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第14話 マニュアル至上主義の罠と、過労死寸前の天才ドワーフ

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


前回、エリート騎士のケヴィン隊長を「王都の政治闘争」と「辺境の防衛リスク」という論理で完全にねじ伏せ、実質的な村の防衛司令官へと成り上がった10歳のアド。

彼の計算通り、ケヴィンは王都から莫大な「軍資金」と「建築資材」、そして「専門の技師団」を引っ張ってきました。


しかし、大組織(王国)から派遣されてきたエリートたちが、現場(辺境)で役に立つとは限りません。

今回は「大人の社会の理不尽」と、アドの前世の「経営者としての眼力(人事スキル)」が光るエピソードです!


それでは、第14話をお楽しみください!

「おい、そこの泥の穴を早く埋めろ! 『王国築城規定・第4項』に違反しているぞ! 我が国の誇る『第3種・標準石壁』を建てるのだ!」


数週間後。

 王都から到着した数十台の馬車と、莫大な建築資材。そしてそれを指揮するために派遣されてきた王国軍の『お抱え技師団』によって、リビエラ村は異様な活気に(あるいは混乱に)包まれていた。


技師団のトップであるバーンズ技師長は、分厚いマニュアル本を片手に、顔を真っ赤にして村人たちを怒鳴り散らしていた。

 彼が「埋めろ」と指示しているのは、俺たちが3年かけて作った、魔物の足を取るための実戦的な泥沼トラップだ。


「ちょっと待ってくれ! その沼は変異猪キメラボアの突進すら止めるんだ。ただの真っ直ぐな石壁なんか作ったら、魔族の軍勢に一瞬で突破されちまう!」

「黙れ農民! お前たちの泥遊びは美しくない上に、王国の『規格』から外れているのだ! 規定外の建築物は、後で王都の監査が入った時に予算の不正利用を疑われるだろうが!」


村の男衆が抗議するが、バーンズは聞く耳を持たない。

 遠巻きにその様子を眺めながら、俺は深々とため息をついた。


(出たよ。現場のリアルより、書類上のコンプライアンスと予算消化を優先する『現場を知らない本社組』の典型だ)


バーンズが優秀な官僚技師であることは間違いない。王都の平原であれば、彼の作るマニュアル通りの石壁は立派に機能するだろう。

 だが、ここは地盤の緩い泥濘と山脈に囲まれた辺境だ。そんな所に、重いだけの高さ5メートルの標準石壁を建てればどうなるか。

 ――ひと月もすれば、自重で泥の中に沈んで傾くか、倒壊する。


「おい、ルッツ!! どこにいるルッツ!!」


ふと、バーンズの怒声が別の標的へ向いた。

 彼が蹴り飛ばした資材の陰から、ビクッと肩を揺らして一人の青年が這い出てくる。

 背は俺たち子供より少し高い程度だが、肩幅が広く、腕が丸太のように太い。顔は煤と泥にまみれ、目の下には酷いクマができている。

 大山脈の出身、若手のドワーフだ。


「は、はい……! ここに、バーンズ技師長……」

「貴様! 第12区画の基礎工事の図面、勝手に仕様を変更したな!?」


バーンズが丸めた羊皮紙で、ルッツと呼ばれたドワーフの頭を何度も小突く。


「な、なぜ標準の『直打ち杭』ではなく、規定外の『浮き基礎』に変えた! 稟議も通さず、マニュアルを無視するとはどういうことだ! これだからドワーフの下請けは!」

「ち、違います技師長! この村の土壌は水分量が多くて……標準の直打ち杭では支持層まで届きません! 石壁の荷重を分散させる『浮き基礎』にしないと、三週間で壁が自重で崩落してしまいます……っ!」


ルッツは徹夜明けの死にそうな顔で、必死に現場の「真実リアル」を訴えた。

 だが、バーンズは冷酷に鼻で笑う。


「知ったことか! 我々の仕事は『規定通りの壁を建てて、予算を消化すること』だ! 崩落したなら、また予算を組んで建て直せばいい! 貴様の勝手な仕様変更のせいで、工程に遅れが出た。今日から一週間、貴様の日給は抜きだ!」


バーンズはそう吐き捨てると、マニュアルを片手に別の区画へと去っていった。

 残されたルッツは、絶望的な表情でその場にへたり込み、ボロボロの手で頭を抱えた。


「……くそっ。なんで分かってくれないんだ。あのままじゃ、魔物が来る前に壁が倒れて、村の人が死ぬのに……」


ルッツはうわ言のように呟きながら、地面の土に木の枝で何やら書き込み始めた。

 俺は気配を消して、彼の背後からその書き込みを覗き込んだ。


(……っ!?)


俺の心臓が、大きく跳ねた。

 ルッツが土に描いていたのは、ただの愚痴ではない。

 この村の地盤の緩さを完璧に計算し尽くした『応力計算式』と、魔物の突進の衝撃を土へと逃がす『免震構造のトラップ要塞』の図面だった。


王国の旧態依然としたマニュアルを遥かに凌駕する、近代的で、狂気的なまでの工学センス。

 ドワーフ特有の「経験とカン」に頼るのではなく、緻密な理詰めと計算で組み上げられた、芸術的なまでの兵器設計図。


(……見つけたぞ。本物の『天才バケモノ』だ)


俺の前世の、人事担当(CEO)としての血が沸騰する音がした。


王国のマニュアルに過剰適応した結果、現場の最適化を「規定違反」として罰する無能なトップ(バーンズ)。

 そして、その下で理不尽に搾取され、過重労働で潰されかけている、規格外の才能を持った下請け(ルッツ)。


俺がどちらの「人材アセット」を、この莫大な予算で買収すべきか。

 答えなど、火を見るより明らかだ。


「ねえ、あんた」


俺が声をかけると、ルッツはビクッと体を震わせて振り返った。

 10歳の子供に話しかけられたと分かり、彼は慌てて地面の図面を足で消そうとする。


「あ、ごめんよ坊主。今どくから……」

「消すな。その免震構造の図面、第12区画だけじゃなく、村全体に拡張できるか?」

「……え?」


ルッツが目を丸くする。村の子供が「免震構造」という単語を口にしたからだ。

 俺は彼の隣にしゃがみ込み、王都から引っ張ってきた『軍資金(金貨の入った袋)』をドンッ、と土の上に置いた。


「大組織のマニュアル(見栄え)に殺される前に、お前のその才能、俺が全部買ってやる」


俺は、前世で数多の企業を買収してきた時の、冷徹で、ひどく楽しそうな笑みを浮かべた。


「監査も規定も関係ない。予算カネは無限に出す。……この村に、お前の理想の『一番エグい殺戮要塞』を作ってみないか?」


過労死寸前の天才ドワーフと、王国の予算を握る10歳の防衛司令官。

 二人の利害が完璧に一致した瞬間だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


第14話、いかがだったでしょうか!

立ちはだかるエリートを「現場を知らないマニュアル至上主義の権化」として描きました。

現場の実用性よりも、書類上のコンプライアンスを優先する大組織の病理。そして、その下で勝手に現場を最適化しようとしてパワハラを受ける下請けの天才、ルッツ。


アドの前世の「経営者スキル」が、この隠れたダイヤの原石を見逃すはずがありません。


次回は、アドが王国の予算(札束)でルッツを強引にヘッドハンティング(買収)!

無限の予算と「やりたかったモノづくり」の全権を与えられ、ついに覚醒したルッツが、村の要塞化と「三人の専用装備」の開発に着手します!


「ルッツの境遇がリアルすぎる!」「アドの買収劇が熱い!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!

皆様の応援が、執筆の大きな力になります!

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