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第20話 初めての『死の恐怖』と、予算の尽きない泥遊び

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、異世界召喚され、大人たちから与えられた「安い接待(宴)」で完全に自分が主人公だと勘違いしてしまった田口弘樹。


今回は、そんな彼が最前線で初めて『本物の戦争』に直面する【田口サイド】と、莫大な国家予算を使って防衛設備の構築をレジャーのように楽しむ【アドサイド】を交互にお届けします。


天国と地獄のザッピング(場面転換)エピソード、第20話のスタートです!

【田口サイド:最前線の地獄】


「はっはー! オラオラ、経験値になれや雑魚ども!」


聖教国の最前線、血と泥にまみれた荒野。

 田口弘樹は、女神から与えられた白銀の聖剣を、ただの棒切れのようにデタラメに振り回していた。

 剣から放たれる圧倒的な光の魔力が、下級の魔物たちを次々と吹き飛ばしていく。


(やっぱ俺TUEEE! 適当に攻撃ボタン連打してるだけで無双できるわー!)


彼にとって、これはただの「没入感の高いVRゲーム」でしかなかった。

 首の『服従のチョーカー』によって思考が少し鈍らせられている弘樹は、昨晩の宴の余韻に浸りながら、あくび混じりに剣を振っていた――その時だった。


――ドォォォォンッ!!


「うおっ!?」


突然、目の前の地面が爆発したように吹き飛び、土煙の中から『それ』が現れた。

 体長は3メートルを超え、全身が鋼のような筋肉と黒い毛皮に覆われた、四本腕の巨大な魔族(中ボス級)。

 その四つの手には、それぞれ血の滴る巨大な戦斧が握られていた。


『グルルォォォォォォッ!!』


「げっ、中ボスのお出ましじゃん。まあ俺のチートなら一撃――」


弘樹が剣を構えようとした瞬間。

 四腕の魔族は、彼の『ステータス』など気にも留めず、野生の獣の速度で一瞬にして間合いを詰め、戦斧を振り下ろした。


「えっ――」


――ザシュゥゥゥッ!!


「…………あ?」


弘樹の左腕から、赤い液体が噴水のように噴き出した。

 女神の加護も、状態異常無効のスキルも、物理的な「切断」には無力だった。戦斧が彼の腕の肉を深く斬り裂き、骨に達する。


一拍遅れて、弘樹の脳髄を、経験したことのない『本物の激痛』が突き抜けた。


「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


HPバーが減るエフェクトなどない。そこにあるのは、溢れ出る自分の生々しい血と、狂いそうなほどの痛みだけ。

 弘樹は聖剣を取り落とし、血まみれの腕を押さえて泥まみれの地面を転げ回った。


「い、痛いっ! 痛い痛い痛いっ! なんだこれ!? ログアウトっ、ログアウトさせろ!!」


『チィッ、人間ノ小娘ヨリ脆イ小童コワッパガ……!』


泣き叫ぶ弘樹を見下ろし、魔族が容赦なく二撃目の斧を振り下ろす。

 弘樹のオタク脳が、ついに『真実』を理解した。これはゲームじゃない。ここで斧を食らえば、自分は間違いなく『死ぬ』のだと。


「いやだっ! 死にたくないっ! ママぁぁぁっ!!」


死の恐怖に支配された弘樹が、無我夢中で聖剣を振り回すと、彼の意志とは無関係に、剣に内蔵された膨大な魔力が暴走し、極大の光魔法となって放たれた。


閃光が弾け、四腕の魔族は光に呑まれて消滅する。

 チート武器の性能だけで辛うじて生き残った弘樹。

 後に残ったのは、泥と血と自分の排泄物にまみれ、「ひっ、ひぐっ……」と子供のように泣きじゃくる、無様な青年の姿だけだった。



【アドサイド:辺境の天国】


「いやぁ、最高の天気だな、ルッツ」

「おう。作業が捗って仕方ねえぜ」


場面は変わり、遥か西の辺境、リビエラ村の裏山。

 俺とルッツは、日よけのパラソルの下で、王都から取り寄せた高級茶葉で淹れた、よく冷えたアールグレイのミルクティーを傾けながら優雅に笑い合っていた。


目の前では、王国の莫大な予算(金貨)を惜しげもなく注ぎ込んだ『全自動・串刺し泥沼トラップ』の稼働テストが行われている。


ガコンッ、という重い音と共に、巨大な岩(魔物役)が泥沼に沈み込み、その重量を感知した底部のギミックが作動。四方八方から、王都から買い付けた特殊合金を精錬し、殺意マシマシに加工した鋭利な巨大スパイクが飛び出し、岩を粉々に粉砕した。


「完璧だ。魔力を使わない純粋な物理ギミックだから、魔力探知もすり抜けられる。費用対効果コスパも抜群だぞ、ルッツ」

「へへっ、これでもまだ俺の構想の二割ってとこだぜ! 金と素材が無限にあるってのは、マジで最高だなぁ!」


資金ショートの心配がないモノづくり。これほどクリエイターにとって楽しい娯楽レジャーはない。

 俺たちは冷たいミルクティーで乾杯し、平和な村の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「アドくーん! ルッツさーん! 差し入れのサンドイッチ、作ってきましたよー!」

「罠のテスト終わったー? 俺も手伝うよ!」


そこへ、ソフィとレイが笑顔で駆け寄ってくる。

 魔王軍の影など微塵も感じさせない、ピクニックのような穏やかな日常。

 俺はサンドイッチを受け取りながら、はるか東の空――聖教国がある方角へと思いを馳せた。


(俺たちがこうして平和に、そして確実に「絶対に死なないための城」を作れているのも、あっちで『異世界の勇者様タグチ』が必死にヘイト(関心)を集めて、血を流してくれているおかげだからな)


「美味いな、これ」

「はいっ! アドくんのために、朝早く起きて作ったんです!」


顔を赤らめるソフィの頭を撫でながら、俺は内心で、見ず知らずの『便利な広告塔』に、ほんの少しだけ感謝の手を合わせたのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


第20話、いかがだったでしょうか!

これまで「俺TUEEE」と調子に乗っていた田口が、ついに「本物の戦争(死の恐怖と激痛)」に直面し、チート武器の性能だけで辛うじて生き残り、無様に泣き叫ぶ【地獄】。

そして、その田口が魔王軍を食い止めてくれている間に、王国の金で高級な冷たいミルクティーを飲みながら、超安全な場所で「罠作り」をピクニック感覚で楽しむアドたちの【天国】。


この強烈なザッピング(対比)こそが、「大人のドラクエ」の醍醐味です!


しかし、大人たち(ブラック企業)は、一度捕まえた便利な兵器(田口)をやすやすと逃がしてはくれません。

次回!

恐怖で心が折れかけた田口を再び戦場へ向かわせるため、聖教国の大人たちが放つ最悪の一手『ハニートラップ(やりがい搾取)』!

そしてアドサイドでは、村の地下からまさかの『アレ』が湧き出して……!?


「田口ざまぁ……だけど少し可哀想」「アドたち平和すぎる(笑)」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!

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