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『犬神物語』 〜転生少女と不思議な絆〜  作者: 犬神 匠
第八話 渡島編 後編

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『白と黒の贈り物』41

朝のダイニングは、まるで賑やかなお祭り会場みたいだったっ!

入口に立った瞬間、その熱気に包まれて、思わず足を止めちゃう。


夏合宿に参加している生徒たちが、広いテーブルを囲んで思い思いに席についていて――

焼きたてのパンに、彩り豊かなサラダ、湯気の立つスープやスクランブルエッグまで。

おかわり自由の朝ごはんを前に、みんなの声のトーンも自然と上がってたっ!


体育系の部活組は早くもテンション高くて、寝ぐせのままジュースを取りに行く子もいれば、

「午前中はテニスのアップが屋外だし〜」って、卓上ミラーをのぞき込みながら、真剣な表情で日焼け止めを塗り直してる子もいたりして……。


「今日の午前は部活練習〜、午後からは海だってよ!」「え〜水着どれにする〜!?」

どのテーブルからも、そんな楽しげな声が飛び交って、合宿ならではの“非日常感”が、ダイニングの空気をどんどん明るくしていく。


「おっはー、チハルっ! ウチら先に食べてるよ〜っ♪」


一際元気な声で手を振ってきたのは、亜沙美ちゃん。

テーブルにはパンを両手に抱えてニコニコしてて、その明るさにつられて、思わず笑っちゃう。


その隣では、隆之がサラダの皿をじっと見つめながら、落ち着いた声でぽつり。


「パンとジュースだけだと、糖質過多だ。ちゃんとサラダも取れよ」


静かな口調なのに、どこか優しくて。

――やっぱり、なんだかんだで、気にかけてるんだよね。


そんなやりとりに笑いながら、ヒカリ、美咲と一緒に空いてる席を探す。

焼きたてのパンの香りと、スープの湯気、ジュースの甘酸っぱい匂いが、鼻の奥をくすぐって――


(う〜〜っ、朝から食欲爆発だよぉ〜っ!!)


「ほら犬神さん、そんな顔しないの」


ヒカリが静かに注意してきたけど、私のお腹は正直だもんっ!


ダイニングの奥では、長谷川先輩がバスケ部の後輩たちに声をかけていて、「今日は海の前に朝練あるからな〜。先にバテんなよ」なんて、冗談交じりに笑いながら歩いてる。

さすがキャプテン、って感じで、場の空気を自然にまとめてるのがすごい。


玲奈先輩は杉本先生と穏やかに談笑中で、テニス部の今日の予定とか話してるのかな?

きっとヒカリの参加も楽しみにしてるはずっ!


愛衣ちゃんと天音ちゃんは、ふたり並んでお皿を運んでくれていて、まるで仲良し姉妹みたいに見えて――

(なんでだろ……愛衣ちゃんって、見た目はほんわかしてるのに、背が高いと妙に頼もしさマシマシになる気がするっ!)


そんな何気ない発見に、ちょっぴりほっこりしていた。そんな中――


「……あれ、美咲ちゃん?」


ふと、美咲がキョロキョロと何かを探してたかと思うと、ふわっと顔をほころばせた。


「あっ、柚葉ちゃんっ! しゅんくんも、おはようございますっ!」


声の先に目を向けると、テーブルの端っこに同じ一年生のふたりが座っていた。


杉本柚葉ちゃんは、美咲と同じクラスで、生徒会書記もしてる子。

柔らかい笑顔と落ち着いた話し方が印象的で、どこか大人っぽい雰囲気を纏っている。

その隣にいたのは――あ、そういえば!


(……隼くんって、たしか……)


新居田隼にいだ・しゅんくん。わたしの家のご近所さんで、よくお野菜を分けてくれる新居田さんの息子さん。

前にも何度か会ったことがあるけど、こうして同じ場所で顔を合わせるのは久しぶりかもっ。


「昨日はお疲れさまでした、犬神先輩っ」

「うんっ、おはよう隼くん!」


ちょっと照れたように笑いながら挨拶してくれる、その様子に――あれ? なんだか、じーっと見つめられてるような気がして。  


私は一瞬、首をかしげた。

隼くんのまっすぐな目に、ちょっぴりドギマギしてしまって。

(えへへ……なんか、弟くんって感じかもっ)

そんなふうに思いながら、自然と口元がゆるんでいた。


でもすぐに美咲ちゃんが話に割って入って――


「わたし、今日もいっぱい食べる予定ですっ!」

「うんうん、美咲ちゃんがたくさん食べてると、元気が出るもんねぇ〜っ!」


柚葉ちゃんがくすっと笑って、隣の隼くんも小さく頷いた。


(……ちゃんと、“繋がりの輪”ができていくんだ)


そう思うと、胸の奥がふわっとあったかくなるっ。



「おはようございます〜、みなさん♪」


ふわっとした声が背中から聞こえてきて、振り向くと――そこには、ほんわか笑顔の杉本先生が立っていた。


手には、ミルクたっぷりのカフェオレと、ふっくら焼けたクロワッサンのセット。

その佇まいは、いつ見ても“癒し”って言葉がぴったりで、朝の光と混ざるように溶け込んでる。


「今日もいいお天気ですね。ヒカリさんも、ご一緒に部活、楽しみにしてますよ〜」

「……はい。精一杯、やってみます」


ヒカリは、少し頬を染めながらも、真っ直ぐな瞳で応えた。


(うんうんっ!ヒカリちゃん、なんだかすっごくやる気モードっ!)


