第22話 悲しき『勇者』の完成と、盤石の城塞都市
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
前回、恐怖で心が折れた田口に、聖教国の大人たちが仕掛けた最悪のハニートラップ(やりがい搾取)。
そして、アドたちが国家予算で作り上げた総ヒノキ造りの極上温泉。
今回は、それから数年の月日が流れた「総決算」のエピソードです。
大人の思惑通りに『悲しき勇者』として完成してしまった田口と、絶対に死なないための『城塞都市』を完成させた14歳のアドたち。
そして、沈黙を守っていた魔王軍がついに牙を剥きます。
物語が大きく動く第22話、スタートです!
【田口サイド:大人の掌の上で踊る『勇者』】
「おおおおおおっ!! アリアには、指一本触れさせねえっ!!」
聖教国サン・ノエルの最前線。
田口弘樹は、血と泥にまみれながら、押し寄せる魔族の群れに向かって白銀の聖剣を振り下ろしていた。
あれから数年。
召喚されたばかりの頃に浮かべていた「ゲーム感覚」の薄ら笑いは、今の彼には微塵もない。
体中には無数の傷跡が刻まれ、その瞳には悲壮なまでの覚悟と殺意が宿っている。
「俺が……俺がこの世界を、アリアを守るんだ……!」
血を吐きながらも、背後にいる『愛する少女』のために限界を超えて剣を振るうその姿は、誰の目から見ても立派な、本物の『勇者』そのものだった。
――しかし。
彼が命を懸けて守っているその後方、安全な結界の中にいる枢機卿バルバトスと、シスター・アリアの表情は、どこまでも冷酷だった。
「ふむ……。あのモテない小僧、よく保つな。アリアよ、お前の『演技』がよほど効いていると見える」
「ええ、バルバトス様。夜に体を重ねて『ヒロキ様だけが頼りです』と少し涙を流してやれば、次の日は死ぬ気で魔族の群れに突っ込んでいきますから。……本当に、単純で頭の軽い方です」
アリアは、弘樹に向けていた可憐な「聖女」の顔を完全に捨て去り、つまらなそうに冷たい溜め息を吐いた。
「もう数年、あの調子で魔王軍の主力をここに引きつけてもらいましょう。彼が魔族に殺されて死ぬのが先か、首輪の呪いで精神が崩壊するのが先か……見物ですわね」
「くくく……。スポンサーどもからの支援金も過去最高額を更新中だ。せいぜい最後まで、我々のために踊ってもらおうか」
大人の用意した偽物の愛情のために命を削り、完璧な『勇者』として完成させられてしまった異世界の青年。
その残酷な真実に、今の彼が気づく術はない。
……だが、もしもいつか、その『偽りの魔法』が解ける日が来たとしたら。その時、彼の心は一体どうなってしまうのだろうか。
†
【アドサイド:偽装された村と、頼もしき仲間たち】
「よし、今年のサツマイモも最高の出来だな。原木栽培のシイタケも、肉厚で申し分ない」
場面は変わり、聖教国から見て遥か東の辺境、リビエラ村。
すっかり背が伸び、大人の男の顔つきになり始めた14歳のアドは、村の畑で収穫された立派なサツマイモとシイタケを手に取り、満足げに頷いていた。
「アドの言う通りに始めた農業ビジネス、大成功だぜ! これなら王都からの予算に頼らなくても、村単体で十分に黒字化できるな!」
同じく逞しい青年に成長したルッツが、泥だらけの顔で笑う。
田口が最前線で血を流して稼いでくれた、4年半という長い歳月。
俺たちはその時間を使って、王国の莫大な予算を吸い尽くし、村を極限まで要塞化した。
しかし地上は「サツマイモとシイタケ栽培が盛んな、のどかな農業村」に偽装してある。
「ああ。地上は『豊かな農村』。だが、その地下と外周には俺たちの『殺意1000%の兵器群』が眠っている」
盤石。まさに、絶対に死なないための無敵の『城塞都市』である。
