第12話 エリート騎士の査定と、10歳の「分からせ」
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前回、3年の月日を経て10歳へと成長したアド、ソフィ、レイの三人。
アドの主導で村は要塞化され、レイは「絶対回避」の、ソフィは「超火力」の牙を研ぎ澄ませてきました。
そこへようやく現れた、王国のエリート騎士団。
しかし、彼らが持ってきたのは救援の志ではなく、地方貴族の慢心と実戦経験のなさを煮詰めたような、鼻持ちならない特権意識でした。
10歳の「子供」と、自称「最強」の大人たち。
盤面を支配するのは階級か、それとも積み上げた実力か。
痛快な第12話をお楽しみください!
村の入り口に整列した二十名の騎士たちは、磨き上げられた鎧に身を包み、辺境の泥臭い風景を隠そうともしない嫌悪の目で見下していた。
その先頭で、一際豪華な羽飾りのついた兜を脱いだ男が、不遜な笑みを浮かべて村長に歩み寄る。
「私がアステリア王国騎士団、第四部隊副隊長のケヴィン・ザ・ダグラス子爵である。三年前の『オーク討伐』という風変わりな報告を確認しに来てやったぞ」
ケヴィンと名乗った男は、俺たちが三年間、血と汗を流して作り上げた防衛陣地――泥パテで固めた迷路のような土壁や、偽装された落とし穴の数々を、馬鞭で指して高笑いした。
「くっくっく、これは傑作だ。村総出で泥遊びか? こんな子供騙しの仕掛けで魔族が防げると本気で思っているのか。やはり辺境の民は想像力が欠如しているな」
背後の騎士たちからも、失笑が漏れる。
彼らにとっての戦争とは、平原で華々しく陣形を組み、騎士道に基づいてぶつかり合うものなのだろう。
俺は一歩前に出ようとした村長を制し、顔に「あどけない10歳児」の仮面を貼り付けた。
「ケヴィン様、お会いできて光栄です! でも、この『泥遊び』がないと、僕たちみたいな子供は怖い魔物に食べられちゃうんです。王国軍の皆さんは、もっとすごい戦い方をするんですか?」
俺の純粋(を装った)な問いかけに、ケヴィンの自尊心がこれでもかと膨れ上がるのが分かった。
「当然だ、小僧。我ら正規軍の『剛剣』と『鉄壁の陣』があれば、魔族など近づくことすら叶わん。貴様らが見たというオークも、どうせ飢えた野犬か何かを見間違えたのだろう」
「へぇー、すごい! じゃあ……ケヴィン様の『剛剣』、レイに見せてあげてくれませんか? この子、村で一番のどんくさがりなんですけど、騎士様に憧れてるんです」
俺は隣で「えっ、僕?」という顔をしているレイの背中を、ドンと前に押し出した。
「なっ、何だと? この私が、農民の子供相手に剣を抜けと言うのか?」
「ダメ……ですか? せっかく王都から強そうな騎士様が来てくれたのに、本物の剣を見られないなんて、レイがかわいそうです……」
俺は今にも泣き出しそうな表情でケヴィンを見つめる。
周りの騎士たちからも「隊長、遊んでやればいいじゃないですか」「教育ですよ、教育」と野次が飛ぶ。引くに引けなくなったケヴィンは、忌々しそうに腰の長剣を抜いた。
「よかろう。ただし、怪我をしても泣き言は無しだぞ。……ほら、構えろ、小僧」
レイは困ったように俺の顔を見たが、俺が小さく頷くと、覚悟を決めたように腰に差した二本の木剣を引き抜いた。
広場に緊張が走る。……いや、走っているのは俺たちを知る村人側だけだ。騎士たちは、まるで猿回しでも見るようなリラックスした様子で眺めている。
「ふん、双剣か。小癶な真似を……行くぞ!」
ケヴィンが鋭く踏み込み、長剣を真っ向から振り下ろした。
流石は騎士、速度とパワーだけは本物だ。まともに受ければ10歳の子供など、木剣ごと真っ二つだろう。
だが、レイは動かなかった。
恐怖で固まったのではない。彼特有の異常な動体視力が、ケヴィンの剣筋を完璧にスローモーションで捉えていた。
――カツィンッ!
