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神様は見ている  作者: ももらら
幸せになる資格

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帰る場所

お家大好きな私からすると、自宅を充実させることが何よりも大切です。

 翌日の土曜日、2人はミラー商店を訪ねた。マーサはエリンの顔を見るなり、レジから出てきた。

「ちょうどよかった! ブルーベリーパイを焼いたところなの」

「本当ですか?」

「もちろん。あんたたちが来る気がしたのよ」

 ウォルターが新聞から顔を上げた。

「今週3回も『エリンが来るかもしれない』って言ってたからな。そりゃ当たることもある」

「余計なことを言わないの!」

 マーサは夫を睨んだ。ノアが笑った。

「お邪魔してもいいですか?」

「何言ってるの。早く座りなさい」

 奥の小さなテーブルに案内されると、マーサは大きなパイを切り分けた。エリンは一口食べ、目を輝かせた。

「おいしい!」

「でしょう?」

 マーサは得意そうだった。ウォルターは新聞を畳みながら言った。

「ところで2人とも新しい暮らしはどうだ?」

「順調ですよ」

 ノアが答えた。エリンも頷いた。ウォルターは2人を交互に見た。

「喧嘩は?」

「今のところ、大きな喧嘩はないですね」

 エリンが答える。

「小さなのはあるのか?」

「靴下の置き場所とか、食器の洗い方とか……」

 ウォルターは声を上げて笑った。

「それでいい!」

 エリンが首を傾げた。

「いいんですか?」

「当たり前だ! 何十年も別々に暮らしてきた人間が、一緒に住んで何も違わんはずがない」

 コーヒーを運んでいたマーサも頷いた。

「そうね。大事なのは、違うことじゃなくて、そのあとどうするかよ」

 ウォルターは妻を見た。

「俺たちだって、最初はよく揉めた」

「今でも揉めてるでしょう」

「そうだったか?」

「昨日もあなたが濡れたタオルをベッドの上に置いたって言ったじゃない」

 ウォルターは咳払いをした。

「あれは不可抗力だ」

「どういう不可抗力なのよ?」

 エリンとノアは顔を見合わせ笑った。

 マーサは椅子に腰を下ろした。

「でもね、2人とも。何でも相手に合わせようとしなくていいのよ。一緒に暮らすって、どちらかが自分をなくすことじゃないんだから」

 マーサは続けた。

「自分の好きなものも、やりたいことも、大切にしなさい。もちろん、相手のこともね」

 エリンとノアはゆっくりと頷いた。

「「ありがとうございます」」

 マーサは微笑んだ。

「偉そうなことを言っちゃったわね」

 ウォルターが口を挟んだ。

「いや、珍しくいいことを言った」

「珍しく?」

 マーサが振り返る。ウォルターは新聞を広げ直した。

「パイが美味いと言ったんだ」

「そんなこと、一言も言ってないでしょう!」

 2人のやり取りに、エリンもノアも声を上げて笑った。


 帰り道、エリンは助手席でマーサの言葉を思い返していた。

「ねえ、ノア」

「うん?」

「私、最近ちょっと欲張りになったかもしれない」

 ノアは彼女を見た。

「どういうこと?」

「仕事も頑張りたいし、勉強もしたいし、あなたと旅行にも行きたい。家のこともちゃんとやりたいし……」

「いいことじゃない?」

「でも全部できるかな?」

 ノアは微笑みながら答えた。

「全部、完璧にやる必要はないと思うよ。それに全部完璧にできる人なんて、この世にいないと思う」

 エリンが笑った。

「そうだね」

「それに、家のことは僕もやるんだから」

「うん」

 エリンは窓の外を見た。雪はすっかりやみ、雲の切れ間から青空が覗いていた。

「私……昔は自分が何をしたいか考えるのが苦手だったの」

 ノアは黙って聞いていた。

「相手がどう思うか、怒らせないか、そういうことばかり気にしてた」

 エリンは膝の上で手を組んだ。

「でも今は違う。やりたいことがたくさんある!」

「それはいいことだと思う」

 エリンは彼を見た。

「あなたと一緒にいるから、そう思えるんだと思う」

 ノアは照れたように笑った。

「僕も、君と一緒にいて変わったと思う」

「どう変わったの?」

 ノアは前方の道路を見つめた。

「前は……仕事が終わって家に帰っても、何をするかあまり考えなかった。食事をして、本を読んで、寝る。それで十分だと思ってた……」

「今は?」

「今は帰ったら君がいる。今日あったことを話したり、一緒に食事をしたり……そういう時間が楽しみなんだ」

 ノアは続けた。

「それに君が新しいことに挑戦してるのを見ると、僕も何かしてみたくなる」

「例えば?」

「まだ決めてないけど」

 エリンが笑った。

「じゃあ、一緒に考えよう」


 その夜。エリンは寝室の棚に、旅行の写真をもう1枚飾った。ノアは隣でその様子を見ていた。

「これでよし!」

 エリンは写真立ての角度を調整した。ノアはベッドに腰を下ろした。

「いいね」

 エリンは振り返った。

「理由は?」

 ノアは笑った。

「君が嬉しそうだから」

 エリンは少しだけ頬を膨らませた。

「またそれ?」

「駄目?」

「駄目じゃないけど……」

 エリンは彼の隣に座った。

「私もノアが嬉しそうだと嬉しいよ」

ノアは微笑んだ。


 2人はしばらく写真を眺めていた。やがてエリンが言った。

「この家、少しずつ変わってきたね」

 ノアは部屋を見回した。確かに以前とは違っていた。棚には写真が増え、クローゼットには2人分の服が並び、洗面台には赤と青の歯ブラシが置かれている。以前は必要最低限のものしかなかった家に、暮らしの痕跡が増えていた。

「そうだね」

 エリンは彼の肩に頭を預けた。

「いい変化だと思う?」

「もちろん!」

 窓の外では、風が木の枝を揺らしていた。2人は互いの手を握ったまま、しばらく何も言わずに座っていた。

 同じ屋根の下で暮らすということ。それは、ただ一緒にいる時間が増えることではなかった。

 互いの違いを知り、相手の望みを聞き、自分の望みも伝えること。

 そして何かがうまくいかない日にも、帰る場所があると知ることだった。

 エリンはノアの肩に頬を寄せた。ノアは、そっと彼女を抱き寄せた。

 2人の家には、今日も新しい思い出が一つ増えていた。

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