第19話 【田口の過去】チュートリアルと、狂乱の『接待(宴)』
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
前回、聖教国サン・ノエルが「異世界の勇者」を召喚したという号外を受け、それがただの「客寄せパンダ(シェア争いの道具)」であると見抜いたアド。
今回は、時間を少しだけ遡り、その聖教国の裏側に視点を移します。
アドに「扱いやすい馬鹿な駒」と見透かされていた異世界の青年・田口弘樹は、どのようにして召喚され、どのように『勘違い』を植え付けられたのか。
痛々しいまでの俺TUEEEと、腐敗した大人たちの暗躍を描く第19話、スタートです!
「――おおっ! 目覚められたか、我らが救世主よ!」
眩い光に包まれ、田口 弘樹が目を覚ますと、そこは荘厳な大聖堂の祭壇の上だった。
彼の周囲には、豪華な法衣に身を包んだ白髭の老人たちがひれ伏し、感動の涙を流している。
(……え? 俺、たしかコンビニの帰りにトラックに轢かれかけて……)
混乱する弘樹だったが、自らの置かれた状況と、周囲の老人たちの言葉を聞いて、彼のオタク脳は瞬時に一つの結論を導き出した。
「おめでとうございます、勇者様! よくぞ異世界より、この聖教国サン・ノエルへ降臨なされました!」
「魔王軍の脅威から世界を救うため、どうか貴方様の強大な力をお貸しください!」
(キタキタキタキターーーッ!! 異世界転生、テンプレ展開キターーーッ!!)
弘樹の胸の内で、爆発的な歓喜が沸き起こった。
元の世界では、クラスの端っこでラノベを読んでいるだけの冴えないモブ学生。しかし、この世界では自分が『選ばれし主人公』なのだ。
「ふっ……。事情は分かった。この俺が呼ばれたからには、もう安心だぜ。魔王だろうが何だろうが、俺の力でサクッとチート無双してやるよ!」
弘樹がドヤ顔で立ち上がると、枢機卿たちは顔を見合わせ、「おおおっ!」とわざとらしい歓声を上げた。
「なんという頼もしさ! では勇者様、こちらを。女神の加護を受けた『光の聖剣』でございます」
「おっ、初期装備から伝説級武器か。いいじゃん!」
さらに、一番恰幅の良い枢機卿が、恭しく銀色の美しいチョーカーを差し出した。
「そしてこちらは、女神の祝福が込められた『聖なる首飾り』。これを身につけていれば、いかなる毒も呪いも勇者様を害することはできません」
「へえ、状態異常無効のレアアクセか。サンキュー、装備しとくわ」
弘樹は何の疑いもなく、カチャリと自分の首にチョーカーを巻きつけた。
その瞬間、首輪の裏側に刻まれたおぞましい『服従と洗脳の呪縛陣』が彼の皮膚と同化したが、ステータス画面など存在しない現実世界で、彼がそれに気づく術はなかった。
「さあ勇者様! 早速ですが、貴方様の御力を我々に拝見させていただけないでしょうか! あちらに、凶悪な魔物を用意しております!」
バルバトスが指差した先。大聖堂の中庭に置かれた鉄の檻の中に、みすぼらしい下級のゴブリンが数匹、怯えたように震えていた。
牙を抜かれ、手足を縛られた、ただの「チュートリアル用の的」である。
「はっはー! レベル上げの経験値ってわけね! 見てな、俺のチートを!」
弘樹は聖剣を構え、大上段から力任せに振り下ろした。
異世界召喚の副産物である規格外の魔力が、剣を通して爆発する。
――ズドォォォォォォンッ!!
