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『犬神物語』 〜転生少女と不思議な絆〜  作者: 犬神 匠
第八話 渡島編 後編

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『白と黒の贈り物』40

椿野商店の店内は、朝の光に包まれて、どこか懐かしくて、あたたかい空気で満ちていた。

買い出しリストを手に――買い出しスタートっ!


「ええっと〜、まずは……愛衣ちゃんに頼まれてたスイーツの材料、だよねっ」


「そうそう。うちが作るフルーツ寒天やから、果物の缶詰と寒天パウダー、それとバニラエッセンス。あと、レモン果汁もお願いな〜」


天音ちゃんが指差す棚には、素朴なラベルの瓶や袋がきれいに並んでいて。

それをひとつずつ選んでいく様子が、ちっちゃなパティシエさんみたいで――ふふ、かわいかったっ♪


「それから……今日は、かき氷も出すからな〜♪ 練乳と、シロップの素もいるんよ」


そう言って天音ちゃんが嬉しそうにカゴへ入れたのは、いちご、ゆず、黒蜜用の素材。

瓶が朝の光に透けてキラキラしてて、それだけで夏の予感がしてきたっ!


「ほいっと……はい、これで完璧〜〜っ!」


――そのとき。

ヒカリがふっと、店の奥へと歩いていく。


「……あ」


手に取ったのは、透明なキャップのついた細身のサンオイル。

ラベルには《UVカット・ノンアルコールタイプ》。なんだか高そう。


「ヒカリ、それ……?」


「……肌、焼きたくないの。日差し、強いから」


そっけない声。

でも、ボトルをそっと包む指先がやさしくて――ちゃんと“自分を大切にしてる”って伝わってきた。


だから、こっそり笑って――


「そうそう。お昼には海水浴の予定だしねっ。

 ヒカリは特に肌が白いし……日焼け、気をつけなきゃっ!」


その言葉に、ヒカリはふっと目を細めて、小さくうなずいた。

横顔がほんの少しだけ嬉しそうに見えたのは……気のせいじゃない、よねっ。


そして――視界に飛び込んできたのは、懐かしの……!


「えっ!? うわわっ!? あそこ、駄菓子コーナーだよねっ!?」


もう我慢できずに、駆け寄っちゃったっ!


「うち、これ! 小さい頃から好きやった〜〜っ!」


「……わ、こっちはクッピーラムネ……! パッケージ、懐かしすぎっ!」


「えへへっ、美咲ちゃん、こういうの好きそうだよね〜〜っ! いっぱい買っていこっかな〜っ♡」


ヒカリも、そっとピンク色のいちごマシュマロをひとつ、カゴに入れてた。


(……やさしいなぁ、ヒカリ……)


みんなでワイワイしながら、色とりどりの駄菓子を詰めていく。

それはまるで、思い出のかけらを集めるみたいで。


そのとき、天音ちゃんが指差した。


「……チハルちゃん、あれ……スイカやっ」


冷水の張られたタライの中で、大きなスイカがゴロンと冷やされていた。

表面にひんやりした水滴――見てるだけでテンションが上がっちゃう!


「うっわ〜〜〜〜っ! もう冷えてる!? 最高〜〜っ!!」


すると奥から、はるさんがにっこり顔を出した。


「ふふ、これね、昨日のうちから冷やしといたの。

 今日は暑くなるって聞いとったから……海で食べたら、喜んでもらえるやろう思ってねぇ」


「……や、やさしすぎる〜〜〜〜っ!!」


「予約もちゃんと入ってたわよ。“高橋玲奈”さんって名前で。

 お昼には男の子たちが取りに来るって聞いてるの。伝えといてくれる?」


「はいっ、もちろんっ!!」


スイカの冷たさも、はるさんのやさしさも――ぎゅうって胸に沁みた。


カゴはもういっぱい。

愛衣ちゃんのスイーツ材料、ヒカリのサンオイル、駄菓子いっぱい――それから、目に見えない思いやりまで。


(よーしっ! 美咲ちゃんにおやつプレゼントして、部活のあとに午後は海だよ〜〜〜っ!)