私まで背筋がぴんっと伸びる気がして、よーし、負けてられないぞ〜っ!って内心メラメラしちゃうっ!


白石先生が、カップを片手にゆっくりと近づいてきて、わたしたちのテーブルを見渡した。

落ち着いた声で、でもどこか優しさがにじむように言葉を紡ぐ。


「今日は部活に、海にも行くんだろう。……はしゃぎすぎてケガだけはするなよ」


その一言に、わたしと美咲は、同時に「はーいっ!」と元気よく返事して――

ヒカリは、少しだけ目を伏せながらも、小さく頷いていた。

先生の声は、いつも通り落ち着いてたけど、

その言葉の奥に、ちゃんと心配してくれてる気持ちがにじんでて――なんだかちょっと、あったかくなった。


***


外は、じりじり焼けるような夏の暑さ。

それなのに――別荘の敷地奥、緑の小道を抜けた先に、その扉はあった。


玲奈先輩がカードキーで開けてくれた、その瞬間――

「……わぁ〜〜〜っ!」


扉の向こうに広がってたのは、ひんやり涼しくて、

まるでジムスタジオみたいな空間っ!

床のタイルがつやつやしてて、天井はガラス張りで、

やわらかい日差しが差し込んでくる。

前を歩いてたテニス部の先輩が、冷気に両手をぱたぱたと広げて当てながら、うっとりした顔でつぶやいた。


「ふふっ、今日も冷房バッチリ! ほんと、ここで練習できるのありがたすぎ〜!」


すでに中には数人のテニス部メンバーがラケット片手に準備運動をしてて、部室の隅には氷水を張ったクーラーボックスとスポドリの山っ。


「うちの学校のコート、これと比べちゃうの失礼かもだけど……でも、ちょっとだけ羨ましい〜〜〜っ!」


私はそう思いながら、ラケットのグリップを握り直した。美咲も私の隣で、すぅーっと深呼吸してから、


「……いよいよ、ですねっ!」


って、ちょっぴり緊張ぎみに笑ってて――

その視線の先には、すでにコート中央で軽くストレッチを始めているヒカリの姿があった。


私は軽くジャンプして体をあたためながら、

コートの中央にいるヒカリの姿に視線を向ける。


ヒカリは、今日からテニス部の正式な練習に参加っ。

でも――“今日から”って言われても、正直そんな感じ

まったくしない。


昨日の夕方、玲奈先輩とガチンコで試合して――

6-2のスコアで勝ったヒカリは、すでに“特別な存在”として、テニス部のみんなの目に映ってる。


「……はじめましょうか」


ヒカリが静かに構えるだけで、空気がキリッと引き締まる。

その隣で美咲がちょこんと立って、ちょっと緊張気味にラケットを構えてた。


「ひ、ヒカリ先輩、お願いしますっ……!」


「うん、よろしく」


ふたりは今日、初のペア練習。

昨日の試合のときとは違う、柔らかい空気がコートに広がってる。


(ヒカリ……なんだか、昨日よりもずっとやわらかい顔してるっ)


私はネット越しにラケットを握って、にっこり笑う。


「こっちも負けないよ〜〜っ! じゃんじゃんいくからねっ!」


ボールがネットを越えて打ち合われるたびに、コートの中に“夏のリズム”が鳴る。

ヒカリのフォームはとにかく無駄がなくて、きれいで――だけど、どこか“普通の強い選手”とは違う。


まるで、感覚でラケットと一体化してるみたいな――

そんな不思議なプレイスタイル。


「……やっぱり、すごいわね」


その声に、ふと後ろを振り向いた。


ガラス越しに、腕を組んだ玲奈先輩と顧問の杉本先生が見守っていた。


「昨日の試合も驚きましたけど……改めて見ると、あの子の動き……」


杉本先生は眼鏡の奥で目を細めながら、ぽつりと呟いた。


「――誰とも似ていないの。あの子だけのリズム。

プレイスタイルが、感覚で紡がれているような……まさに“天性”ですね」


玲奈先輩もうなずきながら、視線をコートに戻す。


「一度やったからこそ、わかります。

あの子には“手癖”が通じない。思考でなく、感覚でテニスをしてる……。

いえ、もしかすると“思い出してる”のかもしれませんわね――かつての記憶を」


「記憶……ですか?」


「……いずれ分かることかもしれませんわね」


玲奈先輩は、ふっと微笑みながら目を伏せた。

――その瞬間、コートではヒカリが美咲にボールをトスしていた。


「大丈夫。ゆっくりでいいよ。ね?」


「は、はいっ……が、がんばりますっ!」


ぱんっ、と響いた音は、決して力強くはないけど、

それでもコートの空気をまっすぐ揺らした。


(なんだろう、この感じ――)


背筋が、ビクッとするような感覚が走った。

強さだけじゃない。この人の中には、もっと深い“何か”がある気がする――そんな直感。


「よーし! 休憩まで、あと5分! ラスト、一本勝負だよ〜〜っ!!」


私はラケットを構えて、ふたりに声をかける。


ヒカリの瞳が、きらりと光った。


昨日よりも、迷いがなくて。

ううん、きっと……ずっと、前を向いてた。

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