第10話 盤面崩壊(イレギュラー)と、起死回生の確定演出
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前回、7歳の子供たちに「戦争」ではなく「モグラ叩きと的当てゲーム」をさせることで、恐怖心を消し去り完璧な防衛ライン(キルゾーン)を構築したアド。
元Aランクの両親が前線で無双し、漏れてきた敵を安全圏から子供たちが確実に処理していく。
その圧倒的な「期待値」を誇る盤面は、このまま完璧に機能し続けるかに思われました。
しかし、戦場には常に『イレギュラー』が潜んでいます。
今回は、いよいよ魔族先遣隊を率いる「ボス」の登場です!
それでは、第10話をお楽しみください!
開戦から一時間が経過した。
俺の構築した防衛システムは、まさに完璧に機能していた。
「レイ、右からモグラだ!」
「カツンッ!」
「よし、クッキー五個目! ソフィ、岩の印へ!」
「えいっ!」
「ドゴォォォン! 肩車三回目追加!」
土壁の裏側に隠れた俺たち三人のもとには、前線で両親が撃ち漏らした数体の低級魔物が雪崩れ込んでくるだけ。それらも俺の泥トラップで足止めされ、レイが確実に弾き、ソフィが安全圏から撃ち抜く。
完全に作業化された『ゲーム』の中で、二人の子供たちの顔からは恐怖が消え、むしろ「次の的はまだか」とウズウズしているほどだった。
(完璧だ。前線の父さんたちも無傷。このまま魔力とスタミナのリソースさえ管理すれば、勝率100%のまま終わる……!)
俺が内心でガッツポーズをした、その時だった。
――ズズズンッ!!
地鳴りのような重低音が響き、前線の方角から、これまでとは桁違いの爆風が吹き荒れた。
木々がへし折れ、俺たちが隠れていた土壁の上部が吹き飛ぶ。
「きゃあっ!?」
「うわあっ!?」
突然の衝撃に、目を瞑っていたソフィとレイが悲鳴を上げて尻餅をついた。
俺は慌てて壁の隙間から前線を確認し、息を呑んだ。
「……冗談だろ」
父さんと母さんが、数十メートルも後退させられていた。
二人の前に立っていたのは、これまでの有象無象の魔物とは次元が違う存在。
全身を漆黒の重装甲で覆い、身の丈は三メートルを優に超える巨大なオーク。その手には、禍々しい魔力を纏った大斧が握られている。
『チッ……辺境の農民かと思えば、随分と骨のある人間がいるではないか』
そいつは、人間の言葉を喋った。
魔族軍・先遣隊の隊長クラス。明らかに「盤面」のパワーバランスを単体でひっくり返す、最悪のイレギュラーカードだった。
「ハンナ! あいつは俺が抑える! お前は雑魚を……!」
「ロイド、気をつけて! あの斧、魔力を吸っているわ!」
父さんが剣を構えて突突進するが、巨大オークの大斧がそれを力任せに弾き返す。
その余波だけで、周囲の魔物すらミンチになって吹き飛んでいく。
マズい。完全に膠着状態だ。
父さんと母さんがオーク隊長に釘付けになっている間、指揮系統を失ってパニックになった残存の魔物たち(約十数体)が、一斉に俺たちのいる村への一本道へ雪崩れ込んできた。
「ア、アドくん……! モグラがいっぱい来たよぉ!?」
「こ、怖いよぅ……!」
土埃と血の匂い。そして、迫り来る魔物の群れ。
俺の作った「ゲーム」という名の欺瞞が剥がれ落ち、7歳の子供たちは再び戦争の「現実」に直面してパニックを起こし始めていた。
(クソッ……! トラップの処理能力を超えてる!)
数体が落とし穴に落ちるが、後続がその死骸を踏み台にして泥壁を乗り越えてくる。
このままでは防衛線を突破される。俺たちはもちろん、後ろの村も終わりだ。
撤退するか? いや、今背を向ければ一瞬で狩られる。
手札を見る。
泣きじゃくるソフィ(大砲)と、震えて棒を取り落としそうなレイ(盾)。そして、魔力を内にしか込められない、身体強化だけの俺。
このクソみたいな手札で、どう状況を打開する?
(……腹を括れ。俺が『司令塔』だ)
前世で、会社が倒産しそうになった時、誰が一番泥水を啜った?
俺だ。社長である俺自身が、一番の矢面に立って土下座して回ったじゃないか。
部下にだけ安全な作業をさせておいて、イレギュラーが起きたらパニック? ふざけるな。上が体張らないで、誰が下を信じさせるんだ!
「レイ! ソフィ! よく聞け!!」
俺は二人の首根っこを掴み、無理やり俺の顔を見させた。
「ゲームは終わりだ。ここからは『本番』だ」
「ひっ……!」
「いいか。俺が今から、あいつら全員の気を引く(ヘイトを集める)。お前らは、俺が作ったあの『一番大きい泥沼』に敵が全員入った瞬間だけを狙え!」
「む、無理だよ! アドくんが死んじゃう!」
「死なねえよ!」
俺はニカッと笑い、二人の頭を乱暴に撫でた。
「俺の計算(期待値)を信じろ。絶対に勝てる盤面を作ってやる」
俺は土壁を蹴り上がり、魔物たちの群れのど真ん中へと飛び出した。
丹田で練り上げた魔力を、極限まで体内循環させる。血管が焼き切れそうなほどの熱。視界が研ぎ澄まされ、五感が爆発的に拡張される。
「おらァッ! こっちだクソ犬ども!!」
俺は手近な岩を蹴り飛ばし、先頭の魔狼の顔面に叩き込んだ。
ギャン!と悲鳴を上げた魔狼と、その仲間の魔物十数体の血走った視線が、一斉に俺一人に集中する。
(よし、食いついた!)