「アドくーん! ルッツさーん! お茶が入りましたよ!」
そこへ、カゴを抱えたソフィとレイが歩いてきた。
14歳になったソフィは、息を呑むような絶世の美少女へと成長していた。純白の剣と盾を背負う姿は絵画のように神々しいが……アドへの愛情は年々重さを増しており、俺が村の他の娘と立ち話をするだけで、剣のスリットからチリチリと危険なレーザーが漏れ出すのが玉に瑕だ。
その後ろを歩くレイもまた、鋭い目つきと無駄のないしなやかな筋肉を備えた、クールな美少年に育っていた。腰に差した双剣の歩法には、もはや一切の隙がない。
「ありがとう、ソフィ、レイ」
「ふふっ、お疲れ様です、アドくん!」
「アド、罠の最終チェックも終わってるよ。いつ『お客さん』が来ても大丈夫だ」
最高に頼もしい14歳の仲間たちを見て、俺は口角を上げ、力強く頷いた。
†
【魔王軍サイド:凍結解除と、開戦の狼煙】
――そして、ついにその時が来た。
同じ頃、はるか北の魔族領。薄暗い天幕の中で、知将ザイラス《東方将軍》が、卓上の地図を冷徹な目で見下ろしていた。
「聖教国の勇者……。愚直なまでに己の命を削り、よくぞこの数年、我が軍の主力を正面に釘付けにしてくれたものだ」
ザイラスは、前線の報告書を炎の魔法で燃やしながら冷酷に嗤った。
「だが、奴が派手に暴れてくれたおかげで、王国(裏道)の目は完全に塞がった。そして今、ようやく魔王陛下より『裏道攻略』の作戦凍結解除の許可が下りた」
ザイラスの視線の先には、かつてオークの斥候が越えてきた、大山脈の『天然の険しい獣道』が示されていた。
部下が緊張した面持ちで進み出る。
「ザイラス将軍……。あの自然の険しい山道を数万の本隊で進軍すれば、猛吹雪や滑落で多大な犠牲が出ます。正気の沙汰ではありません」
「構わん。多少の損害は織り込み済みだ。辺境の小村など、この本隊の『圧倒的な質量』で押し潰せば一瞬で終わる」
ザイラスは一切の油断なく、ただ物理的な質量で村を「更地」にするためだけに、全軍へ号令を下した。
「狂戦士(田口)の相手は別働隊に任せておけ。我ら本隊は、あの険しい山脈を越え、目標(リビエラ村)を確実に地図から消し去るぞ」
――地鳴りのような魔族の咆哮が、北の大地を揺らす。
大人に騙され、最前線で消費され続ける勇者。
大人を操り、莫大な予算と真の仲間たちと共に無敵の城を築き上げた元経営者。
そして、苛酷な自然の壁を越えて迫り来る、絶望的な魔王軍の本隊。
運命の歯車が激しく噛み合い、アドたちが14歳の半ばを迎えたその冬。
辺境の村を舞台にした、血を洗う総力戦の幕が、ついに切って落とされた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第22話、いかがだったでしょうか!
アリアに心も体も依存しきってしまった田口の「偽りの成長」の悲惨さ。彼が「アリアを守る!」とボロボロになっている裏で、アリア本人は「単純で頭の軽い方」と冷酷に見下しているという……大人のドラクエらしいドロドロの極致です。
そして、その田口の犠牲(?)のおかげで、サツマイモとシイタケ農家を装いながら地下に「殺意1000%の要塞」を完成させた14歳のアドたち!美少女に育ったソフィの「激重感情レーザー」も頼もしい(?)ですね(笑)。
魔王軍のザイラス将軍も、ついに自然の脅威に立ち向かいながら険しい山越えのルートで本隊を進軍させます。
「田口が不憫すぎる……」「ソフィのレーザー怖い(笑)」「いよいよ開戦だ!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!
皆様の応援が、次回執筆の大きな励みになります!




