第11話 7歳児の「おねだり(プレゼン)」
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
前回、魔族の先遣隊(オーク隊長)を退け、見事な防衛戦を飾ったアドたち。
しかし、司令塔であるアドの目は、目の前の勝利ではなく、大陸全土の「マクロな戦局」を見据えていました。
なぜ魔王軍は、こんな辺境の村を狙ったのか?
今回は、その生々しい理由と、アドの「外向きの子供口調(演技)」が冴え渡るエピソードです。
そして物語は、少しだけ時を進めます。
それでは、第11話をお楽しみください!
オーク隊長率いる先遣隊を全滅させた、数日後のこと。
俺は村長の家にお使いに行ったふりをして、こっそり忍び込んだ書斎の机で『大陸地図』を食い入るように見つめていた。
(……なるほどな。やっぱりそういうことか)
前世で、倒産しそうな取引先の決算書を読み解いた時と同じ、嫌な汗が背中を伝う。
俺たちの住むアステリア王国は、魔族領と直接接していない。間に『聖教国サン・ノエル』という宗教国家を挟んでいるからだ。
王国は自国の兵士の血を流す代わりに、豊富な資金と物資で聖教国を支援し、事実上の「魔族除けの防波堤」として利用している。
魔王軍からすれば、狂信的で士気の高い聖教国を正面突破するのは極めてコスパが悪い。
そこで目をつけたのが、誰も通れないと思われている大山脈の死角――この『リビエラ村』を通る裏道ルートだ。ここを抜ければ、防波堤(聖教国)を無視して、スポンサーである王国の喉元に直接噛みつける。
(俺たちの村は、王国に見捨てられた僻地じゃない。魔王軍にとっての『最重要バイパス』だ。……間違いなく、いずれ本隊が来る)
現状の防衛力は、父さん(ロイド)と母さん(ハンナ)という元Aランク冒険者の暴力に、9割以上依存している。
だが、特定の「エース」に依存する組織は、エースが倒れた瞬間に崩壊する。俺たち子供3人のコンボ戦術も強力だが、まだ7歳の体力と魔力では継戦能力に限界がある。
属人化を解消し、誰が欠けても機能する『システム』を作らなければならない。
そのために必要なのは、村人全員を巻き込んだ大々的な土木工事(要塞化)と、後進の育成だ。
書斎の隣にある大広間からは、大人たちの重苦しい話し声が漏れ聞こえてくる。どうやら村の今後の防衛について、青い顔で会議をしている真っ最中のようだ。
中身が42歳とはいえ、外見はただの7歳の子供。
いきなり大広間に乱入して「防衛のシステム化とインフラ整備が必要です」なんて言えば、気味悪がられてまともに取り合ってもらえないだろう。
(ここは、ガキの武器を最大限に使わせてもらう)
俺はパンッと自分の頬を叩き、表情筋を「無邪気な7歳児」のそれにセットした。
そして、大広間の扉を元気よく開け放つ。
「父さーん! 母さーん!」
俺はタタタッと短い足で駆け寄り、会議の席にいた父さんの太い足にしがみついた。
「どうしたアド? 大人は今、大事な話をしてるんだぞ」
「あのね、俺、この前父さんたちが戦ってるの見て、すごくかっこいいと思ったの!」
俺は目をキラキラさせて、大人たちを見回した。後ろからついてきたソフィとレイも、俺の事前の合図でコクリと頷き、隣に並ぶ。
「でもね、父さんたちがいっぱい戦ったら、疲れちゃうでしょ? だから、僕たちや、村のみんなも一緒に戦えるように、『おおきなお城(罠)』を作りたいな!」
「お城、だと?」
村長が怪訝そうな顔をするが、俺は一気に畳み掛ける。
「うん! 泥遊びで作った落とし穴、魔物の足止めにすごく役に立ったでしょ? 村のみんなでいっぱい穴を掘って、壁を作れば、父さんたちが休む時間ができるよ!」
さらに、俺はレイの背中をポンと叩いた。
「レイも父さんみたいに強くなりたいんだって! ソフィも、母さんにもっと魔法を教えてほしいって言ってるの! ね?」
「えっ!? あ、う、うん! ぼく、強くなりたい……!」
「わ、私も、ハンナおば様みたいに上手になりたいですっ!」
俺の突然の無茶振りに戸惑いながらも、二人は必死に頷いた。
大人たちの顔つきが変わる。
恐怖に震えていたはずの7歳の子供たちが、村を守るために健気に「自分たちも戦う、強くなる」と宣言したのだ。これに心を動かされない親はいない。
「……ははっ。参ったな。子供たちにここまで言われちゃ、大人が震えてる場合じゃないか」
父さんが俺の頭をガシガシと撫で、村長に向き直った。
「村長。アドの言う通りだ。いつ来るか分からない軍隊に怯えるより、迎え撃つ準備(要塞化)を始めましょう。俺とハンナで、この村の若い連中と……この子たちを鍛え上げます」
「……うむ。王都へは救援の早馬を出した。だが、到着を待つ間、指をくわえているわけにもいかんからな」
よし、通った。
満面の笑みを浮かべながら、俺は内心で(チョロいぜ……)と悪い顔でほくそ笑んでいた。
こうして、村を挙げての「完全要塞化計画」と、両親による「地獄の英才教育」が幕を開けた。
すぐにでも王国軍の救援が来る、あるいは魔王軍の第二陣が来る……大人たちはそう思っていた。
だが。
それから『三年』という月日が流れても、村にはどちらの軍勢も現れなかった。
理由は、のちに判明する。あまりにもくだらない、双方の組織としての「都合」だった。
王国の地方領主が、村の救援要請を「予算ほしさのホラ話」として書類の山に埋もれさせていたこと。
そして知略派である《東方将軍》が、俺たちの戦果を「王国軍の罠」と過剰警戒し、三年かけて聖教国側に巨大な陽動作戦を仕込んでいたこと。
結果として、俺たちは全くの偶然から『三年間の猶予(安全なレベル上げ期間)』を手に入れた。
たまに飢えて山を降りてくるはぐれ魔物や、少数の偵察部隊を「経験値」として狩り続けながら。
†
「――レイ! 踏み込みが甘い! もっと敵の剣の『軌道』だけを見ろ!」
「はいっ、ロイド師匠!」
カキィィンッ!!
