彼らの後ろに続くのは、見慣れたリビエラ村の若者たちだった。
しかし、彼らの出立ちは「農民」のそれとは程遠い。ルッツが特注で打ち直した超合金の重装甲に身を包み、大盾と長槍を構えた彼らの瞳には、一歩も引かない『本物の戦士』の光が宿っていた。
†
――ガァァンッ!! ズドォォンッ!!
防壁の下で、激しい金属音と魔物の断末魔が響き渡る。
元Aランク剣士であるロイドの大剣がトロールの巨体を一刀両断し、元Aランク僧侶であるハンナの放つ破魔の光と正確無比な支援魔法が、若者たちの疲労を即座に回復していく。
そして何より恐ろしいのは、それに続く村の若者たちの『練度』だった。
彼らはロイドとハンナの動きに完璧に合わせ、一糸乱れぬ陣形で巨大な魔物を次々と串刺しにしていく。そこに恐怖や戸惑いは一切ない。
その光景を防壁の上から見守りながら、アドは数年前の夜の記憶を思い出していた。
まだアドが10歳だった頃。
村の裏山では、ロイドとハンナによる村の若者たちへの「地獄の特訓」が連日行われていた。
『甘い! 魔族の爪は岩をも砕くんだ、その程度の盾の構えじゃ一撃で腕ごと吹き飛ばされるぞ!』
『さあ、もう一周走って! 息が上がってからが本当の勝負よ!』
元Aランク冒険者の容赦ないしごきに、若者たちは泥まみれになり、時には胃液を吐きながら倒れ込んだ。
素人の農民を戦士にするなど、普通なら心が折れて終わるだろう。だが、アドはそこに「莫大な国家予算」という究極の支援を注ぎ込んだ。
『大丈夫だ、怪我をしても最高級の回復薬が山ほどある。腹が減ったら、肉厚のシイタケと甘いサツマイモ、それに魔獣の肉を腹いっぱい食わせてやる。……お前たちの努力には、俺が必ず最高の対価を払う』
前世のブラック企業のような「やりがい搾取」は絶対にしない。
最高の待遇、最高の設備、そして明確な「村を守る」という目的。アドの用意した完璧な環境と、両親の圧倒的な指導力のもとで、若者たちはみるみるうちに精強な『私兵部隊(エリート社員)』へと育っていった。
ある夜、焚き火の前でエールを飲みながら、ロイドが笑ってアドの頭を撫でたことがあった。
『お前は本当に末恐ろしいガキだよ、アド。……だが、お前が裏で色々と泥を被って資金を引っ張ってきてくれたおかげで、若衆の顔つきは本物の戦士になった。もう、ただ守られるだけの村じゃない』
『俺はただ、投資をしただけさ。パパとママが、彼らを鍛え上げてくれたんだ』
アドが肩をすくめると、ロイドは力強く頷き、息子に背中を預けた。
『ああ。お前のその賢い頭脳と、俺たちの武力があれば……この村は、俺たちの手で絶対に守り抜けるさ』
†
「……ああ。俺の自慢の家族(と社員)は、世界最強だ」
回想から意識を戻したアドは、不敵な笑みを浮かべ、腰のホルスターから無骨な『魔導銃』を抜いた。
アド自身の魔力は微弱だ。だが、この銃は、その微弱な魔力を極限まで圧縮し、強力な『魔力弾』として撃ち出す恐るべき増幅器である。
眼下の戦場では、ロイドたちの陣形の死角を突き、一匹のオークジェネラルが防壁に取り付こうとしていた。
「パパ、右奥に一匹抜けた! 俺が処理する!」
「おう、頼んだぜ!」
アドは銃口を向け、カチリと撃鉄を起こす。
「消えろ」
――ズドンッ!!!!
重い発砲音と共に、極限まで増幅された魔力弾が一直線に放たれ、分厚い兜ごとオークジェネラルの頭部をスイカのように吹き飛ばした。
さらにアドは、腰のポーチからワイヤー射出機を取り出し、群がってきた後続のゴブリンたちの足元へ放つ。
ピンッと張られた見えない鋼糸に足をすくわれ、魔物たちが次々と自らトラップの落とし穴へと転がり落ちていく。
「なんなんだ、あの家族は……」
防壁の上で、安全な後方から広域魔法の援護を任されていたケヴィン隊長たち(王国駐留部隊)は、その凄惨で完璧な光景を見て、顔面を蒼白にしていた。
「あれはまさか、かつて王国最強と謳われた剣士ロイド殿!? あっちの完璧な支援魔法は、聖女とも呼ばれたハンナ殿!? なぜ辺境の村に伝説のAランク冒険者夫婦が……!?」
「しかも、息子が防壁の上からたった数十人の村人(私兵)と罠を指揮して、数万の敵軍を完全に手玉に取っている(盤面を支配している)ぞ……」
「俺たち正規の王国騎士団が……ただのレバー引き係か、後方支援しかさせてもらえないなんて……」
伝説の冒険者夫婦の正体に戦慄し、完全にドン引きする王国騎士たち。
彼らをよそに、アド一家と村の若者たちによる『完璧な業務(防衛戦)』は、ただ淡々と、着実に魔王軍の命を刈り取っていく。
国家予算の暴力と、数年間かけて育成した人材の暴力。
知将ザイラスの軍略すらも粉砕する、圧倒的な『盤面制圧』がそこにあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第24話、いかがだったでしょうか!
防壁の上から、斜面を下ってくる敵を迎え撃ちながら、両親に的確な「お願い(タスク管理)」をするアド。
そして、ロイドとハンナによる数年間の地獄の特訓(と莫大な予算による手厚いサポート)の末に、ただの村人から「王国騎士団ドン引きレベルの最強私兵部隊」へと進化した若者たち!
ケヴィン隊長たちが「なんで伝説のAランク夫婦がここに!?」と驚くリアクションも最高ですね(笑)。前世のブラック企業的なやりがい搾取とは真逆の、資金と信頼で結ばれた「最高の家族経営」が魔王軍を圧倒します。
しかし、魔王軍本隊もこのまま黙って全滅するわけではありません。
次回!
罠やロイドたちでも処理しきれない装甲と質量を持つ『規格外の巨大魔獣(中ボス)』が投入されます!
その時、アドの指示で飛び出すのは、双剣を携えた14歳のレイ!
幼き日の「熱い男の約束」の回想と共に、レイの『絶対回避』が無双する第25話をお楽しみに!
「ロイドとハンナかっこいい!」「ケヴィン隊長たちの反応がウケる(笑)」「村の若者たちスゲェ!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!
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