桃色の髪の彼
「へえ、じゃあウィルとは幼馴染なんですね」
「そうだね、会うのは久々だけど…あ、ゼノンこれ美味しいよ、一口いる?」
「いいんですか?ではありがたくいただきます」
ユーリが空いてる椅子を持ってきて、マリウスとティアの間に座ったりと夕飯を食べる準備をしている間に、先ほどの夕飯の食べさせ合いを続行していた。
「マリウス…あれはなんだ…」
「気持ちはわかりますが落ち着いてください」
なにやら隣から不穏な空気が気にしない。
そうこうしている内にユーリも夕飯を食べ終えた。その頃には食堂の中の人口密度がとんでも無いことになっていた。
いつもは食堂に来ないユーリとマリウス、それに謎の美形ゼノンに可愛いティア…、俺達の周りのテーブルは不自然なくらいに空席なのに、一席空いた向こう側は大混雑だ。
こっちを向いてほうっと惚けている人もいれば、キャーキャー騒いでいる人、チラチラとこちらを伺っている人など反応は様々だけど、注目が集まっていることには間違いない。
これ以上注目を集める前に退散した方がいいかもしれない…。
マリウスに寮に帰ろうと話しかけようかと迷っていると、背後から声をかけられた。
「ユリエル様、お食事中申し訳ありません。よろしいでしょうか」
俺とマリウスの横を通り過ぎ、彼はユーリのそばに立った。
「なんだ、ティコ。急ぎの案件か」
食事を邪魔されたのが不愉快なのか、眉間にシワを寄せながらユーリが応えた。
薄い桃色の髪を肩につくくらいまでに伸ばし、少しウェーブのかかった柔らかそうな髪に、緑色の綺麗な瞳をした彼は深いため息をつきながら言葉を続けた。
「ユリエル様が食堂に来たことで、軽いパニックが起きていると報告があったので参った次第です」
「そんなことで…」
「そんなこと、ではございません。入学以来、ほとんど起こしにならない食堂に貴方が来れば、パニックになるのは目に見えていたはずです。相当浮かれていたようですね」
「……」
ユーリが不機嫌そうに黙ってしまった。彼は一体…
「はあ…皆様、食事中に申し訳ございません。これ以上食堂を混乱状態にする訳にはいかないので、ユリエル様にはこちらで預かります。ほら、行きますよ」
「…ウィル、もっと話したいところだが今日のところは一旦これで帰る。マリウスにいえばいつでも会えるようにしておくから、必ず連絡を寄越せよ」
そう言って席を立ち、俺の頭をひと撫でするとティコと呼ばれた少年と一緒に食堂を出て行ってしまった。
「桃色の髪の彼って誰なの?」
「彼はティコ・ニールセンです。ユリエル様の業務をサポートしているメンバーの一人で、一番の古株ですね」
「へえ〜」
マリウスがやれやれと行った感じで教えてくれたが、君も十分に人気だと思うけど…。
「食堂もかなり混雑してきましたし、私達もそろそろ寮に帰りましょう」
そう言ったマリウスに賛成し、帰りも帰りとてゼノンとティアと手を繋ぎ寮への帰路に着いた。
俺たちが去った食堂ではマリウスと俺との関係について議論の嵐が起こっていたことなど知る由もなかった。
「まったく、あんなに人目のつくところで編入生に会うなんて…」
食堂からの帰り道、ユリエルはティコに説教されていた。
「別に、食堂で夕飯を食べるくらい普通だろう。時間帯も早いし、さっと食べて帰るつもりだった」
「いつもの貴方なら考えられないですね。あの編入生がそんなに大事ですか?エインズワースの嫡男ですよね、彼」
「あいつとは家族ぐるみの仲なんだ。それだけさ」
「それだけ、ですか…そんな話がこの学院で通るとでも?本当に大事にしたいのであれば、もっと考えて行動することですね」
「…ふん」
そう言って歩調を早めた彼にティコがまたため息をついた。
「あの食堂にはいろんな奴らがいるんです。おそらく本格的に授業が始まれば彼へ接触してくる輩が必ず出てきますよ。守りきれる算段がないのであれば、彼との接触は避けるべきです」
「算段がないのに接触する訳ないだろう。俺はあいつの入学に備えてこれまで準備してきたんだ。そこは抜かりない」
「今さっき、その準備が泡になるような行動をした貴方の言葉とは思えませんね」
「その内わかるさ、もちろんお前も協力してくれるだろう?」
「それが”ユリエル様の願いならば」
マリウスはその言葉に満足そうに頷くと、残った仕事を片付けるために生徒会室へと向かった。