放たれた無軌道な光の奔流が、鉄の檻ごと哀れなゴブリンたちを消し炭に変え、中庭の石畳を大きく抉り取った。
「やっば! 俺TUEEEEEE!! なんだよこの威力、マジでゲームのバランス崩壊してんじゃん!」
自分の圧倒的な力に酔いしれ、腹を抱えて大笑いする弘樹。
その背中へ、枢機卿たちは惜しみない拍手と称賛を浴びせた。
「素晴らしい! まさに神の御技!」
「さあ勇者様、今夜は王宮で最高の宴をご用意しております! 明日の魔物討伐に向けて、存分に英気を養ってくださいませ!」
†
その夜。
聖教国の王宮に設けられた大広間は、弘樹を歓迎するための狂乱の宴に包まれていた。
テーブルには見たこともないような魔獣の極上ローストや、希少な果実が山のように積まれ、最高級のワインが惜しげもなく振る舞われている。
「ヒロキ様ぁ、すごいですぅ! あんな光の魔法、私見たことありません!」
「ヒロキ様ぁ、あーんしてくださぁい」
「はっはー! もっと寄れよお前ら! まあ俺の『初期ステータス』がカンストしてるからな、これくらい当然だぜ!」
弘樹は、露出の多い華やかなドレスを着た美女たち(実は聖教国が用意した奴隷や娼婦たち)を両脇にはべらせ、玉座のような長椅子でふんぞり返っていた。
元の世界では女子とまともに話したことすらなかった彼にとって、チヤホヤされ、酒と女をあてがわれるこの状況は、まさに思い描いていた「異世界ハーレム」の完成形だった。
「いやぁ、この世界の酒は美味いけど、俺の『状態異常無効』スキルのおかげで全然酔わねえわ! チートすぎて困っちゃうね!」
誰も理解できないゲーム用語をドヤ顔で連発しながら、弘樹は美女の口移しでワインを呷り、下品な笑い声を響かせている。
――その滑稽な光景を、大広間を見下ろす二階のバルコニーから、冷ややかな目で見物している者たちがいた。
バルバトス枢機卿をはじめとする、聖教国の上層部(大人たち)である。
「……ふん。絵に描いたような、頭の軽い馬鹿なガキで助かりましたな。王冠を被せられた猿だ」
ワイングラスを傾けながら、一人の枢機卿が鼻で笑う。
「全くだ。もし小賢しい知恵を持った小僧なら、あの『服従の首輪』を着けさせるのに苦労するところだった」
「それにしても、安い投資ですな。あんな安酒の樽と、従順に躾けた奴隷を数人あてがって『勇者様』とおだてるだけで、自分が世界の王にでもなったつもりでいる」
バルバトスは、下の階で美女に鼻の下を伸ばしている弘樹を見下ろし、冷酷に目を細めた。
「力『だけ』は本物のようだが、所詮は使い捨ての兵器。あんな阿呆を野放しにして、我々の地位を脅かされてはたまりませんからな。……首輪の呪いで思考を鈍らせ、夜は適当に女と酒をあてがい、昼は魔王軍の矢面に立たせておけ」
「ええ。各国の貴族たちに、あのド派手な光の魔法を見せつければ、我が国への支援金はさらに倍増するでしょう。魔王軍の猛攻も、あの神輿に全部押し付ければよいのです」
「くくく……。『勇者』とは、実に便利な集金道具ですな」
自分を主人公だと勘違いし、与えられた「安い接待(宴)」で完全に舞い上がっている異世界の青年。
彼を「便利な道具」として徹底的に管理し、搾取しようとする腐敗した大人たち。
田口弘樹の地獄のチュートリアルは、こうして誰よりも滑稽に、そして残酷に幕を開けたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第19話、田口弘樹の召喚日と、彼が完全に調子に乗る「宴」の回想エピソードでした!
「俺TUEEE!」「ステータスがカンスト!」と完全にゲーム感覚で浮かれ、あてがわれた美女と酒でハーレムを満喫する田口ですが、首にはしっかり大人の仕掛けた「服従の首輪」が……。
アドがルッツを買収して「CTO(最高技術責任者)」という正当なポジションとやりがいを与えたのとは対照的に、田口は完全に「安い接待で気持ちよくさせて、死ぬまで働かせる集金用兵器」として奴隷契約を結ばされてしまいました。
次回は、この「ゲーム感覚」の田口が、最前線で初めて『本物の死の恐怖』を味わう地獄の展開。
そして、それと対比するように、莫大な国家予算を使って「泥沼トラップ」で楽しく遊ぶアドたちの天国のような日常が描かれます!
「田口が痛すぎる!」「大人がエグい!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!
皆様の応援が、執筆の糧になります!




