第23話 魔王城の御前会議と、開戦の『いらっしゃいませ』
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
前回、大人の「やりがい搾取」によって悲しき勇者として完成してしまった田口と、王国の予算で盤石の要塞を築き上げた14歳のアドたち。
今回は、いよいよ物語が大きく動く【本編(14歳半ば)】の幕開けです!
これまで沈黙を守っていた魔王軍のトップ層がついに姿を現し、アドたちの待つリビエラ村へと絶望的な大群が迫ります。
開戦の狼煙が上がる第23話、スタートです!
【Part 1:魔王城・謁見の間】
はるか北の最果て。常にどす黒い雷雲に覆われた、魔族の絶対的本拠地『魔王城』。
その最奥にある巨大な謁見の間は、息をするのも苦しいほどの濃密な魔力で満たされていた。
「クソッ! あの聖教国の『異世界の勇者』、鬱陶しいことこの上ないぞ!」
沈黙を破り、苛立たしげに吼えたのは、聖教国との正面戦線を担当する《南方将軍》ガラムだった。鋼のような筋肉を持つ武闘派の彼は、忌々しそうに床を踏み砕く。
「四肢を叩き斬って心を折ってやったと思えば、後ろにいる小娘が泣きついた途端、気色悪い執念で立ち上がりやがる! 何なんだあの異常な耐久力と執念は! 殺しても殺してもキリがねえ!」
「あらあら、筋肉バカのガラムじゃ手こずるのも無理ないわねぇ」
クスクスと妖艶に笑うのは《西方将軍》。
さらにその奥には、腕を組んで黙り込む《北方将軍》が控えている。
個性が強すぎる魔王軍の最高幹部たち。
しかし、彼らを完全に統率する存在が、一段高い玉座に腰を下ろしていた。
「――静まれ」
玉座の主が低く発したその一言だけで、巨大な謁見の間の空気がビリッと軋んだ。
ただの巨大な化け物ではない。絶対的なカリスマと、底知れぬ知性を感じさせる冷酷な瞳。大企業のワンマン社長のごとき威圧感を放つ彼こそが、この軍勢の絶対的トップ『魔王』である。
その魔王の御前に、一人の男が静かに進み出た。
知将ザイラス《東方将軍》である。
「ガラムよ。そのまま狂戦士(勇者)の相手をしておけ。奴が正面でド派手な囮として暴れてくれているおかげで、王国の防衛網(裏道)への警戒は完全にザルに等しい」
ザイラスはそう言い放つと、魔王に対して深々と、完璧な臣下の礼をとった。
「魔王陛下。作戦凍結から数年……ついに機は熟しました。これより我が東方軍の『本隊』を率い、大山脈を越えて王国の喉元を食い破ってご覧に入れます」
「ザイラスよ」
魔王は玉座から冷酷な瞳で見下ろし、合理的な疑問を投げかけた。
「大山脈の死角を突くのは良い。だが、目標は辺境の『小村』一つであろう。そなたの東方軍本隊、数万の兵すべてを差し向けるのは、あまりに過剰戦力(無駄なコスト)ではないか?」
一将軍が、全戦力を挙げて小村を潰す。普通に考えれば費用対効果(ROI)が合わない愚策だ。しかし、ザイラスは表情一つ変えずに答えた。
「陛下。この数年間、王国の不自然な予算と物資の流れを追った結果、あの村はすでに『極めて厄介な要塞』と化している可能性が高いと推測します。小出しに戦力を送れば、各個撃破されて無駄な時間を浪費するだけ。……私は、盤面に『不確定要素』を残すのが嫌いでして」
ザイラスは冷たい瞳に殺意を灯し、言葉を続けた。
「圧倒的な『質量』で村ごと確実にすり潰し、王国の喉元に我らの橋頭堡を築き上げます」
その完璧なプレゼン(戦略的意義)を聞き、魔王は少しだけ目を細め、絶対的な決裁を下した。
「……良かろう。盤面の死角を、力でこじ開けろ」
「御意」
†
【Part 2:地獄の雪中行軍】
――ヒュォォォォォォォォッ!!
耳を劈くような猛吹雪が、魔王軍本隊の行く手を阻んでいた。
ザイラス率いる数万の軍勢は今、王国と魔族領を隔てる大山脈の『天然の険しい獣道』を進軍していた。
大軍が通れるような便利なトンネルや抜け道など存在しない。そこにあるのは、文字通り自然の猛威だけだ。
氷点下の過酷な環境の中、足を滑らせて千尋の谷底へ落ちていくオークの重装歩兵たち。寒さに耐えきれず、歩きながら凍死していくゴブリンの群れ。
「ザイラス将軍……っ! このままでは、村に着く前に軍の二割が雪山に呑まれます!」
悲鳴のような部下の報告を聞いても、ザイラスは全く動じなかった。
「構わん。二割減ったところで、辺境の要塞一つをすり潰すには十二分すぎる『質量』だ。歩みを止めるな。この山を越えさえすれば、後は無防備な裏口を蹂躙するだけの簡単な作業だ」
ただひたすらに、勝利への最短ルートを冷酷に進むザイラス。
兵士の命をただの「数字」として消費し、多大な犠牲を払いながらも、真っ黒な雪崩のような大軍勢は、確実に王国の喉元へと迫っていた。
†
【Part 3:開戦の『いらっしゃいませ』】
――ビィィィィィィィィンッ!!