俺は背を向け、自分が作ったトラップ地帯を全力で逆走した。
背後から迫る牙、爪、刃。
一発でも食らえば即死だ。だが、俺はこの地形の「どこに罠があるか」をすべて把握している。
足場が崩れるポイントをギリギリで躱し、落とし穴の縁を蹴って跳ぶ。
俺を追ってきた魔物たちは、次々と俺自身の仕掛けた罠に引っかかり、体勢を崩していく。
「ここだァッ!!」
俺が急ブレーキをかけたのは、防衛線の手前に作った、すり鉢状の巨大な「泥沼トラップ」の中心だった。
俺を食い殺そうと、十数体の魔物が一斉に泥沼へと飛び込んでくる。
だが、その足元は俺の魔力で極限まで液状化させた「底なし沼」。一歩踏み入れた瞬間に足を取られ、魔物たちは団子状になって身動きが取れなくなった。
(盤面の制圧完了。あとは――)
「レイ!! ソフィ!!」
俺は泥沼の端から、喉が裂けるほど叫んだ。
土壁の向こうから、震える足で立ち上がった二人の姿が見えた。
顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。だが、その目はしっかりと前を見据えていた。
俺が体を張って命を懸けたことで、二人の心に『恐怖』よりも『絶対にアドを助ける』という意志が勝ったのだ。
「う……うおおおおおッ!!」
泥沼から這い出ようと、一体のゴブリンが槍を俺に向けて投擲した。
避けられないタイミング。だが。
――カツンッ!!
猛然と駆け込んできたレイが、俺の目の前に立ち塞がり、木の棒一本でその槍を真上へと完璧に弾き飛ばした。
彼の「絶対回避」は、ついに自分だけでなく「他人を守るための盾」へと進化したのだ。
「ソフィ! 今だッ!!」
レイの後ろから、ソフィが両手を突き出す。
その両手には、これまでとは比べ物にならないほど高密度に圧縮された、白く輝く純粋な魔力の塊(大砲)が握られていた。
「いっけえぇぇぇぇぇッ!!!」
ソフィの絶叫と共に放たれた極太の閃光が、泥沼で身動きが取れなくなっている魔物の群れの中心へ、寸分の狂いもなく直撃した。
――ピカァァァァァッ!!
ドゴォォォォォォォンッ!!!
森の一部を蒸発させるような、凄まじい熱と光の奔流。
俺とレイは慌てて地面に伏せ、爆風をやり過ごした。
光が収まり、土煙が晴れた後には……すり鉢状の地形ごと跡形もなく消え去った、巨大なクレーターだけが残されていた。
敵の残存兵力、全滅。
「……ははっ。見ろよ。……期待値、100%だ」
俺は仰向けのまま、空に向かって笑った。
泥だらけのレイとソフィが、泣きながら俺の上に覆い被さってくる。
「アドくんっ! アドくぅぅん!!」
「えぐっ……ぐずっ……やった、やったよぉ!」
その時。
後方から、信じられないものを見るような足音が近づいてきた。
「……アド? ソフィちゃんに、レイオス君……?」
傷だらけの父さんと母さんだった。
その手には、首と胴体が泣き別れになった、あの巨大オーク隊長の死骸が引きずられている。どうやら、あちらも無事に決着がついたらしい。
父さんは、消し飛んだ地形と、無傷の俺たち三人を見て、剣を取り落とした。
「お前ら……たった三人で、これを全部やったのか……?」
「ああ。モグラ叩きと、的当てゲームの成果さ」
俺は泥だらけの顔で、前世で一番のビッグプロジェクトを成功させた時のような、とびきりの笑顔を浮かべた。
これが、リビエラ村防衛戦の結末。
そして、持たざる者である俺が、最強の「手札」たちと共に、この理不尽な世界に初めて勝利の爪痕を残した瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第10話、防衛戦のクライマックスでした!
完璧だったゲーミフィケーション(欺瞞)が剥がれ落ち、子供たちが本物の恐怖に直面した時、アドが自ら「最も危険な囮(ヘイト役)」として盤面を支配し直す。
上が体を張って下を信じさせる、まさに「理想のリーダー(司令塔)」の姿を描いてみました。
レイのパリィが「自分を守る」から「仲間を守る」へ進化した瞬間や、ソフィの超火力が炸裂する「確定演出」の爽快感を楽しんでいただけていれば幸いです。
激闘を終え、大人たちも驚愕する結果を残した三人。
ここから彼らの存在は、村だけでなく、より広い世界(あるいは魔族側)からも注目されることになっていきます……!
「熱い展開だった!」「この3人の連携、最高!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の評価(★)やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!
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