村の広場で、鋭い木剣の衝突音が響いた。
元Aランク剣士である父さんの重い一撃。まともに受ければ大人でも骨が砕けるそれを、一人の少年が、手にした二本の短い木剣(双剣の練習用)でしなやかに受け流し、軌道を逸らしてみせた。
レイオス。10歳。
少し背が伸び、顔つきも引き締まった彼は、もはや昔の「どんくさい気弱な少年」ではない。父さんの猛特訓により、その異常な動体視力は『絶対回避』の技術として完璧な域に達しつつあった。
「ソフィ! 魔力が散ってるわよ! もっと一点に、針の穴を通すように圧縮しなさい!」
「はい、ハンナお師匠様!」
ズドォォォンッ!
村の外れの岩山の一部が、ソフィの放った魔力によって綺麗に丸く抉り取られた。
ソフィリア。10歳。
村の男の子たちがこぞって初恋泥棒されるほど、美しく聡明な少女に成長した彼女は、膨大すぎる魔力を「圧縮して撃ち出す」コントロール技術を身につけ、まさに歩く固定砲台と化していた。
俺、アドウィック。同じく10歳。
俺の魔力総量も、体の成長に伴って少しずつではあるが確実に増えてきていた。ソフィのような規格外には遠く及ばないものの、魔力を体内で高速循環させる『身体強化』と、罠に魔力を流し込む『トラップ生成』のスピードと精度は三年前の比ではない。
「アド! 泥トラップの第十二区画、補修終わったぞ!」
「ありがとう、おじさん! 次は崖の上の落石装置の点検をお願い!」
俺は村の男衆に的確な指示を出しながら、すり鉢状の地形に作られた巨大な「迷路」を見下ろした。
三年の歳月と、俺前世の土木知識、そして村人たちの労働力を注ぎ込んで完成した、魔物迎撃用の完全要塞。
それが、今のリビエラ村の姿だった。
(これで、いつ魔王軍の本隊が来ても、ある程度は持ち堪えられる……はずだ)
俺が額の汗を拭った、その時。
村の入り口の監視塔に立っていた村人が、慌てた様子で鐘を鳴らした。
カンッ、カンッ、カンッ!
「アド! 村長を呼んでくれ! 西の街道から、馬に乗った一団が来るぞ!」
俺は目を細めた。
西の街道。魔族の来る大山脈の方向ではない。王国(王都)へ続く道だ。
土埃を上げて村にやってきたのは、魔物ではない。
白銀の鎧を太陽の光に反射させ、立派な軍馬に跨った、二十名ほどの小隊。
彼らの掲げる旗には、アステリア王国の紋章が誇らしげに描かれていた。
だが、馬上で揺られる彼らの態度は、緊急の救援に駆けつけた軍隊のそれではない。どこかピクニックにでも来たかのような、緊迫感の欠片もない空気を纏っていた。
(……三年前のオーク討伐の報告書。おそらく今頃になって書類の底から発掘されて、視察の口実にでも使われたってところか)
前世のブラック企業や役所で腐るほど見てきた「お役所仕事」の匂いがプンプンする。
俺は呆れてため息をついた。
「ずいぶんと遅い『ご到着』だな」
俺たちと、腐りきった王国軍(大人たち)との、壮絶な「交渉」と「盤面の奪い合い」が、いよいよ幕を開けようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第11話、アドの「7歳児モード」の強かなプレゼンから始まり、空白の三年間を描きました!
お役所仕事で初動が遅れた王国と、深読みして陽動作戦を仕込んでいた魔王軍。それぞれの組織の「都合」が重なり、アドたちに3年の猶予を与えました。
10歳に成長したレイとソフィ、そして村人たちを指揮して完成したD.I.Y要塞。
そこにようやくやってきた、平和ボケした「王国のエリート騎士たち」。
次回は、自分たちが最強だと信じて疑わない騎士隊長の前で、10歳の子供たちが「本物の実力」を見せつける痛快なエピソードです!
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