『白と黒の贈り物』41
朝のダイニングは、まるで賑やかなお祭り会場みたいだったっ!
入口に立った瞬間、その熱気に包まれて、思わず足を止めちゃう。
夏合宿に参加している生徒たちが、広いテーブルを囲んで思い思いに席についていて――
焼きたてのパンに、彩り豊かなサラダ、湯気の立つスープやスクランブルエッグまで。
おかわり自由の朝ごはんを前に、みんなの声のトーンも自然と上がってたっ!
体育系の部活組は早くもテンション高くて、寝ぐせのままジュースを取りに行く子もいれば、
「午前中はテニスのアップが屋外だし〜」って、卓上ミラーをのぞき込みながら、真剣な表情で日焼け止めを塗り直してる子もいたりして……。
「今日の午前は部活練習〜、午後からは海だってよ!」「え〜水着どれにする〜!?」
どのテーブルからも、そんな楽しげな声が飛び交って、合宿ならではの“非日常感”が、ダイニングの空気をどんどん明るくしていく。
「おっはー、チハルっ! ウチら先に食べてるよ〜っ♪」
一際元気な声で手を振ってきたのは、亜沙美ちゃん。
テーブルにはパンを両手に抱えてニコニコしてて、その明るさにつられて、思わず笑っちゃう。
その隣では、隆之がサラダの皿をじっと見つめながら、落ち着いた声でぽつり。
「パンとジュースだけだと、糖質過多だ。ちゃんとサラダも取れよ」
静かな口調なのに、どこか優しくて。
――やっぱり、なんだかんだで、気にかけてるんだよね。
そんなやりとりに笑いながら、ヒカリ、美咲と一緒に空いてる席を探す。
焼きたてのパンの香りと、スープの湯気、ジュースの甘酸っぱい匂いが、鼻の奥をくすぐって――
(う〜〜っ、朝から食欲爆発だよぉ〜っ!!)
「ほら犬神さん、そんな顔しないの」
ヒカリが静かに注意してきたけど、私のお腹は正直だもんっ!
ダイニングの奥では、長谷川先輩がバスケ部の後輩たちに声をかけていて、「今日は海の前に朝練あるからな〜。先にバテんなよ」なんて、冗談交じりに笑いながら歩いてる。
さすがキャプテン、って感じで、場の空気を自然にまとめてるのがすごい。
玲奈先輩は杉本先生と穏やかに談笑中で、テニス部の今日の予定とか話してるのかな?
きっとヒカリの参加も楽しみにしてるはずっ!
愛衣ちゃんと天音ちゃんは、ふたり並んでお皿を運んでくれていて、まるで仲良し姉妹みたいに見えて――
(なんでだろ……愛衣ちゃんって、見た目はほんわかしてるのに、背が高いと妙に頼もしさマシマシになる気がするっ!)
そんな何気ない発見に、ちょっぴりほっこりしていた。そんな中――
「……あれ、美咲ちゃん?」
ふと、美咲がキョロキョロと何かを探してたかと思うと、ふわっと顔をほころばせた。
「あっ、柚葉ちゃんっ! しゅんくんも、おはようございますっ!」
声の先に目を向けると、テーブルの端っこに同じ一年生のふたりが座っていた。
杉本柚葉ちゃんは、美咲と同じクラスで、生徒会書記もしてる子。
柔らかい笑顔と落ち着いた話し方が印象的で、どこか大人っぽい雰囲気を纏っている。
その隣にいたのは――あ、そういえば!
(……隼くんって、たしか……)
新居田隼くん。わたしの家のご近所さんで、よくお野菜を分けてくれる新居田さんの息子さん。
前にも何度か会ったことがあるけど、こうして同じ場所で顔を合わせるのは久しぶりかもっ。
「昨日はお疲れさまでした、犬神先輩っ」
「うんっ、おはよう隼くん!」
ちょっと照れたように笑いながら挨拶してくれる、その様子に――あれ? なんだか、じーっと見つめられてるような気がして。
私は一瞬、首をかしげた。
隼くんのまっすぐな目に、ちょっぴりドギマギしてしまって。
(えへへ……なんか、弟くんって感じかもっ)
そんなふうに思いながら、自然と口元がゆるんでいた。
でもすぐに美咲ちゃんが話に割って入って――
「わたし、今日もいっぱい食べる予定ですっ!」
「うんうん、美咲ちゃんがたくさん食べてると、元気が出るもんねぇ〜っ!」
柚葉ちゃんがくすっと笑って、隣の隼くんも小さく頷いた。
(……ちゃんと、“繋がりの輪”ができていくんだ)
そう思うと、胸の奥がふわっとあったかくなるっ。
「おはようございます〜、みなさん♪」
ふわっとした声が背中から聞こえてきて、振り向くと――そこには、ほんわか笑顔の杉本先生が立っていた。
手には、ミルクたっぷりのカフェオレと、ふっくら焼けたクロワッサンのセット。
その佇まいは、いつ見ても“癒し”って言葉がぴったりで、朝の光と混ざるように溶け込んでる。
「今日もいいお天気ですね。ヒカリさんも、ご一緒に部活、楽しみにしてますよ〜」
「……はい。精一杯、やってみます」
ヒカリは、少し頬を染めながらも、真っ直ぐな瞳で応えた。
(うんうんっ!ヒカリちゃん、なんだかすっごくやる気モードっ!)
