同じ家に……
クーパー、いいかげんしつこいよ。
エミリーの家からの帰り道。エリンとノアは車の中で静かに座っていた。窓の外には冷たい夜が広がっていた。
エリンが満たされた顔で言う。
「楽しかったね」
ノアは頷いた。
「うん、楽しかった」
「エミリーの家族、いい人たちだった」
ノアは微笑んだ。
「そうだね」
しばらく2人は黙っていた。沈黙を破るようにエリンが口を開いた。
「ノア……」
「うん?」
「今日、話してくれたこと……」
ノアは彼女を見た。
「家族がいないって……」
ノアは静かに頷いた。
「うん」
「寂しかった?」
ノアは、しばらく考えた。
「寂しいと思うことはあったよ」
ノアは続けた。
「でも慣れてしまったんだと思う」
エリンは胸が痛んだ。
「1人でいることが、普通だったから」
「今は?」
エリンは続けた。
「今も1人が普通?」
ノアは小さく笑って答えた。
「最近は、違うかな」
ノアは続けた。
「君と過ごす時間が増えたから……。1人の家に帰ると、少し寂しく感じるようになった」
エリンは真っ赤な顔で思い切って言った。
「じゃあ……いつか同じ家に帰れるようになったらいいね」
エリンは真っ赤なまま俯いた。
「まだ……先の話だけど……」
ノアはゆっくりと頷いた。
「うん……そうなったら嬉しい」
「私も!」
その夜。ノアは居間で今日のことを思い返していた。
温かい食卓。笑い声。料理の匂い。そしてキャロルの言葉。
「来年も、いらっしゃい」
来年。その言葉が胸の奥に残っていた。
これまで未来をあまり考えなかった。明日を迎えること。仕事をすること。患者のためにできることをすること。それだけで十分だと思っていた。
けれど今は違う。来年もエリンと一緒に過ごしたい。その次の年も。そしてその先も。
ノアはゆっくりと目を閉じた。
「そんな未来を望んでもいいのだろうか?」
答えはまだわからなかった。
でも今日、エリンは言った。
「いつか同じ家に帰れるようになったらいいね」
思い出してノアは自然と笑みがこぼれた。そして小さく呟いた。
「うん……」
同じ頃。マーティン・クーパーは、町のモーテルで荷物をまとめていた。机の上には古い写真と書類が置かれていた。彼はそれらを封筒に入れた。そして携帯電話を手に取った。画面には数日前にかけた番号が表示されている。
クーパーはしばらく考えた。そして通話ボタンを押した。呼び出し音が続いた。すぐに男の声が聞こえた。
「何だ」
「例の男のことだ」
相手は黙っていたが、おかまいなしにクーパーは続けた。
「ノア・ベネット……」
電話の向こうで沈黙があった。クーパーは少し声を落とした。
「やっぱり本人だと思う」
相手は低い声で言った。
「関わるなと言ったはずだ」
クーパーは肩をすくめた。
「もう関わらないさ。ただ1つだけ訊きたい」
「何だ」
写真を見ながら言葉を繋ぐクーパー。
「あいつは今でも危険な男なのか?」
長い沈黙があった。やがて電話の向こうの男が答えた。
「あいつが危険かどうかは、あいつ自身が決めることじゃない」
「どういう意味だ?」
男は低い声で続けた。
「お前次第だ……お前があいつを怒らせなければいい」
そして電話が切れた。クーパーはしばらく携帯電話を見つめていた。
「何だってんだ」
彼は封筒を鞄にしまった。そして部屋の明かりを消した。
この町への滞在期間はまもなく終える。その前にノアに関してどうしたものかと思案しながら、クーパーは眠りについた。
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