第13話 勇者認定と、10歳の「防衛司令官」
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前回、変異猪をたった一撃で粉砕し、エリート騎士団の度肝を抜いたソフィと、彼らの剣を完封したレイ。
圧倒的な「暴力」を目の当たりにしたケヴィン隊長は、恐怖の後に、ある強烈な「欲」に突き動かされます。
平和ボケした王国のエリートが差し出す「王都への片道切符」。
しかし、中身が42歳の元経営者であるアドは、その甘い誘いの裏にある「致命的なリスク」を冷徹に見抜いていました。
10歳の子供が、国家のエリートを理詰めでねじ伏せる。
痛快な第13話をお楽しみください!
「……し、信じられん。あのような巨大な魔物を、たった一撃で……」
泥まみれで地面に這いつくばったまま、ケヴィン隊長は消し飛んだ変異猪の跡を凝視していた。
彼の腰に下げられていた魔力測定の魔道具は、ソフィが魔法を放った瞬間に過負荷でパリンと砕け散っている。
「隊長! ご無事ですか!」
「何だ、今の光景は……。我ら第四部隊が束になっても勝てぬ相手を、あんな少女が……」
騎士たちが狼狽える中、俺はソフィとレイを背中に隠し、殊勝な子供の顔で歩み寄った。
「ケヴィン様! 大丈夫ですか? ソフィがびっくりさせちゃってごめんなさい。……でも、王国軍の皆さんはもっとすごいのを隠してるんですよね?」
皮肉を込めた俺の問いかけに、ケヴィンはガタガタと震えながら立ち上がった。
だが、その瞳に宿っていたのは屈辱ではなく、ぎらついた「功名心」だった。
「小僧……いや、アドウィックと言ったか。この少女……ソフィリアは、いつからこれほどの力を?」
「ええっと、小さい頃から力持ちでしたけど……。母さんに魔法を教わってから、もっとすごくなっちゃいました」
ケヴィンは俺の言葉を半分も聞いていなかった。彼はソフィを、もはや一人の子供としてではなく、自分の出世を約束する「至宝」として見ていた。
「間違いない……。この魔力量、この破壊力。そして、先程の少年の、あらゆる攻撃を無効化する技術……。これこそが、王国が数百年待ち望んだ『勇者』とその守護騎士の再来だ!」
ケヴィンが拳を握りしめ、高らかに宣言する。
村人たちがざわめき、ソフィとレイが不安げに俺の服の裾を掴んだ。
「ソフィリア殿! レイオス殿! 君たちはこのような僻地に埋もれているべきではない! 即刻、私と共に王都へ来るのだ! 国王陛下に拝謁し、聖騎士としての教育を受け、人類の希望となるのだ!」
出た。
前世のブラック企業で、将来有望な新人を「研修」という名目で本社に引き抜き、使い潰す時の常套句だ。
平和ボケした王国軍が、この「核兵器」並みの戦力を手放すはずがない。
一度王都へ行けば、彼女たちは「勇者」という檻に閉じ込められ、貴族たちの政治の道具として消費されるだろう。
「……えっ、王都? 僕たち、村のみんなと一緒にいたいよ……」
「ぼ、ぼくも嫌だ! アドくんがいないところなんて、絶対に行かない!」
二人が必死に拒絶する。
ケヴィンは困ったように顔を歪めたが、すぐに俺の方へ鋭い視線を向けた。
「アドウィック。先程の戦いでも、君は後ろに隠れていただけで何もしていなかったな。何の力も持たぬ平凡な村の子供……君が、この二人を唆して惑わせているのか?」
ケヴィンの声には、明確な「排除」の意図が混じっていた。
無能な幼馴染が、勇者の覚醒を妨げている。……彼らエリートの論理では、俺は切り捨てるべき「ノイズ」なのだ。
(ああ、やっぱりそう来るか。……なら、話は早い)
俺は小さく息を吐き、被っていた「10歳の子供」の仮面を、ここで完全に脱ぎ捨てた。
「ケヴィン子爵。……二人を王都へ連れて行けば、ひと月後にはアステリア王国は滅びますよ」
俺の声から、子供特有の甘えが消え失せた。
低く、冷徹な、前世で幾度も修羅場をくぐり抜けてきた『交渉者(経営者)』のトーン。
突然の俺の豹変に、ケヴィンだけでなく、後ろにいた騎士たちもギョッと息を呑んだ。
「な、何を馬鹿な……。勇者を王都へ迎え入れれば、我が国の防衛は盤石……」
「盤石? 笑わせないでください」
