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『犬神物語』 〜転生少女と不思議な絆〜  作者: 犬神 匠
第八話 渡島編 後編

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『白と黒の贈り物』51

別荘の二階――

ちー先輩とヒカリ先輩と一緒の、ちょっぴり広めの相部屋。


「ふぅ〜っ……」


部屋に戻るなり、わたしはベッドにぽすんと座り込んじゃいました。


浴衣からパジャマに着替えて、髪をとかして、洗面所で顔も洗って――

いつもより少しだけ時間をかけた寝る準備。

だって今日は、特別な一日だったから。


机の上に置いていた、ラッピングされた小さな袋を手に取る。

中には、天音先輩と愛衣先輩が作ってくれた手作りクッキー。


淡い水色のリボンと、やさしい文字で書かれた「おつかれさま」のシール。

たったそれだけなのに、胸がきゅうっとなる。


「……いい日、だったなぁ……」


声に出して、ふわっと笑ってみる。


スイカ割りして、浜辺ではしゃいで、

夜にはみんなで花火を見て――浴衣も着たし、ヒカリ先輩ともいろいろ話せたし……


わたしの中に、いくつもの“たいせつ”が詰まってた。


――あのときのことが、ほんの一瞬だけよぎる。


森の中で聞こえた、あの声。

どこか、ぞくっとするような響き。


(……ううん、気のせい……だよねっ)


小さく首を振る。


「……あれ……?」


身体を起こそうとした瞬間、

ふわっと、頭が揺れたような感覚。


――ぽっ。


おでこが、じんわり熱い。

なんだか、身体の奥がふわふわしてて、うまく力が入らない。


「……なんで……だろ……?」


さっきまでは、平気だったのに。

心だけが、遅れてついてきてるみたいな、不思議な感じ。


(……ちー先輩たちに、心配かけたくないですっ)


――


美咲ちゃんの顔をのぞき込むと――


「ん〜……なんか、顔赤いよ? 美咲ちゃん……」


ベッドの縁にちょこんと座った美咲ちゃんが、

いつもよりちょっとだけ元気なさそうに見えて――


「ん〜……」


そっと、おでこ同士をくっつける。


「……わっ」


びっくりして目を丸くする美咲ちゃん。

でも、逃げたりはしなくて――むしろ、ちょっとだけ照れてる感じっ。


「う〜ん……やっぱり、ちょっと熱あるかも〜っ」


「……ち、ちー先輩……!? おでこ……」


「微熱、だねっ! でも今のうちにケアすれば、きっと大丈夫〜っ!」


そう言って、リュックから“お守りセット”を取り出す。

体温計・冷えピタ・葛根湯の錠剤・ミニ水筒まで、ぜ〜んぶ常備してるんだからっ!


「これ、風邪の引き始め用の漢方ね! 無理しちゃダメだよ、美咲ちゃんっ」


「……ちー先輩、すごすぎです……っ」


顔を赤くしながら、小さな声でそう言って、

美咲ちゃんはそっと薬を受け取った。


「ありがとう、ちー先輩……」


そう言ったその瞳は、少しだけ――不安そうに、揺れていた。


――


――ぽとん。


薬を飲んでコップを置いたあと、

わたしは、小さく息をついた。


(……だいじょうぶ。寝たらきっと、明日には元気になってるはずですっ)


ちー先輩の手はあったかかったし、ヒカリ先輩の笑顔も、なんだか安心できて……

なんだろう。今日は、たくさん笑って、たくさんドキドキしたから……ちょっぴり、疲れただけ。


布団に入る前、わたしはそっと、自分の手首を見つめた。


そのまま、くるん。


お守りみたいに、大切にしていた“ミサンガ”を、そっと手首に巻き直す。


(……また、見れるといいな。昨日の――あの、ふしぎな夢)


夢の中には――

あたたかくて、やさしい雰囲気のお姉さんがいて。

その人は、笑いながらわたしの頭をなでてくれて、

すぐそばには、頼もしそうな男の人もいて。


茶色い毛並みの、元気な柴犬さん。

雪のように白くて、ふわふわした猫ちゃん。

それから――お姉さんが、大事そうに抱いていた、小さな赤ちゃん。


みんなで過ごしていた、あの場所は……

なんだか、心の奥がぽかぽかするようなところだった。


(……ちー先輩は、どんな夢みてるのかな)


起きたらきっと、忘れちゃうのに。

なのに、どうしてだろう――

あったかい感じだけ、残ってるんです。


誰にも言ってないけど――

わたしの胸には、たしかに“あの記憶”がある。


(今夜も、会えるかな……)


ふふっと笑って、目を閉じる。


(おやすみなさい……ちー先輩、ヒカリ先輩……)


そして――


静かな夜の中で、

わたしはそのまま、すうっと眠りに落ちていった。


けれど。


ほんのすこしだけ、いつもと違う、胸のざわつきが――

わたしの眠りに、影を落としていた。


***


隣から、美咲ちゃんの寝息が、すうすうと聞こえる。

まるで毛布の中で丸くなってる子猫みたい――


(……明日には、元気になってくれるといいなぁ)


美咲ちゃんの寝顔をそっと見つめながら、心の中で願う。

夕方からちょっと調子悪そうだったし、早く治りますようにって――。


(風邪薬、持ってきておいてよかったっ!)


自分でもちょっとドヤ顔しちゃいそうなほど、準備ばっちりだった今日のわたし。

うんうん、健康第一だもんねっ!


それにしても――今日は、ほんとにいろんなことがあったなぁ……っ。

スイカ割りに、砂浜バレーに、バーベキュー!

浴衣も着て、打ち上げ花火も見て――

ヒカリがテニス部に入ってくれて、いっしょに練習できたのも嬉しかったしっ、長谷川先輩と隼くんのバスケも、めちゃくちゃカッコよかった〜〜っ!!


あっという間の一日だったけど、

どれもキラキラしてて、心に残ってて……

なんだか、夢みたいな時間だった気がするっ。


「ふふっ……」


真っ暗な部屋のお布団の中で、ふわっと笑みがこぼれた。


「……ヒカリ、もう寝たかな〜……?」


ひとつお隣の布団から、まだ小さな気配がある。


「……ううん。まだ起きてる」


そっと返ってきたのは、ヒカリの落ち着いた声。

暗がりの中なのに、その声だけで、すごく近く感じた。


「ふふっ、よかった〜っ。

……あのね、今日すっごく楽しかったよ。ありがとね、ヒカリ」


「……うん。私も――すごく、楽しかった」


ことばの余韻が、静かに夜に溶けていく。


「……おやすみ、ヒカリ〜……」


「……おやすみ、犬神さん」


(……うん、今夜も……)


そっと、まぶたを閉じる。


(昨日みたいな、あったかい夢……見れるといいなぁ)


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