第15話 企業買収(ヘッドハンティング)と、最強の専用武具
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前回、現場のリアルを無視する「マニュアル至上主義」の技師長バーンズと、その下でパワハラを受けながらも完璧な図面を引いていた天才ドワーフ・ルッツ。
前世の経営者スキルがうずいたアドは、この「不当に評価されている超優良人材」を見逃しませんでした。
今回は、ついにアドが王国の予算を物理的に(?)叩きつけてルッツを買収!
そして待ちに待った、三人の「専用装備」のお披露目です!
それでは、第15話をお楽しみください!
「――おい坊主! 我が技師団の下請けに何をコソコソと話しかけている!」
図面に見入っていた俺とルッツの後ろから、苛立ったバーンズ技師長の声が飛んできた。
俺は立ち上がり、パンパンと膝の泥を払うと、とびきりの「無邪気な子供」の笑顔を作って振り返った。
「あ、バーンズ技師長! ちょうどよかった。このお兄さんのこと、僕に『売って』くれませんか?」
「は……? 何を寝言を言っている。このドワーフは王都のギルドから我々が安値で買い叩いた……いや、正当に雇い入れた労働力だぞ」
「だって、技師長はこのお兄さんのこと『マニュアルも守れない能無し』だって怒ってたじゃないですか。そんな人、王国の偉大な技師団には相応しくないですよ」
俺はそう言いながら、足元に置いてあった麻袋――ケヴィン隊長から引き出した『軍資金』の一部――を拾い上げ、バーンズの足元に放り投げた。
チャリンッ、と鈍い金属音が鳴り、袋の口からこぼれた金貨が太陽の光を反射する。
「これ、王国の偉大な石壁を作るための『追加予算』です。僕からの寄付ってことにしていいですよ。その代わり、このルッツっていうお兄さんの雇用契約書、僕に譲ってください」
バーンズの目が、強欲な色に染まった。
彼の頭の中では「ドワーフ一人の日当」と「目の前の金貨」の計算が瞬時に行われたのだろう。ドワーフの若造一人など、いくらでも代わりが利く使い捨ての駒だと思っているに違いない。
「……ふん。辺境のガキがどこでそんな大金を手に入れたかは知らんが、そこまで言うなら譲ってやろう。こんな規定違反ばかりする無能など、こちらも持て余していたところだ」
バーンズは懐から雇用契約書を抜き出し、金貨の袋と交換するように俺に投げ渡した。
そして「さっさと泥遊びでも何でもさせておけ」と吐き捨て、ホクホク顔で去っていった。
残されたのは、呆然としているルッツと、雇用契約書を手にした俺。
(馬鹿め。目先の小銭で、数億の価値を生む『最高の頭脳』を手放しやがって)
俺は手の中の契約書をビリビリと破り捨て、ルッツに向き直った。
「さて、ルッツ。今からお前は自由だ。……いや、訂正しよう。今日からお前が、この村の『最高技術責任者(CTO)』だ」
「しー、てぃー、おー……?」
「村の防衛設備の設計、建築、そして武具の開発。そのすべてをお前に一任する。王都のクソみたいなマニュアルは全部忘れろ。俺が欲しいのは『見栄え』じゃなく『確実に魔族を殺せるシステム』だ」
俺は、村の倉庫に保管してある、この三年で狩り溜めてきた良質な魔物素材と、残りの莫大な軍資金のリストを彼に見せた。
「金はいくらでも出すし、足りない素材は王都から最高級のものを買い付けさせる。お前専用の工房も作る。……さっき地面に描いていたような狂った要塞とギミックを、現実のものにしてみろ」
ルッツの瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
種族や年齢で差別され、規定という名目で才能を縛り付けられてきた若き天才。彼にとって「自分のやりたいモノづくり」を、金と権限を与えられて全肯定されること以上の喜びはない。
「……やってやる。王都のエリートどもが小便ちびるような、史上最悪の兵器要塞を作ってやるよ……!!」
彼は泥にまみれた腕で涙を拭い、獣のように獰猛なクリエイターの顔で笑った。
†
それから一ヶ月後。
バーンズ率いる技師団が、マニュアル通りの「立派だが地盤沈下寸前の石壁」を作って満足げに王都へ帰っていくのを尻目に、俺たちは村の地下に広大な『本当の要塞』を構築していた。
ルッツの指導のもと、村人総出で組み上げられた免震構造の地下通路と、魔物の重みを感知して作動する物理トラップ群。
そしてついに、ルッツの専用工房から、待ちに待った「俺たちの武器」が完成したという知らせが入った。
「待たせたな、アド、ソフィ、レイ。……俺の徹夜の結晶だ」
げっそりと痩せこけた(しかし目は異様にらんらんと輝いている)ルッツが、机の上に三つの布包みを並べた。
「まずはレイ。お前には『特殊双剣』だ」
布が払われ、反りのない直刀と、鍔が異様に発達した短剣が現れる。
刃で斬るのではなく、二本の剣の腹と鍔を使って敵の攻撃を「線」で捉え、受け流すことに極限まで特化した、絶対防御の双刃。