のどかな冬の昼下がりを迎えていたリビエラ村に、突如としてけたたましい警報音が鳴り響いた。
ルッツの工房に設置された『広域魔力センサー』が、規格外の異常を感知したのだ。
『アド! 大山脈の斜面を下ってくる凄まじい魔力反応だ! 隠蔽魔法もクソもねえ、正面堂々からの大軍勢……数は、数万だ!!』
通信魔導具越しに響くルッツの怒鳴り声。
しかし、村にパニックは一切起きなかった。
「はいはい、みんな慌てないで。いつもの避難訓練通り、非戦闘員は地下シェルターへ移動してねー。今日の男湯はゆず湯になってるから、ゆっくり温まっててくれ」
14歳に成長したアドの落ち着いた誘導に従い、子供や老人たちは手慣れた様子で、無言かつ迅速に安全な地下シェルター(極上ヒノキ風呂完備)へと消えていく。
彼らはこの数年間、王国の予算で「絶対に死なないための村作り」と「避難訓練」を徹底的に叩き込まれてきたのだ。
非戦闘員の避難が完了したのを確認し、アドは村をぐるりと囲む、強固に偽装された防壁の上へと歩みを進めた。
分厚い壁の上から眼下の斜面を見据える。
猛吹雪を抜け、数千の犠牲を払いながら山を下りてきた『絶望的な魔王軍本隊』の黒い波が、すぐそこまで迫っていた。
視界を埋め尽くすほどの軍勢。だが、高台の防壁に立つ若き防衛司令官の顔に、恐怖は微塵もなかった。
「ソフィ。レイ。……準備はいいか?」
アドが声をかけると、隣に立つ二人が力強く頷いた。
「はいっ! アドくんの敵は、私がぜんぶ消し飛ばします!」
純白の『剣と盾』を構えたソフィが、スリットからチリチリと危険な魔力光を漏らしながら微笑む。
「ああ。いつでもいけるよ、アド。……一本の矢も、君には届かせない」
腰を低く落とし、特殊双剣『マングーシュ』を抜いたレイが、静かに異常な動体視力のピントを合わせる。
そして、防壁の下。
迫り来る数万の軍勢を真っ向から迎え撃つべく、巨大な門の前に陣取っているのは、ルッツの打った超合金の重装甲に身を包んだ『村の若者たち(最強の私兵部隊)』だ。
その先頭に立つのは、大剣を肩に担いだ父ロイドと、静かに支援魔法の陣を展開する母ハンナ。
数年間の地獄の特訓を経て、彼らはもはや王国正規軍すらドン引きするレベルの鉄壁の軍団として完成していた。
『アド。いつでもいけるぞ』
「了解、父さん。……作戦通り、漏れてきた奴らは俺たち(システム)で処理する。前だけ見て暴れてきてくれ」
アドは通信魔導具越しに父と短いやり取りを交わすと、悪徳企業に買収を仕掛けるCEOのような、最高に性格の悪い『極上の営業スマイル』を浮かべた。
「よく来たな、魔王軍。過酷な雪山登山、お疲れ様」
アドは手にした指揮棒を、山から押し寄せる数万の軍勢に向かって真っ直ぐに突きつけた。
「ここから先は『私有地』だ。……命という名の通行料、きっちり払ってもらうぜ」
アドがタクトを振り下ろした瞬間。
のどかな農業村に偽装されていた斜面の地面が割れ、数年分の国家予算を注ぎ込んだ『殺意1000%の物理兵器群』が一斉に牙を剥いた。
キルゾーン(死地)へ足を踏み入れた数万の魔王軍 vs 予算と人材を極限まで最適化した無敵の要塞。
歴史に残る凄惨なタワーディフェンスが、今ここに幕を開けた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第23話、いかがだったでしょうか!
魔王城でのブラックな御前会議。魔王の「費用対効果(ROI)」を問う指摘に対し、ザイラスが「要塞化のリスク排除」という完璧なプレゼンで出陣の許可を得る流れは、まさに大人の組織論ですね!
(一方、田口がガラムにボコボコにされながらも「アリアのために……!」とゾンビのように立ち上がっている姿が目に浮かんで涙を誘います……笑)
そして、多大な犠牲を払って雪山を越えてきたザイラス軍を待ち受けていたのは、パニック一つ起こさずシェルターへ避難する村人たちと、極上のスマイルを浮かべる14歳のアド!
「過酷な雪山登山、お疲れ様」という煽り文句が最高にヘイトを稼ぎそうです!
次回からは、いよいよアドたちの仕掛けた「王国の予算で作った理不尽な罠(兵器群)」が魔王軍に牙を剥く、カタルシス全開の【防衛戦編】に突入します!
「魔王軍の幹部会議がブラックすぎる!」「アドたちの余裕がかっこいい!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!