私まで背筋がぴんっと伸びる気がして、よーし、負けてられないぞ〜っ!って内心メラメラしちゃうっ!
白石先生が、カップを片手にゆっくりと近づいてきて、わたしたちのテーブルを見渡した。
落ち着いた声で、でもどこか優しさがにじむように言葉を紡ぐ。
「今日は部活に、海にも行くんだろう。……はしゃぎすぎてケガだけはするなよ」
その一言に、わたしと美咲は、同時に「はーいっ!」と元気よく返事して――
ヒカリは、少しだけ目を伏せながらも、小さく頷いていた。
先生の声は、いつも通り落ち着いてたけど、
その言葉の奥に、ちゃんと心配してくれてる気持ちがにじんでて――なんだかちょっと、あったかくなった。
***
外は、じりじり焼けるような夏の暑さ。
それなのに――別荘の敷地奥、緑の小道を抜けた先に、その扉はあった。
玲奈先輩がカードキーで開けてくれた、その瞬間――
「……わぁ〜〜〜っ!」
扉の向こうに広がってたのは、ひんやり涼しくて、
まるでジムスタジオみたいな空間っ!
床のタイルがつやつやしてて、天井はガラス張りで、
やわらかい日差しが差し込んでくる。
前を歩いてたテニス部の先輩が、冷気に両手をぱたぱたと広げて当てながら、うっとりした顔でつぶやいた。
「ふふっ、今日も冷房バッチリ! ほんと、ここで練習できるのありがたすぎ〜!」
すでに中には数人のテニス部メンバーがラケット片手に準備運動をしてて、部室の隅には氷水を張ったクーラーボックスとスポドリの山っ。
「うちの学校のコート、これと比べちゃうの失礼かもだけど……でも、ちょっとだけ羨ましい〜〜〜っ!」
私はそう思いながら、ラケットのグリップを握り直した。美咲も私の隣で、すぅーっと深呼吸してから、
「……いよいよ、ですねっ!」
って、ちょっぴり緊張ぎみに笑ってて――
その視線の先には、すでにコート中央で軽くストレッチを始めているヒカリの姿があった。
私は軽くジャンプして体をあたためながら、
コートの中央にいるヒカリの姿に視線を向ける。
ヒカリは、今日からテニス部の正式な練習に参加っ。
でも――“今日から”って言われても、正直そんな感じ
まったくしない。
昨日の夕方、玲奈先輩とガチンコで試合して――
6-2のスコアで勝ったヒカリは、すでに“特別な存在”として、テニス部のみんなの目に映ってる。
「……はじめましょうか」
ヒカリが静かに構えるだけで、空気がキリッと引き締まる。
その隣で美咲がちょこんと立って、ちょっと緊張気味にラケットを構えてた。
「ひ、ヒカリ先輩、お願いしますっ……!」
「うん、よろしく」
ふたりは今日、初のペア練習。
昨日の試合のときとは違う、柔らかい空気がコートに広がってる。
(ヒカリ……なんだか、昨日よりもずっとやわらかい顔してるっ)
私はネット越しにラケットを握って、にっこり笑う。
「こっちも負けないよ〜〜っ! じゃんじゃんいくからねっ!」
ボールがネットを越えて打ち合われるたびに、コートの中に“夏のリズム”が鳴る。
ヒカリのフォームはとにかく無駄がなくて、きれいで――だけど、どこか“普通の強い選手”とは違う。
まるで、感覚でラケットと一体化してるみたいな――
そんな不思議なプレイスタイル。
「……やっぱり、すごいわね」
その声に、ふと後ろを振り向いた。
ガラス越しに、腕を組んだ玲奈先輩と顧問の杉本先生が見守っていた。
「昨日の試合も驚きましたけど……改めて見ると、あの子の動き……」
杉本先生は眼鏡の奥で目を細めながら、ぽつりと呟いた。
「――誰とも似ていないの。あの子だけのリズム。
プレイスタイルが、感覚で紡がれているような……まさに“天性”ですね」
玲奈先輩もうなずきながら、視線をコートに戻す。
「一度やったからこそ、わかります。
あの子には“手癖”が通じない。思考でなく、感覚でテニスをしてる……。
いえ、もしかすると“思い出してる”のかもしれませんわね――かつての記憶を」
「記憶……ですか?」
「……いずれ分かることかもしれませんわね」
玲奈先輩は、ふっと微笑みながら目を伏せた。
――その瞬間、コートではヒカリが美咲にボールをトスしていた。
「大丈夫。ゆっくりでいいよ。ね?」
「は、はいっ……が、がんばりますっ!」
ぱんっ、と響いた音は、決して力強くはないけど、
それでもコートの空気をまっすぐ揺らした。
(なんだろう、この感じ――)
背筋が、ビクッとするような感覚が走った。
強さだけじゃない。この人の中には、もっと深い“何か”がある気がする――そんな直感。
「よーし! 休憩まで、あと5分! ラスト、一本勝負だよ〜〜っ!!」
私はラケットを構えて、ふたりに声をかける。
ヒカリの瞳が、きらりと光った。
昨日よりも、迷いがなくて。
ううん、きっと……ずっと、前を向いてた。




