増えていく思い出
2人の思い出が増えていく……つまり幸せが増えていきます。
午後3時を過ぎると、雲が増えてきた。2人は海辺の遊歩道を歩いていたが、やがて細かい雨が降り始めた。
「降ってきたね」
ノアが空を見上げた。
「天気予報では夕方からだったのに」
エリンは鞄から折り畳み傘を取り出した。
「1本しかないけど」
「十分だよ」
2人は肩を寄せて歩き始めた。しかし海風が強く、傘は何度も裏返りそうになった。
「ちょっと、待って!」
エリンが笑いながら傘を押さえた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも!」
その瞬間、強い風が吹いた。傘が大きく反り返り、骨が1本嫌な音を立てた。
2人は立ち止まった。エリンは壊れた傘を見た。ノアも見た。そして2人は同時に笑い出した。
エリンが謝る。
「ごめん」
ノアが不思議そうに尋ねる。
「何で謝るの?」
「私が持ってきた傘だから」
「風のせいだよ」
「でも役に立たなかった」
「少なくとも3分くらいは役に立った」
「短すぎる!」
ノアは自分のコートを脱ごうとした。エリンがすぐに止めた。
「駄目。ノアまで濡れるでしょう」
「でも……」
「走ろう!」
彼女はノアの手をつかんだ。2人は雨の中を走った。
途中、エリンは水たまりを踏んでしまい、靴の中まで濡れた。ノアは笑いながら彼女の手を引いた。
ホテルの玄関に飛び込んだとき、2人ともすっかり濡れていた。フロントの女性が驚いてタオルを持ってきてくれた。
「大丈夫ですか?」
エリンは息を切らしながら答えた。
「ええ、ありがとうございます」
ノアは彼女の髪についた水滴を見て笑った。
「ひどいことになったね」
「あなたもよ」
2人はまた笑った。
部屋に入ると、エリンはすぐにシャワーを浴びた。その間、ノアは濡れたコートをハンガーにかけ、靴の中に新聞紙を詰めた。シャワーから出てきたエリンは、ホテルのバスローブを着ていた。
「何してるの?」
「靴を乾かしてる」
エリンが新聞紙の詰まった自分の靴を見た。
「そんなことまでしてくれたの?」
「明日も履くでしょう?」
「ありがとう」
エリンは窓際へ移動した。外では雨に濡れた海が灰色に広がっていた。
「ねえ……」
ノアは顔を上げた。
「何?」
「今日、すごく楽しかった」
ノアが驚いた。
「傘が壊れたのに?」
エリンは振り返った。
「予定どおりにいかないこともあったけど、それも含めて楽しかった」
「僕もだよ」
エリンは彼に近づいた。
「また旅行しようね」
「うん」
「次はもう少し暖かいところがいいかな」
「賛成!」
エリンが笑った。
「即答ね」
「今回は君の言うとおり寒かったから」
「でしょう?」
2人は笑った。そしてエリンはノアの胸に頬を埋めた。
「私、今日の写真、家に飾りたい」
「灯台で撮ったやつ?」
「うん」
「いいね」
「ちゃんと……2人の家に」
ノアは彼女を優しく抱きしめた。
「そうしよう」
翌朝。雨は上がっていた。2人はホテルで朝食を済ませ海岸へ出た。
前日とは違い、風は穏やかだった。波打ち際には、貝殻や小石が散らばっている。エリンはしゃがみ込んで、小さな白い貝殻を拾った。
「見て」
ノアは隣にしゃがんだ。
「きれいだね」
エリンは貝殻を手のひらに載せた。
「これ、持って帰ろう。思い出の品!」
「壊れた傘も、思い出にはなるけど……」
「持って帰りたくないもの」
2人は笑った。
エリンは貝殻をポケットにしまってからノアの手を取った。
「帰ろうか?」
2人は車へ向かった。
日曜日の夕方。自宅へ戻ったエリンは荷物を片づけると、さっそく写真を印刷した。灯台の前で撮った1枚。風に髪を乱されながら、笑っている2人。エリンは、居間の棚に写真立てを置いた。ノアが隣に立った。
「ここに飾るの?」
「うん。どう?」
「いいと思う」
エリンが彼を見て笑う。
「また全部いいって言う」
ノアは笑った。
「今回も本当にいいと思ってる!」
エリンも笑った。そして写真の隣に、小さな白い貝殻を置いた。
「これで完成!」
ノアが2つを見比べる。
「いい感じだね」
エリンがまた笑いながら言う。
「今度は、ちゃんと理由を言って」
ノアは写真を見つめながら答えた。
「僕たちが楽しそうだから」
ノアは続けた。
「この家にこういうものが増えるのが嬉しい」
エリンは頬を染めながら返した。
「私も……」
彼女は、ノアの手を握った。ノアも、握り返した。
棚の上には2人の写真が飾られていた。その隣には、小さな白い貝殻。冬の海から持ち帰った、ささやかな思い出だった。
ご意見、ご感想、いいね、ブックマーク登録など頂けると励みになります。よろしくお願いいたします。




