お姉ちゃんといっしょ。もうさびしくないよ
昼下がりの陽だまりが、ラヴェンダー家の屋敷のキッチンにやさしく差し込んでいた。
その日のお昼、ルシェルは窓際にちょこんと座り、キッチンで動く姉の姿をじっと見つめていた。
お昼にリナが市場に出ていたため、今日はリリスが自分で調理をしていた。
「……お姉しゃま、なにか……てつだいたいの……」
その小さな声に、リリスは少し驚いたように振り返った。
「えっ、手伝いたいの? でもまだ疲れてるんじゃない?」
ルシェルはこくんと首を横に振る。
「げんき……だから……なにかしたい……の」
そのけなげな姿に、リリスは胸がふわりと温かくなった。
「じゃあ、一緒におやつでも作ってみようか。簡単なクッキーとか、蒸しパンなんてどう?」
一瞬だけきょとんとしたあと、ルシェルの顔がぱっと花のようにほころぶ。
「つくる……!」
ルシェルの顔がぱっと花のようにほころぶ。
そのとき、背後から軽快な足音とともにルーファスが現れた。
「あーっ! ルシェルなんでおねーちゃんとご飯作ってるの!? 僕もやる!」
「ふふ、ルーファスも来たのね。じゃあ三人で一緒に作りましょう」
リリスは小麦粉と卵、蜂蜜と牛乳を並べて、簡単な蒸しケーキの準備を始める。
ルシェルはそっとリリスの袖を引っ張り、「これ、まぜるの?」と尋ねる。
ルーファスは「僕は卵割るの得意なんだからね!」と得意げに割って見せるも、殻を少し落として慌てる。
「もう、ルーファスったら。でも、頑張ってるわね」
「えへへ、おねーちゃんに褒められた」
三人のやりとりは、静かな午後を明るく彩っていた。
ルシェルが小さな手で一生懸命に生地を混ぜ、リリスがそっとサポートする。
その様子を見ながら、リリスの胸にはまたひとつ、あたたかい想いが芽生えていく。
(この子たちと一緒に過ごせる日々を、大切にしよう)
リリスは穏やかな微笑みを浮かべながら、兄妹たちと“団らん”の味を作り上げていった。
夕食を終えたあと、リリスはルシェルとルーファスを連れて、居間の大きなクッションに並んで座っていた。
「お姉しゃま……ぎゅーってして……」
ルシェルが小さな体をリリスに預けると、リリスはそっと抱き寄せた。
「はいはい、ルシェルは甘えんぼさんね」
その様子にルーファスがぷくっと頬を膨らませる。
「ずるい! 僕だっておねーちゃんにくっつきたい!」
「ふふ、じゃあ順番にね。今日は甘えたい日みたいだもの」
二人を左右に抱えるようにしながら、リリスは思った。
(この子たちには、寂しい思いをさせたくない。強くて優しい姉でいなきゃ)
甘えたいルシェルと、甘えられたいルーファス。ふたりの愛情表現は真逆なのに、どちらも胸に響いてくる。
その夜、アイシャが部屋に入ってくると、リリスの腕の中で眠っているルシェルとルーファスの姿があった。
「……お姉さまの存在って、やっぱりすごいですね」
「ふふ、ただの甘えんぼたちよ。でもね、こんな時間を守っていきたいって思うの」
その言葉に、アイシャはそっと微笑み、リリスの隣に腰を下ろす。
「では、わたくしも——」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
そう言いながら、そっとリリスの袖を引いて、微かに頬を赤らめるアイシャだった。
その晩、ルシェルは自分の寝室に戻ることなく、当たり前のようにリリスのベッドにもぐりこんできた。
「お姉しゃま……いっしょに……ねたいの……」
「ふふ、いいわよ。おいで」
リリスが優しく手を広げると、ルシェルがすっとその胸に収まる。
そこへ、バタバタと足音を響かせてルーファスが駆け込んでくる。
「あーっ! ずるい! ルシェルだけなんでおねーちゃんと寝てるの!? 僕も寝る!」
「ふふっ、ふたりとも……じゃあ今日は三人で仲良く寝ましょうか」
リリスはふたりを両腕に抱えながら、ふわりと笑った。
(このぬくもりを、ずっと守っていきたい。幸せだな……)
そのまま、三人は静かにまどろみの中へと沈んでいく。
場面は変わり、夜のリビング。
クラウスとリシアがぽつんと座っていた。
「……ねえ、クラウス。なんだか、子供たちが誰も一緒に寝に来てくれないの……」
「む……むう……寂しいものだな……」
しんみりした雰囲気のなか、ふたりの肩がぴたりと寄り添う。
「まあ……あの子たちが元気なら、それでいいのだけど……ね」
「うむ……だが今夜は少し、ワインを飲もう……」
そう言って、ふたりはそっと笑い合った。
——それもまた、ラヴェンダー家の愛おしい夜のひと幕だった。
結果さらに弟妹が増えるかもしれませんね!