引き戸をそっと閉めると、ちりん、と涼やかな風鈴の音が背中に響いた。


朝の陽ざしはもうしっかり昇っていて、石畳の上に木漏れ日がきらきら揺れてる。


「……ふふ、気持ちええなぁ〜」


天音ちゃんがゆるりと伸びをする。

その横でヒカリは、空を仰いで目を細めていた。


「うんっ。なんだか……胸がスーッとするねっ!」


紙袋をぎゅっと握りしめる。

中には、美咲ちゃんのための小さなおやつと――この場所で拾い集めた“大切な気配”が詰まっている気がした。


(……夢じゃなかったんだね)


三人で並んで歩き出す。

同じ空の下、同じ夏の風を感じながら――白く眩しい朝の光の中へ、そっと歩を進めた。


* * *


合宿2日目の朝。

天音ちゃんと廊下で別れ、部屋へ戻ってきた。


ドアを開けると、ふわっと甘い香り。

お布団の山の向こうで、美咲ちゃんがクッションに座って、のんびりテレビを見ていた。


「おはよ〜っ! 美咲ちゃんっ!」


「ちー先輩っ! おかえりなさいですっ!」


明るい声と、その笑顔。

昨日ベランダで見た“あの表情”が頭をよぎってたから、少しだけほっとする。


「そうだっ、美咲ちゃんにお土産〜っ!」


紙袋からこっそり駄菓子を取り出すと――


「わっ、わたしにですかっ!? わぁ〜〜〜っ!!」


両手で受け取った瞬間、美咲ちゃんの目がキラキラって輝いた。


「こんなにいっぱい……どれから食べようか迷っちゃいます〜〜っ!」


「午後のおやつ用だからね? いま食べちゃダメだよ〜っ!」


笑い合ってると、ふと――


「そういえば……今朝、ベランダに出てなかった?」


そう聞くと、美咲ちゃんはちょっとはにかんで笑った。


「はいっ。朝の空気、ちょっとだけ吸いたくなって……でも、すぐ戻りましたよ〜っ!」


「そっか〜。じゃあ、あのとき見えたのは……やっぱり、見間違いだったんだねっ」


うんうん、と自分に言い聞かせるみたいに頷く。

胸の重さが、ほんの少しだけ軽くなった。


「……なんのこと、ですかっ?」


美咲ちゃんが、きょとんと首をかしげる。


「え? あ、ううんっ、なんでもないなんでもないっ!

 わたしの勘違い〜っ!」


あはは、と笑ってごまかす。

だって――今は、ちゃんと笑ってる美咲ちゃんが目の前にいるんだから。


そのとき――机の上を見た美咲ちゃんが、小さく声を上げる。


「あっ……それっ!」


視線の先には、白い首輪。

ヒカリが商店から大事そうに持ち帰って、そっと置いていたものだ。

レースがあしらわれていて、金色の鈴がちりん、と揺れている。


「ふふ……気になる?」


ヒカリがやさしく問いかけると、美咲ちゃんはこくんとうなずいた。


「わたし、猫ちゃん大好きなんです〜〜っ!

 その首輪、すっごくかわいくて……手作りっぽいけど、大事にされてた猫ちゃんなんだな〜って、なんだか伝わってきちゃって……」


そう言いながら、そっと指先を伸ばす。


触れた瞬間――


ほんのわずかに、美咲ちゃんのまつ毛が震えた。


「……あれ?」


自分でも気づかないくらい、小さな声。


その瞳の奥で、何かが揺れた気がした。

でもそれが何なのかは、まだ誰にもわからない。


「よーしっ!」


ぱっと手を上げて、ふたりを見る。


「ごはん食べたら、今日の部活はヒカリも一緒だよ〜〜っ!」


「はいですっ!」

「うん」


三人で円陣を組んで、こつんと手を合わせる。


(……ぜったい楽しい一日になるっ!)


――そう信じていた。このときは。


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