「す、すごい……! 手に吸い付くみたいに軽くて、重心が完璧だ!」
「王国のナマクラ鉄じゃない。軽さと強度を両立させた特殊合金だ。お前の『絶対回避』の反応速度に、完璧に追従する」
レイが嬉しそうに双剣を振るう。
「次はソフィ。お前は……勇者らしく、王道の『剣と盾』だ」
ドン、と置かれたのは、一見すると伝説の勇者が持つような美しく神聖なデザインの剣と盾だった。
だが、俺の隣でルッツがニヤリと悪党のように笑う。
「ただの剣じゃねえ。刀身の真ん中に溝が入ってる。ソフィ、お前のその規格外の勇者の力(魔力)をここに流し込み、『指向性のレーザー』として撃ち出すための砲身だ。そして盾は、その規格外の火力を撃つ際のすさまじい反動を地面に逃がすためのアンカーになる」
「わぁっ……かっこいいです! 本物の勇者様みたい!」
ソフィが目を輝かせて剣と盾を構える。
超火力のレーザー大砲を、勇者のシルエットで隠す。王道と見せかけた、えげつない最高のエクステリア(外見)だ。
「最後に、アド。お前のは注文が多すぎて一番苦労したぜ」
俺の前に置かれたのは、遠距離から罠を起動する『指揮棒』、多機能な『万能ナイフ』とワイヤー等の便利ガジェット群。
そして、鈍い光を放つ無骨な『魔導銃』だった。
「お前は内包と放出の両方がこなせる希少な『複合型』だが、いかんせん魔力の総量が少なすぎる。そのまま魔法を外に撃ち出しても、良くて豆鉄砲だ」
「ああ。だから、道具の出番ってわけだ」
「その通り。こいつは、お前の微弱な魔力を銃身の内部で極限まで圧縮し、威力を何倍にも引き上げる『増幅機』だ。お前の少ない魔力でも、こいつを通せば実戦レベルの凶悪な『魔力弾』として撃ち出すことができる」
「……最高だ、ルッツ。これなら少ない手札(魔力)でも、盤面を完全にコントロールできる」
俺は魔導銃の重みを確かめながら、ゾクゾクとする高揚感に包まれていた。
自分の内に燻っていた小さな力を、戦局を左右する決定打に変換できる。司令塔としての選択肢が、爆発的に広がった瞬間だった。
盾、砲台、そして遊撃兼司令塔(俺)。
それぞれの役割に極限まで特化した専用武器。
これでようやく、俺たちの防衛力は「点」から「システム」へと進化した。
†
――しかし、盤面を見下ろしているのは俺だけではなかった。
同じ頃。はるか東の大山脈の向こう側、魔族領。
薄暗い天幕の中で、長身にローブを纏った知将ザイラス《東方将軍》が、配下の報告を受けて目を細めていた。
「……なるほど。王国の予算と物資が、あの辺境の村に大量に流れ込んでいる、と」
「はい。やはり将軍の読み通り、あの村は王国の『極秘の要塞』であったようです。いかがなさいますか? 再び精鋭を送り込みますか?」
「いや……小出しにして削られるのは愚の骨頂だ。私が直属の『本隊』を率いて、あの村を地図から消し去る」
ザイラスが地図上の「リビエラ村」の場所に黒い駒を置こうとした、まさにその時だった。
天幕に別の伝令が血相を変えて飛び込んできた。
「ザイラス将軍! 急報です! 聖教国サン・ノエルに『勇者』が降臨したとの報せが! 狂信者どもが勇者を旗印に、数十万規模の『大聖戦』を仕掛けてきました! 魔王陛下より、東方軍の全戦力を以てこれを迎撃せよとの勅命です!」
「……チッ。この絶好のタイミングで、厄介な偶像が現れたものだ」
ザイラスは不愉快そうに舌打ちをし、リビエラ村に置こうとした黒い駒を、手の中でギリッと握り潰した。
魔王の絶対的な命令と、勇者を旗印に士気を爆発させた聖教国の大群。
いくらザイラスといえど、この状況で裏道(リビエラ村)に本隊を割くようなマネはできない。組織の論理と盤面の激変が、彼の完璧な計画を強制的に書き換えたのだ。
「……裏道(リビエラ村)の攻略作戦は、無期限の凍結とする。監視の目だけは残しておけ。聖教国の勇者とやらを削り切るまで……数年はかかるだろうが、その後、必ずあの村を我らの手ですり潰す」
こうして、二つの巨大な組織の「都合」が再び奇跡的に噛み合い、アドたちは『魔王軍本隊の襲来』という確実な絶望まで、数年間の猶予を得ることになった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第15話、ルッツのスカウト成功と、待ちに待った「専用装備」のお披露目回でした!
無能な上司から天才を札束で引き抜く痛快な買収劇。そして、それぞれの能力に特化したロマン溢れる武具たち。魔法使いに「剣と盾」を持たせて砲台にするというギミックは、まさにオタク気質のルッツならではの発想ですね。
そしてラストでは、ついに魔王軍のザイラス《東方将軍》が本気で動き出す……と思いきや、隣の聖教国に「勇者」が降臨するという特大のイレギュラーが発生!
王国がソフィを勇者と見なしている裏で、本物の勇者(?)が聖教国に現れたことで、世界情勢はさらに混沌としていきます。
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