俺は懐から、この3年間で独自にまとめ上げた『大陸地図』と『魔族進軍予測ルート』を記した羊皮紙を取り出し、ケヴィンの胸ぐらに叩きつけるように突きつけた。
「王国が聖教国を『防波堤』にしていることくらい、少し頭が回る魔族なら誰でも知っている。知能の高い魔王軍の指揮官たちが、わざわざ血の気の多い聖教国を正面突破すると思いますか?」
「……っ!?」
「彼らは、王国の喉元に直接噛みつくための『裏道』を探している。そして、その裏道こそが大山脈の死角にあるこの『リビエラ村』だ。……三年前のオーク隊長は、その斥候だったんですよ」
俺の言葉に、ケヴィンの顔からスッと血の気が引いていくのが分かった。
実戦経験はなくても、腐っても軍の副隊長だ。地図を見せられ、論理的に戦局を説明されれば、この村の持つ『致命的な戦略的価値』に気づかざるを得ない。
「勇者(この二人)を王都へ連れ帰れば、確かにあなたは陛下から褒美をもらえるでしょう。……ですが、ここ(裏道)の守りが手薄になれば、魔王軍の本隊が雪崩れ込んでくる。王都で勇者就任のパレードをしている最中に、背後から魔族の大軍に王都を火の海にされる気分は、さぞ格別でしょうね」
「ば、馬鹿な……。そんな大規模な軍勢が、我々に気づかれずにこの山脈を越えられるはずが……」
「『防波堤』の向こう側で平和ボケしているあなた方に、それが分かるとでも?」
俺は最後の一撃を刺すべく、一歩前に出た。
「勇者は、王都には行きません。ここが魔王軍を食い止める『最前線』になる」
「し、しかし! こんな辺境の村に、勇者を放置したとあっては私があとで……!」
「放置しろとは言っていませんよ。……投資しろと言っているんです」
俺は、極上の営業スマイルを浮かべた。
「あなたが王都に戻り、『リビエラ村を対魔族の絶対防衛要塞とし、勇者たちをそこに駐留させる』という作戦を上に通せばいい。そして、あなたの権限で、王国から莫大な『軍資金』と『物資』、そして『最新の武器』をこの村へ引っ張ってくるんです」
「な……資金を、この村にだと?」
「ええ。僕たちが、王国軍の代わりにここで魔王軍を完全にせき止めて見せますよ。手柄はすべて、この戦略を立案した『ケヴィン・ザ・ダグラス子爵』のものです。……悪い話じゃないでしょう?」
ケヴィンは絶句した。
目の前にいるのは、ただの10歳の村の子供だ。
だが、その口から飛び出すのは、国家間のマクロな戦局を見据えた軍略と、人間のドス黒い出世欲を的確に突く、悪魔のようなプレゼンテーション。
もはや、盤面の主導権は完全に俺の手の中にあった。
「……わ、分かった。私が、上に掛け合ってみよう……」
ケヴィンが力なく頷いた瞬間、俺の『王国軍予算乗っ取り計画』は完遂された。
王都へ行けば、ただの駒として消費されるだけだ。
だが、ここを動かずして王国のリソース(予算)を引き出せるなら、話は別。
(これで、ようやく『王国の莫大な予算』を自由に使えるぜ……)
村の要塞化をさらに盤石にするための建築資材。
そして、俺たち三人のポテンシャルを極限まで引き出すための『最高の装備』。
それを揃えるための潤沢な金とコネクションを、俺は手に入れたのだ。
持たざる者の意地と、前世の泥臭い交渉術が、王国のエリートを完璧に手玉に取った瞬間だった。
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13話、アドの「プレゼン&交渉術」が炸裂した回でした!
子供だと思って見下していたエリート騎士のプライドと保身を的確に突き、「勇者を見つけた手柄はあげるから、王国の金と物資をここに流せ」と論破するアド。まさに元経営者の面目躍如です。
これにより、アドは村の「実質的な防衛司令官」となり、莫大な国家予算を手に入れることになります。
この予算を使って、アドは次にどんな手を打つのか?彼らの装備はどうなるのか?
「アドの論破がスカッとした!」「次の展開が楽しみ!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!
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