小気味いい金属音が響いた。
レイは力で対抗するのではなく、二本の木剣を交差させ、ケヴィンの刃が触れた瞬間に手首をわずかに捻った。
剣の「腹」を使って力を逃がし、軌道を真横へと逸らす。
「……は?」
ケヴィンの長剣が、何の手応えもなく空を切り、地面に深く突き刺さった。
全力を込めていた反動で、ケヴィンは無様に前のめりになり、泥濘に膝をつく。
「あ、あれ……? もうおしまいですか?」
レイが首を傾げる。わざとではない、彼なりの純粋な疑問だ。
顔を真っ赤にして立ち上がったケヴィンは、なりふり構わず二撃目、三撃目と剣を振り回した。
「この、チョコマカと……! 死ねぇッ!」
激昂し、大振りが目立つケヴィンの剣。
対するレイは、最小限の足運びでそれらすべてを「カツン、カツン」と弾き落としていく。
一歩も引かず、それでいて自分からは一度も攻撃しない。ただ相手の攻撃を無力化し続ける。
それは、誇り高い騎士にとって、敗北よりも屈辱的な「分からせ」だった。
「隊長が……子供に手こずっている?」
「あのガキ、何だあの動きは……!?」
騎士たちの間に、ようやく戦慄が走り始めた、その時。
『――グルルルルッ!!』
森の奥から、空気を震わせる不吉な咆哮が響いた。
先程までの模擬戦の空気を一変させる、本物の『殺気』。
茂みをなぎ倒して現れたのは、三年前の装甲猪をさらに一回り大きくし、全身を毒々しい紫色の鱗で覆った魔物――『変異猪』だった。
東方将軍が時を待つ間、この地の魔力の淀みに当てられて進化した、はぐれ魔物のボス格だ。
「魔、魔物だと!? 総員、陣を組め! 迎撃だ!」
ケヴィンが慌てて叫ぶが、騎士たちは突然の事態にパニックを起こし、統制が取れない。
変異猪は、最も目立つ銀色の鎧の集団――騎士たちに向かって、重戦車のような突進を開始した。
「ひ、ひぃぃっ! 防げ! 防ぐのだ!」
ケヴィンの絶叫も虚しく、騎士たちの構えた盾が、紙細工のように吹き飛ばされる。
本物の戦場を知らないエリートたちの限界が、一瞬で露呈した。
(やれやれ……。俺が盤面を整えるまでもないな)
俺はため息を吐き、隣で魔力を練り始めていたソフィの肩を叩いた。
「ソフィ。あのおじさんたちが死んじゃうと、後の『交渉』が面倒になる。……一発で、仕留めて」
「はい、アドくん!」
ソフィが前へ出る。
その小さな手のひらの先に、目に見えるほど濃密な、白銀の魔力の渦が凝縮されていく。
「――圧縮・解放」
ズドォォォォンッ!!!
閃光が奔った。
それは変異猪の巨体を正面から飲み込み、周囲の地面ごと、その存在をこの世から抹消した。
爆風に煽られ、ケヴィンたちは地面を転がり、泥まみれになって呆然と立ち尽くした。
後に残ったのは、綺麗に抉り取られた大穴と、静まり返った村の広場だけだ。
ソフィは何事もなかったかのように手を払い、俺の後ろに隠れて「えへへ」と笑った。
俺は、泥だらけのまま震えているケヴィンの元へ歩み寄り、冷徹な42歳の経営者の目を向けて、囁いた。
「子爵様。……これが、僕たちの『泥遊び』の結果です。さて、お話の続きをしましょうか?」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
10歳の三人が、王国のエリート騎士たちの鼻っ柱を物理的にも精神的にもへし折る第12話でした!
レイのパリィとソフィの超火力。
3年間の地獄の特訓(レベル上げ)は、実戦経験のない大人たちを遥かに凌駕するレベルにまで彼らを押し上げていました。
次回の第13話では、この圧倒的な実力差を見せつけられたケヴィン隊長が、驚愕のあまり「ある提案」を持ちかけてきます。
アドの狙い通り、物語は「予算獲得」と「国家への介入」へと舵を切ります!
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